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クリスの失態と出生の秘密
ルドの特訓
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馬車に揺られながらクリスはルドに訊ねた。
「このままシェットランド領に行くが、いいか?」
「はい、大丈夫です。仕事柄、いつ戦場に駆り出されるか分からないので、収納袋には必要最低限の食料や衣類を常備していますから。あと、寒冷地であるシェットランド領で必要な物も追加してます」
「うーん……そうか」
「もしかして、魔法騎士団の服ではいけませんか? 防寒具も持っていますが」
「いや、そういう問題ではなくて……あと領地内なら極寒でもないし、雪深くもない」
「そうなんですか? あっ……」
ルドが何かを思い出したように小声で呟く。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです。師匠が生まれ育った場所なんですよね? 行くのが楽しみです」
そう言って浮かべた表情は明らかに作り笑い。
「……冷や汗が出ているようだが?」
「いや、これは……あの、これから移動のために乗らないといけないアレを思い出して……」
クリスはルドが初めてクルマに乗った時、あまりの速さに大絶叫したことを思い出した。そして、今回の移動のために乗るセスナの速度はクルマの比ではない。
「そっちの汗か」
「……はい」
「乗ったら寝ればいい」
「無理です!」
「案外、寝やすいぞ。大きく揺れなければ」
「そんなに揺れるのですか!? 前回、乗った時はそこまで揺れませんでしたよ!」
「天気と操縦者の腕次第だな」
「誰が操縦するのですか?」
クリスがニヤリと笑う。
「さあな?」
「誰が操縦するんですか!? 教えてください! 師匠!」
騒ぐルドを乗せ、馬車は湖へと走った。
湖に到着すると、オグウェノたちとカリストたちがいた。
馬車から降りるクリスたちをラミラが出迎える。
「犬も一緒に行くのですか?」
「……成り行きでそうなった」
ルドは置いていくと宣言していた手前、クリスはバツが悪そうな顔になったが、逆にラミラはわくわくと嬉しそうな顔になる。
「ぜひ、その成り行きを詳しくお聞かせください!」
「オークニーに戻るまでだ。オークニーに戻れば、あいつは治療院研究所の卒業試験を受けて魔法騎士団に戻る」
「魔法騎士団には戻りません! それまでに師匠に慣れます!」
素早くルドが訂正したが、クリスは聞き流す。
詳細をクリスから聞き出せないと判断したラミラがルドをロックオンする。
ルドに近すぎない距離でラミラが訊ねた。
「クリス様に慣れるとは、どういうことですか? そこを詳しく」
「余計なことは言うな」
クリスの忠告をルドが無視する。オークニーに戻るまでに女性恐怖症を克服する約束をしたことを説明すると、ラミラが満面の笑みで喜んだ。
「そういうことでしたら、ぜひ協力させてください!」
「協力しなくていい!」
叫ぶクリスをルドが流す。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「今はどのような状況ですか?」
「それが……」
なぜか意気投合し、微妙な距離を開けたまま女性恐怖症の克服作戦会議を始める二人。
クリスは遠い目で眺めた。
「あんなに生き生きしたラミラは初めて見る気がするな」
「どうした?」
「女性恐怖症の克服会議だそうだ」
「女性恐怖症?」
背後からやってきたオグウェノにクリスが肩をすくめる。
「犬は女性恐怖症なんだ」
「そうなのか!? だが今まで、あれだけ月姫とは普通に話していただろ!?」
「私が女だと分かったとたん、冷や汗が出るようになった」
「……」
ポカンと口を開け言葉を失うオグウェノ。クリスは話題を変えるため別の質問をした。
「で、ベレンはどうした? 一緒ではないのか?」
「ベレンならあそこだ」
オグウェノが先ほどまでいた場所でイディといる。
「ムワイはどうした?」
「ムワイは飛空挺を飛ばすのに魔力を使いすぎたから、休ませている。あと連れていった先で珍しい魔法を見つけたら、面倒なことになりそうだからな。それに護衛はイディがいれば十分だ」
ムワイは気になる魔法があれば、そのまま研究を始めるため邪魔にしかならない。
そのことを察したクリスは頷いた。
「賢明だな」
「で、迎えはいつ来るんだ?」
クリスはカリストを呼んだ。
「もうすぐ来ると思うのですが……」
カリストが空を見上げる。オグウェノも同じように顔を上げると、大きな鳥が下降してきた。
「お? もしかしてアレか?」
ニヤッタの街で見たものより大きなセスナが降りてくる。
湖の水を切りながら着水し、クリスたちの前までゆっくりと止まった。
カイがドアを開けて身を乗り出す。
「よお! 揃ってるか?」
「なかなか大きいので来たな」
「これなら全員乗っても余裕だぞ」
カイが威張っている間に、カリストとラミラが大型セスナを縄で固定すると、板を出して簡易の橋をかけた。
「どうぞ、お乗り下さい」
「よっしゃ!」
一番に乗り込もうとしたオグウェノの肩をイディが掴む。
「なんだよ?」
「安全確認」
「分かった」
オグウェノが渋々イディに先を譲る。セスナの中を確認したイディが出てきた。
「問題ない」
「よし!」
オグウェノがセスナに乗り込む。次にベレンが恐る恐る乗り込み、その後ろにクリスが続く。
足が重く動かないルドの背中をカリストが押す。
「邪魔なので、さっさと乗ってください」
「いや、ちょ、待っ……」
ルドとカリストが乗り込み、最後に周囲の確認をしたラミラがセスナに乗り込んだ。
クリスに情けない姿を見られなくないルドが最後尾の席に座る。クリスは二列前。
操縦席ではカリストがカイと相談していた。
「私が操縦してもよろしいですか? 連日の操縦でお疲れでしょうから」
「これぐらい、なんともないが……」
カイが視界の端で青い顔をしたルドを確認する。
「そうだな。任せる」
「はい」
カリストが操縦席に座り、カイがルドの隣に腰を下ろした。
「おう、緊張しているな。相変わらずセスナは苦手か?」
「克服できる気がしません」
「けど、クリスは克服するんだろ?」
「なぜそれをぉっ!?」
セスナがガタガタと動き出す。徐々に速度が上がり全身が座席に押し付けられる。
ルドが必死に声を押さえている前でベレンの楽しそうな声が響く。
「まあ! 不思議な感覚ですわ!」
「もう少ししたら安定する。そうしたら、この感覚もなくなる」
「同じ空を飛ぶ乗り物でも、帆船の時とは随分違いますのね」
余裕があるベレンにカイが笑う。
「姫さんの方が適応力あるな」
「……そうですね」
「そんなに緊張していると、シェットランド領に着くまでに力尽きるぞ。ほら、楽にしろ」
「そう言われましても……」
「ここで力が抜けないと、クリスの前で力を抜くなんて無理だぞ」
「それはっ、関係ないと……」
カイが真剣な顔で人差し指を横に振った。
「チッチッチッ。この状況で力が抜ければ、クリスの前なら簡単に力が抜けるようになると思わないか?」
「ハッ!」
「これは特訓だ。クリスの前でも平常心が保てるようになるための」
「わかりました!」
ルドが大きく深呼吸をして力を抜く努力を始める。
「なぁ、座禅って知ってるか?」
「ざぜん?」
「大昔にあった修行の一つらしいんだが、目を閉じて呼吸を整えながら集中することで、精神をコントロールできるようになるとか……」
「どうやるのですか!?」
「なんか細かい座り方があったけど……ま、ここでは無理だからな。とりあえず背筋を伸ばして座れ」
ルドが言われた通り背筋を伸ばす。
「それで次は……?」
「目を閉じて大きく息を吸って……吐いて……呼吸を整えることに集中して……」
ルドの全身から徐々に力が抜けかけたところで突然、機体が大きく揺れた。
「っ!?」
ガタガタと小刻みに機体が揺れ、ルドが慌ててひじ掛けにしがみつく。その姿にカイが苦笑いをした。
「先は長そうだな」
「……はい」
ルドはひじ掛けを掴んだまま座席に沈んだ。
「このままシェットランド領に行くが、いいか?」
「はい、大丈夫です。仕事柄、いつ戦場に駆り出されるか分からないので、収納袋には必要最低限の食料や衣類を常備していますから。あと、寒冷地であるシェットランド領で必要な物も追加してます」
「うーん……そうか」
「もしかして、魔法騎士団の服ではいけませんか? 防寒具も持っていますが」
「いや、そういう問題ではなくて……あと領地内なら極寒でもないし、雪深くもない」
「そうなんですか? あっ……」
ルドが何かを思い出したように小声で呟く。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです。師匠が生まれ育った場所なんですよね? 行くのが楽しみです」
そう言って浮かべた表情は明らかに作り笑い。
「……冷や汗が出ているようだが?」
「いや、これは……あの、これから移動のために乗らないといけないアレを思い出して……」
クリスはルドが初めてクルマに乗った時、あまりの速さに大絶叫したことを思い出した。そして、今回の移動のために乗るセスナの速度はクルマの比ではない。
「そっちの汗か」
「……はい」
「乗ったら寝ればいい」
「無理です!」
「案外、寝やすいぞ。大きく揺れなければ」
「そんなに揺れるのですか!? 前回、乗った時はそこまで揺れませんでしたよ!」
「天気と操縦者の腕次第だな」
「誰が操縦するのですか?」
クリスがニヤリと笑う。
「さあな?」
「誰が操縦するんですか!? 教えてください! 師匠!」
騒ぐルドを乗せ、馬車は湖へと走った。
湖に到着すると、オグウェノたちとカリストたちがいた。
馬車から降りるクリスたちをラミラが出迎える。
「犬も一緒に行くのですか?」
「……成り行きでそうなった」
ルドは置いていくと宣言していた手前、クリスはバツが悪そうな顔になったが、逆にラミラはわくわくと嬉しそうな顔になる。
「ぜひ、その成り行きを詳しくお聞かせください!」
「オークニーに戻るまでだ。オークニーに戻れば、あいつは治療院研究所の卒業試験を受けて魔法騎士団に戻る」
「魔法騎士団には戻りません! それまでに師匠に慣れます!」
素早くルドが訂正したが、クリスは聞き流す。
詳細をクリスから聞き出せないと判断したラミラがルドをロックオンする。
ルドに近すぎない距離でラミラが訊ねた。
「クリス様に慣れるとは、どういうことですか? そこを詳しく」
「余計なことは言うな」
クリスの忠告をルドが無視する。オークニーに戻るまでに女性恐怖症を克服する約束をしたことを説明すると、ラミラが満面の笑みで喜んだ。
「そういうことでしたら、ぜひ協力させてください!」
「協力しなくていい!」
叫ぶクリスをルドが流す。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「今はどのような状況ですか?」
「それが……」
なぜか意気投合し、微妙な距離を開けたまま女性恐怖症の克服作戦会議を始める二人。
クリスは遠い目で眺めた。
「あんなに生き生きしたラミラは初めて見る気がするな」
「どうした?」
「女性恐怖症の克服会議だそうだ」
「女性恐怖症?」
背後からやってきたオグウェノにクリスが肩をすくめる。
「犬は女性恐怖症なんだ」
「そうなのか!? だが今まで、あれだけ月姫とは普通に話していただろ!?」
「私が女だと分かったとたん、冷や汗が出るようになった」
「……」
ポカンと口を開け言葉を失うオグウェノ。クリスは話題を変えるため別の質問をした。
「で、ベレンはどうした? 一緒ではないのか?」
「ベレンならあそこだ」
オグウェノが先ほどまでいた場所でイディといる。
「ムワイはどうした?」
「ムワイは飛空挺を飛ばすのに魔力を使いすぎたから、休ませている。あと連れていった先で珍しい魔法を見つけたら、面倒なことになりそうだからな。それに護衛はイディがいれば十分だ」
ムワイは気になる魔法があれば、そのまま研究を始めるため邪魔にしかならない。
そのことを察したクリスは頷いた。
「賢明だな」
「で、迎えはいつ来るんだ?」
クリスはカリストを呼んだ。
「もうすぐ来ると思うのですが……」
カリストが空を見上げる。オグウェノも同じように顔を上げると、大きな鳥が下降してきた。
「お? もしかしてアレか?」
ニヤッタの街で見たものより大きなセスナが降りてくる。
湖の水を切りながら着水し、クリスたちの前までゆっくりと止まった。
カイがドアを開けて身を乗り出す。
「よお! 揃ってるか?」
「なかなか大きいので来たな」
「これなら全員乗っても余裕だぞ」
カイが威張っている間に、カリストとラミラが大型セスナを縄で固定すると、板を出して簡易の橋をかけた。
「どうぞ、お乗り下さい」
「よっしゃ!」
一番に乗り込もうとしたオグウェノの肩をイディが掴む。
「なんだよ?」
「安全確認」
「分かった」
オグウェノが渋々イディに先を譲る。セスナの中を確認したイディが出てきた。
「問題ない」
「よし!」
オグウェノがセスナに乗り込む。次にベレンが恐る恐る乗り込み、その後ろにクリスが続く。
足が重く動かないルドの背中をカリストが押す。
「邪魔なので、さっさと乗ってください」
「いや、ちょ、待っ……」
ルドとカリストが乗り込み、最後に周囲の確認をしたラミラがセスナに乗り込んだ。
クリスに情けない姿を見られなくないルドが最後尾の席に座る。クリスは二列前。
操縦席ではカリストがカイと相談していた。
「私が操縦してもよろしいですか? 連日の操縦でお疲れでしょうから」
「これぐらい、なんともないが……」
カイが視界の端で青い顔をしたルドを確認する。
「そうだな。任せる」
「はい」
カリストが操縦席に座り、カイがルドの隣に腰を下ろした。
「おう、緊張しているな。相変わらずセスナは苦手か?」
「克服できる気がしません」
「けど、クリスは克服するんだろ?」
「なぜそれをぉっ!?」
セスナがガタガタと動き出す。徐々に速度が上がり全身が座席に押し付けられる。
ルドが必死に声を押さえている前でベレンの楽しそうな声が響く。
「まあ! 不思議な感覚ですわ!」
「もう少ししたら安定する。そうしたら、この感覚もなくなる」
「同じ空を飛ぶ乗り物でも、帆船の時とは随分違いますのね」
余裕があるベレンにカイが笑う。
「姫さんの方が適応力あるな」
「……そうですね」
「そんなに緊張していると、シェットランド領に着くまでに力尽きるぞ。ほら、楽にしろ」
「そう言われましても……」
「ここで力が抜けないと、クリスの前で力を抜くなんて無理だぞ」
「それはっ、関係ないと……」
カイが真剣な顔で人差し指を横に振った。
「チッチッチッ。この状況で力が抜ければ、クリスの前なら簡単に力が抜けるようになると思わないか?」
「ハッ!」
「これは特訓だ。クリスの前でも平常心が保てるようになるための」
「わかりました!」
ルドが大きく深呼吸をして力を抜く努力を始める。
「なぁ、座禅って知ってるか?」
「ざぜん?」
「大昔にあった修行の一つらしいんだが、目を閉じて呼吸を整えながら集中することで、精神をコントロールできるようになるとか……」
「どうやるのですか!?」
「なんか細かい座り方があったけど……ま、ここでは無理だからな。とりあえず背筋を伸ばして座れ」
ルドが言われた通り背筋を伸ばす。
「それで次は……?」
「目を閉じて大きく息を吸って……吐いて……呼吸を整えることに集中して……」
ルドの全身から徐々に力が抜けかけたところで突然、機体が大きく揺れた。
「っ!?」
ガタガタと小刻みに機体が揺れ、ルドが慌ててひじ掛けにしがみつく。その姿にカイが苦笑いをした。
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「……はい」
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