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ケリーマ王国
それは、カオスな状況でした
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ルドに横抱きで飛空艇に運ばれたクリスは甲板で下ろされた。
「あ、ありがとうございます」
頭をさげて礼を言ったものの、恥ずかしくてルドの顔が見れない。クリスは顔を伏せたまま、操舵室に入ったセルシティを追いかけた。
操舵室ではセルシティが興味津々に室内を眺めている。
「本当に帆船の操舵室と同じだな」
「基本的に造りは帆船と同じだからな」
「と、いうことは動力源に秘密があるということか」
会話しながらセルシティが隅々まで鋭く観察していく。その真剣な眼差しにオグウェノが挑発的に笑った。
「秘密を知りたければ、懐に飛び込むぐらいの覚悟が必要だぞ」
セルシティが白金の髪をサラリと揺らし、紫の瞳を細める。オグウェノをたらし込むように、艶っぽく微笑み、そっと耳元で囁いた。
「では、閨で語らおうか?」
オグウェノが深緑の瞳を丸くする。だが、すぐに快活な笑顔になり、セルシティの顎に手を添えた。セルシティは逃げる様子なく魅惑的な笑みを浮かべる。
「そっちの趣味はないが、イケそうな気がするのが怖いな」
「そうかい?」
白金の髪の下で紫の瞳が怪しく煌めく。象牙のような肌に、神々の姿を現した彫刻像よりも美しい外見。生きていることが奇跡のような容姿に釘付けになる。
だが、そこでルドが止めた。
「セル、そこまでにしとけ。勘違いした奴らを追い払うのに苦労をするのは親衛隊だ」
背後で控えていた親衛隊たちが大きく頷く。
「それに学生の時とは違うんだ。あの頃のように、遊びでは済まない」
「……学生?」
オグウェノの呟きにルドが困ったように説明する。
「学生の頃はこうやって誘って情報を引き出したり、相手が自室に侵入してきたところを不法侵入で捕まえたり……とにかく、気に入らない相手に好き勝手していたんだ」
「皇族が学校に通っていたのか?」
「気になったのは、そっちか!」
思わずルドが素で突っ込む。セルシティが微笑んだまま答えた。
「普通は家庭教師をつけて城から出ないのだが、学校がどういうものか通ってみたくてな。そこでルドと出会い、なかなか有意義な経験も出来た」
ルドが反射的に視線をそらす。
思い出される苦い記憶。入学早々、セルシティに側で仕えろと目をつけられたが、無視して距離をとっていた。そこからはイタズラという名の嫌がらせの日々。最後は根負けし、敬語で話さないという条件で嫌がらせは終了した。
ルドが小声で呟く。
「自分には地獄だった」
「なにか言ったかい?」
セルシティからの問いにルドが即座に姿勢を正した。
「いや! なにも!」
なにかを察したオグウェノが納得したように頷く。
「そうか。そこで将来有望な人材を自分で発掘したのか」
セルシティは答えずに微笑んだまま。オグウェノの目が獲物を狙うように鋭く輝く。
「その美貌といい、ケリーマ王国に欲しいな」
「美しいものにはトゲがある、という言葉もあるが?」
セルシティの挑発するような言葉にオグウェノが雰囲気を一遍させる。王族の気配をまとい、セルシティを包んだ。
「ならば、トゲごと呑み込もう」
オグウェノがセルシティに顔を近づける。視線が絡み合い……ふと、セルシティが顔を逸らした。
「遊びが過ぎた」
セルシティが白金の髪を手で払い、ドアへ歩く。入り口で様子を見ていたクリスにセルシティが微笑んだ。
「気をつけていってくるんだよ」
クリスは無言のまま返事をしない。そのことにセルシティが不思議そうに訊ねた。
「どうかしたかい?」
「もう、いいのですか?」
セルシティが答えようとして言葉を止める。まっすぐ見つめる深緑の瞳に映る自分の顔。
クリスの茶色の髪を軽く撫でながらセルシティは表情を緩めた。
「あぁ、十分だ」
「……わかりました」
そう言うとクリスは背伸びしてセルシティの耳元で何かを囁いた。紫の瞳が丸くなり、ポカンとしたが、すぐにいつもの余裕がある表情に戻る。
「別に、その土産はなくてもいいぞ」
「そうですか?」
腑に落ちない様子のクリスにセルシティが頷く。
「本気でほしくなったら自分で手に入れる」
「それもそうですね」
クリスは納得して笑顔になる。
話が分からず首を傾げる人たちを放置して、セルシティは親衛隊を引き連れて飛空艇から降りた。
ルドがクリスに訊ねる。
「師匠、セルに何を言ったのですか?」
「秘密です」
クリスは悪戯をした子どものように微笑んだ。その無邪気な顔にルドが思わず見惚れる。記憶を失くす前のクリスにはなかった表情。年齢相応の姿。
突如、ガタリと船体が動いた。バランスを崩して倒れかけたクリスをルドが支える。
固定していた紐が外され、飛空挺がゆったりと上昇を始めた。
「よし! ケリーマ王国に向けて出発だ!」
オグウェノの掛け声とともに飛空艇が飛んだ。
操舵室から出たクリスは遠ざかっていく光景に目を輝かせる。
「空からだと、このように見えるんですね」
小さくなっていく木々に青々と茂る森。その先には街があり、普段は見ることがない屋根や屋上が並ぶ。遠くには街を囲むように連なる雄大な山々。
手すりを持ったまま眺めるクリスにルドが声をかけた。
「甲板の縁に行くと、下の景色がよく見えますよ」
ルドが誘うが、クリスはしっかり手すりを握りしめたまま、頭を大きく振った。
「い、いえ。このまま、ここでいいです」
クリスは笑顔なのだが、どこか引きつっているようにも見える。
「どうかしましたか? あ、もしかして酔いました!? 海の上の船ほど揺れませんが、この独特な浮遊感で船酔いする人もいるそうですから」
「そうではないです。気分は悪くありません」
「では、どうし……」
よく見れば手すりを握っているクリスの手が微かに震えている。普通は恐怖を感じる高さ。
「もしかして、怖いですか?」
「いえ、その……怖い、というか……あの、足がすくんで……動けなくて……」
それを人は怖いと言う。
ルドは心の中で突っ込みながら、クリスを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これぐらいの高さなら、落ちてもすぐに自分が助けますから。安心してください」
「助けられるのですか?」
「はい。これぐらいの高さと速度なら、魔法で対処できます」
「それは頼もしいですね」
「はい。ですから、師匠は安心して自由に歩いてください」
「は、はい」
頭では理解しても体は言うことをきかない。クリスが恐る恐る手すりから手を離そうとするが、なかなかできない。
ルドが手を差し出した。
「不安なら自分に掴まってください」
クリスが顔を上げる。そして少しの間を開けて、えいっ! と全身でルドの腕にしがみついた。
「え!?」
掴まっていいとは言ったが、しがみつかれることは想定外だったルドが驚く。
「あ、あの師匠?」
クリスが顔の半分をルドの腕に埋めたまま上目遣いで訴えた。
「掴まって、いいんですよね?」
「あ、いや、その……」
腕に! 腕に! 師匠の胸にある柔らかいナニかが当たっている気が! 気がする! いや、気がするだけだ。気のせい……そう! 気のせいだ!
ルドが必死に自分に言い聞かせる。そこに強い風が吹いた。茶色の髪とスカートが風でふわりと広がる。
「キャッ」
クリスは慌てて片手でスカートを押さえた。スカートの裾のレースから白い足が透けて見えた気がした。そう、気がした。気がした、だけだ。見えてはいない。見えてない……自分は何も見てない……自分は見てない……
ルドが必死に自己暗示をかける。すでにルドの頭の中では、いろんな情報が溢れ、処理が追いついていない。
「ルドさん?」
小首を傾げて見上げてくるクリスにノックアウト寸前のルド。
「ふぁい!」
思わず変な声が出てしまったが、それどころではない。とにかく、この状況を変えなくては。
ルドが根性で頭を働かせて提案をする。
「あの、その、せ……せ、船室! ここは風が強いので船室に行きましょう!」
「そうですね」
ルドはどうにかエスコートしたが、自分の顔が赤くなっている気がして、クリスの方を見ることは出来なかった。
「あ、ありがとうございます」
頭をさげて礼を言ったものの、恥ずかしくてルドの顔が見れない。クリスは顔を伏せたまま、操舵室に入ったセルシティを追いかけた。
操舵室ではセルシティが興味津々に室内を眺めている。
「本当に帆船の操舵室と同じだな」
「基本的に造りは帆船と同じだからな」
「と、いうことは動力源に秘密があるということか」
会話しながらセルシティが隅々まで鋭く観察していく。その真剣な眼差しにオグウェノが挑発的に笑った。
「秘密を知りたければ、懐に飛び込むぐらいの覚悟が必要だぞ」
セルシティが白金の髪をサラリと揺らし、紫の瞳を細める。オグウェノをたらし込むように、艶っぽく微笑み、そっと耳元で囁いた。
「では、閨で語らおうか?」
オグウェノが深緑の瞳を丸くする。だが、すぐに快活な笑顔になり、セルシティの顎に手を添えた。セルシティは逃げる様子なく魅惑的な笑みを浮かべる。
「そっちの趣味はないが、イケそうな気がするのが怖いな」
「そうかい?」
白金の髪の下で紫の瞳が怪しく煌めく。象牙のような肌に、神々の姿を現した彫刻像よりも美しい外見。生きていることが奇跡のような容姿に釘付けになる。
だが、そこでルドが止めた。
「セル、そこまでにしとけ。勘違いした奴らを追い払うのに苦労をするのは親衛隊だ」
背後で控えていた親衛隊たちが大きく頷く。
「それに学生の時とは違うんだ。あの頃のように、遊びでは済まない」
「……学生?」
オグウェノの呟きにルドが困ったように説明する。
「学生の頃はこうやって誘って情報を引き出したり、相手が自室に侵入してきたところを不法侵入で捕まえたり……とにかく、気に入らない相手に好き勝手していたんだ」
「皇族が学校に通っていたのか?」
「気になったのは、そっちか!」
思わずルドが素で突っ込む。セルシティが微笑んだまま答えた。
「普通は家庭教師をつけて城から出ないのだが、学校がどういうものか通ってみたくてな。そこでルドと出会い、なかなか有意義な経験も出来た」
ルドが反射的に視線をそらす。
思い出される苦い記憶。入学早々、セルシティに側で仕えろと目をつけられたが、無視して距離をとっていた。そこからはイタズラという名の嫌がらせの日々。最後は根負けし、敬語で話さないという条件で嫌がらせは終了した。
ルドが小声で呟く。
「自分には地獄だった」
「なにか言ったかい?」
セルシティからの問いにルドが即座に姿勢を正した。
「いや! なにも!」
なにかを察したオグウェノが納得したように頷く。
「そうか。そこで将来有望な人材を自分で発掘したのか」
セルシティは答えずに微笑んだまま。オグウェノの目が獲物を狙うように鋭く輝く。
「その美貌といい、ケリーマ王国に欲しいな」
「美しいものにはトゲがある、という言葉もあるが?」
セルシティの挑発するような言葉にオグウェノが雰囲気を一遍させる。王族の気配をまとい、セルシティを包んだ。
「ならば、トゲごと呑み込もう」
オグウェノがセルシティに顔を近づける。視線が絡み合い……ふと、セルシティが顔を逸らした。
「遊びが過ぎた」
セルシティが白金の髪を手で払い、ドアへ歩く。入り口で様子を見ていたクリスにセルシティが微笑んだ。
「気をつけていってくるんだよ」
クリスは無言のまま返事をしない。そのことにセルシティが不思議そうに訊ねた。
「どうかしたかい?」
「もう、いいのですか?」
セルシティが答えようとして言葉を止める。まっすぐ見つめる深緑の瞳に映る自分の顔。
クリスの茶色の髪を軽く撫でながらセルシティは表情を緩めた。
「あぁ、十分だ」
「……わかりました」
そう言うとクリスは背伸びしてセルシティの耳元で何かを囁いた。紫の瞳が丸くなり、ポカンとしたが、すぐにいつもの余裕がある表情に戻る。
「別に、その土産はなくてもいいぞ」
「そうですか?」
腑に落ちない様子のクリスにセルシティが頷く。
「本気でほしくなったら自分で手に入れる」
「それもそうですね」
クリスは納得して笑顔になる。
話が分からず首を傾げる人たちを放置して、セルシティは親衛隊を引き連れて飛空艇から降りた。
ルドがクリスに訊ねる。
「師匠、セルに何を言ったのですか?」
「秘密です」
クリスは悪戯をした子どものように微笑んだ。その無邪気な顔にルドが思わず見惚れる。記憶を失くす前のクリスにはなかった表情。年齢相応の姿。
突如、ガタリと船体が動いた。バランスを崩して倒れかけたクリスをルドが支える。
固定していた紐が外され、飛空挺がゆったりと上昇を始めた。
「よし! ケリーマ王国に向けて出発だ!」
オグウェノの掛け声とともに飛空艇が飛んだ。
操舵室から出たクリスは遠ざかっていく光景に目を輝かせる。
「空からだと、このように見えるんですね」
小さくなっていく木々に青々と茂る森。その先には街があり、普段は見ることがない屋根や屋上が並ぶ。遠くには街を囲むように連なる雄大な山々。
手すりを持ったまま眺めるクリスにルドが声をかけた。
「甲板の縁に行くと、下の景色がよく見えますよ」
ルドが誘うが、クリスはしっかり手すりを握りしめたまま、頭を大きく振った。
「い、いえ。このまま、ここでいいです」
クリスは笑顔なのだが、どこか引きつっているようにも見える。
「どうかしましたか? あ、もしかして酔いました!? 海の上の船ほど揺れませんが、この独特な浮遊感で船酔いする人もいるそうですから」
「そうではないです。気分は悪くありません」
「では、どうし……」
よく見れば手すりを握っているクリスの手が微かに震えている。普通は恐怖を感じる高さ。
「もしかして、怖いですか?」
「いえ、その……怖い、というか……あの、足がすくんで……動けなくて……」
それを人は怖いと言う。
ルドは心の中で突っ込みながら、クリスを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これぐらいの高さなら、落ちてもすぐに自分が助けますから。安心してください」
「助けられるのですか?」
「はい。これぐらいの高さと速度なら、魔法で対処できます」
「それは頼もしいですね」
「はい。ですから、師匠は安心して自由に歩いてください」
「は、はい」
頭では理解しても体は言うことをきかない。クリスが恐る恐る手すりから手を離そうとするが、なかなかできない。
ルドが手を差し出した。
「不安なら自分に掴まってください」
クリスが顔を上げる。そして少しの間を開けて、えいっ! と全身でルドの腕にしがみついた。
「え!?」
掴まっていいとは言ったが、しがみつかれることは想定外だったルドが驚く。
「あ、あの師匠?」
クリスが顔の半分をルドの腕に埋めたまま上目遣いで訴えた。
「掴まって、いいんですよね?」
「あ、いや、その……」
腕に! 腕に! 師匠の胸にある柔らかいナニかが当たっている気が! 気がする! いや、気がするだけだ。気のせい……そう! 気のせいだ!
ルドが必死に自分に言い聞かせる。そこに強い風が吹いた。茶色の髪とスカートが風でふわりと広がる。
「キャッ」
クリスは慌てて片手でスカートを押さえた。スカートの裾のレースから白い足が透けて見えた気がした。そう、気がした。気がした、だけだ。見えてはいない。見えてない……自分は何も見てない……自分は見てない……
ルドが必死に自己暗示をかける。すでにルドの頭の中では、いろんな情報が溢れ、処理が追いついていない。
「ルドさん?」
小首を傾げて見上げてくるクリスにノックアウト寸前のルド。
「ふぁい!」
思わず変な声が出てしまったが、それどころではない。とにかく、この状況を変えなくては。
ルドが根性で頭を働かせて提案をする。
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