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振り返りからの進展
それは、期待と不安でした
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王城に戻ったクリスは通信室に籠り、自分の屋敷とシェットランド領に連絡をした。
「あぁ。調べものが得意なヤツを数人集めて、急いで調べてくれ。……あぁ。頼む」
クリスが通信機から離れる。背後で見守っていたオグウェノが訊ねた。
「何を調べるように言ったんだ?」
「犬が最後に使った魔法。あれは、たぶん私の屋敷の書庫か、シェットランド領の図書室にある本に載っていた古い魔法だ」
「そんなに古い魔法なのか?」
「私たち”神に棄てられた一族”が繁栄していた頃の魔法だからな」
「つまり神と悪魔の交代劇が起きる前……今の魔法技術とは違う魔法か」
「そうだ。その頃の魔法には、代償が必要な魔法もあった。もしかしたら、今の犬の状態も代償の結果かもしれん」
「そういうことか……代償として、何を取られることがあるんだ?」
クリスが少し考える。
「そうだな……声を失うとか、魔力を永遠に失うとか……命と引き換え、というのもあったな」
「あまり取られたくないものばかりだな。あの巨大な竜巻を一瞬で消せるだけの魔法だ。代償として何かを取られても、おかしくはないか」
「犬は書庫にある様々な本を読んでいる。あと、シェットランド領へ行った時、図書室で読んだ可能性もある」
「真面目だからなぁ」
オグウェノが遠くを眺めながら呟く。クリスが疲れたようにため息を吐いた。
「そういうことだ」
「ところで、他にすることはあるか?」
「いや、ない」
「なら休め。通信がきたら、すぐに知らせるようにする」
オグウェノの提案にクリスは少し考えた。
正直なところ神経が高ぶって休めそうにないが、体は疲労している。ベッドに横になるだけでも違うだろう。
「そうだな。少し休む」
クリスは後のことをオグウェノに任せ、自室に戻った。そのままベッドに倒れ込む。
「なぜ……こうなったんだ……」
クリスは事の始まりを思い出していた。
疲労していたとはいえ、足を踏み外して頭を打ったぐらいで、あんなに綺麗に記憶が飛んでしまうとは。しかも、そこからの行動が……
「ありえん!」
クリスは無意識に叫んでいた。うつ伏せになり、枕に顔を沈め、そのままベッドを叩く。
「あれこそ忘れたい記憶だ! なにか、なにか魔法はないか……」
クリスが全力で記憶を探していると、軽いノックの音がした。
「クリス様」
ラミラの声に体を起こす。
「どうした?」
「お茶をお持ちしました」
「あぁ」
クリスの返事を聞いてラミラが部屋に入る。手にはポットと軽食を載せたトレイがある。
「お昼を食べていないと伺いましたので」
「オグウェノから聞いたのか」
「はい」
ラミラがテーブルに紅茶と軽食を置きながら話を続ける。
「いろいろとクリス様のことを気にかけているご様子です」
「そういうところがモテるんだろうな」
「クリス様は興味ございませんか?」
「興味? なんの興味だ?」
クリスが首を傾げながら椅子に座る。
「恋愛対象としての、です」
「そんなものにはならないな。まあ、国がらみで政略結婚しろ、というのであれば話は別だが」
予想外の発言に紅茶を注いでいたラミラの手が止まる。
「犬は!? 犬はよろしいのですか!?」
「な、なぜ、そこで犬が出てくる!?」
顔を真っ赤にして慌てるクリスの様子に、ラミラがホッとする。残りの紅茶を注いでカップを差し出した。
「安心いたしました」
「いや、何が安心なんだ?」
「オグウェノ様と仲がよろしいようでしたので、クリス様が心移りされたのかと……」
クリスが顔を赤くしたままテーブルを叩く。
「心移りとは、なんだ!? そもそも私は犬のことなど、なんとも思っていない!」
ラミラがニヤリと笑う。
「誰も犬から心移りした、とは言っていませんよ?」
「なっ!?」
「クリス様、そんな悠長なことを言っていますと、犬を他の者に取られてしまいますよ?」
その言葉にクリスの顔から照れが消え、冷めた目でラミラ訊ねた。
「犬の様子はどうだ? いつもと違うところがあるか?」
ラミラの表情が、クリスをからかっていた顔からメイドへと変わる。
「言動は普段の犬と変わりないように見えますが、女性に対する態度が違います」
「どのように違う?」
クリスは野菜や肉を挟んだパンを食べる。
ラミラは言いにくそうに答えた。
「全ての女性に、クリス様に接していた時のような態度で対応しております」
「ゴホッゲホッ……な、なんだ? どういうことだ?」
「笑顔で話しかけ、困っている様子があれば、すぐに手助けをしています。それで、その……あの外見ですので……」
クリスは喉に詰まったパンを紅茶で流し込むと、続きを促した。
「あの外見だから、なんだ?」
「この数日で人気が……ファンができてしまいまして……」
「数日って、まだ三、四日ぐらいしか経ってないだろ」
「はい」
クリスは呆れたようにため息を吐いた。
「何をしているんだ、犬は」
「まあ、犬ですので……」
「はぁー」
盛大なため息の後、クリスは気分を変えるように顔をあげた。
「引き続き犬を警戒しろ。あと、私は犬とは顔を合わさない」
最後の言葉にラミラが首を傾げる。
「何故ですか?」
「いろいろあってな」
それだけで優秀なメイドは自分の仕事を理解した。
詳しく知らずに動いたほうが良い時もある。下手に情報を知っていれば、それがおのずと行動に現れ、相手を警戒させることさえある。
「わかりました」
ラミラが鋭い気配とともに頭をさげる。完全に仕事モードになったラミラにクリスは大きく頷いた。
「引き際を間違えるな。相手は犬の姿をしているナニか、だと思え」
「はい」
クリスは素早く食事を終え、ラミラは空になった食器を持って下がった。
※
翌日。自室に籠っていたクリスに待望の知らせが届いた。通信室に移動したクリスが通信機に飛びつく。
「どうだ!? 分かったか?」
通信機の向こう側で、仕事モードのカルラが淡々と報告をする。
『クリス様が所望している魔法ですが、火柱を起こす魔法は数点ありました。ですが、後に黒い柱が残るものは、ありませんでした』
「……そうか」
『でしたので、黒い柱が残る魔法という観点から探しましたところ、一つだけ該当の魔法がありました』
沈みかけていたクリスの顔があがる。
「それは、どんな魔法だ?」
『地中の奥深くにあるマグマ、溶岩というものを地表に噴出させる魔法です。マグマ、溶岩は、非常に高温になった岩や石でドロドロの形状をしていますが、地表に出ると冷めて黒く固まるそうです』
「その魔法の可能性が高いな」
『はい。魔法を発動させるには、かなりの魔力が必要でして、常人では使うことができません』
「その魔法を使うには代償が必要か?」
『いえ。こちらには、そのような記載はありませんでした』
クリスが眉間にシワを寄せる。
「そうか。その魔法の詠唱文を教えてくれ」
『噴火です』
「わかった。ありがとう」
クリスは通信を一度切ると、シェットランド領にかけた。少しして通信が繋がり、シェットランド領の先代領主であり、クリスの育ての親でもあるカイが出た。
『クリスか? 例の魔法なら、まだ見つけられてないぞ』
「それはカルラが見つけてくれた。その魔法について、そっちの図書館で詳しく調べてほしい」
『人使いが荒いな。まあ、闇雲に探すより、そっちのほうが探しやすいからいいか。で、それはどんな魔法だ?』
「噴火という魔法だ。地中にあるマグマを噴出させる。この魔法について、なんでもいいから調べられるだけ調べてほしい」
『……わかった。名前が分かっていれば調べるのは簡単だ。夕方には分かるだろう』
「頼む」
『おう。待ってろ』
明るい声がプツリと切れる。期待と不安がクリスを包んだ。
「あぁ。調べものが得意なヤツを数人集めて、急いで調べてくれ。……あぁ。頼む」
クリスが通信機から離れる。背後で見守っていたオグウェノが訊ねた。
「何を調べるように言ったんだ?」
「犬が最後に使った魔法。あれは、たぶん私の屋敷の書庫か、シェットランド領の図書室にある本に載っていた古い魔法だ」
「そんなに古い魔法なのか?」
「私たち”神に棄てられた一族”が繁栄していた頃の魔法だからな」
「つまり神と悪魔の交代劇が起きる前……今の魔法技術とは違う魔法か」
「そうだ。その頃の魔法には、代償が必要な魔法もあった。もしかしたら、今の犬の状態も代償の結果かもしれん」
「そういうことか……代償として、何を取られることがあるんだ?」
クリスが少し考える。
「そうだな……声を失うとか、魔力を永遠に失うとか……命と引き換え、というのもあったな」
「あまり取られたくないものばかりだな。あの巨大な竜巻を一瞬で消せるだけの魔法だ。代償として何かを取られても、おかしくはないか」
「犬は書庫にある様々な本を読んでいる。あと、シェットランド領へ行った時、図書室で読んだ可能性もある」
「真面目だからなぁ」
オグウェノが遠くを眺めながら呟く。クリスが疲れたようにため息を吐いた。
「そういうことだ」
「ところで、他にすることはあるか?」
「いや、ない」
「なら休め。通信がきたら、すぐに知らせるようにする」
オグウェノの提案にクリスは少し考えた。
正直なところ神経が高ぶって休めそうにないが、体は疲労している。ベッドに横になるだけでも違うだろう。
「そうだな。少し休む」
クリスは後のことをオグウェノに任せ、自室に戻った。そのままベッドに倒れ込む。
「なぜ……こうなったんだ……」
クリスは事の始まりを思い出していた。
疲労していたとはいえ、足を踏み外して頭を打ったぐらいで、あんなに綺麗に記憶が飛んでしまうとは。しかも、そこからの行動が……
「ありえん!」
クリスは無意識に叫んでいた。うつ伏せになり、枕に顔を沈め、そのままベッドを叩く。
「あれこそ忘れたい記憶だ! なにか、なにか魔法はないか……」
クリスが全力で記憶を探していると、軽いノックの音がした。
「クリス様」
ラミラの声に体を起こす。
「どうした?」
「お茶をお持ちしました」
「あぁ」
クリスの返事を聞いてラミラが部屋に入る。手にはポットと軽食を載せたトレイがある。
「お昼を食べていないと伺いましたので」
「オグウェノから聞いたのか」
「はい」
ラミラがテーブルに紅茶と軽食を置きながら話を続ける。
「いろいろとクリス様のことを気にかけているご様子です」
「そういうところがモテるんだろうな」
「クリス様は興味ございませんか?」
「興味? なんの興味だ?」
クリスが首を傾げながら椅子に座る。
「恋愛対象としての、です」
「そんなものにはならないな。まあ、国がらみで政略結婚しろ、というのであれば話は別だが」
予想外の発言に紅茶を注いでいたラミラの手が止まる。
「犬は!? 犬はよろしいのですか!?」
「な、なぜ、そこで犬が出てくる!?」
顔を真っ赤にして慌てるクリスの様子に、ラミラがホッとする。残りの紅茶を注いでカップを差し出した。
「安心いたしました」
「いや、何が安心なんだ?」
「オグウェノ様と仲がよろしいようでしたので、クリス様が心移りされたのかと……」
クリスが顔を赤くしたままテーブルを叩く。
「心移りとは、なんだ!? そもそも私は犬のことなど、なんとも思っていない!」
ラミラがニヤリと笑う。
「誰も犬から心移りした、とは言っていませんよ?」
「なっ!?」
「クリス様、そんな悠長なことを言っていますと、犬を他の者に取られてしまいますよ?」
その言葉にクリスの顔から照れが消え、冷めた目でラミラ訊ねた。
「犬の様子はどうだ? いつもと違うところがあるか?」
ラミラの表情が、クリスをからかっていた顔からメイドへと変わる。
「言動は普段の犬と変わりないように見えますが、女性に対する態度が違います」
「どのように違う?」
クリスは野菜や肉を挟んだパンを食べる。
ラミラは言いにくそうに答えた。
「全ての女性に、クリス様に接していた時のような態度で対応しております」
「ゴホッゲホッ……な、なんだ? どういうことだ?」
「笑顔で話しかけ、困っている様子があれば、すぐに手助けをしています。それで、その……あの外見ですので……」
クリスは喉に詰まったパンを紅茶で流し込むと、続きを促した。
「あの外見だから、なんだ?」
「この数日で人気が……ファンができてしまいまして……」
「数日って、まだ三、四日ぐらいしか経ってないだろ」
「はい」
クリスは呆れたようにため息を吐いた。
「何をしているんだ、犬は」
「まあ、犬ですので……」
「はぁー」
盛大なため息の後、クリスは気分を変えるように顔をあげた。
「引き続き犬を警戒しろ。あと、私は犬とは顔を合わさない」
最後の言葉にラミラが首を傾げる。
「何故ですか?」
「いろいろあってな」
それだけで優秀なメイドは自分の仕事を理解した。
詳しく知らずに動いたほうが良い時もある。下手に情報を知っていれば、それがおのずと行動に現れ、相手を警戒させることさえある。
「わかりました」
ラミラが鋭い気配とともに頭をさげる。完全に仕事モードになったラミラにクリスは大きく頷いた。
「引き際を間違えるな。相手は犬の姿をしているナニか、だと思え」
「はい」
クリスは素早く食事を終え、ラミラは空になった食器を持って下がった。
※
翌日。自室に籠っていたクリスに待望の知らせが届いた。通信室に移動したクリスが通信機に飛びつく。
「どうだ!? 分かったか?」
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「……そうか」
『でしたので、黒い柱が残る魔法という観点から探しましたところ、一つだけ該当の魔法がありました』
沈みかけていたクリスの顔があがる。
「それは、どんな魔法だ?」
『地中の奥深くにあるマグマ、溶岩というものを地表に噴出させる魔法です。マグマ、溶岩は、非常に高温になった岩や石でドロドロの形状をしていますが、地表に出ると冷めて黒く固まるそうです』
「その魔法の可能性が高いな」
『はい。魔法を発動させるには、かなりの魔力が必要でして、常人では使うことができません』
「その魔法を使うには代償が必要か?」
『いえ。こちらには、そのような記載はありませんでした』
クリスが眉間にシワを寄せる。
「そうか。その魔法の詠唱文を教えてくれ」
『噴火です』
「わかった。ありがとう」
クリスは通信を一度切ると、シェットランド領にかけた。少しして通信が繋がり、シェットランド領の先代領主であり、クリスの育ての親でもあるカイが出た。
『クリスか? 例の魔法なら、まだ見つけられてないぞ』
「それはカルラが見つけてくれた。その魔法について、そっちの図書館で詳しく調べてほしい」
『人使いが荒いな。まあ、闇雲に探すより、そっちのほうが探しやすいからいいか。で、それはどんな魔法だ?』
「噴火という魔法だ。地中にあるマグマを噴出させる。この魔法について、なんでもいいから調べられるだけ調べてほしい」
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