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振り返りからの進展
それは、悪魔の名でした
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クリスが中庭を見下ろせる二階の廊下を歩いていると、下から明るい声が聞こえてきた。
身を乗り出さずに、そっと中庭を覗く。すると、王城の使用人の女性たちに囲まれているルドが。
その光景に胸がモヤモヤするような、イライラするような、なんとも言えない感情が湧き出てきた。ルドが誰と話そうが個人の自由であり、口出しするような立場でもない。
それは分かっている。だが、なぜか面白くない。
憮然とした顔で眺めていると背後から可愛らしい声がした。
「やきもちですの?」
「違う」
クリスの即答にベレンが頬を膨らます。
「つまらないですわね」
「つまらなくていい。なにか用か?」
ベレンは答えようとしたがクリスの顔を見て目を丸くした。頭から足先までじっくりと観察をする。そして、再びクリスの顔に視線を戻し、驚いたように声をあげた。
「記憶がもどっ、うぐぅ!」
あまりの大声にクリスがベレンの口を塞ぐ。そして、そっと中庭を覗いた。ルドがこちらに気付いた様子はない。
「むぐぅ!」
ベレンがクリスの手を叩く。そのことに気付いたクリスはすぐに手を離した。
「悪い」
「と、突然なんですの?」
「記憶が戻ったことは言うな」
ベレンがクリスに不審な視線を向ける。
「言うなって言われましても、みなさん、すぐに気づきますわよ。まず、着ている服が違いすぎます」
「グッ……」
クリスは痛いところを突かれた。
記憶をなくしていた時のクリスはケリーマ王国の伝統的な衣装の中でも、明るい色や華やかな服を着ていた。
ところが今日のクリスは伝統的な衣装でも深い緑色という地味な色合いの服。女性らしい体の線を上品に表現し、袖や裾は波打つように広がっているが、装飾は金糸の刺繍が所々にされている程度。
落ち着いたデザインで、今のクリスには似合っているが、記憶をなくしていた時とは雰囲気が違いすぎる。
その自覚があるクリスは慌てて弁解した。
「だ、だが犬は気付いていない」
「え!?」
「だから、あいつが自分で気づくまで何も言うな」
「……本当に、気づいていませんの?」
疑うようなベレンの視線にクリスはしっかりと頷いた。
「あぁ」
ベレンが窓の外のルドとクリスを交互に見る。
「なにかありましたの?」
「なにがだ?」
「最近、オグウェノ第四王子と出かけていますでしょう?」
「あぁ」
ベレンが怒ったように両手を腰に置く。
「ルドを置いて、オグウェノ第四王子とデートですの!?」
「デートというものではない」
クリスが呆れた顔で否定する。ベレンがムムム、と疑った様子で顔を近づける。
「違いますの?」
「そうだ。そもそも、なんでデートなんだ?」
「イディが護衛で付いていこうとしたら、デートだから付いてくるな。と、オグウェノ第四王子に断られたって、言ってましたわ」
「それは護衛を断るための口実だろ。王都の街ぐらいは、自由に歩きたいだろうからな」
「そうなのですか? ルドがあんな様子ですし、てっきり二人の間になにかあったのかと思いましたけど……」
ベレンが中庭を覗くと、笑顔で使用人の女性と話しているルドの姿があった。
「何度見ても信じられない光景ですわね」
ルドと幼少の頃から交流があり、ルドの女性恐怖症の原因でもあるベレンが自信満々に断言する。
「ルドがあのように慣れた様子で女性と会話するなんて、天変地異の前触れとしか思えませんわ」
「そこまで断言するのも、問題がある気がするな」
原因の張本人であるベレンは少し気まずそうな顔になった。
「そ、それは置いときまして、今はルドですわ。なにか変なものでも食べましたの?」
「わからん」
「ですが、明らかにおかしいですわ」
「今、その原因を探している……が、本人には言うなよ」
「どうしてですの?」
クリスは少し考えた後、視線を外した。
「……いろいろあるんだ」
「説明が面倒くさいと思いましたわね?」
鋭い指摘にクリスが顔を逸らす。ベレンは諦めたように頷いた。
「私では力になれることが少ないですからね。わかりましたわ。私は何も聞かなかった。知らなかった。と、いうことにしておきます」
「話が早くて助かる」
ベレンがキッと睨んだ。
「すべて終わりましたら! ちゃんと説明してくださいね!」
「あ、あぁ。わかった」
「では、失礼します」
ベレンが優雅な足取りで去っていく。クリスがその後ろ姿を見送っていると、背中に悪寒が走った。直接見なくても分かる。あの琥珀の瞳がこちらを向いているのだ。
クリスは動けなくなる前に走って自室へと戻った。
※
クリスが昼食を終えた頃、シェットランド領のカイから通信が入った。
「早いな。なにか分かったか?」
『あの魔法だが、あまり情報がなかった』
「そうか」
明らかに落胆した声にカイがすまなそうに言う。
『悪いな。分かった情報は一つ。詠唱の言葉。アレは悪魔の名と同じだ』
「悪魔?」
『あぁ。ボルケーノは火と鍛治を司る悪魔で、火事や噴火のような猛火の化身との記載されている』
「それで地中にあるマグマを噴き上げる魔法の詠唱に使われているのか。だが、悪魔の名を使う魔法は初めて聞いたな」
『オレも初めて聞いた。悪魔を召喚したり、悪魔の力を借りたりする魔法は聞いたことはあったがな』
「そうだな……」
クリスが無言で考えこむ。カイは軽く言った。
『そんなに落ち込むな。もう少し調べてみるから。また何か分かったら連絡する』
「そうだな。頼む」
クリスは通信を切ると、そのまま考え込んだ。
以前、亡国の王子が復讐のために悪魔を召喚したことがあった。あの時、悪魔は神の加護がないクリスのほうが体を乗っ取りやすいと言った。つまり神の加護があるルドと悪魔は相性が悪いことになる。
それなのに、なぜ悪魔の名を使った魔法をルドが使うことが出来たのか。いや、使うだけなら出来るかもしれない。だが、威力は半減するか、それ以下になる。それなのに威力はかなりあった。あの威力で半分以下とか考えたくない。
クリスは額に手を当てて悩んだ。
「面倒な予感しかしないが……このままだと、手詰まりだからな」
意を決すると、クリスは通信室から出て行った。
通りすがりの使用人に声をかけ、オグウェノがいる場所を確認する。そこは教えてもらわなければ通り過ぎるような普通のドアだった。
クリスが躊躇うことなくノックをする。すると名乗る前に返事がきた。
「月姫か。いいぞ」
クリスがドアを開ける。そこではオグウェノが椅子に座り、書類にサインをしていた。その脇には護衛のイディが控えている。
予想外の光景にクリスは絶句した。
「……なにをしているんだ?」
「これでも一応第四王子だからな。そんなに多くないが、書類仕事もあるんだよ」
「……そうなのか」
「そこのソファーに腰かけて少し待ってくれ。もう終わる」
それだけ言うとオグウェノは視線を書類に戻した。
黒い睫毛で伏せられた深緑の瞳は滅多に見せない真剣な眼差し。ただでさえ美形なのに、そこに大人の色香も加わり、その姿はもはや鑑賞用、目の保養レベルだ。
クリスが静かに観察していると、オグウェノは宣言通り、書類仕事を終わらせて立ち上がった。
「さて、なにかあったか?」
オグウェノがクリスの反対側にあるソファーに座る。
「犬が竜巻を消すために使った魔法を調べたが、情報が少なく手詰まり状態になった」
「そうか。で、オレにできることは?」
「ムワイと話がしたい」
オグウェノの顔が引きつる。
「アレと会話かぁ」
「あの現場を調べた後、研究しているのだろう? こちらが気づいていないことを見つけている可能性がある」
「あー、その可能性はあるな」
オグウェノは大きくため息を吐くと、仕方ないと立ち上がった。
「研究に没頭しているあいつと、まともに会話できるか不明だが、案内しよう」
「助かる」
こうして二人は王城の中にあるムワイの研究所へ移動した。
身を乗り出さずに、そっと中庭を覗く。すると、王城の使用人の女性たちに囲まれているルドが。
その光景に胸がモヤモヤするような、イライラするような、なんとも言えない感情が湧き出てきた。ルドが誰と話そうが個人の自由であり、口出しするような立場でもない。
それは分かっている。だが、なぜか面白くない。
憮然とした顔で眺めていると背後から可愛らしい声がした。
「やきもちですの?」
「違う」
クリスの即答にベレンが頬を膨らます。
「つまらないですわね」
「つまらなくていい。なにか用か?」
ベレンは答えようとしたがクリスの顔を見て目を丸くした。頭から足先までじっくりと観察をする。そして、再びクリスの顔に視線を戻し、驚いたように声をあげた。
「記憶がもどっ、うぐぅ!」
あまりの大声にクリスがベレンの口を塞ぐ。そして、そっと中庭を覗いた。ルドがこちらに気付いた様子はない。
「むぐぅ!」
ベレンがクリスの手を叩く。そのことに気付いたクリスはすぐに手を離した。
「悪い」
「と、突然なんですの?」
「記憶が戻ったことは言うな」
ベレンがクリスに不審な視線を向ける。
「言うなって言われましても、みなさん、すぐに気づきますわよ。まず、着ている服が違いすぎます」
「グッ……」
クリスは痛いところを突かれた。
記憶をなくしていた時のクリスはケリーマ王国の伝統的な衣装の中でも、明るい色や華やかな服を着ていた。
ところが今日のクリスは伝統的な衣装でも深い緑色という地味な色合いの服。女性らしい体の線を上品に表現し、袖や裾は波打つように広がっているが、装飾は金糸の刺繍が所々にされている程度。
落ち着いたデザインで、今のクリスには似合っているが、記憶をなくしていた時とは雰囲気が違いすぎる。
その自覚があるクリスは慌てて弁解した。
「だ、だが犬は気付いていない」
「え!?」
「だから、あいつが自分で気づくまで何も言うな」
「……本当に、気づいていませんの?」
疑うようなベレンの視線にクリスはしっかりと頷いた。
「あぁ」
ベレンが窓の外のルドとクリスを交互に見る。
「なにかありましたの?」
「なにがだ?」
「最近、オグウェノ第四王子と出かけていますでしょう?」
「あぁ」
ベレンが怒ったように両手を腰に置く。
「ルドを置いて、オグウェノ第四王子とデートですの!?」
「デートというものではない」
クリスが呆れた顔で否定する。ベレンがムムム、と疑った様子で顔を近づける。
「違いますの?」
「そうだ。そもそも、なんでデートなんだ?」
「イディが護衛で付いていこうとしたら、デートだから付いてくるな。と、オグウェノ第四王子に断られたって、言ってましたわ」
「それは護衛を断るための口実だろ。王都の街ぐらいは、自由に歩きたいだろうからな」
「そうなのですか? ルドがあんな様子ですし、てっきり二人の間になにかあったのかと思いましたけど……」
ベレンが中庭を覗くと、笑顔で使用人の女性と話しているルドの姿があった。
「何度見ても信じられない光景ですわね」
ルドと幼少の頃から交流があり、ルドの女性恐怖症の原因でもあるベレンが自信満々に断言する。
「ルドがあのように慣れた様子で女性と会話するなんて、天変地異の前触れとしか思えませんわ」
「そこまで断言するのも、問題がある気がするな」
原因の張本人であるベレンは少し気まずそうな顔になった。
「そ、それは置いときまして、今はルドですわ。なにか変なものでも食べましたの?」
「わからん」
「ですが、明らかにおかしいですわ」
「今、その原因を探している……が、本人には言うなよ」
「どうしてですの?」
クリスは少し考えた後、視線を外した。
「……いろいろあるんだ」
「説明が面倒くさいと思いましたわね?」
鋭い指摘にクリスが顔を逸らす。ベレンは諦めたように頷いた。
「私では力になれることが少ないですからね。わかりましたわ。私は何も聞かなかった。知らなかった。と、いうことにしておきます」
「話が早くて助かる」
ベレンがキッと睨んだ。
「すべて終わりましたら! ちゃんと説明してくださいね!」
「あ、あぁ。わかった」
「では、失礼します」
ベレンが優雅な足取りで去っていく。クリスがその後ろ姿を見送っていると、背中に悪寒が走った。直接見なくても分かる。あの琥珀の瞳がこちらを向いているのだ。
クリスは動けなくなる前に走って自室へと戻った。
※
クリスが昼食を終えた頃、シェットランド領のカイから通信が入った。
「早いな。なにか分かったか?」
『あの魔法だが、あまり情報がなかった』
「そうか」
明らかに落胆した声にカイがすまなそうに言う。
『悪いな。分かった情報は一つ。詠唱の言葉。アレは悪魔の名と同じだ』
「悪魔?」
『あぁ。ボルケーノは火と鍛治を司る悪魔で、火事や噴火のような猛火の化身との記載されている』
「それで地中にあるマグマを噴き上げる魔法の詠唱に使われているのか。だが、悪魔の名を使う魔法は初めて聞いたな」
『オレも初めて聞いた。悪魔を召喚したり、悪魔の力を借りたりする魔法は聞いたことはあったがな』
「そうだな……」
クリスが無言で考えこむ。カイは軽く言った。
『そんなに落ち込むな。もう少し調べてみるから。また何か分かったら連絡する』
「そうだな。頼む」
クリスは通信を切ると、そのまま考え込んだ。
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それなのに、なぜ悪魔の名を使った魔法をルドが使うことが出来たのか。いや、使うだけなら出来るかもしれない。だが、威力は半減するか、それ以下になる。それなのに威力はかなりあった。あの威力で半分以下とか考えたくない。
クリスは額に手を当てて悩んだ。
「面倒な予感しかしないが……このままだと、手詰まりだからな」
意を決すると、クリスは通信室から出て行った。
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クリスが躊躇うことなくノックをする。すると名乗る前に返事がきた。
「月姫か。いいぞ」
クリスがドアを開ける。そこではオグウェノが椅子に座り、書類にサインをしていた。その脇には護衛のイディが控えている。
予想外の光景にクリスは絶句した。
「……なにをしているんだ?」
「これでも一応第四王子だからな。そんなに多くないが、書類仕事もあるんだよ」
「……そうなのか」
「そこのソファーに腰かけて少し待ってくれ。もう終わる」
それだけ言うとオグウェノは視線を書類に戻した。
黒い睫毛で伏せられた深緑の瞳は滅多に見せない真剣な眼差し。ただでさえ美形なのに、そこに大人の色香も加わり、その姿はもはや鑑賞用、目の保養レベルだ。
クリスが静かに観察していると、オグウェノは宣言通り、書類仕事を終わらせて立ち上がった。
「さて、なにかあったか?」
オグウェノがクリスの反対側にあるソファーに座る。
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「そうか。で、オレにできることは?」
「ムワイと話がしたい」
オグウェノの顔が引きつる。
「アレと会話かぁ」
「あの現場を調べた後、研究しているのだろう? こちらが気づいていないことを見つけている可能性がある」
「あー、その可能性はあるな」
オグウェノは大きくため息を吐くと、仕方ないと立ち上がった。
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