【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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閉ざされた世界からの反撃

それは、ジャンケン勝負でした

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 十代半ば程の少女は、サラサラと流れる金髪を頭の高い位置で一つに結んでいた。人懐っこそうな丸い黒の瞳が三人を物珍しげに見つめる。小さな鼻に薄い唇。体は全体的に小さいが、手足は長く、人形のようにバランスがいい。

 少女は鈴が転がるような声で言った。

「これが外の人間? 私たちと大差ないね」
「花子。言葉には気をつけなさいと何度も言ったでしょう?」
「えへ」

 少女が可愛らしく笑って誤魔化す。カリストはため息を吐きながら少女を紹介した。

「こちらは現在ここの管理をしている田中花子です」
「はーい! 花子でぇす! 花ちゃんって呼んでね」

 言葉の最後に合わせて少女がウインクをする。明るく花を振りまく姿は名前とピッタリだ。

「「タナカ、ハナコ……」」

 聞きなれない名前に二人の声が重なる。そんな二人をカリストが花子に紹介する。

「こちらは、私の主のクリス様と、ケリーマ王国のオグウェノ第四王子です」
「へぇー! 王子様って本当にいるんだ!」

 花子が無遠慮にオグウェノに近づき見上げる。その馴れ馴れしさにオグウェノは一歩下がった。
 だが、花子は気にせずに距離を詰める。

「でも、なんか顔が濃いねぇ」
「顔が濃い!?」
「うん。なんか、コッテリって感じ?」
「コッテリ!?」

 顔を引きつらすオグウェノにクリスとカリストが笑いを堪えながら顔を逸らす。カリストが肩を震わしながらフォローをした。

「ここで眠っている人たちは、目鼻立ちが薄いので、第四王子のような顔立ちは見慣れていないのです」
「だからって、ここまで言うか!?」
「褒めたらいけなかった?」

 花子がコテンと首を傾げる。その目に悪気の影は一切ない。
 そのことに気づいたオグウェノが頭を抱える。

「純真無垢って怖いな」
「はい。本人は悪気ゼロなので、勘弁してあげてください」
「人と話すのって数年ぶりだから、感覚を忘れるんだよねぇ」

 笑っていたクリスが顔を上げる。

「数年ぶり?」
「うーんと、太郎と交代した時だから……あ、十数年ぶりぐらい?」

 すかさずカリストが注意する。

「今の名前はカリストですので、そちらの名で呼んでください」
「あー! なに、そのカッコいい名前! いいな! 私も名前、変えたい!」
「はい、はい。独り立ちしたら好きに改名してください」
「絶対、独り立ちしてやるぅ!」

 花子が握りこぶしを作る。話の内容がいまいち分からないクリスがカリストに訊ねた。

「独り立ちをしたら名前を変えられるのか? 独り立ちとは、どういう状況だ?」
「ここで、決められた期間の任務を遂行することができれば、独り立ちが許可されます。そうすれば外の世界に出る権利を得られ、名前を変えることが出来ます」
「それなら、ここの任務をしたいという者は多いのではないか?」

 カリストが綺麗な指を顎に添え、斜め上に視線を向けて思案する。

「数は多くないですね。希望者は二~三十年に一人ぐらいでしょうか。独り立ちの許可が出ても夢の世界へ戻る者もいますし」
「戻る者がいるのか?」
「さっき見た、あの中にまた入るのか?」

 クリスとオグウェノが信じられない様子で呟く。

「はい。ここで外の世界の状況を知り、夢の世界の方が良いと判断するのでしょうね」
「あんな狭いところで閉じこもっている方が、いいのか?」
「確かに体は封じられていますが、夢の中では現実と変わりありません。触覚も味覚も全て再現されます。そして、飢えることも、戦争もない安定した、平和な世界です」
「……それだけを聞くと、わざわざ外に出る理由が浮かばないな」

 オグウェノの疑問に花子が明るく答える。

「そうだよ。わざわざ外に出るなんて変人がすることだもん」
「なら、外で仕事をしている小鳥は変人ということか?」

 オグウェノの言葉に花子がキョトンとした顔になる。

「小鳥って私のこと?」
「小鳥みたいに動きまわるからな」

 当然のようにオグウェノが説明をする。花子は気を悪くするどころか嬉しそうに飛び跳ねた。

「うわぁー! 面白い! そうそう、そういうところよ! 外の世界は予想もしていないことが起きるから!」
「夢の中の世界では予想外のことは起きないのか?」

 クリスの質問にカリストが頷く。

「安定した生活ができるように管理された世界ですから。決められた日常を淡々と過ごすだけです」
「それは退屈だな」

 同意したオグウェノに、花子が飛びつく。

「でしょ!? だから刺激を求めて、この仕事に就いたの!」
「そういう人もいます。あとは純粋に外の世界への好奇心や、知識欲など、ですね」

 クリスが首を傾げる。

「だが、安全で安定した世界があるなら、普通はそちらの方を選ばないか?」
「でも、それが何百年も続いたら、さすがに飽きるのよ」
「「何百年!?」」

 オグウェノとクリスの言葉が重なる。カリストが説明を続けた。

「私たちは不老長寿なので」
「何歳まで生きるんだ?」
「平均寿命は六~七百歳。最高齢は千歳です」 

 オグウェノが呆れた顔でこぼす。

「そこまでくると、逆によく生きてるな、と思っちまう」
「そうなのよ。私も二百年生きたところ夢の世界に飽きてきて、外の世界について直接知りたいな、と思ったの」
「ん? と、いうことは、住人たちは自分たちが住んでいるのが、夢の世界であることを知っているのか?」
「そうだよ」

 花子が当然のように頷く。クリスがカリストを睨んだ。

「おまえ、さっき否定しなかったな?」
「肯定もしていませんよ?」

 綺麗な口角がニヤリとあがる。クリスはググッと堪え、話を本題に戻した。

「で、ここでは何をするんだ? 無駄話をするために来たのではあるまい?」
「はい。この部屋の中でなら、犬の中にいる神の本体を追跡して、ルートを特定することができます。ただ、そのためには、眠っている犬を起こさないといけないのですが……」
「それは犬の精神を起こす、ということか?」
「はい。たぶん、神によって深層意識……あなたたちの言葉でいう、心の奥深くにいます。犬がそこから起きれば、神は居場所をなくして体から出てくるでしょう。そこを捕らえ、神の本体までのルートを追跡します」

 クリスが胸の前で腕を組む。

「捕らえるところや、追跡するところは任すしかないが……どうやって犬を起こすんだ?」
「そこなんですよね。こればっかりは、私たちの技術でも方法がなくて……」
「なんだよ、それ」

 オグウェノが呆れる。カリストは黙っているクリスに視線を向けた。

「なにか方法が思い当たりませんか?」
「たぶん、できる……」
「そんな方法があるのか!?」

 驚くオグウェノに、クリスが険しい表情のまま頷く。

「……まあ、どうにかなるだろう」
「待て。なんだ、その妙な間は?」
「あー、いや、まあ、気にするな」
「気になる。どういう方法が教えろ」

 クリスは視線を逸らしたまま、言いにくそうに言った。

「私の屋敷の書庫にある禁書の中に、意識だけを体から抜き出して自由に移動する、という魔法がある。その魔法で意識だけになれば、犬の体の中に入って起こせるのではないか、と」
「だが、それは禁書になるほどの本に書かれた魔法だ。何か問題があるんじゃないのか?」

 クリスが務めて軽く話す。

「まあ……下手をしたら、体に戻れなくなるぐらいだ」
「大問題だ!」
「下手をしなければ問題ない」
「下手とは、どういう状況だ?」
「あー……」

 露骨に視線を避けるクリスをオグウェノが追いかける。

「そんな魔法を月姫に使わすわけにはいかない」
「では、第四王子がされてはいかがですか? 子どものナタリオが使えた魔法ですから、使用する魔力は少ないと思います。魔力があまり残っていない第四王子でも、一回なら魔法を使えるでしょう」

 カリストの提案に、クリスとオグウェノが叫ぶ。

「ダメだ!」
「それだ!」

 お互いの言葉に睨み合う。

「ダメだ! おまえは立場というものを分かっているのか!? これは個人の問題だ。おまえが出てくる場面ではない」
「それを言ったら、これは世界の問題だ! 確実に成功させないといけない」
「ならば、魔法の扱いに長けている私がやるべきだ」
「様々な経験をしてきたオレのほうが、不測の事態が起きても対応できる!」

 一歩も引く様子がない二人にカリストが綺麗な眉をハの字にする。そこに花子が明るい声で言った。

「ジャンケンすれば?」

 二人が同時に花子の方を向く。さすがにカリストが困った声で注意した。

「そんな簡単に決めることでは……」

 クリスとオグウェノが息ピッタリに頷く。

「「それがいい!」」

 呆然とするカリストの前で二人が睨み合う。

「一回勝負だからな。負けても文句は言うなよ」
「月姫こそ、負けたら潔く諦めるんだぞ」

 二人が右足を半歩下げる。

「「じゃーんけん、ポン!」」

 全員の視線が二人の手の形に集まる。

「くそぉ!」
「よっしゃ!」

 それぞれの声が広くない部屋に響いた。








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