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混乱とクリスの答え
それは、クリスの決断でした
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完全なる酔っ払いの言葉にクリスは目を丸くした。
「へ?」
「ルドのお嫁さんになったら、私の娘になるでしょ? うふふ。クリスちゃんのウェディングドレス姿は可愛いでしょうねぇ」
酔っぱらったエルネスタが夢心地で話す。クリスは軽くため息を吐いた。
「エル殿。酔っているなら、これ以上は呑まないほうがいい」
「あらぁ。これぐらいじゃあ、酔わないわよ」
「エル殿。失望させるようになるが……あなたは最初、先代領主の孫である私が来て喜んでいた。だが、私は先代領主と血は繋がっていない。だから……」
「あら。あなたがカイ様と血がつながってないのは知っているわよ」
当然のように頷くエルネスタにクリスが驚く。
「え?」
「でも、カイ様はあなたを孫としてお育てになった。ならば、あなたはカイ様の孫。なにも間違っていないわ」
「だが、血が……」
「血の繋がりがすべてではないわ」
クリスが慌てて他の言い訳を探す。
「わ、私は子を残せない。跡取りが必要な家柄には不向きなんだ」
クリスの思惑とは逆にエルネスタが喜ぶ。
「あら! 子のことを考えて遠慮するなんて、ルド自身のことを嫌っているわけではないのね! 良いと思っているのね!」
「なぜそうなる!?」
「そんなこと気にしなくていいのよ。跡取りなんて、他の子に任せればいいもの」
「いや、だから…………ん? 他の子?」
「ルドは他に三人の兄弟がいるわよ」
クリスがポカンとした顔になる。まったくの初耳だ。
「みんな騎士の仕事で地方にいるから、しばらく会っていないわね。でも、みんな器量良しだから、そのうち勝手に結婚して子を成すでしょう」
「そ、そうか」
「はい。これで跡取り問題は解決。あとの問題は?」
クリスが俯く。
「……エル殿は何故そんなに私に良くするのだ?」
「そうねぇ……クリスちゃんは私ができなかったことをしているから、つい応援したくなっちゃうのよ」
「できなかったこと?」
「実は若い頃、男装をして騎士団に入団しようとしたことがあるの。けど、結局できなかった。でも、クリスちゃんはそれをやってのけた。しかも治療師の最高位に」
クリスが顔を上げると茶色の瞳に微笑まれた。
「そんなの、応援するしかないじゃない」
「いや、だが、騎士団に入団することに比べれば治療師は難しくはないし……」
「何を言っているの? 男装とバレずに生活することは大変なのよ。それと!」
エルネスタがクリスに顔を寄せる。
「息子がやっと見つけた相手なんですもの。ちゃんと、ひっついて幸せになってほしいの」
「幸せ……」
クリスが視線を遠くに向ける。
「私は”神に棄てられた一族”で災いをもたらす存在だ。幸せとは程遠い」
「あら、カイ様は災いなんてもたらさなかったわよ」
「だが、私のせいでルドが不幸に……」
「もしかして、クリスちゃんは自分のせいでルドが不幸になると思ってるの?」
「わからない。だが、もし自分のせいで何かあったら、私は……」
クリスが俯き、両手で顔を覆う。エルネスタはグラスを置いてクリスを抱きしめた。
「来てもいない未来を怖がらないで。幸せは二人で作っていけばいいの。あなた一人が背負うことではないわ」
「二人……で?」
「えぇ。どちらかが相手を幸せにするんじゃないの。ルドと一緒に幸せを作っていくの。もちろん、なにかあれば私も協力するわ」
全身から伝わる不思議な温かさ。もし、母親がいたら、このような感じだったのだろうか。これが甘える、という感情になるのか……
クリスは遠慮気味に訊ねた。
「頼っても……いいのか?」
「当然よ。むしろ頼ってちょうだい。ルドがクリスちゃんを泣かせるようなことがあったら、私が懲らしめるから」
エルネスタが体を離してニッコリと微笑む。クリスもつられて笑顔になる。
「わかった。ありがとう」
クリスが勢いよく立ち上がる。
「こうなったら私もいい加減、腹をくくろう! ラミラ! ラミラ!? どこだ!?」
クリスがラミラを呼びながら屋敷の中に入っていく。その目元は、ほんのり赤くなっており……
「もしかして、酒漬けケーキで酔っちゃったかしら?」
「ラミラ! あと、カリスト! 出て来い!」
クリスの声が夜遅い屋敷に響いた。
翌朝。
「……なぜ頭が痛いんだ」
クリスがガンガンと痛む頭を押さえながら起き上がる。そこにノックの音が響き、聞きなれた声がした。
「おはようございます」
声とともにドアが開き、カリストが現れる。
「……?」
クリスが不思議そうに見上げと、カリストは呆れたように肩をすくめた。
「昨夜、犬から無理やり櫛を取り上げて、私に渡されたのを忘れましたか?」
「…………そういえば、そんなことをした気がする」
「だいぶん酔っておられたようでしたので。今朝は二日酔いに効く薬湯にしました」
カリストがカップに注ぐ。薬草の匂いが広がる。
「犬は櫛を取り上げられたことが相当ショックだったようです。今朝は鍛錬もせず、自室にこもっていますよ」
「そ、そうか」
クリスが気まずそうにカップを受け取る。
「まったく。どうやって、犬から櫛を取り上げたのですか?」
「……覚えていない」
実はなんとなく覚えているが、とても話せる内容ではない。視線をあさっての方へ向けるクリスにカリストが呆れた様子で確認する。
「ところで、昨日の指示は有効ですか? 酔った勢いで、ということは、ございませんか?」
「ラミラに頼んだことか?」
「はい」
クリスがカップに息を吹きかけ、冷ましながら薬湯を飲む。
「やってくれ。時間はないが明日の夕方までに仕上げてほしい」
「わかりました。本日はいかがされます?」
「頭が痛いから昼まで寝て過ごす」
「おや、珍しい」
「たまにはいいだろ」
薬湯を飲み終えたクリスがベッドに潜り込む。
「はい。ゆっくりお休みください」
「昼になったら起こしてくれ」
クリスは再び眠りについた。
次にクリスが目を覚ました時、太陽は真上まできていた。上半身を起こして両手を伸ばす。
「久しぶりに、よく寝た気がするな」
クリスがベッドから下りてクローゼットを開ける。
「……やはりこの服が涼しくて動きやすい、か」
クリスが服を取り出して着替える。それから身支度を整えているとノックの音がした。
「し、師匠? 起きて、ますか?」
おずおずと伺うような声がする。クリスが思わず苦笑いをしながらドアに声をかけた。
「入っていいぞ」
「失礼しま……師匠!?」
部屋に入ったルドがクリスの服装に飛びつく。
「本当にケリーマ王国に嫁ぐ気ですか!?」
「ま、まて! 待て、待て! なぜ、そうな……あっ」
クリスの脳裏に昨晩のことが甦る。
なかなか櫛を返さないルドにかなり苦戦した。おねだりも、泣き落としも効かなかった。最終手段として、櫛を返さなければオグウェノのところへ行くと、脅迫に近い脅しをした……ような気がする。
ルドが不穏な空気をまとう。
「やはり、第四王子と決着をつけてこなくては……」
「やはりとはなんだ!? この服は涼しくて動きやすいから着ているだけだ! 勝手に勘違いするな!」
「……本当ですか?」
「本当だ。そもそも、私がシェットランド領から離れるわけないだろ」
「確かに、そうですが……」
ルドがなにか言いたげにクリスを見つめる。
クリスは海のような碧色のケリーマ王国の伝統衣装を着ていた。涼し気な軽い布で作られ、女性らしい曲線が綺麗に現れている。袖や裾は軽やかに広がり、金糸で施された草花の刺繍が輝く。
金色の髪に映え、落ち着いた清楚な雰囲気はクリスにとても合っている。
「なにか文句があるのか?」
「い、いえ。あの、髪の色は、そのままですか?」
「いけないか?」
「とてもよく似合っています」
「……この姿の私とは外に出れないか?」
金髪と緑目は“神に棄てられた一族”の証。災いをもたらす者として忌み嫌われている。そんな者と一緒に過ごすなど酔狂者がすること。
しかし、ルドは目が丸くした後、すぐに微笑んだ。金色に輝く髪を一房手にとり、口元に寄せる。
「いえ。ぜひ、ご一緒させてください。あ、そうだ! 昼から一緒にカフェへ行きませんか?」
「あ、いや、昼からは……ちょっと、一人で出掛けたいところがある」
「一人で?」
「そうだ」
「ついて行ったらダメですか?」
捨てられた子犬のように目を潤ませて覗き込んでくる。クリスは慌てて首を振り、どうにか声をだした。
「ダ、ダメだ。待っていろ。さ、昼飯を食べるぞ」
クリスがさっさと部屋から出て行く。
「師匠! 待ってくださぃ……」
ルドは慌てて追いかけた。
「へ?」
「ルドのお嫁さんになったら、私の娘になるでしょ? うふふ。クリスちゃんのウェディングドレス姿は可愛いでしょうねぇ」
酔っぱらったエルネスタが夢心地で話す。クリスは軽くため息を吐いた。
「エル殿。酔っているなら、これ以上は呑まないほうがいい」
「あらぁ。これぐらいじゃあ、酔わないわよ」
「エル殿。失望させるようになるが……あなたは最初、先代領主の孫である私が来て喜んでいた。だが、私は先代領主と血は繋がっていない。だから……」
「あら。あなたがカイ様と血がつながってないのは知っているわよ」
当然のように頷くエルネスタにクリスが驚く。
「え?」
「でも、カイ様はあなたを孫としてお育てになった。ならば、あなたはカイ様の孫。なにも間違っていないわ」
「だが、血が……」
「血の繋がりがすべてではないわ」
クリスが慌てて他の言い訳を探す。
「わ、私は子を残せない。跡取りが必要な家柄には不向きなんだ」
クリスの思惑とは逆にエルネスタが喜ぶ。
「あら! 子のことを考えて遠慮するなんて、ルド自身のことを嫌っているわけではないのね! 良いと思っているのね!」
「なぜそうなる!?」
「そんなこと気にしなくていいのよ。跡取りなんて、他の子に任せればいいもの」
「いや、だから…………ん? 他の子?」
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「みんな騎士の仕事で地方にいるから、しばらく会っていないわね。でも、みんな器量良しだから、そのうち勝手に結婚して子を成すでしょう」
「そ、そうか」
「はい。これで跡取り問題は解決。あとの問題は?」
クリスが俯く。
「……エル殿は何故そんなに私に良くするのだ?」
「そうねぇ……クリスちゃんは私ができなかったことをしているから、つい応援したくなっちゃうのよ」
「できなかったこと?」
「実は若い頃、男装をして騎士団に入団しようとしたことがあるの。けど、結局できなかった。でも、クリスちゃんはそれをやってのけた。しかも治療師の最高位に」
クリスが顔を上げると茶色の瞳に微笑まれた。
「そんなの、応援するしかないじゃない」
「いや、だが、騎士団に入団することに比べれば治療師は難しくはないし……」
「何を言っているの? 男装とバレずに生活することは大変なのよ。それと!」
エルネスタがクリスに顔を寄せる。
「息子がやっと見つけた相手なんですもの。ちゃんと、ひっついて幸せになってほしいの」
「幸せ……」
クリスが視線を遠くに向ける。
「私は”神に棄てられた一族”で災いをもたらす存在だ。幸せとは程遠い」
「あら、カイ様は災いなんてもたらさなかったわよ」
「だが、私のせいでルドが不幸に……」
「もしかして、クリスちゃんは自分のせいでルドが不幸になると思ってるの?」
「わからない。だが、もし自分のせいで何かあったら、私は……」
クリスが俯き、両手で顔を覆う。エルネスタはグラスを置いてクリスを抱きしめた。
「来てもいない未来を怖がらないで。幸せは二人で作っていけばいいの。あなた一人が背負うことではないわ」
「二人……で?」
「えぇ。どちらかが相手を幸せにするんじゃないの。ルドと一緒に幸せを作っていくの。もちろん、なにかあれば私も協力するわ」
全身から伝わる不思議な温かさ。もし、母親がいたら、このような感じだったのだろうか。これが甘える、という感情になるのか……
クリスは遠慮気味に訊ねた。
「頼っても……いいのか?」
「当然よ。むしろ頼ってちょうだい。ルドがクリスちゃんを泣かせるようなことがあったら、私が懲らしめるから」
エルネスタが体を離してニッコリと微笑む。クリスもつられて笑顔になる。
「わかった。ありがとう」
クリスが勢いよく立ち上がる。
「こうなったら私もいい加減、腹をくくろう! ラミラ! ラミラ!? どこだ!?」
クリスがラミラを呼びながら屋敷の中に入っていく。その目元は、ほんのり赤くなっており……
「もしかして、酒漬けケーキで酔っちゃったかしら?」
「ラミラ! あと、カリスト! 出て来い!」
クリスの声が夜遅い屋敷に響いた。
翌朝。
「……なぜ頭が痛いんだ」
クリスがガンガンと痛む頭を押さえながら起き上がる。そこにノックの音が響き、聞きなれた声がした。
「おはようございます」
声とともにドアが開き、カリストが現れる。
「……?」
クリスが不思議そうに見上げと、カリストは呆れたように肩をすくめた。
「昨夜、犬から無理やり櫛を取り上げて、私に渡されたのを忘れましたか?」
「…………そういえば、そんなことをした気がする」
「だいぶん酔っておられたようでしたので。今朝は二日酔いに効く薬湯にしました」
カリストがカップに注ぐ。薬草の匂いが広がる。
「犬は櫛を取り上げられたことが相当ショックだったようです。今朝は鍛錬もせず、自室にこもっていますよ」
「そ、そうか」
クリスが気まずそうにカップを受け取る。
「まったく。どうやって、犬から櫛を取り上げたのですか?」
「……覚えていない」
実はなんとなく覚えているが、とても話せる内容ではない。視線をあさっての方へ向けるクリスにカリストが呆れた様子で確認する。
「ところで、昨日の指示は有効ですか? 酔った勢いで、ということは、ございませんか?」
「ラミラに頼んだことか?」
「はい」
クリスがカップに息を吹きかけ、冷ましながら薬湯を飲む。
「やってくれ。時間はないが明日の夕方までに仕上げてほしい」
「わかりました。本日はいかがされます?」
「頭が痛いから昼まで寝て過ごす」
「おや、珍しい」
「たまにはいいだろ」
薬湯を飲み終えたクリスがベッドに潜り込む。
「はい。ゆっくりお休みください」
「昼になったら起こしてくれ」
クリスは再び眠りについた。
次にクリスが目を覚ました時、太陽は真上まできていた。上半身を起こして両手を伸ばす。
「久しぶりに、よく寝た気がするな」
クリスがベッドから下りてクローゼットを開ける。
「……やはりこの服が涼しくて動きやすい、か」
クリスが服を取り出して着替える。それから身支度を整えているとノックの音がした。
「し、師匠? 起きて、ますか?」
おずおずと伺うような声がする。クリスが思わず苦笑いをしながらドアに声をかけた。
「入っていいぞ」
「失礼しま……師匠!?」
部屋に入ったルドがクリスの服装に飛びつく。
「本当にケリーマ王国に嫁ぐ気ですか!?」
「ま、まて! 待て、待て! なぜ、そうな……あっ」
クリスの脳裏に昨晩のことが甦る。
なかなか櫛を返さないルドにかなり苦戦した。おねだりも、泣き落としも効かなかった。最終手段として、櫛を返さなければオグウェノのところへ行くと、脅迫に近い脅しをした……ような気がする。
ルドが不穏な空気をまとう。
「やはり、第四王子と決着をつけてこなくては……」
「やはりとはなんだ!? この服は涼しくて動きやすいから着ているだけだ! 勝手に勘違いするな!」
「……本当ですか?」
「本当だ。そもそも、私がシェットランド領から離れるわけないだろ」
「確かに、そうですが……」
ルドがなにか言いたげにクリスを見つめる。
クリスは海のような碧色のケリーマ王国の伝統衣装を着ていた。涼し気な軽い布で作られ、女性らしい曲線が綺麗に現れている。袖や裾は軽やかに広がり、金糸で施された草花の刺繍が輝く。
金色の髪に映え、落ち着いた清楚な雰囲気はクリスにとても合っている。
「なにか文句があるのか?」
「い、いえ。あの、髪の色は、そのままですか?」
「いけないか?」
「とてもよく似合っています」
「……この姿の私とは外に出れないか?」
金髪と緑目は“神に棄てられた一族”の証。災いをもたらす者として忌み嫌われている。そんな者と一緒に過ごすなど酔狂者がすること。
しかし、ルドは目が丸くした後、すぐに微笑んだ。金色に輝く髪を一房手にとり、口元に寄せる。
「いえ。ぜひ、ご一緒させてください。あ、そうだ! 昼から一緒にカフェへ行きませんか?」
「あ、いや、昼からは……ちょっと、一人で出掛けたいところがある」
「一人で?」
「そうだ」
「ついて行ったらダメですか?」
捨てられた子犬のように目を潤ませて覗き込んでくる。クリスは慌てて首を振り、どうにか声をだした。
「ダ、ダメだ。待っていろ。さ、昼飯を食べるぞ」
クリスがさっさと部屋から出て行く。
「師匠! 待ってくださぃ……」
ルドは慌てて追いかけた。
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