【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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混乱とクリスの答え

それは、エルネスタの願いでした

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 クラウディウスが円卓を叩く。

「こいつに魔法騎士団の団長が務まるわけないだろ!」
「なぜ、クリスティでは務まらないと言える?」
「こいつは治療師だ! 戦略や戦闘は素人だろ!」
「なら、クリスティとボードゲームをしてみたらいい。クリスティの戦略はなかなかで、私でも油断すると負けることがある。クラウディウス兄様では確実に負ける」
「はっ!?」

 怒りで顔を赤くしているクラウディウスにセルシティが畳み掛ける。

「あと、戦闘については魔法騎士団長と一対一で模擬戦をしたらいい。これもクリスティが勝つ」
「なぜ、勝つと断言できる!?」
「クリスティは治療師だ。筋肉の動きから、相手の次の動きが読める。そのため、相手からの攻撃はなかなか当たらない。それとクリスティは無詠唱魔法が使える。詠唱なしで、いきなり魔法攻撃を受けたら、はたして避けることができるかな?」
「無詠唱魔法が、使える……だと?」

 これには護衛の騎士たちもざわつく。クラウディウスが疑いの眼差しを向けた。

「それが本当なら、なぜ今まで黙っていた? 無詠唱魔法は魔法を学ぶ者にとって最終目標であり、最難題だ。過去に何人もの偉人が挑み、なし得なかった」

 肩をすくめたクリスがため息を吐く。

「大げさなことになるから黙っていたんだ。無詠唱魔法は教えて出来るようになるものではない。だから、なにも言うつもりはない。そもそも、無詠唱魔法が使えることをセルティに話したことはないぞ」
「そうだっけ?」

 妖艶な笑みを浮かべ、わざとらしく首を傾げたセルシティはルドの方を向いた。

「で、魔法騎士団の副団長はルドにお願いするよ」
「なっ!?」

 このことにはルドしか驚かなかった。

「クリスティが団長になるなら副団長はルドしかいないでしょ? それとも、他の人が副団長になってもいいかい?」
「ダメだ!」
「なら、決まりだね」

 一方的に決めようとしているセルシティをクリスが止める。

「待て。どうして、私なんだ?」
「そ、そうだ! 実力があっても、それだけでは魔法騎士団をまとめることはできない! 騎士たちが納得しないぞ!」

 息まくクラウディウスにセルシティが説明する。

「男女平等にするには意識の改革が必要だ。そのために、まず女騎士団を作る」
「なに!? 女が戦えるわけないだろ!」
「そうか? ケリーマ王国には女騎士団がある。しかも、戦力として申し分ない。ならば、我が国でも出来るだろ? それとも我が国はケリーマ王国より劣っているのかい?」
「我が国がケリーマ王国に劣っているなど、ありえん!」
「ならば、作れるな?」

 セルシティの口車に乗せられクラウディウスが黙る。次にセルシティはクリスを説得した。

「シェットランド領、領主であり、金獅子と呼ばれたカイ殿の孫。この肩書きだけで、ある程度は認められる。あとは実力を示せばいい。魔法騎士団長が自ら男女を平等に扱う意識を徹底させれば、他の騎士や兵士も続いていく。それと、女騎士団を魔法騎士団の直属にする予定だ。クリスティなら、女騎士団の扱いも問題なくできるだろ?」
「いろいろと丸投げにされている気がするな」
「クリスティでないと出来ないことだ」

 男装をしているクリスだからこそ、できること。

「……考える時間をくれ」
「もちろん。明後日の晩餐会までに答えを聞かせてくれ」
「……わかった」

 セルシティの案に対してコンスタンティヌスとクラウディウスが意見を言い合う。だが、セルシティの方が一枚上手で反論はことごとく潰されていく。

 議論が白熱していく一方で、クリスは自分の出番は終わったと判断し部屋から出た。
 後をついてきたルドが声をかける。

「師匠、どうするのですか?」

 無言のクリスに別の声がかかった。

「クリスティアヌス殿」

 クリスとルドが足を止めて振り返る。そこには親衛隊の騎士を従えた現帝がいた。

「セルシティが無理難題を言って申し訳ない」
「……三人を放っておいて、いいのか?」
「これから国を動かすのは、あの三人だ。私は出来ることがあるなら手を貸すが、基本的には自分たちで対処させる」
「なかなか思い切った判断だな」

 口ではそう言いながらもクリスは納得していた。強引な独裁政治をしていた先帝とは違い、現帝は情報収集と状況把握による強かな戦略で国を治めてきた。現状を見極める目は確実。

「前代未聞の事態だ。私の過去の経験など役に立たん」
「だが、経験は貴重だ」

 ドアが開き、騎士の一人が駆け寄る。

「コンスタンティヌス様が現帝のご意見をお伺いしたいと……」
「ほら。まだまだ、必要とされているだろ?」
「そのようだな。では、失礼する」

 現帝が部屋に戻る。クリスもルドを連れて帝城を後にした。

※※

 ルドの屋敷に戻ったクリスは出迎えたラミラに言って人払いをした。
 そのまま部屋にこもり、ひたすら考える。

 どう動くのが最善なのか。セルシティの提案通りに動いて、大丈夫なのか。いや、あれはかなりの賭けのはず。
 いきなり魔法騎士団長が代わるとなれば、騎士団内での反発は必死だ。しかも、ただでさえ混乱している状況。これを、まとめきることが出来るのか……たぶん、副団長になるルドにかなりの負担をかけることになる。
 ならば、なるべく反発と混乱が起きない方法を考えなくては。

 部屋で昼食と夕食を取り、一歩も外に出ることなく考える。だが、どれだけ考えても納得がいく答えが出ない。

 クリスが頭を悩ませていると、遠慮がちにノックの音が響いた。

「あの、クリス様。セルシティ第三皇子より、こちらが届きました」

 ラミラがそっとドアを開け、箱を持って入る。中を開けるとクリスのサイズで作られた魔法騎士団の騎士服があった。しかも、団長が羽織るマントまで付いている。

「答えを出す前から、これか」
「クリス様……」

 心配そうなラミラにクリスはいつもの不敵な笑みを見せた。

「クローゼットに入れておいてくれ」
「はい」

 窓の外が暗い。

「もう、こんな時間か」
「少し外の空気を吸われては、いかがですか?」
「そうだな」

 クリスが煮詰まった頭を冷やすため部屋から出る。廊下を歩いていると、庭に突き出たデッキが目に入った。

 外に出ると気持ちいい夜風が頬を撫でた。クリスがデッキにあるソファーに体を投げ出す。満天の星が夜空を照らす。

「隣に座っても、いいかしら?」
「……え?」

 クリスが断る前にエルネスタが隣にあるソファーに優雅に腰を下ろした。普段の破天荒な行動で忘れがちだが、爵位持ちで立ち振る舞いは洗練されている。

 使用人が二人の間にあるローテーブルに酒とつまみと紅茶と菓子を並べた。菓子は生クリームとフルーツがトッピングされたカラフルなスポンジケーキ。

 クリスは慌てて起き上がった。

「いや、悪いが私は一人で考えごとを……んぐぅ」
「はい、はい。そんな辛気臭い顔をしていたら、考えもまとまらないわよ。今、帝都で流行ってるお菓子でも食べて。ほら、ほら」

 無理やり菓子を口に突っ込まれたクリスが口を動かす。酒に浸されたスポンジのほのかな苦みと、フルーツの甘酸っぱさが合う。

「ん、いや、ふぁが……」
「はい、はい。次はハーブティーね。リラックスできるわよ」
「ぅんぐ」

 押し付けられたカップから紅茶を飲む。ハーブの爽やかな香りが鼻から抜けるが、とてもリラックスできるような飲み方ではない。
 クリスが菓子を飲み込むと、エルネスタが首を傾げて訊ねた。

「美味しい?」
「いや、美味しいとかではなく……」
「美味しくない?」

 悲しそうな顔にクリスが頭を横に振る。

「不味くはない」
「よかった。なら、どんどん食べて」

 両手に菓子を持つエルネスタをクリスが止める。

「だから、待ってくれ。今はそれどころではないんだ」
「なにをそんなに悩んでいるの?」
「それは……いや、なんでもな、んぐぅ!」

 エルネスタが容赦なくクリスの口に菓子を突っ込む。そして微笑みながらグラスに入った酒を呑んだ。

「だから、そこがクリスちゃんの悪いところよ。一人でなんでも抱え込んじゃう」
「う、いや。今回は……」
「ねぇ。クリスちゃんは、どうしたいの?」
「え?」

 エルネスタがつまみを口に入れて酒を味わう。

「クリスちゃんのやりたいことは、なに?」
「それは……いや、だが私は……」
「あのね、クリスちゃん。世界っていろんな人がいてね、自分がいなくても意外と廻るのよ?」
「あ、あぁ」

 エルネスタがグラスの酒を呑み干してクリスに詰め寄る。

「だから、クリスちゃん一人が少しぐらい我儘を言っても問題ないの」
「へ? あ、いや、だが今回は……」
「はい、飲んで」

 カップを押し付けられ、仕方なく紅茶を飲む。

「クリスちゃんはね、一人しかいないの。だから、無理をしないでほしいの」
「……」
「クリスちゃんは頑張り屋さんだから、なんでも一人で背負っちゃうでしょ?」
「……」

 エルネスタが悪戯をしたような笑みを浮かべる。

「だからね、ルドにも頼ってほしいの。頑固で融通がきかないところもあるけど、クリスちゃんのことは誰よりも大切に思っているわ」
「は!? な、なぜ、ここで、いぬ……いや、ルドが出てくるんだ!?」
「もちろん、あなたに私の娘になってほしいからよ。うふふふふ」

 赤くなった頬に手を当てて笑うエルネスタの顔は完全なる酔っ払いだった。





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