完結·囚われた騎士隊長と訳あり部下の執愛と復讐の物語

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始まり

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「月が綺麗ですね。あぁ、失礼。オレが目を潰したから見えませんね」

 ワザと煽るように貴方へ放った言葉。
 しかし、目の前にいる貴方は何も反応しない。
 でも、それでいい。
 貴方はオレだけの人形になればいいのだから。

~⁜~⁜~

 こんな腐りきった国にも関わらず、配属先の騎士隊長はとても綺麗な人だった。

 顔を埋めたくなるような滑らかな金髪と、ほのかに香る甘い匂いはオレの心を一瞬で掴んだ。
 大きな翡翠の瞳から伸びる長いまつ毛は瞬きをする度に光を弾き、オレの世界を輝かせる。
 摘まみたくなるようなツンとした鼻に、いますぐにでも塞ぎたい花弁のような唇は舐めたくなるのを堪えるだけで精神を削られる。
 両手で包み込める小さな顔と、すぐに傷つきそうな白い柔肌は吸い付き赤い跡を残したくなる。

 そんな顔だけでも素晴らしいのに、適度に筋肉がついたしなやかな肢体と、濃密な魔力をまとった姿が人々の目を惹くのは必然で。

 生傷が絶えないむさ苦しい男たちが占める騎士団の中でも異質の存在だった。

 傷一つない体に美麗な顔。

 外見だけでも完璧なのに、何よりも精神が高潔だった。

 自分の利益しか考えず、汚職と賄賂が蔓延した国。
 ひと昔前は魔法で繁栄したが、今は腐りきった貴族と王によって昔の栄光と繁栄は影もなくなった。
 そして、国を維持するための戦争へ駆り出され、酷使される兵と騎士たち。使い捨ての駒ような扱いが当然の状態。

 だが、隊長はどのように不利な戦況でも最低限の損失だけで、部下とともに必ず生還した。
 どれだけの泥水をすすろうが、言われのない暴言を浴びようが、その姿は常に凛としており、輝いていた。
 だが、それゆえに上の連中からの評判は悪かった。

 隊長にもう少し愛想があれば、もう少し立ち回りがうまければ、状況は違っていたかもしれない。

 その身を犠牲にして動き、部下から熱い忠誠を集める姿は徐々に上の連中から煙たがられるようになった。
 明らかに死に行けと言わんばかりの戦地への任務が増えた。
 それでも、隊長は不死鳥のごとく部下とともに生きて戻ってきた。

 そのことに苛立ったのか王はついに卑劣な任務を隊長に押し付けた。

~⁜~⁜~

 隊長が任務に立つ前日、オレは騎士宿舎の最上階にある部屋を訪れた。

「どうした? 眠れないのか?」

 ドアを開けた隊長は私服だった。
 白いシャツの首元を緩め、普段は見えない鎖骨が覗く。湯浴みをしたのか、微かに香る石鹸の匂いと軽く蒸気した肌に思わずゴクリと息をのみながらもオレは努めていつも通りに声を出した。

「少し話したいことがありまして」
「そうか」

 オレの行動に何も疑問を持っていないのか、隊長がすんなりとオレを部屋に招き入れる。そこは隊長が使う部屋とは思えないほど質素で、他の騎士たちと同じ作りの部屋だった。
 ベッドと机と椅子しかない部屋で隊長が金髪を揺らしながら机の椅子をオレに勧める。

「座るか?」

 だが、オレは部屋に入ってドアを閉めたところで立ったまま首を横に振った。

「いえ、このままで大丈夫です」
「そうか。で、用件はなんだ?」

 いきなり確信を突く質問にオレは両手を握りしめて訊ねた。

「この度の任務ですが……」

 オレの言葉を最後まで言わせないかのように隊長が声を被せる。

「あぁ、悪いが今回は連れていけない。私一人で十分だ」

 淡々とした口調。
 まるで散歩を断るような軽い言い方にオレは背後のドアを叩いた。

「なぜ、あんな任務を引き受けたんですか!? 一人で敵地に……あんなの使い捨て……いや、捨てられるより酷いではないですか!」

 オレの怒りを美しい隊長は翡翠の瞳を細め、そよ風のように笑って受け流す。
 これが晴れた陽の下でなら。穏やかな日常でなら。オレはその笑みを心地よく受け入れたであろう。
 だが、現実は残忍で残酷で。

「これまでも似たような任務はあった。気にするな」
「気にするなというレベルではありません!」

 怒りが収まらないオレに対し、滑らかな金髪が悲しげに下がり憂いを帯びた顔を隠した。

「私は騎士で国を守る。それだけのことだ」
「だからって……」

 一歩踏み出したオレを止めるように隊長がスッと顔をあげる。
 その瞳はこれ以上、踏み込むことを許さないという強い意志があり、その美しさに状況を忘れて見惚れてしまう。

「話はそれだけか? ならば、出て行け」

 そう言い切るとオレを拒絶するように背を向けた。
 自分より低い位置にある金色の髪。自分より小さな肩。自分より滑らかな体躯。
 すべてが完璧で、すべてが愛おしい。

 これが見も知らぬ誰かに穢されるぐらいなら……

「失礼します」

 鈍い音が部屋に響いた。



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