悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

文字の大きさ
14 / 28

14

しおりを挟む
「……で。結局、金貨百五十枚のうち、現ナマで用意できたのはこれっぽっちですの?」

私は、相談所の安デスクの上に並べられた、数枚の汚れた銀貨と銅貨を指先で弾いた。
目の前には、昨日の「誘拐犯」こと、三人の情けない男たちが正座して震えている。
リーダー格の男は、鼻をすすりながら床に額を擦り付けた。

「す、すみません……。俺たち、景気が悪くて廃業寸前の運送屋だったんです。魔導馬車の普及で仕事がなくなって、つい魔が差して……」

「言い訳は結構ですわ。私はあなたの身の上話に投資しているわけではありませんの。……リルさん、この男たちの『残存資産価値』を算定してくださる?」

「はい、お姉様! えーと、健康状態は良好。力仕事には耐えられそうです。ただ、脳みその稼働率が著しく低いのが欠点ですわね。市場価格で言えば、一山いくらのジャンク品といったところでしょうか!」

リルが手厳しい評価を下すと、男たちは「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
彼らにとって、リルの罵倒はもはやトラウマの域に達しているらしい。

「……なぁ、アクア。こいつら、近衛騎士団に突き出せば、不法侵入と誘拐未遂で最低でも五年は塀の中だぞ」

壁際で腕を組んでいたゼノが、冷淡に告げた。
その言葉に、男たちの顔が土気色に変わる。
しかし、私はゆっくりと首を振った。

「いいえ、ゼノ。それは非効率的ですわ。税金で彼らを五年間も養うなんて、国家予算の無駄遣いです。……死蔵されている労働力は、有効活用してこそ利益を生むのですわ」

私は眼鏡をクイッと上げ、三人の男たちを見下ろした。

「あなたたち。監獄へ行くか、それとも私の下で『時給十円(端材付き)』で馬車馬のように働くか。……二択ですわ。どちらを選びますの?」

「は、働かせてください! 何でもします! あの不気味な女の罵倒に耐えるよりは、重労働の方がマシです!」

「失礼ね、不気味とは。……よし、契約成立ですわね。今日からあなたたちは、我が『悪役令嬢相談所』の調査・徴収部門……通称『アズライト・エージェンシー』の第一期生ですわ」

私はあらかじめ用意しておいた、文字がびっしりと詰まった契約書(※解約不可の特約付き)を彼らの前に差し出した。

「主な業務は、クライアントの浮気調査、不当な借金の取り立て、および特売品情報の収集です。……リルさん、彼らに制服を。一番安くて、それでいて威圧感のある『中古の黒いマント』を三着、卸値で買ってきてちょうだい」

「承知いたしました、お姉様! ついでに、彼らが逃げ出さないように『アクア様の似顔絵入り首輪』……いえ、バッジも発注しておきますわ!」

「それはコストの無駄だから、名札でいいわよ」

こうして、相談所に三人の屈強な(しかし精神的にボロボロな)調査員が加わった。
彼らは早速、リルのスパルタ指導の下で「効率的な尾行術」と「アクア様を称える時の正しい姿勢」を叩き込まれることになった。

「……アクア、お前なぁ。誘拐犯を更生させるのはいいが、雇い主が一番の悪党に見えるぞ」

ゼノが近寄ってきて、私の耳元で囁いた。
その距離が近く、私は思わず帳簿を抱きしめる。

「あら。私は彼らに『更生という名の利益』を与えているのですわ。それに、彼らを使えば、あのバカ王子の周辺調査も捗りますもの。……ゼノ、あなただって、騎士団の手を汚したくない裏仕事、あるでしょう?」

「……否定はしないが。お前、たまには自分の安全を第一に考えろ。こいつらが裏切ったらどうするんだ」

「その時は、ゼノ。……あなたが私の『保険』として、彼らを物理的に処理してくださるでしょう?」

私が上目遣いでじっと見つめると、ゼノは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らした。
「……お前、そういうところだけはズルいよな。……ああ、わかったよ。お前の安全は、俺が責任を持って保証してやる」

ゼノの大きな手が、私の頭にポンと置かれた。
その瞬間、私の脳内の計算機がエラーを起こした。
時給換算不可。期待値無限大。
……この男の優しさは、いつも私の損得勘定を狂わせてくる。

「……あ、あの、ゼノ。髪が乱れますわ。……それに、その『保証』にかかる手数料、後で請求しないでくださいね」

「……お前なぁ。一生、俺に借金してろよ。利子は『お前の笑顔』でいいからな」

「…………。……そういう恥ずかしいセリフ、一回につき金貨五枚ですわ」

私は真っ赤になった顔を隠すように、新しい従業員たちの教育(という名の罵倒)に熱中するリルの方を向いた。

「お前ら! アクア様が特売の卵を買いに行かれる際は、露払いを完璧にこなしなさい! 一秒の遅れは一時間の減給ですわよ!」

「「「はい、姐さん!!!」」」

……なんだか、相談所がどんどん「カタギ」ではない方向へ進化している気がするけれど。
まぁ、固定資産(従業員)が増えたのだから、ヨシとしましょう。

私は高鳴る鼓動を「これは先行投資による興奮よ」と自分に言い聞かせ、次のターゲット――王子のポエムに隠された『王室予算の使途不明金』の調査指示を書き始めるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...