悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

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「フハハハ! アクアよ、絶望するがいい! ついに私の隣に相応しい、真の聖女……そして莫大な持参金を持つ最高の婚約者候補を連れてきたぞ!」

夜会も終盤。
ダンスフロアに響き渡ったのは、今日何度目かも分からないジュリアス殿下の勝ち誇った声でした。
彼が引き連れてきたのは、異国の華やかなドレスに身を包んだ、金髪縦ロールの美少女。
……ですが、私は彼女を一目見た瞬間、手に持っていた無料のカナッペ(三個目)を落としそうになりました。

「……あら。殿下、今度はどちらの詐欺師を捕まえていらしたの?」

「詐欺師だと!? 失礼な! 彼女は隣国、ベルフェゴール王国の第三王女、クロエ姫だ! 彼女の実家は金鉱山を三つも所有している、世界屈指の資産家なのだぞ!」

殿下は胸を張り、隣のクロエ姫を引き寄せました。
クロエ姫は扇子で口元を隠し、「おーっほっほっほ」と高笑いを上げましたが……。
私の目は誤魔化せませんわよ。

「……リルさん。彼女の身に着けている『最高級のダイヤモンド』のネックレス、どう見えます?」

隣でデザートを詰め込んでいたリルが、即座に目を細めて「鑑定」に入りました。
「……お姉様。あれ、ただのガラスですわ。それも、表面にだけ光沢魔法をかけた、安価な露天商レベルの代物ですわね」

「やっぱり。それに見てください、あのドレス。刺繍の糸が一部ほつれていますわ。本物の王女なら、そんなメンテナンス不足の衣装で夜会に出るはずがありません」

私はため息をつき、一歩前に出ました。
ゼノが「また厄介ごとに首を突っ込むのか」と呆れ顔で私の腰を支えてくれましたが、これは「商機」なのです。

「クロエ姫とおっしゃいましたか。……その金鉱山三つ、現在はすべて『採掘権の差し押さえ』を受けているのではありませんか?」

その言葉に、クロエ姫の高笑いがピタリと止まりました。
彼女の額から、大粒の汗が流れ落ちます。

「な、ななな、何を根拠にそんな無礼なことを……っ!」

「根拠? あなたのその、不自然なまでに重い化粧ですわ。睡眠不足による肌荒れを隠そうとしていますが、厚塗りのせいで化粧品のコストが跳ね上がっています。……それから、その香水。高級品に見せかけて、後味に『安物の防腐剤』の匂いが混じっていますわ。借金取りから逃げるために、無理に身なりを整えているのでしょう?」

私が畳み掛けると、クロエ姫はついに膝から崩れ落ちました。

「……バレましたの? あ、あのアホ王子が『借金を全額肩代わりするから婚約者のフリをしてくれ』って言うから……っ! もう、限界ですわ! 利息が、利息が私の胃をキリキリと締め付けるんですの!」

「ク、クロエ!? 君まで何を言い出すんだ! 私の計画が丸潰れではないか!」

殿下が慌てて彼女を立たせようとしますが、クロエ姫は私のドレスの裾に縋り付いてきました。

「アクア様! あなたが『悪役令嬢相談所』の所長だと聞き及んでおります! お願いです、私のこの複雑怪奇な多重債務を整理して、再建プランを立ててくださいませ! お礼に、うちの国に眠っている『二級品の魔石(換金性低め)』を全部差し上げますわ!」

「……再建プラン、ですわね」

私は眼鏡を指で押し上げ、脳内の計算機をフル稼働させました。
ベルフェゴール王国の借金。
採掘権の整理。
そして、殿下が彼女に約束した「肩代わり」の不履行に対する違約金。

「……いいでしょう。クロエ様、あなたの案件、お引き受けいたします。ただし、相談料は『ベルフェゴール王国の特産品:格安羊肉』の独占販売権でいかがかしら?」

「お、お肉!? そんなものでよろしければ、いくらでも差し上げますわ! あんな硬くて安い肉、自国では持て余していたんですの!」

「……ふふ。調理法(コスト削減レシピ)次第で、その肉は黄金に変わりますわよ」

私は不敵に笑い、殿下をチラリと見ました。

「殿下。他人の不幸(借金)を利用して自分を飾ろうとするなんて、投資家としても失格ですわ。……さて、この方の借金の半分、殿下の不法な勧誘による損害として、王室に請求させていただきますわね」

「なっ……! また金か! また私から毟り取るのか!」

「当然ですわ。……リルさん、クロエ様の現状をまとめた『負債リスト』の作成、急いでちょうだい。ボブたちには、隣国の金鉱山の実態調査を命じなさい。……今夜は徹夜よ、ボーナス(卵1パック)を出すわ!」

「はいっ、お姉様!! 徹夜どころか、来世まで働きますわ!!」

夜会の中心で、新たな「事業」が爆誕しました。
私に嫉妬させようとした王子の目論見は、またしても私の「ポートフォリオ」を増やす結果に終わったのです。

「……アクア。お前、本当に王子を『カモ』としか思ってないな」

ゼノが私の肩を抱き寄せ、耳元で笑いました。

「失礼ね、ゼノ。カモではなく、『定期的な配当をくれる優良物件』と言ってくださる?」

「……はは、違いない。……よし、仕事の話はここまでだ。夜会が終わったら、二人でその『安い肉』とやらの試食会でもするか? 俺が焼いてやるよ」

「……ゼノ。あなたの火加減なら、薪のコストも最小限で済みそうですわね。……ええ、付き合ってあげますわ」

私はゼノの腕に身を任せ、次なる利益――王国の食卓を牛耳る野望に、静かに瞳を輝かせるのでした。
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