悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

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「アクア・ラズライト! 出てこい! そしてその野蛮な騎士から君を解放し、私の愛の檻(牢獄ではありませんよ!)へと連れ戻してやろう!」

朝の静かな公爵邸の門前で、またしてもジュリアス殿下が絶叫していました。
しかも今回は、どこから調達したのか、白馬に跨り、後ろには「王子の愛を取り戻す親衛隊」と書かれた旗を持った数人の取り巻きまで連れています。
近所迷惑という概念を、彼は母親のお腹の中に置いてきてしまったのかしら。

「……お姉様。あのお方、ついに公序良俗という名の最終ラインを越えましたわね。今すぐボブたちを投入して、あの白馬を馬刺しにして差し上げましょうか?」

隣でリルさんが、殺気立った手つきで特大の魔導拡声器(メガホン)を磨き上げています。
私は窓からその光景を見下ろし、優雅に……いえ、冷徹に計算機を叩きました。

「いいえ、リルさん。暴力はコストがかかりますわ。ここは社会的制裁という名の、最も安価で効果的な『デバフ』を与えて差し上げましょう。……ゼノ、準備はいいかしら?」

部屋の隅で「あのアホ、本当にしつこいな」と呆れていたゼノが、苦笑いしながら立ち上がりました。

「ああ。近衛騎士団の公務としてじゃなく、一人の『アクアの婚約者候補(暫定一位)』として、しっかり引導を渡してやるよ」

私はリルさんから魔導メガホンを受け取り、バルコニーの最前線へと進み出ました。
そして、魔力を最大出力に設定し、王都の三つ隣の街まで届くような音量で口を開きました。

「――聞こえますか、王都の皆様! および、そこに立ち往生している不法侵入者の殿下!」

私の声が、物理的な衝撃波となって門前の王子を直撃しました。
殿下は白馬から転げ落ちそうになりながら、耳を押さえて見上げます。

「あ、アクア!? なんだその下品な道具は! 淑女なら愛のポエムで応じるべきだろう!」

「ポエム? そんな生産性のない文字列に割く時間は一秒もありませんわ! 皆様、お聞きなさい! 今、目の前で騒いでいるこの男は、国民の血税を自分の全裸像に変えようとした挙句、婚約破棄した元婚約者の家に早朝からストーキング行為を繰り返している、歩く国家予算の無駄遣い機ですわよ!」

『無駄遣い機ですわよー……わよー……』と、王都中に私の声が反響します。
街ゆく人々が足を止め、「また王子か」「全裸像の人だろ?」と指を差し始めました。

「な、何を言い出すんだ! これは純愛だ! 私は君を救いに――」

「救う? 笑わせないでくださいな。あなたが門の前で騒ぐたびに、我が家の警備コストは通常の二割増し、さらに私の精神的ストレスによる作業効率低下は金貨五十枚分に相当します。……殿下、今この瞬間のあなたの価値は、市場に出回っている『期限切れの腐った卵』以下ですわ!」

「腐った卵以下!? この私の美貌がか!?」

「ええ! 卵は肥料になりますが、あなたはただの騒音源ですもの! ……ゼノ、トドメをお願いしますわ」

私はメガホンをゼノに手渡しました。
ゼノはそれを受け取ると、低く、しかし有無を言わせぬ威圧感のある声で告げました。

「……殿下。近衛騎士団長として、およびアクアのパートナーとして警告します。これ以上の接近は、公爵家への宣戦布告と見なし、物理的に排除します。……それと、お前のその『愛』。アクアの帳簿には、一円の利益も記されてない。……お前はもう、彼女の人生から完全に『損切り』されたんだよ」

損切り。
そのあまりに冷酷で的確な経済用語が、殿下の胸に突き刺さりました。
殿下はガタガタと震え、周囲の民衆からの「帰れー!」「税金泥棒ー!」という合唱に包まれ、ついに白馬に飛び乗って逃げ出していきました。

「お、覚えておけぇぇ! 私は……私はまだ、倒産したわけではないぞぉぉ!!」

虚しい叫びと共に、王子の姿が砂埃の中に消えていきました。
私はふぅ、と溜息をつき、メガホンの電源を切りました。

「……やれやれ。これでしばらくは静かになるかしらね。リルさん、今の放送内容を号外にして、一部銅貨一枚で売り出しなさい。スキャンダルは鮮度が命ですわよ」

「さすがはお姉様! あのアホ面を挿絵にして、王都中の笑い種にして差し上げますわ!」

リルが意気揚々と部屋を飛び出していきました。
バルコニーには、私とゼノの二人だけが残されました。

「……アクア。お前、本当に情け容赦ないな」

「失礼ね。私はただ、彼の『市場価値』を正当に評価しただけですわ。……それに」

私は、ゼノの隣に並び、彼の手をそっと握りました。

「……私の隣という一等地に、あのような不良在庫を置くわけにはいきませんもの。……ねえ、ゼノ。今の私の評価、上がりましたかしら?」

「ああ。……ストップ高どころか、俺の全財産を注ぎ込んでも足りないくらいにな」

ゼノが私の腰を引き寄せ、優しく微笑みました。
朝日に照らされた彼の顔を見て、私は心の中で、今日一番の「黒字」を確信しました。

……ふふ。悪役令嬢の断罪劇は、これにて閉幕。
次は、この最高のパートナーと共に、世界一効率的で幸せな「家族経営」を始める準備をいたしましょうか。
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