悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー

文字の大きさ
27 / 28

27

しおりを挟む
「お姉様ぁぁ!! 見てください、この婚姻届! 私の名前を『第二夫人』の欄にねじ込むための法的手続き、すべて完了いたしましたわ!」

爽やかな朝の光が差し込む公爵邸の執務室。
コーヒーの原価を計算していた私の前に、リルさんが鼻息荒く一枚の紙を突き出しました。
……相変わらず、彼女の行動力は国家予算を動かすレベルで無駄に高いですわね。

「リルさん。何度も申し上げていますが、この国の法律では多重婚の維持費に対する税率が非常に高いのです。私の家計簿に、あなたの養育費という名の『不良債権』を計上する余裕はありませんわ」

「不良債権だなんて! 私はお姉様の身の回りのお世話から、不審な女の排除、さらには毎日三食の『罵倒の受給』まで、すべて無償……いえ、なんならお支払いしてでも行いますわよ!」

リルさんが私の足元に縋り付いて叫びます。
その時、ドアがノックもなしに開き、一人の「正規の債権者」が顔を出しました。

「……おい、リル。朝から俺の婚約者の足にまとわりつくな。業務妨害で騎士団の地下牢に放り込むぞ」

正装……ではなく、最近ではすっかり公爵家に馴染んでしまったゼノが、呆れ顔で入ってきました。
彼は私の隣に当然のように座ると、リルの持っていた紙をひょいと取り上げ、即座に丸めてゴミ箱へシュートしました。

「ああっ! 私の魂の契約書が! この筋肉ダルマ、今日こそ決闘ですわ!」

「お前との決闘に割く時間は、俺の時給に見合わない。……それよりアクア。例の『結婚式』の予算案、公爵(お義父さん)から決済が下りたぞ」

ゼノが差し出したのは、私が三日三晩かけて練り上げた「極限までコストを削りつつ、最大級の祝儀を回収する」ための戦略的結婚式計画書です。

「……あら、さすがはお父様。私の『参列者全員に特売卵の購入権を配布する代わりの入場料徴収』という案、通してくださったのね」

「……お前、本当に自分の結婚式を『即売会』か何かだと思ってるだろ。国王陛下も来るんだぞ?」

ゼノがこめかみを押さえています。
私は扇子をパッと広げ、優雅に……いえ、計算高く微笑みました。

「陛下がいらっしゃるからこそですわ、ゼノ。国を挙げたイベントに、スポンサーを募らない手はありません。新郎新婦の入場シーン、背後の幕に『ロイヤル・マート』の広告を出すだけで、今回の式場設営費は実質タダになりますのよ」

「……お前のドレスの裾にまで広告が入ってないか心配になってきたよ」

「検討しましたが、デザイン性が損なわれて資産価値が下がるので、今回は見送りましたわ。……それよりリルさん。泣いている暇があるなら、披露宴で出す料理の『廃棄率ゼロプロジェクト』の進行状況を報告なさい」

「は、はいっ! お姉様! 参列者が残したパンの耳はすべて回収し、翌日の公爵家のラスクとして再販するルートを確保済みですわ!」

「よろしい。……ふふ。これで、結婚式を終えた後の私たちの純利益は、金貨二千枚を超える見込みですわね」

私がホクホク顔で帳簿を叩いていると、ゼノが私の手をそっと握りました。
その、節くれ立った大きな手のひらの温かさに、私の計算機がまた少しだけ狂います。

「……アクア。金の話もいいが、たまには『俺たちの未来』についても話さないか? ……式が終わったら、二人でどこか遠くへ、仕事抜きで行こうって約束だろ」

「……あ。……ええ、覚えていますわ。新婚旅行という名の、各地の市場調査ですわね」

「……ただの旅行だって言ってるだろ。……まぁ、いい。お前が楽しそうなら、俺はどこまでもついていくよ。……お前の『人生』っていう最大のリターンを、俺が守り抜いてやる」

ゼノが私の耳元で、甘く、低い声で囁きました。
その瞬間、私の顔は王都で一番高価なルビーのように真っ赤になりました。

「……ッ、ぜ、ゼノ。……そのセリフ、録音してリピート放送したいくらい……あ、いえ、何でもありませんわ!」

「お姉様ぁぁ!! 今、尊死(たふし)の危機ですわ! お二人のイチャつきによる精神的放射能が、私の独身細胞を破壊していますわ!!」

リルさんが悶絶しながら床を転げ回ります。
そんな騒がしい日常。
婚約破棄をされたあの日、私は一人で戦う決意をしました。
ですが、今の私の周りには、信頼できるパートナーと、少し(かなり)変わった仲間たちがいます。

……ふふ。悪役令嬢としての人生も、なかなか捨てたものではありませんわね。
私は、ゼノの手を握り返しながら、窓の外に広がる王都を見つめました。

「……さて。……最終的な利益確定(結婚式)まで、あと一歩。……最高に『黒字』なハッピーエンドを、掴み取りにいきましょうか!」

私たちの物語は、いよいよフィナーレへ。
世界で一番美しく、そして世界で一番「安上がりで儲かる」結婚式の幕が、今、上がろうとしていたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...