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「お姉様ぁぁ!! 見てください、この婚姻届! 私の名前を『第二夫人』の欄にねじ込むための法的手続き、すべて完了いたしましたわ!」
爽やかな朝の光が差し込む公爵邸の執務室。
コーヒーの原価を計算していた私の前に、リルさんが鼻息荒く一枚の紙を突き出しました。
……相変わらず、彼女の行動力は国家予算を動かすレベルで無駄に高いですわね。
「リルさん。何度も申し上げていますが、この国の法律では多重婚の維持費に対する税率が非常に高いのです。私の家計簿に、あなたの養育費という名の『不良債権』を計上する余裕はありませんわ」
「不良債権だなんて! 私はお姉様の身の回りのお世話から、不審な女の排除、さらには毎日三食の『罵倒の受給』まで、すべて無償……いえ、なんならお支払いしてでも行いますわよ!」
リルさんが私の足元に縋り付いて叫びます。
その時、ドアがノックもなしに開き、一人の「正規の債権者」が顔を出しました。
「……おい、リル。朝から俺の婚約者の足にまとわりつくな。業務妨害で騎士団の地下牢に放り込むぞ」
正装……ではなく、最近ではすっかり公爵家に馴染んでしまったゼノが、呆れ顔で入ってきました。
彼は私の隣に当然のように座ると、リルの持っていた紙をひょいと取り上げ、即座に丸めてゴミ箱へシュートしました。
「ああっ! 私の魂の契約書が! この筋肉ダルマ、今日こそ決闘ですわ!」
「お前との決闘に割く時間は、俺の時給に見合わない。……それよりアクア。例の『結婚式』の予算案、公爵(お義父さん)から決済が下りたぞ」
ゼノが差し出したのは、私が三日三晩かけて練り上げた「極限までコストを削りつつ、最大級の祝儀を回収する」ための戦略的結婚式計画書です。
「……あら、さすがはお父様。私の『参列者全員に特売卵の購入権を配布する代わりの入場料徴収』という案、通してくださったのね」
「……お前、本当に自分の結婚式を『即売会』か何かだと思ってるだろ。国王陛下も来るんだぞ?」
ゼノがこめかみを押さえています。
私は扇子をパッと広げ、優雅に……いえ、計算高く微笑みました。
「陛下がいらっしゃるからこそですわ、ゼノ。国を挙げたイベントに、スポンサーを募らない手はありません。新郎新婦の入場シーン、背後の幕に『ロイヤル・マート』の広告を出すだけで、今回の式場設営費は実質タダになりますのよ」
「……お前のドレスの裾にまで広告が入ってないか心配になってきたよ」
「検討しましたが、デザイン性が損なわれて資産価値が下がるので、今回は見送りましたわ。……それよりリルさん。泣いている暇があるなら、披露宴で出す料理の『廃棄率ゼロプロジェクト』の進行状況を報告なさい」
「は、はいっ! お姉様! 参列者が残したパンの耳はすべて回収し、翌日の公爵家のラスクとして再販するルートを確保済みですわ!」
「よろしい。……ふふ。これで、結婚式を終えた後の私たちの純利益は、金貨二千枚を超える見込みですわね」
私がホクホク顔で帳簿を叩いていると、ゼノが私の手をそっと握りました。
その、節くれ立った大きな手のひらの温かさに、私の計算機がまた少しだけ狂います。
「……アクア。金の話もいいが、たまには『俺たちの未来』についても話さないか? ……式が終わったら、二人でどこか遠くへ、仕事抜きで行こうって約束だろ」
「……あ。……ええ、覚えていますわ。新婚旅行という名の、各地の市場調査ですわね」
「……ただの旅行だって言ってるだろ。……まぁ、いい。お前が楽しそうなら、俺はどこまでもついていくよ。……お前の『人生』っていう最大のリターンを、俺が守り抜いてやる」
ゼノが私の耳元で、甘く、低い声で囁きました。
その瞬間、私の顔は王都で一番高価なルビーのように真っ赤になりました。
「……ッ、ぜ、ゼノ。……そのセリフ、録音してリピート放送したいくらい……あ、いえ、何でもありませんわ!」
「お姉様ぁぁ!! 今、尊死(たふし)の危機ですわ! お二人のイチャつきによる精神的放射能が、私の独身細胞を破壊していますわ!!」
リルさんが悶絶しながら床を転げ回ります。
そんな騒がしい日常。
婚約破棄をされたあの日、私は一人で戦う決意をしました。
ですが、今の私の周りには、信頼できるパートナーと、少し(かなり)変わった仲間たちがいます。
……ふふ。悪役令嬢としての人生も、なかなか捨てたものではありませんわね。
私は、ゼノの手を握り返しながら、窓の外に広がる王都を見つめました。
「……さて。……最終的な利益確定(結婚式)まで、あと一歩。……最高に『黒字』なハッピーエンドを、掴み取りにいきましょうか!」
私たちの物語は、いよいよフィナーレへ。
世界で一番美しく、そして世界で一番「安上がりで儲かる」結婚式の幕が、今、上がろうとしていたのでした。
爽やかな朝の光が差し込む公爵邸の執務室。
コーヒーの原価を計算していた私の前に、リルさんが鼻息荒く一枚の紙を突き出しました。
……相変わらず、彼女の行動力は国家予算を動かすレベルで無駄に高いですわね。
「リルさん。何度も申し上げていますが、この国の法律では多重婚の維持費に対する税率が非常に高いのです。私の家計簿に、あなたの養育費という名の『不良債権』を計上する余裕はありませんわ」
「不良債権だなんて! 私はお姉様の身の回りのお世話から、不審な女の排除、さらには毎日三食の『罵倒の受給』まで、すべて無償……いえ、なんならお支払いしてでも行いますわよ!」
リルさんが私の足元に縋り付いて叫びます。
その時、ドアがノックもなしに開き、一人の「正規の債権者」が顔を出しました。
「……おい、リル。朝から俺の婚約者の足にまとわりつくな。業務妨害で騎士団の地下牢に放り込むぞ」
正装……ではなく、最近ではすっかり公爵家に馴染んでしまったゼノが、呆れ顔で入ってきました。
彼は私の隣に当然のように座ると、リルの持っていた紙をひょいと取り上げ、即座に丸めてゴミ箱へシュートしました。
「ああっ! 私の魂の契約書が! この筋肉ダルマ、今日こそ決闘ですわ!」
「お前との決闘に割く時間は、俺の時給に見合わない。……それよりアクア。例の『結婚式』の予算案、公爵(お義父さん)から決済が下りたぞ」
ゼノが差し出したのは、私が三日三晩かけて練り上げた「極限までコストを削りつつ、最大級の祝儀を回収する」ための戦略的結婚式計画書です。
「……あら、さすがはお父様。私の『参列者全員に特売卵の購入権を配布する代わりの入場料徴収』という案、通してくださったのね」
「……お前、本当に自分の結婚式を『即売会』か何かだと思ってるだろ。国王陛下も来るんだぞ?」
ゼノがこめかみを押さえています。
私は扇子をパッと広げ、優雅に……いえ、計算高く微笑みました。
「陛下がいらっしゃるからこそですわ、ゼノ。国を挙げたイベントに、スポンサーを募らない手はありません。新郎新婦の入場シーン、背後の幕に『ロイヤル・マート』の広告を出すだけで、今回の式場設営費は実質タダになりますのよ」
「……お前のドレスの裾にまで広告が入ってないか心配になってきたよ」
「検討しましたが、デザイン性が損なわれて資産価値が下がるので、今回は見送りましたわ。……それよりリルさん。泣いている暇があるなら、披露宴で出す料理の『廃棄率ゼロプロジェクト』の進行状況を報告なさい」
「は、はいっ! お姉様! 参列者が残したパンの耳はすべて回収し、翌日の公爵家のラスクとして再販するルートを確保済みですわ!」
「よろしい。……ふふ。これで、結婚式を終えた後の私たちの純利益は、金貨二千枚を超える見込みですわね」
私がホクホク顔で帳簿を叩いていると、ゼノが私の手をそっと握りました。
その、節くれ立った大きな手のひらの温かさに、私の計算機がまた少しだけ狂います。
「……アクア。金の話もいいが、たまには『俺たちの未来』についても話さないか? ……式が終わったら、二人でどこか遠くへ、仕事抜きで行こうって約束だろ」
「……あ。……ええ、覚えていますわ。新婚旅行という名の、各地の市場調査ですわね」
「……ただの旅行だって言ってるだろ。……まぁ、いい。お前が楽しそうなら、俺はどこまでもついていくよ。……お前の『人生』っていう最大のリターンを、俺が守り抜いてやる」
ゼノが私の耳元で、甘く、低い声で囁きました。
その瞬間、私の顔は王都で一番高価なルビーのように真っ赤になりました。
「……ッ、ぜ、ゼノ。……そのセリフ、録音してリピート放送したいくらい……あ、いえ、何でもありませんわ!」
「お姉様ぁぁ!! 今、尊死(たふし)の危機ですわ! お二人のイチャつきによる精神的放射能が、私の独身細胞を破壊していますわ!!」
リルさんが悶絶しながら床を転げ回ります。
そんな騒がしい日常。
婚約破棄をされたあの日、私は一人で戦う決意をしました。
ですが、今の私の周りには、信頼できるパートナーと、少し(かなり)変わった仲間たちがいます。
……ふふ。悪役令嬢としての人生も、なかなか捨てたものではありませんわね。
私は、ゼノの手を握り返しながら、窓の外に広がる王都を見つめました。
「……さて。……最終的な利益確定(結婚式)まで、あと一歩。……最高に『黒字』なハッピーエンドを、掴み取りにいきましょうか!」
私たちの物語は、いよいよフィナーレへ。
世界で一番美しく、そして世界で一番「安上がりで儲かる」結婚式の幕が、今、上がろうとしていたのでした。
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