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「降りなさい、リナ! あとエヴァン様も!」
塔のバルコニーで、私は夜空に向かって叫んだ。
さっきまでのロマンチックな雰囲気は、妹の乱入により霧散していた。
「はーい! 着陸しまーす!」
リナがホウキを巧みに操り、バルコニーの手すりに軽やかに着地する。
続いて、エヴァン様が青ざめた顔でヨロヨロと降りてきた。
「……お、降りました……。もう二度と、リナ様の運転には乗りません……」
「失礼な。私の操縦テクニックは王都一番ですよ?」
「ジェットコースターより酷かったです」
エヴァン様が手すりにしがみついてえずいている。
かわいそうに。
「それで、お姉様!」
リナが私に詰め寄る。
その目は、獲物を狙う猫のように爛々と輝いている。
「さっきの! 見ましたよ! ガッツリいってましたね! 秒数にして15秒! 角度は斜め45度!」
「分析しないで!」
「で、どうなんですか? ついに陥落ですか? 年貢の納め時ですか?」
リナがマイク(型の魔導具)を向けてくる。
私は顔を真っ赤にして、隣のキース様を見た。
彼は余裕の笑みで、私の腰を抱いたままだ。
「そうだね。ミュールは僕の愛に降伏したよ。……だろう?」
「うっ……」
否定できない。
あんな熱い告白をされて、キスまでされて、「いいえ違います」なんて言えるわけがない。
私は観念して、深いため息をついた。
「……そうよ。負けたわ」
「きゃーーーっ!! 言質取りました!」
リナが飛び上がって喜ぶ。
「おめでとうございますお姉様! これで晴れて、私の『王城永住計画』もコンプリートです!」
「そこが目的なのね……」
「では、改めて」
キース様が私の手を取り、その場に跪いた。
えっ。
「殿下?」
「プロポーズは、きちんとしなくちゃね」
キース様は真剣な眼差しで私を見上げた。
背後には満月。
足元には夜景。
そして目の前には、この国で一番美しく、腹黒い王子様。
シチュエーションとしては完璧すぎる。
「ミュール・アークライト」
彼の声が、夜風に乗って優しく響く。
「君を愛している。……僕と結婚して、一生、僕のそばで笑っていてほしい」
「……っ」
シンプルな言葉。
だからこそ、胸に響く。
ああ、本当に逃げられないんだな、と思った。
この人は、私の全てを受け入れて、その上で必要としてくれている。
断る理由なんて、もうどこにもなかった。
私は小さく息を吸い、精一杯の強がり(と照れ隠し)を込めて、彼を見下ろした。
「……仕方ありませんわね」
私はフンと鼻を鳴らした。
「そこまでおっしゃるなら、受けてあげてもよろしくてよ?」
「ミュール?」
「勘違いしないでくださいね。私が承諾するのは、あなたが可哀想だからじゃありません」
私はリナを指差した。
「全ては、リナのためよ! あの子が『王城に住みたい』って言うから、そのスポンサーとして、あなたを利用してあげるだけなんだから!」
「……ふふ」
キース様の肩が震える。
「それに! あなたが毎日寂しくて泣かないように、私がそばにいてあげるっていう、慈悲の心よ! 感謝なさい!」
どうだ。
これなら、悪役令嬢としてのプライドも保てる(はずだ)。
私はドキドキしながら彼の反応を待った。
キース様は顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「ああ、感謝するよ。……ありがとう、僕の慈悲深い聖女様」
彼は私の手を取り、指輪を滑り込ませた。
いつの間に用意していたのか、私の瞳と同じアメジストが輝く、美しい指輪だった。
「サイズもぴったりだ」
「……ストーカー」
「愛だよ」
キース様が立ち上がり、私を強く抱きしめた。
「やったーーーッ!! おめでとうございまーーーす!!」
リナがクラッカー(魔法仕掛け)を鳴らす。
パーン! パパパン!
色とりどりの紙吹雪と、小さな光の精霊たちが舞い散る。
「エヴァン様! 合図を!」
「はいはい……胃が痛い……」
エヴァン様が懐から信号弾を取り出し、空へ打ち上げた。
ヒュルルルル……ドーン!!
夜空に巨大な花火が打ち上がった。
しかも、ただの花火ではない。
空中に文字が浮かび上がっている。
『祝・婚約! ミュール♡キース』
「うわあああ!?」
私は悲鳴を上げた。
「な、なにあれ! 恥ずかしい!」
「盛大に祝うって言っただろう?」
キース様がニヤリと笑う。
ドーン! ドーン!
次々と打ち上がる花火。
王都の街中から、歓声が聞こえてくるようだ。
「ミュール様、万歳!」
「キース殿下、万歳!」
「リナ様、ナイスアシスト!」
夜更けだというのに、王都はお祭り騒ぎになってしまった。
「やめてー! 私の黒歴史を夜空に刻まないでー!」
「綺麗だねぇ、お姉様。私たちの未来みたいにキラキラしてますよ」
「リナ、あなたもグルね!?」
「当然です。この花火の配色は私が監修しました」
「センスが独特すぎる!」
ハート型の花火が連発される中、キース様は私の耳元で囁いた。
「もう後戻りはできないよ、ミュール」
「……知ってます」
私は諦めの境地で、キース様の胸に顔を埋めた。
「覚悟は……決めましたから」
「そうか」
キース様は嬉しそうに私の髪を撫でた。
「では、次は結婚式の準備だね。……世界一、盛大な式にしよう」
「お手柔らかにお願いします……」
「ダメだね。君が『もう許して』と泣いて喜ぶくらい、豪華にするつもりだ」
「それ、ただのイジメですよね!?」
私の抗議も虚しく、二人の婚約はこうして、王都中の人々(と寝不足のエヴァン様)に見守られながら、ド派手に確定したのだった。
……そして。
この日から、私の「王太子妃修行」という名の、新たな戦いの日々が始まることになる。
もちろん、最強の味方(シスコン妹)と、最強の敵(溺愛王子)と共に。
塔のバルコニーで、私は夜空に向かって叫んだ。
さっきまでのロマンチックな雰囲気は、妹の乱入により霧散していた。
「はーい! 着陸しまーす!」
リナがホウキを巧みに操り、バルコニーの手すりに軽やかに着地する。
続いて、エヴァン様が青ざめた顔でヨロヨロと降りてきた。
「……お、降りました……。もう二度と、リナ様の運転には乗りません……」
「失礼な。私の操縦テクニックは王都一番ですよ?」
「ジェットコースターより酷かったです」
エヴァン様が手すりにしがみついてえずいている。
かわいそうに。
「それで、お姉様!」
リナが私に詰め寄る。
その目は、獲物を狙う猫のように爛々と輝いている。
「さっきの! 見ましたよ! ガッツリいってましたね! 秒数にして15秒! 角度は斜め45度!」
「分析しないで!」
「で、どうなんですか? ついに陥落ですか? 年貢の納め時ですか?」
リナがマイク(型の魔導具)を向けてくる。
私は顔を真っ赤にして、隣のキース様を見た。
彼は余裕の笑みで、私の腰を抱いたままだ。
「そうだね。ミュールは僕の愛に降伏したよ。……だろう?」
「うっ……」
否定できない。
あんな熱い告白をされて、キスまでされて、「いいえ違います」なんて言えるわけがない。
私は観念して、深いため息をついた。
「……そうよ。負けたわ」
「きゃーーーっ!! 言質取りました!」
リナが飛び上がって喜ぶ。
「おめでとうございますお姉様! これで晴れて、私の『王城永住計画』もコンプリートです!」
「そこが目的なのね……」
「では、改めて」
キース様が私の手を取り、その場に跪いた。
えっ。
「殿下?」
「プロポーズは、きちんとしなくちゃね」
キース様は真剣な眼差しで私を見上げた。
背後には満月。
足元には夜景。
そして目の前には、この国で一番美しく、腹黒い王子様。
シチュエーションとしては完璧すぎる。
「ミュール・アークライト」
彼の声が、夜風に乗って優しく響く。
「君を愛している。……僕と結婚して、一生、僕のそばで笑っていてほしい」
「……っ」
シンプルな言葉。
だからこそ、胸に響く。
ああ、本当に逃げられないんだな、と思った。
この人は、私の全てを受け入れて、その上で必要としてくれている。
断る理由なんて、もうどこにもなかった。
私は小さく息を吸い、精一杯の強がり(と照れ隠し)を込めて、彼を見下ろした。
「……仕方ありませんわね」
私はフンと鼻を鳴らした。
「そこまでおっしゃるなら、受けてあげてもよろしくてよ?」
「ミュール?」
「勘違いしないでくださいね。私が承諾するのは、あなたが可哀想だからじゃありません」
私はリナを指差した。
「全ては、リナのためよ! あの子が『王城に住みたい』って言うから、そのスポンサーとして、あなたを利用してあげるだけなんだから!」
「……ふふ」
キース様の肩が震える。
「それに! あなたが毎日寂しくて泣かないように、私がそばにいてあげるっていう、慈悲の心よ! 感謝なさい!」
どうだ。
これなら、悪役令嬢としてのプライドも保てる(はずだ)。
私はドキドキしながら彼の反応を待った。
キース様は顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「ああ、感謝するよ。……ありがとう、僕の慈悲深い聖女様」
彼は私の手を取り、指輪を滑り込ませた。
いつの間に用意していたのか、私の瞳と同じアメジストが輝く、美しい指輪だった。
「サイズもぴったりだ」
「……ストーカー」
「愛だよ」
キース様が立ち上がり、私を強く抱きしめた。
「やったーーーッ!! おめでとうございまーーーす!!」
リナがクラッカー(魔法仕掛け)を鳴らす。
パーン! パパパン!
色とりどりの紙吹雪と、小さな光の精霊たちが舞い散る。
「エヴァン様! 合図を!」
「はいはい……胃が痛い……」
エヴァン様が懐から信号弾を取り出し、空へ打ち上げた。
ヒュルルルル……ドーン!!
夜空に巨大な花火が打ち上がった。
しかも、ただの花火ではない。
空中に文字が浮かび上がっている。
『祝・婚約! ミュール♡キース』
「うわあああ!?」
私は悲鳴を上げた。
「な、なにあれ! 恥ずかしい!」
「盛大に祝うって言っただろう?」
キース様がニヤリと笑う。
ドーン! ドーン!
次々と打ち上がる花火。
王都の街中から、歓声が聞こえてくるようだ。
「ミュール様、万歳!」
「キース殿下、万歳!」
「リナ様、ナイスアシスト!」
夜更けだというのに、王都はお祭り騒ぎになってしまった。
「やめてー! 私の黒歴史を夜空に刻まないでー!」
「綺麗だねぇ、お姉様。私たちの未来みたいにキラキラしてますよ」
「リナ、あなたもグルね!?」
「当然です。この花火の配色は私が監修しました」
「センスが独特すぎる!」
ハート型の花火が連発される中、キース様は私の耳元で囁いた。
「もう後戻りはできないよ、ミュール」
「……知ってます」
私は諦めの境地で、キース様の胸に顔を埋めた。
「覚悟は……決めましたから」
「そうか」
キース様は嬉しそうに私の髪を撫でた。
「では、次は結婚式の準備だね。……世界一、盛大な式にしよう」
「お手柔らかにお願いします……」
「ダメだね。君が『もう許して』と泣いて喜ぶくらい、豪華にするつもりだ」
「それ、ただのイジメですよね!?」
私の抗議も虚しく、二人の婚約はこうして、王都中の人々(と寝不足のエヴァン様)に見守られながら、ド派手に確定したのだった。
……そして。
この日から、私の「王太子妃修行」という名の、新たな戦いの日々が始まることになる。
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