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章の三
第七十二話/去る日の記憶
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ある日、酒呑童子は小鬼の気配を辿って、とある村に足を踏み入れた。
既に生きた村人の気配もなく、食い散らかされた屍や血溜まりの中を進んでいく。
「…ん?」
村の中央だろうか、開けた場所に出ると、傷だらけでしゃがみ込む人間と、それを楽しそうに煽る小鬼数体の姿が目に入った。
「……おィお前らァ」
酒呑童子が声を出すと、小鬼達は尻尾を巻いて逃げ出す。
「…………」
力量差が分かるだけ優秀なのだろうが、散り散りに逃げられては追いかけようもない。
酒呑童子は踵を返した。
「ま…て、酒呑童子…っ!」
「あァ?」
見ると、その人間は得物の刀を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。
「成敗…する…!」
「……」
酒呑童子はため息を吐く。
「たかがあれっぽちの小鬼相手にその体たらくの奴がァ、一体何が出来んだァ?」
「ぐ…っ!」
人間の目は変わらず酒呑童子を突き刺して離さない。
上手く力が入らないのか、全身が小刻みに震えている。
「力の差が、なんだ…私は、お前を殺す義務がある…っ!」
「…そうかィ、いつか出来るといいなァ」
酒呑童子はそのまま歩き出す。
「酒呑童子!…覚悟しておけ…絶対にお前を、斬ってやる…っ!」
酒呑童子はその宣誓に一瞥を返し、村を後にした。
その人間が酒呑童子の首を取るのは、それから数年後のことである。
シュテンの脳裏に、そんな記憶が甦った。
「…シュテン殿っ!」
周りを見渡す。
深手を負ったイバラギと、肩を押さえて膝をつくメイが目に入る。
「シュテン殿、よくぞご無事で…!」
メイが微笑みを向ける。
「…あァ」
正面で、倒れた大樹が音を立てて動いた。
「あーあー…つい斬っちゃったよ」
倒木の中から、ゲンジが姿を現す。
「わざわざ複製体を作ってやったのに…」
その脇で、魔力の塊が霧散していく。
シュテンが投げ付けた、酒呑童子の複製体だ。
どうやら投げつけられたのを刀で防いだ時に、斬ってしまったらしい。
「世話が焼けるな君たちは」
ゲンジが瓦礫の山から降りる中、シュテンが前へ出ようとすると、裾を掴まれた。
「シュテン殿…私にも、戦わせてください…っ!」
覚束無い足取りでシュテンへ並ぼうとするが、急に膝が折れる。
「メイ!」
駆け付けたアンナが脇を掴みあげた。
「メイ、その身体じゃ無茶だ!一旦退いて…」
「やらせてください!」
強い剣幕で遮られ、アンナは面を食らう。
「メイ…」
「私は…あの者を斬らねばならないのです…っ!」
シュテンへ訴えるメイの目が、いつかの若武者と重なって見えた。
「…アンナ、メイを連れて下がれェ」
「え…」
アンナはシュテンへ戸惑いの目を向ける。
「シュテン殿!」
「早くしろォ」
「…わかった」
「何故ですか!?シュテン殿!シュテン殿っ!」
「落ち着けメイ!…今はシュテンに任せるんだ」
暴れるメイをアンナが引き摺って下げる。
肩の傷口から滴る血が足元に軌跡を作るのが、月明かりに照らされている。
シュテンは握り込んだ拳へ目を落とした。
「懸命だな、最初に殺されたいのか」
シュテンが正面へ向き直ると、ゲンジは右手で魔力を圧縮して遊んでいた。
「………………なるほどなァ」
唐突に笑い出すシュテンに、ゲンジが怪訝な目を向けた。
「何が可笑しい?」
「なァに、人間の気持ちってモンが少しだけわかった気がしてなァ」
「人間の気持ちだと…?」
「あァ…………そりゃァ、狩られる訳だなァ」
大きく息をつく。
「…一体何を言ってる」
「つまりだなァ…」
シュテンがゲンジを指差す。
「ここじゃァ、お前が鬼って事だァ」
ゲンジの眉が動く。
「なんだと…?」
「俺たちゃ、同じ穴の狢だなァ」
ゲンジの魔力が高まっていく。
「ふざけるのは大概にした方がいい」
シュテンが笑い飛ばすと、ゲンジは右手に貯めていた圧縮魔力の塊をシュテン、ではなくメイ達へ目掛けて発射した。
「っ!」
アンナがメイに被さろうとした時である。
「『狂鬼乱舞』」
魔力塊はシュテンによって捕獲される。
全身から妖力を放出したシュテンは、それを鎧のように纏い着る。
紫にも黒にも見えるそのオーラは、炎のように揺らめき、全身を包み込む。
妖力の高まったその姿は、より生前の酒呑童子を彷彿とさせていた。
シュテンは、魔力塊を軽く投げ返す。
「っ!?」
手首のスナップだけで投げられた魔力塊は、一瞬でゲンジの足元に刺さり、地面が爆発する。
まだ土煙も収まらぬ中、シュテンは不敵に笑った。
「さァ、本気で来なァ…似たもの同士、相撲でも取ろうや」
既に生きた村人の気配もなく、食い散らかされた屍や血溜まりの中を進んでいく。
「…ん?」
村の中央だろうか、開けた場所に出ると、傷だらけでしゃがみ込む人間と、それを楽しそうに煽る小鬼数体の姿が目に入った。
「……おィお前らァ」
酒呑童子が声を出すと、小鬼達は尻尾を巻いて逃げ出す。
「…………」
力量差が分かるだけ優秀なのだろうが、散り散りに逃げられては追いかけようもない。
酒呑童子は踵を返した。
「ま…て、酒呑童子…っ!」
「あァ?」
見ると、その人間は得物の刀を杖代わりにして立ち上がろうとしていた。
「成敗…する…!」
「……」
酒呑童子はため息を吐く。
「たかがあれっぽちの小鬼相手にその体たらくの奴がァ、一体何が出来んだァ?」
「ぐ…っ!」
人間の目は変わらず酒呑童子を突き刺して離さない。
上手く力が入らないのか、全身が小刻みに震えている。
「力の差が、なんだ…私は、お前を殺す義務がある…っ!」
「…そうかィ、いつか出来るといいなァ」
酒呑童子はそのまま歩き出す。
「酒呑童子!…覚悟しておけ…絶対にお前を、斬ってやる…っ!」
酒呑童子はその宣誓に一瞥を返し、村を後にした。
その人間が酒呑童子の首を取るのは、それから数年後のことである。
シュテンの脳裏に、そんな記憶が甦った。
「…シュテン殿っ!」
周りを見渡す。
深手を負ったイバラギと、肩を押さえて膝をつくメイが目に入る。
「シュテン殿、よくぞご無事で…!」
メイが微笑みを向ける。
「…あァ」
正面で、倒れた大樹が音を立てて動いた。
「あーあー…つい斬っちゃったよ」
倒木の中から、ゲンジが姿を現す。
「わざわざ複製体を作ってやったのに…」
その脇で、魔力の塊が霧散していく。
シュテンが投げ付けた、酒呑童子の複製体だ。
どうやら投げつけられたのを刀で防いだ時に、斬ってしまったらしい。
「世話が焼けるな君たちは」
ゲンジが瓦礫の山から降りる中、シュテンが前へ出ようとすると、裾を掴まれた。
「シュテン殿…私にも、戦わせてください…っ!」
覚束無い足取りでシュテンへ並ぼうとするが、急に膝が折れる。
「メイ!」
駆け付けたアンナが脇を掴みあげた。
「メイ、その身体じゃ無茶だ!一旦退いて…」
「やらせてください!」
強い剣幕で遮られ、アンナは面を食らう。
「メイ…」
「私は…あの者を斬らねばならないのです…っ!」
シュテンへ訴えるメイの目が、いつかの若武者と重なって見えた。
「…アンナ、メイを連れて下がれェ」
「え…」
アンナはシュテンへ戸惑いの目を向ける。
「シュテン殿!」
「早くしろォ」
「…わかった」
「何故ですか!?シュテン殿!シュテン殿っ!」
「落ち着けメイ!…今はシュテンに任せるんだ」
暴れるメイをアンナが引き摺って下げる。
肩の傷口から滴る血が足元に軌跡を作るのが、月明かりに照らされている。
シュテンは握り込んだ拳へ目を落とした。
「懸命だな、最初に殺されたいのか」
シュテンが正面へ向き直ると、ゲンジは右手で魔力を圧縮して遊んでいた。
「………………なるほどなァ」
唐突に笑い出すシュテンに、ゲンジが怪訝な目を向けた。
「何が可笑しい?」
「なァに、人間の気持ちってモンが少しだけわかった気がしてなァ」
「人間の気持ちだと…?」
「あァ…………そりゃァ、狩られる訳だなァ」
大きく息をつく。
「…一体何を言ってる」
「つまりだなァ…」
シュテンがゲンジを指差す。
「ここじゃァ、お前が鬼って事だァ」
ゲンジの眉が動く。
「なんだと…?」
「俺たちゃ、同じ穴の狢だなァ」
ゲンジの魔力が高まっていく。
「ふざけるのは大概にした方がいい」
シュテンが笑い飛ばすと、ゲンジは右手に貯めていた圧縮魔力の塊をシュテン、ではなくメイ達へ目掛けて発射した。
「っ!」
アンナがメイに被さろうとした時である。
「『狂鬼乱舞』」
魔力塊はシュテンによって捕獲される。
全身から妖力を放出したシュテンは、それを鎧のように纏い着る。
紫にも黒にも見えるそのオーラは、炎のように揺らめき、全身を包み込む。
妖力の高まったその姿は、より生前の酒呑童子を彷彿とさせていた。
シュテンは、魔力塊を軽く投げ返す。
「っ!?」
手首のスナップだけで投げられた魔力塊は、一瞬でゲンジの足元に刺さり、地面が爆発する。
まだ土煙も収まらぬ中、シュテンは不敵に笑った。
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