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章の三
第七十一話/ゲンジの目的
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マンジュとアンナに引き摺られる中、イバラギは自身の左手を見つめていた。
「オイラ、なんで…」
エンゲンが殺されたと聞いたイバラギは、次の瞬間には拳を振るっていた。
あの瞬間、確かにイバラギは強い怒りを感じていたのだ。
「…今まで散々殺してきたくせによぉ」
イバラギは乾いた声で笑う。
しかし、そんな人間臭さを自身が見せた事に満足している気分にもなるのだった。
メイは燃え盛る魔剣を正眼に構える。
「魔族ゲンジ、目的はなんですか!」
「目的?」
ゲンジが首を傾げる。
「そうだ…」
メイより速く、後ろでイバラギが声を絞り出した。
「なんでエンゲンを殺してまで…人に化けてオイラに近づいた」
アンナが目を見開く。
「じゃあ、奴はエンゲンって人間に成り代わっていやがったのか…!?」
ゲンジは鼻で笑った。
「何もおかしなことはないだろう?それが一番手っ取り早い」
「でも、それだったらお前は、他の山賊達と一緒に騎士団が連行して地下牢に入ってたはずだ!バレずに脱獄なんて出来るはずも無い!」
「ああ、その通りさ」
アンナの叫びを、ゲンジは一蹴する。
その声に、背中を冷たい物が通る感覚がした。
「…まさか」
「ああ、山賊どもは一匹残らず始末したよ。そしたら守衛が集ってきたから…」
「ああああっ!」
メイが突然斬り掛かる。
炎が音を立てて相手の刀にぶつかり、火の粉が飛散する。
「そこまでして…何のためにっ!」
鍔迫り合いの中、メイが声を荒らげると、ゲンジは頭を掻く。
「そんなの知るかよ、こっちも任務でやってんだから」
ゲンジが手元を弾くと、追撃の間もなくメイが距離をとる。
「任務…?」
「ああ、王京周辺に現れた鬼とやらの実力を探れってね…そして」
ゲンジは刀を掲げる。
「この魔剣ヒゲキリで鬼を殺せって追加任務が出たのさ」
「魔剣ヒゲキリ…!?」
反応したのはマンジュであった。
「かつて魔王によって管理され、魔族と共に消えたとされるあのヒゲキリっスか!?」
場に緊張が走る。
それを察してか、ゲンジが口角を上げて、右手を揺らす。
「追加任務に制限は無い…邪魔な虫は蹴散らしていいって事だ」
鋒をメイへ向ける。
「…っ」
メイは黙って、ドウジギリを握り直した。
一歩、ゲンジが前に出ると、メイも摺り足で前に出る。
遠慮なく歩を進めるゲンジに、メイは間合いを見て、斬り掛かった。
頸を狙った振りは片手で持った刀に阻まれ、横へ弾かれる。
「っ!」
メイは反動で刀を回し、逆の頸を狙う。
難なく弾かれ、一歩引くと体勢を立て直す。
「はああああっ!」
左脇構えに整え、間合いへ踏み込んだ。
「凄いっス…」
ヨーローの杖をイバラギへ使用しながら、マンジュはメイの動きに目が釘付けになる。
「メイの奴、いつの間にかあんな強くなってやがったのか…」
アンナは、コーシの街にいた頃のメイを知っている。
ゴブリンすら一人で狩れるか怪しかったあのメイが、目にも止まらぬ剣戟を繰り広げている。
魔剣同士がぶつかり合う金属音を聴きながら、どこか感慨深い気持ちになってしまう。
「ところで、あの炎って…姐さんの固有魔法っスかね?」
「馬鹿言うな、火の固有魔法なんて大問題だぞ?恐らく魔剣の効果だろ」
「やっぱそーっスよね…ドウジギリにそんな能力があるなんて聞いた事ないっスけど…」
マンジュがぶつぶつと独り言を呟く横で、アンナもまた得も知れぬ感情が湧いてくるのを感じていた。
メイが刀を振るう度、ゲンジは飛来する火の粉や揺らぐ炎を避ける必要性に駆られていた。
「チッ…邪魔な火だな」
反撃しようにも、二人の間を炎が阻み攻めきれない。
ゲンジは防戦一方の展開に不満を募らせていた。
「ぐ…っ!」
その時、メイの表情が一瞬歪んだ。
歯を食いしばって刀を振り続けるメイであったが、次の一撃をヒゲキリが止めた時、刀身の炎がふっと霧散して行った。
「な…っ!?」
予想外の展開にメイの目が見開かれる。
そして、その一瞬の隙をゲンジは見逃さなかった。
「…よっ」
「っ!?」
ドウジギリを左に弾かれ右手が抜ける。
メイには、足元から上がってくるヒゲキリの刃が見えたが、回避が間に合わない。
胸元から左肩に掛けて、鋒が通っていく。
「ぐぁっ…」
一瞬遅れてきた痛みに怯む間もなく、鳩尾に膝が入った。
「がっ」
上半身は折れ、頭を垂れる形になる。
振り上がった刀、無防備な首元。
「メイ!」
アンナが足に力を入れる。
だが、到底間に合う距離では無い。
「終わったな」
ゲンジの一言と共に、ヒゲキリが振り下ろされた。
「『意鬼衝天』」
「っ!?」
風を切る勢いで何かがゲンジに衝突し、諸共吹き飛ばされる。
ゲンジが木々を薙ぎ倒しながら山肌を転がる中、メイが顔を上げた。
「…シュテン殿っ!」
「オイラ、なんで…」
エンゲンが殺されたと聞いたイバラギは、次の瞬間には拳を振るっていた。
あの瞬間、確かにイバラギは強い怒りを感じていたのだ。
「…今まで散々殺してきたくせによぉ」
イバラギは乾いた声で笑う。
しかし、そんな人間臭さを自身が見せた事に満足している気分にもなるのだった。
メイは燃え盛る魔剣を正眼に構える。
「魔族ゲンジ、目的はなんですか!」
「目的?」
ゲンジが首を傾げる。
「そうだ…」
メイより速く、後ろでイバラギが声を絞り出した。
「なんでエンゲンを殺してまで…人に化けてオイラに近づいた」
アンナが目を見開く。
「じゃあ、奴はエンゲンって人間に成り代わっていやがったのか…!?」
ゲンジは鼻で笑った。
「何もおかしなことはないだろう?それが一番手っ取り早い」
「でも、それだったらお前は、他の山賊達と一緒に騎士団が連行して地下牢に入ってたはずだ!バレずに脱獄なんて出来るはずも無い!」
「ああ、その通りさ」
アンナの叫びを、ゲンジは一蹴する。
その声に、背中を冷たい物が通る感覚がした。
「…まさか」
「ああ、山賊どもは一匹残らず始末したよ。そしたら守衛が集ってきたから…」
「ああああっ!」
メイが突然斬り掛かる。
炎が音を立てて相手の刀にぶつかり、火の粉が飛散する。
「そこまでして…何のためにっ!」
鍔迫り合いの中、メイが声を荒らげると、ゲンジは頭を掻く。
「そんなの知るかよ、こっちも任務でやってんだから」
ゲンジが手元を弾くと、追撃の間もなくメイが距離をとる。
「任務…?」
「ああ、王京周辺に現れた鬼とやらの実力を探れってね…そして」
ゲンジは刀を掲げる。
「この魔剣ヒゲキリで鬼を殺せって追加任務が出たのさ」
「魔剣ヒゲキリ…!?」
反応したのはマンジュであった。
「かつて魔王によって管理され、魔族と共に消えたとされるあのヒゲキリっスか!?」
場に緊張が走る。
それを察してか、ゲンジが口角を上げて、右手を揺らす。
「追加任務に制限は無い…邪魔な虫は蹴散らしていいって事だ」
鋒をメイへ向ける。
「…っ」
メイは黙って、ドウジギリを握り直した。
一歩、ゲンジが前に出ると、メイも摺り足で前に出る。
遠慮なく歩を進めるゲンジに、メイは間合いを見て、斬り掛かった。
頸を狙った振りは片手で持った刀に阻まれ、横へ弾かれる。
「っ!」
メイは反動で刀を回し、逆の頸を狙う。
難なく弾かれ、一歩引くと体勢を立て直す。
「はああああっ!」
左脇構えに整え、間合いへ踏み込んだ。
「凄いっス…」
ヨーローの杖をイバラギへ使用しながら、マンジュはメイの動きに目が釘付けになる。
「メイの奴、いつの間にかあんな強くなってやがったのか…」
アンナは、コーシの街にいた頃のメイを知っている。
ゴブリンすら一人で狩れるか怪しかったあのメイが、目にも止まらぬ剣戟を繰り広げている。
魔剣同士がぶつかり合う金属音を聴きながら、どこか感慨深い気持ちになってしまう。
「ところで、あの炎って…姐さんの固有魔法っスかね?」
「馬鹿言うな、火の固有魔法なんて大問題だぞ?恐らく魔剣の効果だろ」
「やっぱそーっスよね…ドウジギリにそんな能力があるなんて聞いた事ないっスけど…」
マンジュがぶつぶつと独り言を呟く横で、アンナもまた得も知れぬ感情が湧いてくるのを感じていた。
メイが刀を振るう度、ゲンジは飛来する火の粉や揺らぐ炎を避ける必要性に駆られていた。
「チッ…邪魔な火だな」
反撃しようにも、二人の間を炎が阻み攻めきれない。
ゲンジは防戦一方の展開に不満を募らせていた。
「ぐ…っ!」
その時、メイの表情が一瞬歪んだ。
歯を食いしばって刀を振り続けるメイであったが、次の一撃をヒゲキリが止めた時、刀身の炎がふっと霧散して行った。
「な…っ!?」
予想外の展開にメイの目が見開かれる。
そして、その一瞬の隙をゲンジは見逃さなかった。
「…よっ」
「っ!?」
ドウジギリを左に弾かれ右手が抜ける。
メイには、足元から上がってくるヒゲキリの刃が見えたが、回避が間に合わない。
胸元から左肩に掛けて、鋒が通っていく。
「ぐぁっ…」
一瞬遅れてきた痛みに怯む間もなく、鳩尾に膝が入った。
「がっ」
上半身は折れ、頭を垂れる形になる。
振り上がった刀、無防備な首元。
「メイ!」
アンナが足に力を入れる。
だが、到底間に合う距離では無い。
「終わったな」
ゲンジの一言と共に、ヒゲキリが振り下ろされた。
「『意鬼衝天』」
「っ!?」
風を切る勢いで何かがゲンジに衝突し、諸共吹き飛ばされる。
ゲンジが木々を薙ぎ倒しながら山肌を転がる中、メイが顔を上げた。
「…シュテン殿っ!」
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