〈注目〉米大統領選で人工妊娠中絶が争点となる理由、勝者が変わる州も、問題提起するバイデンと配慮を見せるトランプ

2024.04.27 Wedge ONLINE

 民主党候補のヒラリー・クリントンは女性の権利の重要性を強調する政治家であったため、彼女が大統領になると中絶容認派を判事に指名すると考えられていた。宗教右派はクリントンの勝利を防ぐべく、トランプ支持を決めたのだった。

 ここで問題になるのは、ロウ判決が否定された今日、大統領選挙や連邦議会選挙において、宗教右派の動員がこれまでと同様になされるかである。宗教右派は、進化論、同性婚などの争点も重視しているものの、人工妊娠中絶の権利を否定することを最優先してきた。その目的が達成された以上、それ以上の規制、例えば全国一律での全面禁止や妊娠6週間以後の禁止を求めるほどまでに強い情熱を福音派が持ち続けるとは考えにくいのではないかとも指摘されている。

 今日、人工妊娠中絶の権利を認めるための住民投票がさまざまな州で行われているが、接戦州であるミシガンや民主党が優勢なカリフォルニアとバーモントのみならず、保守的なケンタッキー州、モンタナ州、オハイオ州でも、中絶容認派の主張が認められている。あらゆる争点が党派のレンズを通して議論されるようになっている現在においても、中絶の権利をめぐる問題は党派を超えて支持されているようにも見える。

 このような傾向を踏まえ、民主党の政治家は、人工妊娠中絶問題を最大の争点に掲げるとともに、今日の女性が抱えているさまざまな苦悩の責任は共和党にあると主張している。これまでの諸論考で指摘した通り、米国の二大政党は地域政党や利益団体の連合体という性格を持っているが、共和党と比べて民主党は内部の対立からまとまりに欠ける傾向があった。だが今日では、トランプと中絶禁止派に対する反発から、比較的強い団結が見られるようになっている。

 トランプがアリゾナは行き過ぎたと言うような発言をしているのは、民主党による印象付けを阻止しようとする試みだと理解することができるだろう。

どの接戦州に影響を及ぼすか

 24年11月5日の大統領や連邦議会の選挙に関しては、同日に行われる中絶に関するレファレンダム(住民投票)がいかほどの影響及ぼすかに注目が集まっている。アリゾナ州とフロリダ州は、とりわけ注目されている。

 20年大統領選挙ではバイデンがアリゾナ州で僅差で勝利した。フロリダ州ではトランプが3ポイント差で勝利していたが、レファレンダムに伴うリベラル派の動員の恩恵を受けてバイデンが勝利する可能性は出てくるだろう(なお、フロリダ州はデサンティス人気の高まりを受けて接戦州から共和党優位州に転じたと評されてきたが、デサンティスがディズニー社と法的紛争状態になるなど文化戦争が過激化したことへの反発から、共和党の優位に陰りが見られるようになっている)。

 上院選挙に関しては、アリゾナ州に加えてネバダ州、メリーランド州などが影響を受ける可能性がある。アリゾナ州とネバダ州は接戦州である。メリーランド州は伝統的には民主党優位州だが、非トランプ系の共和党の元州知事であるラリー・ホーガンが上院議員選挙に出馬しているため、共和党にも可能性があるとされている。

 下院の選挙に関しても7つの接戦選挙区で影響がある可能性がある。その2つがアリゾナ、1つがコロラド、1つがネバダ、そして3つがニューヨーク州である。

 人工妊娠中絶の是非をめぐる論争は、移民問題と並ぶ注目争点となっており、注目する必要があるだろう。

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