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第4章 呉の進出

46 トンネルの先に待つ者

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 開通地点に近づくと、僅かに潮の香りが漂ってきた。突き当たった壁には、小さな穴が空いており、そこから海風が吹き込んでいるようだ。

「微かに潮の香りがするのう」
「海までは徒歩2日かかるが、この時期は海風が強いから潮が香る時があるのだ。――巧魔、そこに空いている小さい穴に向けて一発頼むぜ」
「本当に、いいんですか?」

 以前から豚助に頼まれていたのだが、トンネルの開通は俺にやってもらいたいのだそうだ。
 俺は、このトンネル工事で一番苦労したのは豚助さんなのだから、当然豚助さんが開通させるべき、と主張したのだが、豚助さんいわく「俺様は巧魔の為に頑張った。だから巧魔が開通させるんだ」だ、そうだ。
「さあ、やってくれ巧魔」
「分かりました。では……」

 俺は皆を下がらせると、詠唱を開始する。
 
『私は魔法を行使する――
 イクス・プロ―ジョン』

 耳をつんざく爆発音と振動がトンネル内に駆け巡る。ちなみに、俺は昨年手に入れた補助能力『詠唱破棄』によって魔法の行使宣言『私は魔法を行使する』を省略する事ができる。戦闘中など緊迫した場面にはたいへん役に立つ能力だろう。

「相変わらず、すごい威力じゃのう。お、向こう側が見えるぞ!」
「やったな、巧魔! 開通だ!」

 行き止まりだったトンネルは大きく開かれ、冷たい海風が吹き込んで来ていた。

 目の前には広大なオーク平原が広がっている。

「今は丘に隠れて見えないが、此処から一時間も歩けば、俺様の生まれ故郷、豚狩とんがり村だ!」

「……あれ? そういえば、他の豚狩村の方たちの姿が見えませんね」

 いつも豚狩村から出稼ぎに来ている人達の姿が見えない。

「実は、皆祭りの準備のため豚狩村に朝から向かっているんだ。巧魔の為、オーク肉をたっぷり用意してある。ぜひ、豚狩村に招待させてくれ!」「大オヤビンだいかんげい!」

「おお、肉じゃ肉じゃ! もちろん行くじゃろ?」
「そりゃあ、朝から準備してもらってるのに断るわけにもいかないだろ」
「にゃはー! 久々の肉じゃのうーーっと、しまった」

 鈴音は慌ててお尻をパタパタと叩く。どうやら、興奮しすぎて尻尾が飛び出したようだ。にゃはーってなんだよ。にゃはーって。興奮しすぎだろ。

「おう、お前が巧魔っちか!」
「へ?」

 いつの間にそこにいたのだろうか。

 開通したトンネルの出口には、長身のイケメンが腕を組んで立っていた。

 ――誰だこいつ?
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