上 下
54 / 99
第4章 呉の進出

53 片鱗(正義視点)

しおりを挟む
(いてててー。くそー、巧魔っちめー)

俺は服をめくって身体中に出来た痣を確認しする。脇腹、腕、脚。至るところに痣が出来ていた。巧魔っちには強がりを言ったが、50体もゴーレムを同時に出された時には肝が冷えた。そんな数避けきれる筈もない。あんなの反則技だ。

 最後の風魔法は危なかった。まるで鉛の塊をぶつけられたような衝撃。異能を発動しなければ今日1日飯が食えなくなるところだった。

 エマっちに聞いていた通り――いや、それ以上の実力だ。

「いやー、次戦うときは苦労しそうだな」

「勝てないかもしれませんよ」

ぎょっとして振り返ると、にこにこと頬笑むエマっち立っていた。……額に青筋が浮かんでいるのはきっときのせいだろう。

「まったく。探しましたよ」
「やあ、エマっち。気配を殺して背後に立つのは止めてくれるかなー」
「以後気をつけます」

 エマっちはしれっと答えた。恐らく気を付ける気はない。

「俺っちが負ける訳無いだろう。『東の守護神』だぞ、俺っちは」
「何故、勝利条件を「触れた方の勝ち」にしたんです? 身体強化を使う国王様に随分と有利な条件ですが」
「いや、身体強化は使わずに勝つつもりだった」
「でも使いましたよね」

 くそー、バレてるよ。何処で見ていやがったんだ。

「ほ、本気出して無いし」
「それは巧魔くんも同じです。知ってましたか? 巧魔くんの得意魔法は火属性です。中には広範囲を焼き付くす改編魔法もあるとか」

 ぐう。広範囲魔法か。苦手だな。

「ほ、本気で逃げればなんとか」
「まあ頑張って下さい。――ところで」

 エマっちの額に先程から浮いていた青筋がいっそう太くなる。怒ってる。凄ーく怒ってるなあ。

「私の机の上に置いてあった書類は何でしょうか?」
「知らないなー」
「ほう、知りませんか。あなたの筆跡で『探さないで下さい』と書かれた置き手紙がありましたが……」
「……」
「このくそ忙しいときに城を抜け出して油売ってんじゃねえ!! どんだけ探したと思ってんだ!」
「わお、国王に対してなんて言葉使い。俺っち傷ついちゃうなー」

 ああ、これでまた城での退屈な時間が始まるのか。

 ぎゃあぎゃあとわめきたてるエマっちの言葉を聞き流しながら、俺っちは小さくため息をついた。
しおりを挟む

処理中です...