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乙女心とテルの評価

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 「なるほど、森の奥の廃村に、ですか…しかも上位種も確認された…」

 「はい。正確な数までは分かりませんが恐らく100以上だと。」

 「確かに100年以上前に夜盗に襲われて壊滅した村があったという記録は残っていますね。この件もギルドマスターの指示を仰ぎます。恐らく討伐隊が編成されると思いますが。」

 テル達はギルドに戻りいつもの受付嬢に依頼の報告をしている。そして受付嬢の目が何やら申し訳なさそうに、眉毛をㇵの字にしてテルに言う。

 「テルさん、もしも討伐隊が編成された場合は案内役と言う事で強制指名依頼が発布されると思います。」

 テルにしてもユキにしてもそんな事は予想済みなので笑って答える。

 「元々案内はするつもりだったんで依頼料を貰えるなら願ったりですよ。それで、案内だけでいいんですか?」

 「もう、テルさんは意地悪ですね。」

 『案内』するのが依頼の内容なら討伐に関わる戦闘には参加する義務は発生しない。なので戦闘に参加した場合はただ働きになり兼ねない。テルは討伐報酬を依頼の内容に盛り込め、と言っているのである。そのやり取りを聞いていたユキは感心していた。ちょっと自分には出来ないな、と。

 「わかりました。その件もギルドマスターに上申しておきますね。それと、今日の依頼達成報酬です。なかなか詳しい調査結果なので少しだけ色を付けてますよ。」

 受付嬢からすればほんの少し、それこそ屋台で一食分程度の上乗せだったのだがテルとユキは物凄く喜んで、感謝してくれた。その2人の喜ぶ姿が微笑ましくて、この次の報酬も少しサービスしちゃおうかしら、と思ったのは内緒である。同時に、そこまで金銭的に困っているのかと心配になる。金に困った冒険者が高報酬に釣られて分不相応な依頼に手を出し命を落とすのは珍しい事ではない。受付嬢も何度か、追い詰められた顔をした冒険者が高難度の依頼書を持って来て、そのまま戻らなかったという事を経験しており、テル達がそうはならない様に切に願うのだった。

 そんな受付嬢の胸の内を知ってか知らずか、上機嫌の2人は屋台で何か食べて行こうと言う事で意見が一致、少しだけ豪華に串焼き肉を注文した。

 「うは! はふはふ  あふぃ!」

 炙りたての肉を頬張るとジューシーな肉汁が口内に迸る。この屋台の肉はタレなどは使わず塩と香辛料のみの味付けだ。肉の味で勝負出来る素材の良さと香辛料。他の屋台よりは値段が張るがそれだけ美味い。

 「テル、これは美味いな。何の肉なのだろうか?」

 「ユキ。この世界では食材の詮索は止めた方がいい。」

 「い、いや、しかしこれだけ美味いと…」

 「知らない方がいい事もあるんだ。いいな?美味ければそれでいい。」

 いつにない迫力でユキを説き伏せるテル。そんな事を言われるとかえって肉の正体が怖くなるではないか。そんな気持ちになるユキだったが、当のテル本人が美味そうに頬張っているのだからまあいいか、と思い直す。

 「ふふっ」

 「ん?どうした?。」

 「いや、私が言うのもどうかと思うが、切り詰めた生活の中でこうしてささやかな幸せを分け合うのもいいものだな。」

 「ユキ…」

 まるで夫婦のようなユキの言葉にテルの純情が反応してしまい、ついユキを見つめてしまうテル。その視線に気付くと正面から受け止めるユキ。またしても屋台通りに出現する桃色空間。

 「こらっ!」

 「「あ”!?」」

 昨日もあったな、などと思いながら威圧したその先にいたのは腰を抜かして涙目になっているストラトだった。

 「…立てない。テル君おぶって…」

 拒否など出来る訳がない。この時点ですでに今夜のおかずは1品減らされるのは確定だ。ここで拒否でもしようものなら夕食そのものが無かった事にされかねない。テルは大人しく背中を差し出し、ユキは苦笑いを浮かべるしか出来ない。被害者あるはずのストラトはなぜかニヨニヨしている。

 「むふふふぅ」

 「す、ストラト!?」

 「なんでもにゃいょ?」

 ストラトはテルの背中でここぞとばかりに胸を密着させてアピールしているのだが依頼の帰りでレザーアーマー装備のテルに柔らかな感触など伝わるはずもない。それでも幸せそうに蕩けているストラトを見てユキの心中は揺れる。

 (ストラト殿は本当にテルを好いているのだな。私が現れなければ…しかし。それでも私は…)

◇◇◇

 「以上がパーティ『グンシン』からの調査報告です。」

 ここはギルドマスターの執務室である。半ばテル担当となっている受付嬢がテル達からの調査結果をギルドマスターに提出していた所だ。

 「…有能だな。わずか半日程度でこれだけ調べ上げてくるか。確か傷面スカーフェイスとヤツが拾って来た少女の2人だったか。」

 「そうですね。テルさんはCランク、ユキさんはまだ登録したてなのでEランクです。」

 「傷面スカーフェイスの方は明らかに何か力を隠してやがる。目立ちたくないオーラが出すぎなんだよ、ありゃ。」

 受付嬢はクスリと笑い、
 「あのルックスで目立ってないつもりなんですよ?」

 「まあいい。討伐クエストを発布する。『グンシン』には指名依頼出しとけ。この街を出て行かれるのは損失だからな。報酬や契約内容、弾んどけ。」

 「はい、では早速。」

 受付嬢が退室した後。

 「一度、話してみるか。」

 ギルドマスターの眼が鋭く光った。
 
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