おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第3章 偽りの王

ちーちゃんの実力4

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魔物が発生してからおよそ10分。
生まれたばかりの魔物たちは、空腹とばかりに目の前にいた肉の柔らかそうな少女に食らいつこうとした。
あたりに散らばる死屍累々に気づくことなく、猪突猛進に襲いかかっていく。

「もう、どれだけいるの!
 早くアリスお姉ちゃんたちを探さないといけないのに」

さすがのちーちゃんも尽きない魔物の群れに、若干辟易していた。
村があった森では、こんな命知らずたちはいなかった。
村人を襲うことは、即ち死を意味する。
それはあの森に住む魔物たちにとって、暗黙の了解であった。

時折、生まれたばかりの魔物が何も知らずに襲うことがあるが、大抵は一撃で返り討ちにされる。

だから10分も戦うことなんて、ちーちゃんにとっては稀なこと。
ちーちゃんは強いが、決して戦うことが好きなわけではない。

次々と襲い掛かってくる魔物たちに、ふつふつと怒りを覚えてきた。

「もーーーーー、いい加減にしてーーーーっ!!!」





地上で変化があったのを、ローミンは感じとった。
ちーちゃんを中心に魔素が渦巻いていくのが目視できた。
マッキーは目をごしごしと擦りながら尋ねる。

「ローミン様、気のせいでしょうか?
 何やら魔素のようなものが目視できているのですが」
「・・・知らん。
 ただ儂にも同じものが見えているのは確かだ」

魔素は空気のようなもの。
魔族はそれを鋭敏に感じ取ることはできるが、決して目に見えるものではないのだ。

だが、眼下では実際に黒い靄のようなものがちーちゃんを中心に渦巻いているのが見えた。

「魔法・・・ではない?」

魔法は魔族のみが使えるものだが、一部例外がある。
これもまた勇者とその仲間である。
勇者システムの恩恵を受けるものは、幾つかの魔法を行使することが可能となる。

しかし、いまちーちゃんが行使している力は魔法ではない。
もっと原始的な力。
魔素そのものの塊。





ちーちゃんは拳に「魔力」を溜め込んだ。
そして一息に全てを解き放つ。

「やーーーーーーーーーーーーっ!!」

正拳突きは空気を震わせ、森全体を揺さぶった。
その衝撃は、魔物たちの体を貫き一瞬にして全ての意識を刈り取った。
また森中に淀んでいた魔素も雲散霧消し、いつもの森の様相へと戻った。

いや、そこらかしこに横たわる数百の魔物を除けばではあるが。





「何が起こったのですか?」

マッキーは驚愕の連続にすっかり疲れ果てていた。
小さな子供が、暴虐の嵐と化し、謎の力を行使した。
目を疑うばかりである。

ローミンもまた目を見開いていた。
突如として発せられた巨大な力の塊。
あれをまともにくらって立っていられるものなどいないだろう。

「ローミン様、本当にあの子と戦われるつもりなのですか?」

マッキーが心配そうに問いかけてくる。
ローミンは腕を組み「ふははははは」と大きな笑い声をあげる。

「ふはははははは・・・・・・・・・・やっぱり、やめていいかな?」
「ははははははは・・・・・・・・・・あそこまで見栄きった手前・・・ねぇ」
「だよなぁ」

ローミンはがっくりと肩を落とした。



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