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第四章

PCに挿してね

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 僕はミールの方を向いた。
「君たちの歴史では、帝国はどうなっているんだい?」
「今の帝国人の祖先は、七十年前に突然空からやってきたと言われています。でも、最初は、ナーモ族とも平和的に交流していました。帝国という国が現れて近隣諸国への侵略を始めたのは三十年ほど前です」
 三十年前に、何があったんだろう?
「その時は、今よりもはるかに恐ろしい兵器が使われたと聞いています」
「どんな兵器?」
「鉄の車とか、火を噴いて空を飛ぶ槍とか」
 ミサイルや戦車だな。
「それと、国を一瞬にして焼き尽くしてしまう兵器」
 核まで持ち込んだのか?
「でも、そういう兵器が使われたのは最初の数年だけでした」
「数年だけ? その後は、どんな兵器を使っていたの?」
「今と同じ火を噴く鉄の棒です」
 小銃の事か。
「それも、ナーモ族の鍛冶職人を拉致して作らせているのです」
 そうか。マテリアルカートリッジを使い切ってしまい、地球の兵器を作れなくなったんだな。
 帝国人には、科学知識はあったが、物作りの技術がない。
 小銃の構造は分かっていても、鉄を鍛錬できないので、現地の鍛冶職人に頼るしかなかったんだ。
「五年前に、日本人が降りてきて君たちを手懐けて侵略を始めたとか言ってるが……」
「とんでもない。あたしたちは、自分の土地を取り返しただけです。日本人は、その手助けをしてくれただけ。それに、日本人から聞きました。帝国は地球の法律を破っていると」
「法律?」
「あまり詳しくは分からないのですが、いかなる国家も、他の天体を領有してはならないとか……」
 宇宙条約だ!
「それで、日本人達は帝国人に侵略行為をやめるように説得したのですが、帝国人は『自分たちは地球人ではないから、地球の法律には縛られない』と言い張って戦争になったのです」
 そうか、帝国語とか帝国文字とか作ったのは、後から来た地球人に自分達の出自が地球だとばれないようにするためか。下手な工作だけど……

「だいたいの事は分かったけど」
 テーブルの上に置いてあったスマホを手に取って、分身の方のドロノフに見せた。
「これは何処で手に入れた?」
「リトルトーキョーを裏切って我々の仲間になった者がいます。分身魔法を見破る道具がほしいと言ったところ、その男がこれを持ってきてくれました」
「その男の名前は?」
「エステスとか言ってました」
「カルル・エステスか?」
「そう。そんな名前でした」
 そういう事やっていたのか。
 奴の話に乗らなくて正解だった。

「ピーピー」
 不意にロットが僕の足をつついた。
「どうしたんだ?」
「ピー」
 テーブルの上に身を乗り出して、Pちゃんのアンテナを突っつく。
 アンテナを手に取ってみた。
「これが、どうかしたの?」
 ロットは、アンテナの一端を突っついた。
 アンテナの根本の方だ。
 ん? 何か書いてある。
『PCに挿してね。P0371より』
 小さな桃色の文字で、そう書いてあった。
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