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第一話:体操服フェスティバル

盗難編

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《作品内のルール》
 
1.【】に囲まれたキャラクターは体操服泥棒の容疑者。 当然、【】に囲まれているけど犯人じゃないキャラクターもいます。

2.【】に囲まれたキーワードは体操服泥棒を推理する上で重要な手掛かりです。 また、関係のない単語の場合(いわゆるフェイク)の場合もあります。

3.容疑者、言葉を合わせて【】内の物はキーワードと呼び、各話の最後に纏めていきます。

4.《盗難被害編》《捜査編》《解決編》の三つの編から成り立ちます。
容疑者が出るのは《盗難被害編》のみです。
キーワードが出るのは《盗難被害編》と《捜査編》です。
《解決編》には【】の言葉が出て来ないので《捜査編》までに推理をしてみましょう。

5.ボクっ娘さんと一緒に推理をしてみましょう。



 夏は始まったばかり。
 目を向けると痛いぐらいの明るさに、クーラーが効いてるはずなのに蒸し蒸しと暑い室内。

「暑いです」
「リーダーは暑いのに弱いよね。 というか、冬服のままだからだよ」
「暑いのが辛いのは産まれのせいでしょうか。 薄着になるのは、慣れなくて」
「分からないけど。 まぁ、脱いでもいいと思うよ?」

 夏もまだまだ続く。 今の暑さでもこんなに辛いのに、もっと暑くなってしまう。
 そんなことを考えていると、より暑くなってきてしまうような気すらする。

「ははは、そんなガードが固いところも、リーダーの良いところでござるよ」

 隣から声が聞こえたのでそちらを向く。 小太りな男子生徒がこちらを見ていた。

「……あ、ボクのこと?」
「……すまんでござる」
「いや、謝らなくても……。 どうかしました?」

 確か他の人には【ジャクソン】と呼ばれていたような気がする。 ボクも【凛ちゃん】以外のクラスメートとはあまり話さない上に、ジャクソンさんも一人で何かの本を読んでいるようなタイプなので話したのは初めてだ。

「……いや、うん。 ごめん」
「えと、はい」

 微妙なまま会話が終了して、ジャクソンさんは読書に戻った。 ちなみに、ガードが固いというわけではない。 ボクに興味を抱く人間なんていな……凛ちゃんと先輩以外にはいないのだから。
 ガードする意味がそもそもないのだ。

 昼休みになったことだし、親友の凛ちゃんとご飯でも食べようかと思い、鞄からお弁当箱を取り出す。

「あっ、私パン買ってくるからちょっと待ってて」
「ボクも一緒に行きますよ」
「いや、いいよ、リーダーと一緒だとカツサンドに間に合わないから」

 【戦力外通告】……! ボクの親友さんは、教室にボクを残して走り去ってしまった。
 まぁ、購買店も近いので五分もあれば戻って来るだろう。 それまで待っていたらいいだけだ。

 教室の中には人も少なく、ガランとしている。 時間も昼休みに入ったのに、人は少ない。
 多分、みんな部活の部室で食べたりとか、食堂に行ったりとかしているのだろう。

 中学校のときは、教室はお弁当の匂いで満たされていただけに、こんな木の匂いで満たされている教室は不思議だ。
 ……【木の匂い】?

 キョロキョロと見渡してみるが、そんな匂いのしそうな物は木製の机ぐらいしかない。
 下を見てみると、何故か【おがくず】のようなものが散乱していることに気がついた。 誰かが工作でもしていたのだろうか。

 少し暇を覚えながら、仕方ないので軽く掃除をすることにする。 丁度【ボクの机の近く】なので軽く掃き掃除をするために掃除用具入れに向かう。

「あっ、拙者も手伝うでござるよ」

 そんな手伝ってもらうほどのことでもないけれど……。 もしかして、このおがくずはジャクソンさんが出した物で、ボクに掃除をさせるのが申し訳ないのだろうか?
 よく分からないが、【ジャクソンさんに手伝ってもらい】丁度凛ちゃんが戻ってきた頃に掃除を終える。

「ありがとうございます、ジャクソンさん」
「……若村でござるよぅ」

 それを言うならボクはリーダーではない。

「あ、マイスイートフレンドさん、手洗ってきますね」
「トイレ?」
「違います! もう、ご飯の前なので洗ってくるだけですよ」

 ご飯を食べる前には洗わないと良くない。 特に、掃除をした後なので必須だろう。
 凛ちゃんを待たせないようにササッと手を洗い、教室に戻る。 ジャクソンさんと凛ちゃんしかいない教室で、人が少なすぎて反対に居心地の悪さを感じながら、お弁当箱の蓋を開ける。

「被ったね」
「まぁ、作るのも楽なので」

 サンドイッチを手で掴み、口に持っていく。 凛ちゃんはあんなに急いでいたのに【カツサンドは買えなかった】らしく、普通の卵サンドを手に取った。

「自分で作るのより、買った方が楽じゃない?」
「んぅ、お小遣いに食費が含まれてるので、節約したいんです」
「あー、拙者もそのパターンでござるよ。 ラノベの買いすぎで、来月まで昼飯は抜きでござる……」
「あ、うん。 そうですか……」

 もしかして、これはサンドイッチをねだられているのだろうか?

「えと、食べます?」
「いやいや、いいでござるよ。 お気持ちだけいただいておくでござる」

 ただの会話だったのか。 何にしても、何も食べていない人の前で食べ進めるのはどこか気まずい。
 小さく頷いてから、一応少し残しておく。

「そういえばリーダー、部活の話なんだけどさ」
「どうかしましたか?」
「そこのジャクソンが、新しく入るって」
「ああ、なるほど、どうりで」

 ジャクソンさんがさっきからボクに話し掛けていたのは、一緒の部活になるから仲良くしておこうとしてのことだったのか。
 腑に落ちて、ジャクソンさんの方を向くと机に突っ伏して寝ていた。

「何かあったの?」
「いえ、少し親切にしていただいただけです」

 一人でいるのが好きなのかと思っていたが、そういう訳ではないのかもしれない。

「これで一年生が三人になるから、一先ず廃部の危機はなくなったね」
「んぅ、そうですね」

 ボクは特に先輩に会えること以外には部活動に意義を感じていなかったのでそれほど気にしていないが、凛ちゃんは安心したように息を吐いた。

「案外サラッと解決しましたね。 あんな部活なのに」
「こんな部活だからだよ」
「そういうものですかれ
「そんなもんだよ」

 探偵部。 活動内容:探偵。

「……正直、この学校にくるまではこういうふざけた部活って物語の中だけかと思ってました」
「まぁね。 でもここの探偵部、意外と強豪らしいよ?」
「どこと戦ってるんですか」
「そして期待の新人であるリーダーが入ってきた!」

 期待の新人であるリーダーってすごい字面である。
 半分残して、サンドイッチを食べ終えた手をペロリと舐めてから、突っ伏しているジャクソンさんの机に置く。

「あの、ジャクソンさん。 今日、部活に来るんでしたら、少しお腹に入れていた方がいいですよ?
変な物とか入ってないので……」
「うぅ……武士は食わねど高楊枝……」

 ああ、そのござるって武士だったのか。 なるほど。

「ジャクソンが食べないなら私に頂戴! リーダーの手料理!」

 ジャクソンさんがガバッと体を起こして、ボクにぺこりと頭を下げる。

「このご恩は忘れぬでござる」
「え、あ、いやいいですよ。 元々お腹空かないように、多めに作ってきてますから」
「あ、半分頂戴ジャクソン」
「若村でござる」

 とりあえず、険悪な仲にはならずにすみそうである。 良かった、と安心しながら席から立ち上がる。

「ちょっと手を洗ってきますね」
「うん」

 サンドイッチで手に付いた油を落としてから、教室に戻る。
 教室の前で、ここではなかなか見ないはずの人の姿が見えたので声をかける。

「あれ、【先輩】?  どうしてここにいるんですか?」
「り、りりりリーダー! いや、今日の部活のことを三人に伝えに来てな」
「はぁ、そうですか。 ありがとうございます」

 スマホでグループトークもあるのに律儀なものである。 と、思っていたがよく考えるとジャクソンさんはまだグループトークに参加していなかった。
 三人に、と言いながらもボクには何も言っていないので、どちらかと言うとジャクソンさんに用事があったのだろう。

「あ、サンドイッチご馳走様です」
「食べたんですか……」

 そのまま先輩は早足で去っていった。 何だったのだろうか。
 ちょっとしたラッキーに笑みを浮かべてから、外を見てみると、ボクの思いとは違って曇り空である。 急に天気が悪くなっていて、もうすぐ【雨が降りそうだ】。
 以前の雨風で教室がびちゃびちゃ事件の二の舞にならないように、人のいない移動教室中も【窓を閉め切って】おいた方がいいかもしれない。

 教室に戻ると、二人以外にも人がいて次の授業の準備をしていた。 丁度【ボクの席の前の席】の【委員長】だ。

「あ、リーダー、ご馳走様でござる。 助かったでござるよ」
「ご馳走様、美味しかったよ。 でござる」

 お礼を言ってくれる二人に頭を下げてから、お弁当箱を片付けながら委員長に習ってボクも次の授業の準備を始める。 【5限目は移動教室】なので、早めに用意していた方がいいだろう。

 少し早いがノートと教科書を机の引き出しから取り出す。

「んぅ、何で【机の中にもおがくず】が……」

 イジメか何かかと思ったが、思い当たるものはない。 そもそも人と仲良くしてないのにイジメられるものなのだろうか。
 教科書をゴミ箱のところに持っていき、払ってから戻る。

 ないとは思うけど、もしかしたらイジメで物がなくなってるかもしれないので、机の中身を確かめる。 教科書、ノート、筆箱、お財布に、机の奥に体操服を入れている袋。
 特に【なくなってるものはない】ようで安心する。 机が劣化とかで木屑を出してしまってるだけかもしれない。

 委員長は不思議そうにこちらを見たので、何でもないよ、と笑みを返す。

「リーダー、【二限目の体育】頑張ってたね」
「え、あ……見ていたんですか。 少し、恥ずかしいです」
「あんな小さい身体で……精一杯に背伸びして……ぬへへ」

 委員長が喉を鳴らす。 少しその仕草に引いていると、委員長は首を横に振ってからボクを見る。

「頑張ってるリーダーは好きだよ。 次の数学も頑張ろうね」
「……はい」

 数学は苦手だ。 というか、委員長はボクのことをヤケに子ども扱いしてくる。
 背丈は低いけれど、同じクラスなのに。

 まぁ、褒められたのは素直に嬉しい。 続々と帰ってくるクラスメートを見ていると【不良っぽい男の子】が教室の中で寛ぎ始めた。 少し怖いので、もう移動教室の方に行こうと凛ちゃんの手を引く。
 時計を見てみると、数学の授業が始めるまで凛ちゃんと仲良くお話をする時間があった。

「数学は苦手です」
「さっきの現国でも言ってなかった?」

 凛ちゃんが正論酷い。

「そういえばさっきさ、体育で【口の中噛んでた】けど大丈夫なの?」
「んぅ、少し痛いけど大丈夫ですよ?」
「……怪我って唾を付けたら治るって言うよね?」
「言いますね」
「付けてあげようか? リーダー、目を閉じて」
「自前のがあるので結構です」

 机の上に教科書を広げて準備完了。 といったところで、凛ちゃんが少し顔を歪めた。

「あちゃー、ノート忘れた」
「あげましょうか? 千切って」
「いや、宿題もあるから持ってくるよ。 多分教室にあるから」

 そうして、【授業ギリギリ】に凛ちゃんは教室に戻っていく。 間に合えばいいんだけど。
 不良っぽい男の子がやってきて、少し静かになった教室の中、先生と凛ちゃんが教室の中に入ってきて、授業が開始された。


「うぅー、難しいです。 訳分からんです」
「部活の時に教えてあげるよ」

 助かる。 本当に助かる。 持つべき者は優しい親友だ。
 この前パンツ盗まれたけど。

「次でラストだし、頑張ろう!」
「次は……日本史ですか。 苦手です」


 これが終われば先輩と凛ちゃんと楽しくおしゃべり出来る部活が開始される! そう思って必死になって世界史を学び、残すはHRだけだ。
 鞄の中に教科書などを詰め込んでいて、あることに気がつく。

「……【体操服がない】です」



今回の推理材料

・容疑者
【ジャクソン】(小太りの男の子だ)
【凛ちゃん】(リーダーの親友の女の子だ。 前科1)
【先輩】(リーダーの先輩の男の子だ。 前科1)
【委員長】(リーダーのクラスの委員長だ)
【不良っぽい男の子】(リーダーのクラスメートだ)


・キーワード
【戦力外通告】(リーダーの運動能力は低い)
【木の匂い】
【おがくず】(工作でもしていた奴がいるのか?)
【ボクの机の近く】
【ジャクソンさんに手伝ってもらい】
【カツサンドは買えなかったらしく】(購買店の近くの教室で走っても無理なほど人気なのか?)
【雨が降りそうだ】(天気はよくないらしい)
【窓を閉め切って】(出入り口は廊下側のみのようだ)
【ボクの席の前の席】(委員長の席だ)
【なくなってるものはない】(昼休み時点だ)
【二限目の体育】
【口の中を噛んでた】
【授業ギリギリ】(人がいない教室に入っていったらしい)
【体操服がない】(6限目が終わった後に気がついた)


・時系列まとめ
1限目:英語
2限目:体育(体育館)←リーダーが着用。
3限目:生物(移動教室)
4限目:現国
昼休み←リーダーは確認した。
5限目:数学(移動教室)
6限目:日本史
HR←リーダーが体操服の紛失を確認。
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