魔王様の婚活事情

マニアックパンダ

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真実探求

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謁見場には玉座で項垂れる魔王と、慣れた手つきで紅茶を淹れるメイド長、毅然とした表情で真っ直ぐと立つ老齢の執事長しかいない。

「はぁ~どうして私の魅力に気付かない男ばかりなのかしら?」
「「・・・・・・」」

「魔王様お茶をどうぞ」
「ありがとう」

受け取ったティーカップを口に運びながら「ふぅっ」とため息をつく。

「魔王様・・・・・・ご質問をしてよろしいでしょうか?」
「えぇ、構わないわよ、なーに?」

ティーポットの葉を新しいものに変えながらメイド長は口を開いた。

「なぜ先ほど200歳などと言われたのでしょうか?現在は322歳のはずですが?あっ……失礼しました、先日お誕生日をお迎えになって323歳になられましたね。ですので人間の年齢にして27歳頃のはずでは?」
「・・・・・・」
「27歳ではもうピチピチとは言い難いのではないのでしょうか?」
「・・・・・・」
「因みに踊り子は16歳、魔法使いは17歳だそうです、まさしくピチピチですね」
「・・・・・」

まさかのサバ読みである。
しかも魔人年齢にして122歳、人間年齢にして7歳。
魔王の必死さがよくわかる。

「そ、そんな事よりも執事長?なぜあなたがいるの?当分は次期執事長候補のラースを私に付けるんじゃなかったかしら?」

話を変えようと執事長に話を振る魔王。
先ほどまで我関せずといった表情で澄ましていた執事長の顔は面白いほど歪んでいた。

「ラ・・・・・ラースはび、病気に罹りまして……」
「何をそんなに慌てているの?病気ならわたしの回復魔法で治してあげるわよ?」
「い、いえ魔王様のお手を煩わせるわけにはいきませぬので」
「そうは言っても私が一番回復魔法が上手なのよ?それに気分転換にもなるし」
「い、い、い、いえ。そそそそそそんなわけにも」

執事長の顔には大玉の汗が浮かび、目が泳いでいる。

「どうしたの?そんなに重病?」
「ラースは逃げたらしいですわ、この城から」

心配そうに尋ねる魔王に、にやけた顔でボソッと真実を呟くメイド長。

「逃げる?何から?どうして?」
「私も詳しくは知りませんが、なんか書置きがあったそうですわ。ねぇ執事長?」

真っ青な顔で、まるで余計な事を言うなと言わんばかりの目をして、にやけるメイド長を睨む執事長。その顔はこの数分で一気に老けていた。

「書置き?それ読んで欲しいわ」
「かかかかかかか書置きはどどどどどどどどこかにいってしまいました」
「本当に?」

さすがに怪しく思い出した魔王は疑い始めた。

「嘘を付くのはダメよ?」
「自分はサバ読むくせに?」
「・・・・・・メイド長は黙って」

真っ赤な顔の魔王と真っ青な顔の執事長。
紅白綺麗だわ~なんてメイド長は楽し気に見ていた。

「命令よ、読んでちょうだい」

何をこんなに焦るのであろうか?と魔王は命令する。
覚悟を決めたのか、執事長は懐に手を入れると便箋を取り出した。

「ほら、あるんじゃないの。さあ読んでちょうだい」
「よ、読みますがこれはラースが書いたものです、もう一度言います、ラースが思って書いた事です。私はこれっぽっちも思っておりませんし、考えた事もございません。ラースが書いたんですよ」
「わかったわよ、ラースが書いたんでしょ?いいから早く読みなさいよ」
「そうです、ラースが書いたんです!」

執事長の顔が青から赤へと変わるほどに必死に「ラース」を連発している。
その顔を見ながらメイド長はゆっくりと後ずさりしていた。
まるでこの後何が起きるか知っているかのように・・・・・・

『あんな行き遅れになりかけの、強さだけが取り柄のクソババアの世話なんかしていられるか。介護なんてごめんだから俺は彼女と旅に出る』

執事長が意を決して読み上げた瞬間、圧倒的な魔力が謁見場に渦巻き、床が壁が全ての調度品がミシミシと悲鳴をあげた。

「な、な、なんですってぇ~~!?」

「ま、魔王様お静まり下さい!!だ、誰もそんな事は思っておりません、私などから見ても大変魅力的でございます!」

その力が自分に向けられる事を恐れ、必死に宥める執事長。

「そ、そうよね?それ私の事じゃないわよね?」

首が取れるのではないかという程に激しく首を上下に振る執事長。

「そうよ、私じゃないわね。うん、誰の事かしら……」

ようやく魔力の渦が収まりかけた時、すでに退避していたメイド長が扉から顔だけをだした。

「じゃあ、なんで執事長はあんなに読むのを躊躇ったのかしら?ププッ」

「メイド長!!」「執事長」

魔王と執事長は絶叫がこだまする。


その日謁見場には2つ目の大穴が開いた。
そこから見る空はとても綺麗だった。
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