魔王様の婚活事情

マニアックパンダ

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両者比較

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その日謁見場にはメイド長と執事しかいなかった。
いや、魔王はいるにはいるのだが、なぜか人知れず玉座の裏に座り込んでいた。

「ラース、その顔大丈夫なの?」

そう、暴言を書き残して逃げたラースがここにいた。元々はキリッとした目にしっかりと通った鼻筋、薄い唇とイケメンだったのだが、今や見る影もないほど大きく腫れあがった顔だった。

「どぅあいじおびじあない゛です」
「うん、何言ってるかわからないわ」

メイド長はそう言いながら淡く輝く手をラースの口に翳した、回復魔法である。

「ありがとうございます、どうして口だけなんですか?」
「面白いから」

全部は治さない、治すと面白くないからと満面の笑みを浮かべるメイド長。
ラースがどうしてこんな状態なのかというと、魔王の鉄拳制裁ではない、怒り狂っていたが違う。
吹き飛ばされた執事長だ。全身に包帯を巻かれながら怒り狂っていた、メイド長にラースにと。
だがメイド長に挑んでも戦闘力は拮抗している上、どんな仕返しをどれほどされるかわからないので怖かった、ならば元凶であるラースだ。
その日、魔王国は震えた。
執事長の命により、地を海を魔物が走った。空は執事長自らが飛竜に飛び乗り大捜索網を引いたのだ。そしてラースは大森林で執事長自らに捕まり連れ戻された。
その際何が起きたかはわからない、ただ一緒に飛んでいた飛竜達すべてが帰ってきてから一言も発さず、身を小さく丸め震え続けていたらしい。

「そんな事よりも、一緒に逃げた彼女はどんな子なの?」
「彼女ですか?」
「そう、身の危険を犯して仕事を捨ててまで一緒に逃げたんでしょ?どんなに素敵な子なのかって思って」

本題はここである。
魔王が隠れているのもこれを聞く為であった。イケメンをゲットした女子はどんな魅力が隠されているのか?それを知りたかったのだ。

「そうですね、まず可愛いですね、なんか守ってあげたくなるというか……」
「弱いっていう事?」
「いや、強さが問題ではないんですよ、庇護欲を掻き立てられる感じがするんですよね」
「例えば?」
「例えば・・・・・・実際逃げた時に森で魔獣と出会ったんですけどね、僕の後ろに隠れて服の裾を引っ張ってるんですよ」
「ハンッ」
「いや、鼻で笑わないでくださいよ」

わざとらしさがプンプンと臭う、思わずメイド長が鼻で笑うのも無理はない。

「で、その魔獣をあんたが倒して「キャーステキ」って?」
「いや、倒そうと思ったら空から包帯だらけの執事長が飛竜と共に降ってきまして……気付いたら魔獣の落ちた首が目の前にありました・・・・・」
「「・・・・・・」」

「まぁいいわ、で、その子は何してる子なの?」
「家事手伝いです」
「無職なの?」
「いえ、家事手伝いです」

魔王の支配する国とは言っても、今の日本とあまり変わらない。様々な職業があり、就業形態がある。アルバイト・パート・社員・契約社員などだ。

「あんたが執事辞めたら食ってけないでしょうに。その子無「家事手伝いです」・・・・・・仕事してないんだから」
「それが「一緒にだったらどんな生活でも大丈夫」って言ってくれるんですよ」
「ハンッ・・・・・・で、その可愛い彼女の写真とかないの?」
「ありますよ、見ます?」

ラースは嬉々とした表情で魔法を唱え始める、記憶しているものを立体画像として現す呪文だ。
気になるのか、玉座の横からそっと覗き見る魔王がいた。
・・・・・・出てきた女は裸エプロンでした。

「あ……あんたこんな事してるの?」

さすがのメイド長もドン引きである。魔王は顔を真っ赤にしてしていた。

「いや、これは昨日怪我を看病してくれた時に・・・・・・」
「ないわー、まあ、あれね、もういいわ、とっととその画像消してちょうだい。時間だから帰っていいわよ」
「あっ、お疲れ様です!今日もデートなんで♪」

勢いよく頭を下げると、まるでスキップするかのごとく謁見場を出て行った。



「魔王様、もういいですよ出てきて」

その言葉に顔を真っ赤にしたまま、俯き加減で出てくる魔王。

「で、参考になりました?顔もスタイルも普通でしたね、可愛いとか綺麗とかじゃなくて普通の一言ですね」
「わたし、魔王を辞めるわ!そして家事手伝いになる!」
「却下です」
「で、「キャー怖い」とか言いながら守られるわ!」
「無理です」
「じゃあ、どうしたらいいのよ!?」
「魔王様が辞めたら誰が魔王になるんですか?代々国で一番強い者がなるのに……誰もいないでしょうが。それに守られるって・・・・・・大陸中の誰もが魔王様の実力を知っているのに無理に決まってるでしょ」
「・・・・・・」

「魔王様の圧倒的強さに誰もが安心しているんです、「魔王様さえいれば俺達は幸せでいれる」とみんなが安心して生活していけるんですよ。もしかしたら、そんな魔王様を支えてあげたいという男性が現れるかもしれませんね」
「そ、そうかしら!?」

単純である。
その論理はつい先ほどの男性と女性の役割が入れ替わっただけという事に気づかない。
いや、気付いてはいるけれど、改めて認識したくないだけかもしれない。
だが、魔王故に強者を求む彼女に、そんな男性が現れる事はありえるのであろうか?と疑問に思っても決して口には出さないメイド長である。

「裸エプロン・・・・・・裸エプロン・・・・・・」

譫言のように呟く魔王。
それを聞こえない振りをしてにやけ顔で見るメイド長。





「魔王様が乱心した」「魔王は変態」「呪いの裸エプロン」

そんな噂が国中を駆け巡ったのは次の日の事であった。



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