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第六章

元上司

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 騎兵たちは、何事もなかったかのように城の方へ戻って行った。
 ただし、その騎兵をデジカメで見ると、出現消滅を繰り返している。
 ミールの作った分身だ。
 本物たちは、どうしているかと言うと……
「そ……それだけは、勘弁してくれ」
「おだまりなさい。お前の物はあたしの物、あたしの物はあたしの物です」
 例によって、ミールに身包みを剥がされて、下着姿で縛り倒されていた。
 しかし、これを見てると、どっちが被害者か分からなくなるなあ……
「ミール。損害賠償の取り立てはいいけど、その前にこいつらから情報聞き出さないと」
「大丈夫です。身包み剥いでからでも、情報は聞き出せますから」
「ミールさん、鬼畜ですね」
「ありかどう。もっと誉めて」
 だから、Pちゃんは誉めてないって……
 ちなみに、さっき作った分身からは、情報を聞き出していない。
 あれは、すぐに城に帰らせなきゃならないので、そんな暇はなかったのだ。
 斥候が帰らないと、何かあったと思われてマズイことになる。
 だから、分身には一度城へ帰って『異常なし』と報告させてから、城の中の目立たないところで消えてもらうことにした。
 城外へ出た兵士が帰ってこなければ大騒ぎになるが、城内で消える分にはそれほど問題にはならないだろう。
「ちっ! しけてますねえ」
 追いはぎ……いや、損害賠償の取り立ては終わったようだな。
 しかし、分身を新たに作り出して情報を引き出してみたが、あまり得られるものはなかった。
 関所の人員交代のタイミングどころか、こいつらは関所の場所すら知らなかったのだ。
「使えない奴ですね。カイトさん、どうします?」
「とりあえず、城の中の人数とか、司令官は誰かとか聞き出してみよう」
 その結果分かったのは、城に詰めているのは一個師団、八千人ほど。
 司令官はネクラーソフ将軍という男だ。
 名前からして、性格悪そうだな……
「ダモン様?」 
 不意にミールが呟いた。
「ミール。どうかしたの?」
「今、送り返した分身が城内に入ったのですが、チラッと知人の姿が目に入ったのです。見間違えかもしれないのですが……」
「じゃあ、映像をチェックしてみよう」
 分身たちには、もちろんウェアラブルカメラを持たせてあるが、まだ映像をチェックしていなかった。
 PCを立ち上げて、リアルタイムの映像を出す。
 ちょうど、上官に『異常なし』と報告しているところだった。
 そこから映像を巻き戻す。
 城門をくぐるところまで戻して、映像スタート。
「あ! そこで止めて下さい」
 二人の人物が、向かい合って何かを話している様子が映っていた。
 拡大してみる。
 一人は帝国人。まだ少年のようだ。
 もう一人はナーモ族の男。歳は五十代ぐらいだろうか?
「間違いありません。ダモン様です」
「ダモン?」
「あたしの上司です。よかった。てっきり城が落ちた時に、亡くなったものかと……」
 ミールの目に、涙が光っていた。
「あ! でも、上司として尊敬していただけで、恋愛感情はありませんよ。第一、ダモン様には奥さんもお子さんもいるし。そもそも、あたしはオジさんは趣味じゃありません」
「ミールさん。誰もそんな事は聞いていません」
「ダモンという人は、ミールと一緒に逃げなかったのかい?」
「非戦闘員を逃がすために、城に留まったのです。立派な方でした」
 映像を少し進めてみた。
 ダモンと向かい合っていた少年が、反対方向を向く。
 少年は突然両手を前に突き出した。
 カメハメ波? いや、ミールがさっき使っていた火炎魔法だ。
 少年の手の先、数メートルのところに大きな火球が出現した。
「ミールさんの魔法より、ずっとすごいですね」
「あたしの専門は分身魔法ですから……火炎魔法は、ついでにやっているだけです」
 映像の中で、ダモンは少年の頭を撫でていた。
「優しそうな人ですね。ミールさんも、あんなふうに頭を撫でてもらった事あるのですか?」
「ありますよ。その時は『火炎魔法はもういいから、君は分身魔法を極めなさい』と言ってもらえました」
「それって、火炎魔法は才能ないから、他へ行けということですね」
「ほっといて下さい」
 いい上司に恵まれたんだな。ミールは……
 自分の下で使い物にならないからって『自殺しろ』なんて言う矢納課長とは雲泥の差だ。
「ところで、非戦闘員を逃がすためと言ってましたが、ミールさんも戦闘員ですよね?」
「う!」
 ミールは少し辛そうな顔をする。
「その時のことを、お話ししましょう」
 ミールは語り始めた。
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