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第2章.少年期
70.旅立ちの準備
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街の外で少しコルトと会話をし、別れの時が来た…。
この後俺は、明日、旅の準備の買い物をし、明後日は両親と一緒にクエスト、その次の日にこの街から旅立つ予定だ。
あ…そういえば…
「…なぁ…コルト…マジックバッグなんだけど…」
そう。コルトが持っているなんだかいっぱい物が入るバッグ。
「ん?これはやらんと言ったであろう。わたしがシュクルムを買う金を得るのに使う。」
コルトは手に持ったマジックバッグを持ち上げながらそう言う。
「いや…明日1日だけ、貸してくれないか?旅の準備にいろいろと買いたい物があるんだ。」
うむ。旅の支度にいろいろと買わねばならない物がある。
サバイバル用品は結構かさばるし、ちょっと貸してほしいと、コルトにそう言った。
「ん~…。まぁ…明日1日貸すぐらいならかまわんが…。」
「そうか!じゃあ明日の夕方、日が沈む前あたりに路地裏に来てくれ。そのころには買い物も終わるし!」
「わかった。大切に使うがよい。」
コルトは少し偉そうにそう言って、マジックバッグを渡してくれた。
「………そうだ、クルス。…おまえがいつも使っている鞄を少し貸せ。」
今度はマジックバッグを俺に渡し終えた、コルトがそう言ってきた。
「ん?これか?」
そう言われ、俺はいつも使っている鞄をコルトに渡す。
この鞄はハイバイソンの皮で出来ており、防水性もばっちりで、学校に行くときも使っている。
もちろん、旅に出る時も持って行くつもりだ。
コルトは渡した鞄を受け取ると、手を自分の頭の後ろに回した。
すると、
プチッ…
という音とともに、自分の髪の毛を抜いた。
しかし、抜いたと思った髪の毛は、次の瞬間、
ツヤツヤさらさらのピカピカの綺麗な毛の束になった。
そしてコルトはそれを俺の鞄に結び付けた。
「これは?」
なぜに毛をくくりつけたの?と思い聞いてみる。
「…ふんっ。ただの目印だ。おまえら人族は数が多いからな。…そう言えば昔、冒険者とやらがわたしの毛を取りに襲ってきたことがあったな。売ったら金になるのかもしれん。…好きにすればよい。気にするな。」
「…そうか。わかったよ。」
なんだろ…。まぁキーホルダーっぽいし、売ってもいいらしいし、別にいいか…。
今日がコルトと会う最後の日のはずだったけど、ちょっと借りものができてしまったので、明日も会うということもあり、マジッグバッグを受け取ると、俺はそのまま家路についた。
~~~~~~~~
「行ってきまーす!」
「気を付けるのよ~。」
翌日、俺は旅の準備をするべく、買い物に出かけた。
とりあえず、領都スイフまで行けるだけの荷物と、あとは基本的な物を買うつもりだ。
防具や武器なんかは領都スイフの方がいろいろ揃っているはずなので、そっちで買うつもりだ。
ちなみに領都スイフまでは馬車で4日程で着くのだが、俺はせっかくなので我が召喚獣、馬のオルフェの乗っていく予定だ。
まぁこの方が早く着くし、お金も節約できる。
それに馬車は他にも乗っている人がいて結構気を使いそうだし…。
…というわけで、道中のキャンプグッズみたいなものも買う予定だ。
まずは1人用のテントと毛布かな…。
あとはちょっとした鍋とナイフなどの簡易炊事セット。
食糧は旅立つ当日に準備するとして…それを入れておける袋だな…。
一応、ここラバンの街から領都スイフまでの道の間には、馬車の定期便が通っていることもあり、ところどころに休憩所みたいなものがあるらしい。
泊まるときは一応そこも使えるみたいだが、数に限りもあるようなので、キャンプグッズの準備は必須なのだ。
必要な物を頭の中で確認しながら歩き、俺は買い物をするお店に到着した。
「ラジアル商店」
この店はたぶんここラバンの街で1番大きいお店。
前にメルとロッテと買い物に来たこともあるお店で、何でも売っているデパートだ。
市場で買ってもいいかもと思ったが、買う物がいろいろあり、歩きまわると疲れそうというのと、テントや毛布を買う時はやっぱり新品の方が長持ちしそうでいいと思ったからだ。
…あとなんだか衛生的に。
ええっと…たしか…
1階は食品や服飾品、
2階が武具や生活道具、
3階は魔物の素材なんかを取り扱っていたはずだな…。
ということで俺は2階に向かった。
たしかこっちが道具コーナーだったな…。
と以前来た時の記憶を頼りに道具売り場へ向かった。
おお~…いっぱいあるな~。
道具売り場に着くと、たくさんの生活道具が並んでおり、当然俺のお目当てのテントや毛布もすぐに見つけることができた。
よし!と思い、財布の中身を確認する。
200,000ガル。
「これで好きな物を買ってこい!」
と冒険者になったお祝に父がくれたお金だ。
俺のお小遣いはこの前、オーガと戦ったときに使ったポーション代として消えてしまっていたのでとてもありがたい。
…まずは…テントだな。
そう思い、テントコーナーに向かう。
やっぱり防水性だよな~…。
あと丈夫な物。
…となると…やっぱり…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:居住具
・分類:テント
・材質:ハイバイソンの皮
・名前:---
これだよね…。
ハイバイソンの皮製のテント。
サイズは1人用で小さめものだ。
俺の鞄もこれで出来ている。
学校に通っている間ずっと使い続けたが、まだまだ使えそうだ。
とても丈夫だし、防水性もばっちりの品物だ。
値段はと…
「150,000ガル」
…だよなぁ~…。
これを買うと、あと50,000ガルしか残らない。
それで残りの品を買うとなるとちょっときびしい…。
まぁ、でも一応テントはこれをキープしておこう…。
次は、毛布だな。
と毛布売り場に向かう。
毛布も野営する際にはとても重要な品だ。
寒さで体力を奪われたらそれこそ命にかかわるからだ。
断熱性…。
あとやっぱり肌触り。
…となると…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:布
・分類:毛布
・材質:ホーンラビットの毛皮
・名前:---
これがほしいんだよね…。
ホーンラビットの毛皮はさわり心地が抜群だ!
…というわけで、冒険者のみならず街の人々皆に人気の品だ。
値段は…
「30,000ガル」
…うむ…。
まぁ…そうだろう…。
…これも一応キープ。
…これでテントと毛布合計180,000ガル。
あと使えるのは20,000ガル。
あとは鍋とナイフ、それに食糧をいれる袋か…。
おれはとりあえず、キッチン用品として売り場が固まっている鍋とナイフを見に行くことにした。
鍋とナイフ。
これも一応ほしい物は決めてある。
…やはり、野外で酷使して使う可能性が高い…となると…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:剣
・分類:ナイフ
・材質:クレム鋼
・名前:---
そう。クレム鋼製のナイフだ。
クレム鋼製品は錆びにくく、お手入れが簡単なので是非我が冒険者道具のラインナップに加えたい。
また、ナイフは武器としても使えるが、小さいものは普通に調理器具として使われる。
メルが武器として使っているナイフより、小さい物を手に取ってみる。
…う~む。いい感じだ。
値段は…
「20,000ガル」
…うむ…。
まぁ…そうだろう…。
…これも一応キープ。
…しかし、これで父に渡された200,000ガルが尽きてしまう…。
あと鍋と食糧を入れる鞄もほしいんだけどな…。
う~ん…
…そういえば…3階で魔物の素材なんかを取り扱っていたはずだな…。
買取もしていたはず…。
…
……
「すいません。これの買取りをお願いしたいんですが…。」
「はい。買取りですね?こちらは…毛の束ですか…?」
「ええ…。家の棚の奥から出てきまして…。大事そうに保管されていたので、もしかしたら強力な魔物の毛かと思い…。」
もう少しお金が必要になった俺は、コルトから貰ったなんかの毛の束っぽやつを金になるかもと思い売ることにした。
「そうですか。それでは査定させて頂きますね?」
買取りをお願いした店員はそう言って俺の渡した毛の束をまじまじと見始めた。
「はい。よろしくお願いします。」
売ってもいいみたいなこと言ってたしな…。
うむうむ。ありがたい。
「…この毛…なんだ…見たことの無い…、て…店長、ちょっと来てもらえますか?」
毛の束を見始めた店員が店長を呼んだ。
ん~…まぁ妖狐の毛だしな…普通の魔物の毛と違うのかな…。
「ん?どうしたんだい?」
「こちら買取り希望で持ち込まれた毛の束なのですが…ちょっと今までに見たことの無い物でして…」
「そうか…ちょっと見せてくれ…」
店員に呼ばれた店長らしき人物が今度はその毛の束をまじまじと見始めた。
「…ん…?これは…いや…まさか…しかし…」
「…店長…?どうしたんですか?」
何かぶつぶつと言い始めた店長に店員が話しかける。
「…以前王都エスクの城で展示されていた物に非常によく似ている…」
「王都エスクの城に展示されていた物…ですか?…それは一体…」
「……妖狐の毛だ。」
「ええ!?妖狐の毛ですか!?そんな…一体いくらで買い取れば…。」
「…いやしかし、これは私だけでは判断できないな…他の者にも相談を…」
「…何をしている。」
買取りを頼んだ店員と店長のやりとりを眺めていると俺の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
少し低い女性の声だ。
声がした方向を振り向くと見覚えのある金髪のスレンダーな女性が立っていた。
「…あれ…?…コルト…夕方に路地裏でって…」
「…何をしていると聞いている。」
…あれ…?怒ってる…?
「あ…えーと…お金が足りなくなったから、素材の買取りを…」
「っまったく!それは売らん!」
俺の説明の言葉をさえぎるようにコルトは店長が持っていた毛の束を奪い取る。
「ああ!?お客様お待ちください!そちらの品はっ!!」
店長が必死に訴えるが、コルトはそのまま店から出て行ってしまった。
「ちょっ…ちょっとコルトってば!!」
「………」
「…どうしたんだ?…というかなんで俺がここにいることが分かったんだ?」
なんだかムスっとしているコルトに俺の疑問をぶつける。
今日買い物に行くとは伝えたけど、お店の場所は伝えてないし…。
「…その毛はわたしの毛だ。…持っていれば少し離れた場所にいてもどこにあるかわかるようになっておるのだ。まぁ…あまり時間が立つと効果は無くなってしまうがな。」
コルトは相変わらずムスっとしたままそう答えた。
…というかこの毛にそんなGPSみたいな機能が!?
「…なんでそんなのを俺の鞄につけたんだ?」
「…ふんっ。…クルスが運よくたまにこの街に帰って来れた時におまえの血でも舐めようかと思っただけだ。」
「そうなのか…。」
…たしかにうまいうまいと俺の血を飲んでいたな…。
しかも俺の血を飲むと、コルトに俺の魔力値が加算されるらしいし。
まぁ、今の俺の魔力値を加算してもあんまり意味ないだろうけど…。
「…だから…それは売るでない…。」
少し声が小さくなりながらコルトはそう言った。
「…わかったよ。じゃあこれは鞄につけたままにしておくな。」
「うむ。そうするがよい。」
今度は少し偉そうにコルトはそう言った。
「…う~ん…後、鍋と食糧を入れる袋…どうしよう…。」
ほんとは後2個買いたい物がある。
「昨日のオーガの角のクエスト報酬とやらがあるのではないか?」
「その報酬は領都スイフの街での宿泊費にする予定なんだ。」
ちなみに、受け取ると使っちゃいそうだから、この街を出発する時に報酬を受け取る予定だ。
「ん~…まぁ…いいか。領都スイフまではそんなに日数はかからないし。」
うむ。まぁ、食糧はとりあえず領都スイフのまでの分があればいいし、そのあと鍋とか買えばいいか。
と思い、鍋と食糧を入れる袋は諦めることにした。
食糧はいつも使ってる鞄に数日分なら少し入るしな。
ということで、俺はハイバイソンの皮製のテントと、ホーンラビットの毛皮製の毛布、クレム鋼製のナイフを買い、コルトから借りているマジックバッグに入れた。
ん~…便利!
ちなみにこれらの荷物、出発する時は、我が召喚獣、馬のオルフェにくくりつける予定だが、やっぱりいつかはマジックバッグがほしいな…。
「買い物は終わったから、一度家に帰って荷物を置いてくるよ。路地裏で待っていてくれ。…そうだ。せっかくだしシュクルムを買っていくよ。」
そんなわけで、買い物を終えた俺はコルトにそう言い、家に荷物を置いてくることにした。
~~~~~~~~~~
「ただいまー。」
「おかえり。いい物買えたか?」
父がそう話しかけてきた。
「うん!」
そう言って俺はマジックバッグから今日買ったものを取りだし、部屋に置いた。
この後の予定はコルトにマジックバッグを返すだけなので、他の荷物も全部置く。
「おお!?そりゃあマジックバッグじゃないか?どうしたんだ?」
父が驚きながらそう言った。
「これは、この前話したコルトの持ち物なんだ。今日1日貸してもらったんだよ。」
コルトはこの店に以前来たこともあるし、父にはコルトが持ってくる蜂蜜を売ってもらうことになっている。
「ほぉ~。それを買うのも父さんが冒険者をばりばりやってた頃の夢だったな!」
父はなんだか懐かしそうな顔をしながらそう言った。
「俺も頑張って買うよ!」
俺は引き出しから少なくなったお小遣い、2,000ガルを取りだしポケットに入れ、
マジッグバッグをコルトに返すため、路地裏に向かう。
…
……
………
「シュクルム菓子店」
最後だし、買って行ってやるとコルトに言ったので路地裏に向かう前にちょっと寄り道だ。
ちなみにこのシュクルム菓子店のシュクルムについてだが、この街を出ても食べられる。
というのも、このお店はなかなかの老舗で本店は王都エスクにあるみたいだ。
領都スイフにもあるみたいなので、安心だ。
やっぱり今日もシュクルムを買い求める人たちが並んでいる。
人気だな~と思いながら俺もその列に並ぶ。
しばらく並んでいると、
チャリンチャリ~ン
と音がした。
音のした方を見ると、1枚100ガルの鉄貨がいくつか散らばっており、小さな子供がそれを拾っていた。
たぶん、この子もコツコツ貯めたお金を握りしめてシュクルムを買いに来たんだろうな…。
そう思い、俺も散らばった硬貨を拾い集め、その子供の元に向かう。
「大丈夫か?」
そう言って拾い集めた何枚かの硬貨をその子供に渡した。
「うん!ありがとう!」
子供はそう言って硬貨を受け取ると、走り去っていった。
…あれ?シュクルムは買わないんだな…。
少し不思議に思いながらも俺は再び列に並んだ。
「お待たせしました。ご注文をどうぞ。」
「シュクルムを4つください。」
ようやく俺の番が来たので注文する。
今日は奮発して4つだ。
…でも1個は俺が食べる。
「かしこまりました。それでは2,000ガルになります。」
俺は準備してきたお金を取り出そうとポケットに手を入れる。
ゴソゴソ…
……あれ…?
ええっと…家を出る時にたしかポケットに…
…ゴソゴソ……
ん?……ゴソゴソ……
「…あの…どうされましたか…?」
「…あれ…?たしかポケットに……」
ゴソゴソ…
ゴソゴソ……
………ない。
「あの…2,000ガルになりますが…」
店員が再びそう言う。
「………あの…お金を落としたみたいで…」
「…そうですか…またの…お越しをお待ちしております…。」
少し悲しそうな目をしながら店員は俺にそう伝え、
俺は手ぶらで店を出た。
…
……
………
うぅ…シュクルム…。
…まぁ…残念だけど、しょうがないか…。
しかし、どこで落としたんだろう…。
家を出る時は確かにポケットに入れたと思ったんだけどな…。
ちょっと残念だが、お金が無いことにはどうにもならないので、俺はそのまま路地裏に向かった。
…
……
………
路地裏に着くと、見慣れた金髪の女性が待っていた。
「ん?シュクルムの袋はどうしたのだ?」
コルトは俺がいつも持ってくるシュクルムの入った袋が無いことにすぐに気付く。
「来る途中にお金を落としたみたいで……買えなかった…」
俺は肩を落としながらそう言った。
「…はぁ…。まったく…クルスはそう言うところが甘いのだ!」
「ぬぅ~……」
「…まぁ…金が無いのであればしょうがない。今日はシュクルムは諦めよう。」
コルトは少し残念そうな顔をしながらも、しょうがないと諦めてくれた。
ちょっと残念だけど、諦めてくれてよかった。
まぁ来週からは自分で買いに行って食べられるしな。
「それじゃあ、マジックバッグ返すよ。えっと………あれ…?」
………あれ…?
マジックバッグは手に持って家を出て…
と考えながら何も持っていない自分の両手を見る。
…シュクルム菓子店に並んで…
あ、そういえば並んでる途中で子供が落としたお金を拾うのを手伝って…
…あれ…?その時は鞄は手に持ったままだったかな…。
拾うために地面に置いたっけ…?
…あれ…?
「…どうしたのだ?早くマジックバッグを返せ。」
「あ…ちょっと待って今…」
ゴソゴソ…
ポケットには入れないよな…。
えっと…えっと…
何故か汗が噴き出す…。
「どうしたのだ?クルス。」
「あの…えっと…」
ゴソゴソ…
ゴソゴソ……
ゴソ………ゴソ………
「……クルス?」
「……………ない……みたい………」
「ん?ないとはどういうことだ?」
「あの…だから…その……家を出る時はあったんだけど……」
「まさか……なくしたということか…?」
「…そう……みたい………」
どどど…どうしよう……
なくした…みたいだ…落とした?
「どうするのだっ!あのバッグが無ければわたしはシュクルムを買う金が作れないではないかっ!」
「ご…ごめん…」
「ごめんではすまないであろう…」
「…もう一回…来た道を戻ってみる…。」
「まったく…。」
コルトはあきれ顔でそう言い、一緒に来た道をバッグを探しながら戻って見ることにした。
…
……
「シュクルム菓子店に並ぶまでは持っていたのだな?」
「…うん…。」
「とりあえず、そこまで戻るぞ。」
「……うん…。」
「なぜクルスが落ち込むのだ。落ち込みたいのはこっちだぞ。」
「うぅ~…」
そうかもしれないけど…
あのマジックバッグ…どうやらすごい高いみたいだし…
…見つからなかったらどうしよう…
不安な気持ちのまま俺とコルトはシュクルム菓子店までの道を戻りながらバッグを探した。
…
……
「ない…」
「ないな…」
一応シュクルム菓子店に落し物が届いてないか聞いてみたが無いみたいだった。
「ないのか…?」
「うん…。あ…あと…一応街の役所にも落し物が無いか聞いてみる…。」
俺はそう言い、街の役所の紛失物受付けにも言ってみることにした。
街には一応役所や郵便物を扱う場所がある。
ここからそう遠くない場所なので、そこにも一応行くことにした。
…
……
「あの…マジックバッグの落し物って届いてないですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。
「マジックバッグですか!?…落とされたんですか…?」
「はい…シュクルム菓子店の辺りかと思うのですが…」
「ん~…届いてないですね。とりあえず状況だけ説明お願いします。」
役所職員にそう言われ、俺は今までの状況を説明した。
「クルスさん…たぶんそれ…スリじゃないでしょうか…。」
「え…?…スリ…?」
「人通りの多いところでお金をばら撒いて注意を引いている間にいろいろ盗んでしまう、という手法のスリの被害が最近多いんですよ…。たぶんそのシュクルム菓子店でお金を拾っているときに…。」
「ええ!?」
…あれ…そういえば、前世で海外に行った友達がそんなのにあっていた話を聞いた気がしなくもない…
「ど…どうすれば…」
「残念ですが、戻ってくるというのは厳しいかと…。」
「そ…そうですか…。」
俺は肩を落としながら役所を後にした。
…
……
………
「…で、どうするのだ。これではわたしはシュクルムを食べられんぞ。それにあのバッグは便利で気に入っていたのだぞ。」
「ど…どうしよう…」
…
……
「………クルスが責任を取るしかないであろう…。」
コルトは少しにやりとした表情でそう言った。
「…え…?責任…?」
切腹とか!?
でも、俺が切腹してもマジックバッグは戻ってこないぞ…?
「そうだ。これではわたしはシュクルムを食べられん。クルスがなんとかするしかないであろう…。」
「え…でも…どうやって…」
「冒険者になってたくさん稼ぐのであろう?その金でシュクルムを買えばよい。マジックバッグもな。」
「え…でも俺この街を出るし…」
「他の街にもこの店があるであろう?」
「な…なんで知ってるんだ!?」
「くっくっく。昔、少し聞いたことがあってな。」
「…ん?ということはコルト俺についてくるってこと?」
「っついて行くのではない!クルスが責任を果たせるようにしてやるだけだ!」
「…ということは…つまり…ついてくるって…」
「っ違うと言っているであろうっ!それともなにか?今すぐマジックバッグを弁償出来るのか?」
「あ…いや…」
「安心しろ。シュクルムを買ってきたら今まで通り、修行もつけてやろう。ああ…その時は血は少しばかり飲ませてもらうがな…。」
「そこは別に心配してなかったところだけど…。」
「くっくっく。気にするな。わたしが自分で決めたことだ。……社会人だからな。」
コルトはいつものにやりとした表情で偉そうにそう言った。
「……そうか。」
この後俺は、明日、旅の準備の買い物をし、明後日は両親と一緒にクエスト、その次の日にこの街から旅立つ予定だ。
あ…そういえば…
「…なぁ…コルト…マジックバッグなんだけど…」
そう。コルトが持っているなんだかいっぱい物が入るバッグ。
「ん?これはやらんと言ったであろう。わたしがシュクルムを買う金を得るのに使う。」
コルトは手に持ったマジックバッグを持ち上げながらそう言う。
「いや…明日1日だけ、貸してくれないか?旅の準備にいろいろと買いたい物があるんだ。」
うむ。旅の支度にいろいろと買わねばならない物がある。
サバイバル用品は結構かさばるし、ちょっと貸してほしいと、コルトにそう言った。
「ん~…。まぁ…明日1日貸すぐらいならかまわんが…。」
「そうか!じゃあ明日の夕方、日が沈む前あたりに路地裏に来てくれ。そのころには買い物も終わるし!」
「わかった。大切に使うがよい。」
コルトは少し偉そうにそう言って、マジックバッグを渡してくれた。
「………そうだ、クルス。…おまえがいつも使っている鞄を少し貸せ。」
今度はマジックバッグを俺に渡し終えた、コルトがそう言ってきた。
「ん?これか?」
そう言われ、俺はいつも使っている鞄をコルトに渡す。
この鞄はハイバイソンの皮で出来ており、防水性もばっちりで、学校に行くときも使っている。
もちろん、旅に出る時も持って行くつもりだ。
コルトは渡した鞄を受け取ると、手を自分の頭の後ろに回した。
すると、
プチッ…
という音とともに、自分の髪の毛を抜いた。
しかし、抜いたと思った髪の毛は、次の瞬間、
ツヤツヤさらさらのピカピカの綺麗な毛の束になった。
そしてコルトはそれを俺の鞄に結び付けた。
「これは?」
なぜに毛をくくりつけたの?と思い聞いてみる。
「…ふんっ。ただの目印だ。おまえら人族は数が多いからな。…そう言えば昔、冒険者とやらがわたしの毛を取りに襲ってきたことがあったな。売ったら金になるのかもしれん。…好きにすればよい。気にするな。」
「…そうか。わかったよ。」
なんだろ…。まぁキーホルダーっぽいし、売ってもいいらしいし、別にいいか…。
今日がコルトと会う最後の日のはずだったけど、ちょっと借りものができてしまったので、明日も会うということもあり、マジッグバッグを受け取ると、俺はそのまま家路についた。
~~~~~~~~
「行ってきまーす!」
「気を付けるのよ~。」
翌日、俺は旅の準備をするべく、買い物に出かけた。
とりあえず、領都スイフまで行けるだけの荷物と、あとは基本的な物を買うつもりだ。
防具や武器なんかは領都スイフの方がいろいろ揃っているはずなので、そっちで買うつもりだ。
ちなみに領都スイフまでは馬車で4日程で着くのだが、俺はせっかくなので我が召喚獣、馬のオルフェの乗っていく予定だ。
まぁこの方が早く着くし、お金も節約できる。
それに馬車は他にも乗っている人がいて結構気を使いそうだし…。
…というわけで、道中のキャンプグッズみたいなものも買う予定だ。
まずは1人用のテントと毛布かな…。
あとはちょっとした鍋とナイフなどの簡易炊事セット。
食糧は旅立つ当日に準備するとして…それを入れておける袋だな…。
一応、ここラバンの街から領都スイフまでの道の間には、馬車の定期便が通っていることもあり、ところどころに休憩所みたいなものがあるらしい。
泊まるときは一応そこも使えるみたいだが、数に限りもあるようなので、キャンプグッズの準備は必須なのだ。
必要な物を頭の中で確認しながら歩き、俺は買い物をするお店に到着した。
「ラジアル商店」
この店はたぶんここラバンの街で1番大きいお店。
前にメルとロッテと買い物に来たこともあるお店で、何でも売っているデパートだ。
市場で買ってもいいかもと思ったが、買う物がいろいろあり、歩きまわると疲れそうというのと、テントや毛布を買う時はやっぱり新品の方が長持ちしそうでいいと思ったからだ。
…あとなんだか衛生的に。
ええっと…たしか…
1階は食品や服飾品、
2階が武具や生活道具、
3階は魔物の素材なんかを取り扱っていたはずだな…。
ということで俺は2階に向かった。
たしかこっちが道具コーナーだったな…。
と以前来た時の記憶を頼りに道具売り場へ向かった。
おお~…いっぱいあるな~。
道具売り場に着くと、たくさんの生活道具が並んでおり、当然俺のお目当てのテントや毛布もすぐに見つけることができた。
よし!と思い、財布の中身を確認する。
200,000ガル。
「これで好きな物を買ってこい!」
と冒険者になったお祝に父がくれたお金だ。
俺のお小遣いはこの前、オーガと戦ったときに使ったポーション代として消えてしまっていたのでとてもありがたい。
…まずは…テントだな。
そう思い、テントコーナーに向かう。
やっぱり防水性だよな~…。
あと丈夫な物。
…となると…やっぱり…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:居住具
・分類:テント
・材質:ハイバイソンの皮
・名前:---
これだよね…。
ハイバイソンの皮製のテント。
サイズは1人用で小さめものだ。
俺の鞄もこれで出来ている。
学校に通っている間ずっと使い続けたが、まだまだ使えそうだ。
とても丈夫だし、防水性もばっちりの品物だ。
値段はと…
「150,000ガル」
…だよなぁ~…。
これを買うと、あと50,000ガルしか残らない。
それで残りの品を買うとなるとちょっときびしい…。
まぁ、でも一応テントはこれをキープしておこう…。
次は、毛布だな。
と毛布売り場に向かう。
毛布も野営する際にはとても重要な品だ。
寒さで体力を奪われたらそれこそ命にかかわるからだ。
断熱性…。
あとやっぱり肌触り。
…となると…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:布
・分類:毛布
・材質:ホーンラビットの毛皮
・名前:---
これがほしいんだよね…。
ホーンラビットの毛皮はさわり心地が抜群だ!
…というわけで、冒険者のみならず街の人々皆に人気の品だ。
値段は…
「30,000ガル」
…うむ…。
まぁ…そうだろう…。
…これも一応キープ。
…これでテントと毛布合計180,000ガル。
あと使えるのは20,000ガル。
あとは鍋とナイフ、それに食糧をいれる袋か…。
おれはとりあえず、キッチン用品として売り場が固まっている鍋とナイフを見に行くことにした。
鍋とナイフ。
これも一応ほしい物は決めてある。
…やはり、野外で酷使して使う可能性が高い…となると…
「鑑定」
鑑定結果
・種類:剣
・分類:ナイフ
・材質:クレム鋼
・名前:---
そう。クレム鋼製のナイフだ。
クレム鋼製品は錆びにくく、お手入れが簡単なので是非我が冒険者道具のラインナップに加えたい。
また、ナイフは武器としても使えるが、小さいものは普通に調理器具として使われる。
メルが武器として使っているナイフより、小さい物を手に取ってみる。
…う~む。いい感じだ。
値段は…
「20,000ガル」
…うむ…。
まぁ…そうだろう…。
…これも一応キープ。
…しかし、これで父に渡された200,000ガルが尽きてしまう…。
あと鍋と食糧を入れる鞄もほしいんだけどな…。
う~ん…
…そういえば…3階で魔物の素材なんかを取り扱っていたはずだな…。
買取もしていたはず…。
…
……
「すいません。これの買取りをお願いしたいんですが…。」
「はい。買取りですね?こちらは…毛の束ですか…?」
「ええ…。家の棚の奥から出てきまして…。大事そうに保管されていたので、もしかしたら強力な魔物の毛かと思い…。」
もう少しお金が必要になった俺は、コルトから貰ったなんかの毛の束っぽやつを金になるかもと思い売ることにした。
「そうですか。それでは査定させて頂きますね?」
買取りをお願いした店員はそう言って俺の渡した毛の束をまじまじと見始めた。
「はい。よろしくお願いします。」
売ってもいいみたいなこと言ってたしな…。
うむうむ。ありがたい。
「…この毛…なんだ…見たことの無い…、て…店長、ちょっと来てもらえますか?」
毛の束を見始めた店員が店長を呼んだ。
ん~…まぁ妖狐の毛だしな…普通の魔物の毛と違うのかな…。
「ん?どうしたんだい?」
「こちら買取り希望で持ち込まれた毛の束なのですが…ちょっと今までに見たことの無い物でして…」
「そうか…ちょっと見せてくれ…」
店員に呼ばれた店長らしき人物が今度はその毛の束をまじまじと見始めた。
「…ん…?これは…いや…まさか…しかし…」
「…店長…?どうしたんですか?」
何かぶつぶつと言い始めた店長に店員が話しかける。
「…以前王都エスクの城で展示されていた物に非常によく似ている…」
「王都エスクの城に展示されていた物…ですか?…それは一体…」
「……妖狐の毛だ。」
「ええ!?妖狐の毛ですか!?そんな…一体いくらで買い取れば…。」
「…いやしかし、これは私だけでは判断できないな…他の者にも相談を…」
「…何をしている。」
買取りを頼んだ店員と店長のやりとりを眺めていると俺の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
少し低い女性の声だ。
声がした方向を振り向くと見覚えのある金髪のスレンダーな女性が立っていた。
「…あれ…?…コルト…夕方に路地裏でって…」
「…何をしていると聞いている。」
…あれ…?怒ってる…?
「あ…えーと…お金が足りなくなったから、素材の買取りを…」
「っまったく!それは売らん!」
俺の説明の言葉をさえぎるようにコルトは店長が持っていた毛の束を奪い取る。
「ああ!?お客様お待ちください!そちらの品はっ!!」
店長が必死に訴えるが、コルトはそのまま店から出て行ってしまった。
「ちょっ…ちょっとコルトってば!!」
「………」
「…どうしたんだ?…というかなんで俺がここにいることが分かったんだ?」
なんだかムスっとしているコルトに俺の疑問をぶつける。
今日買い物に行くとは伝えたけど、お店の場所は伝えてないし…。
「…その毛はわたしの毛だ。…持っていれば少し離れた場所にいてもどこにあるかわかるようになっておるのだ。まぁ…あまり時間が立つと効果は無くなってしまうがな。」
コルトは相変わらずムスっとしたままそう答えた。
…というかこの毛にそんなGPSみたいな機能が!?
「…なんでそんなのを俺の鞄につけたんだ?」
「…ふんっ。…クルスが運よくたまにこの街に帰って来れた時におまえの血でも舐めようかと思っただけだ。」
「そうなのか…。」
…たしかにうまいうまいと俺の血を飲んでいたな…。
しかも俺の血を飲むと、コルトに俺の魔力値が加算されるらしいし。
まぁ、今の俺の魔力値を加算してもあんまり意味ないだろうけど…。
「…だから…それは売るでない…。」
少し声が小さくなりながらコルトはそう言った。
「…わかったよ。じゃあこれは鞄につけたままにしておくな。」
「うむ。そうするがよい。」
今度は少し偉そうにコルトはそう言った。
「…う~ん…後、鍋と食糧を入れる袋…どうしよう…。」
ほんとは後2個買いたい物がある。
「昨日のオーガの角のクエスト報酬とやらがあるのではないか?」
「その報酬は領都スイフの街での宿泊費にする予定なんだ。」
ちなみに、受け取ると使っちゃいそうだから、この街を出発する時に報酬を受け取る予定だ。
「ん~…まぁ…いいか。領都スイフまではそんなに日数はかからないし。」
うむ。まぁ、食糧はとりあえず領都スイフのまでの分があればいいし、そのあと鍋とか買えばいいか。
と思い、鍋と食糧を入れる袋は諦めることにした。
食糧はいつも使ってる鞄に数日分なら少し入るしな。
ということで、俺はハイバイソンの皮製のテントと、ホーンラビットの毛皮製の毛布、クレム鋼製のナイフを買い、コルトから借りているマジックバッグに入れた。
ん~…便利!
ちなみにこれらの荷物、出発する時は、我が召喚獣、馬のオルフェにくくりつける予定だが、やっぱりいつかはマジックバッグがほしいな…。
「買い物は終わったから、一度家に帰って荷物を置いてくるよ。路地裏で待っていてくれ。…そうだ。せっかくだしシュクルムを買っていくよ。」
そんなわけで、買い物を終えた俺はコルトにそう言い、家に荷物を置いてくることにした。
~~~~~~~~~~
「ただいまー。」
「おかえり。いい物買えたか?」
父がそう話しかけてきた。
「うん!」
そう言って俺はマジックバッグから今日買ったものを取りだし、部屋に置いた。
この後の予定はコルトにマジックバッグを返すだけなので、他の荷物も全部置く。
「おお!?そりゃあマジックバッグじゃないか?どうしたんだ?」
父が驚きながらそう言った。
「これは、この前話したコルトの持ち物なんだ。今日1日貸してもらったんだよ。」
コルトはこの店に以前来たこともあるし、父にはコルトが持ってくる蜂蜜を売ってもらうことになっている。
「ほぉ~。それを買うのも父さんが冒険者をばりばりやってた頃の夢だったな!」
父はなんだか懐かしそうな顔をしながらそう言った。
「俺も頑張って買うよ!」
俺は引き出しから少なくなったお小遣い、2,000ガルを取りだしポケットに入れ、
マジッグバッグをコルトに返すため、路地裏に向かう。
…
……
………
「シュクルム菓子店」
最後だし、買って行ってやるとコルトに言ったので路地裏に向かう前にちょっと寄り道だ。
ちなみにこのシュクルム菓子店のシュクルムについてだが、この街を出ても食べられる。
というのも、このお店はなかなかの老舗で本店は王都エスクにあるみたいだ。
領都スイフにもあるみたいなので、安心だ。
やっぱり今日もシュクルムを買い求める人たちが並んでいる。
人気だな~と思いながら俺もその列に並ぶ。
しばらく並んでいると、
チャリンチャリ~ン
と音がした。
音のした方を見ると、1枚100ガルの鉄貨がいくつか散らばっており、小さな子供がそれを拾っていた。
たぶん、この子もコツコツ貯めたお金を握りしめてシュクルムを買いに来たんだろうな…。
そう思い、俺も散らばった硬貨を拾い集め、その子供の元に向かう。
「大丈夫か?」
そう言って拾い集めた何枚かの硬貨をその子供に渡した。
「うん!ありがとう!」
子供はそう言って硬貨を受け取ると、走り去っていった。
…あれ?シュクルムは買わないんだな…。
少し不思議に思いながらも俺は再び列に並んだ。
「お待たせしました。ご注文をどうぞ。」
「シュクルムを4つください。」
ようやく俺の番が来たので注文する。
今日は奮発して4つだ。
…でも1個は俺が食べる。
「かしこまりました。それでは2,000ガルになります。」
俺は準備してきたお金を取り出そうとポケットに手を入れる。
ゴソゴソ…
……あれ…?
ええっと…家を出る時にたしかポケットに…
…ゴソゴソ……
ん?……ゴソゴソ……
「…あの…どうされましたか…?」
「…あれ…?たしかポケットに……」
ゴソゴソ…
ゴソゴソ……
………ない。
「あの…2,000ガルになりますが…」
店員が再びそう言う。
「………あの…お金を落としたみたいで…」
「…そうですか…またの…お越しをお待ちしております…。」
少し悲しそうな目をしながら店員は俺にそう伝え、
俺は手ぶらで店を出た。
…
……
………
うぅ…シュクルム…。
…まぁ…残念だけど、しょうがないか…。
しかし、どこで落としたんだろう…。
家を出る時は確かにポケットに入れたと思ったんだけどな…。
ちょっと残念だが、お金が無いことにはどうにもならないので、俺はそのまま路地裏に向かった。
…
……
………
路地裏に着くと、見慣れた金髪の女性が待っていた。
「ん?シュクルムの袋はどうしたのだ?」
コルトは俺がいつも持ってくるシュクルムの入った袋が無いことにすぐに気付く。
「来る途中にお金を落としたみたいで……買えなかった…」
俺は肩を落としながらそう言った。
「…はぁ…。まったく…クルスはそう言うところが甘いのだ!」
「ぬぅ~……」
「…まぁ…金が無いのであればしょうがない。今日はシュクルムは諦めよう。」
コルトは少し残念そうな顔をしながらも、しょうがないと諦めてくれた。
ちょっと残念だけど、諦めてくれてよかった。
まぁ来週からは自分で買いに行って食べられるしな。
「それじゃあ、マジックバッグ返すよ。えっと………あれ…?」
………あれ…?
マジックバッグは手に持って家を出て…
と考えながら何も持っていない自分の両手を見る。
…シュクルム菓子店に並んで…
あ、そういえば並んでる途中で子供が落としたお金を拾うのを手伝って…
…あれ…?その時は鞄は手に持ったままだったかな…。
拾うために地面に置いたっけ…?
…あれ…?
「…どうしたのだ?早くマジックバッグを返せ。」
「あ…ちょっと待って今…」
ゴソゴソ…
ポケットには入れないよな…。
えっと…えっと…
何故か汗が噴き出す…。
「どうしたのだ?クルス。」
「あの…えっと…」
ゴソゴソ…
ゴソゴソ……
ゴソ………ゴソ………
「……クルス?」
「……………ない……みたい………」
「ん?ないとはどういうことだ?」
「あの…だから…その……家を出る時はあったんだけど……」
「まさか……なくしたということか…?」
「…そう……みたい………」
どどど…どうしよう……
なくした…みたいだ…落とした?
「どうするのだっ!あのバッグが無ければわたしはシュクルムを買う金が作れないではないかっ!」
「ご…ごめん…」
「ごめんではすまないであろう…」
「…もう一回…来た道を戻ってみる…。」
「まったく…。」
コルトはあきれ顔でそう言い、一緒に来た道をバッグを探しながら戻って見ることにした。
…
……
「シュクルム菓子店に並ぶまでは持っていたのだな?」
「…うん…。」
「とりあえず、そこまで戻るぞ。」
「……うん…。」
「なぜクルスが落ち込むのだ。落ち込みたいのはこっちだぞ。」
「うぅ~…」
そうかもしれないけど…
あのマジックバッグ…どうやらすごい高いみたいだし…
…見つからなかったらどうしよう…
不安な気持ちのまま俺とコルトはシュクルム菓子店までの道を戻りながらバッグを探した。
…
……
「ない…」
「ないな…」
一応シュクルム菓子店に落し物が届いてないか聞いてみたが無いみたいだった。
「ないのか…?」
「うん…。あ…あと…一応街の役所にも落し物が無いか聞いてみる…。」
俺はそう言い、街の役所の紛失物受付けにも言ってみることにした。
街には一応役所や郵便物を扱う場所がある。
ここからそう遠くない場所なので、そこにも一応行くことにした。
…
……
「あの…マジックバッグの落し物って届いてないですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。
「マジックバッグですか!?…落とされたんですか…?」
「はい…シュクルム菓子店の辺りかと思うのですが…」
「ん~…届いてないですね。とりあえず状況だけ説明お願いします。」
役所職員にそう言われ、俺は今までの状況を説明した。
「クルスさん…たぶんそれ…スリじゃないでしょうか…。」
「え…?…スリ…?」
「人通りの多いところでお金をばら撒いて注意を引いている間にいろいろ盗んでしまう、という手法のスリの被害が最近多いんですよ…。たぶんそのシュクルム菓子店でお金を拾っているときに…。」
「ええ!?」
…あれ…そういえば、前世で海外に行った友達がそんなのにあっていた話を聞いた気がしなくもない…
「ど…どうすれば…」
「残念ですが、戻ってくるというのは厳しいかと…。」
「そ…そうですか…。」
俺は肩を落としながら役所を後にした。
…
……
………
「…で、どうするのだ。これではわたしはシュクルムを食べられんぞ。それにあのバッグは便利で気に入っていたのだぞ。」
「ど…どうしよう…」
…
……
「………クルスが責任を取るしかないであろう…。」
コルトは少しにやりとした表情でそう言った。
「…え…?責任…?」
切腹とか!?
でも、俺が切腹してもマジックバッグは戻ってこないぞ…?
「そうだ。これではわたしはシュクルムを食べられん。クルスがなんとかするしかないであろう…。」
「え…でも…どうやって…」
「冒険者になってたくさん稼ぐのであろう?その金でシュクルムを買えばよい。マジックバッグもな。」
「え…でも俺この街を出るし…」
「他の街にもこの店があるであろう?」
「な…なんで知ってるんだ!?」
「くっくっく。昔、少し聞いたことがあってな。」
「…ん?ということはコルト俺についてくるってこと?」
「っついて行くのではない!クルスが責任を果たせるようにしてやるだけだ!」
「…ということは…つまり…ついてくるって…」
「っ違うと言っているであろうっ!それともなにか?今すぐマジックバッグを弁償出来るのか?」
「あ…いや…」
「安心しろ。シュクルムを買ってきたら今まで通り、修行もつけてやろう。ああ…その時は血は少しばかり飲ませてもらうがな…。」
「そこは別に心配してなかったところだけど…。」
「くっくっく。気にするな。わたしが自分で決めたことだ。……社会人だからな。」
コルトはいつものにやりとした表情で偉そうにそう言った。
「……そうか。」
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