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第二章 「神に愛されなかった者」
#25 お前とは違う
しおりを挟むエルフの少女へと続くその光の矢の軌道は、終着点を前にして途切れた。
光の矢が弾ける。
幾何の轟音と、光の閃光が辺りを包む中、その事象の中心に俺はいた。
「――何のつもりです?」
自分の攻撃を阻止された苛立ちからか、オルソンは俺を睨みつけながらその言葉の語気を強める。
そのオルソンの反応に呼応するかのように、クラードやフィリーも驚きの声と表情を浮かべた。
ここにいる奴らからしたら、この状況があり得ないんだろう。
神に愛されなかった者が、誰かに助けられるというこの状況が。
「こいつが殺されるようなことはないと思った。だから助けた」
それは俺の今までの常識だ。
異世界の常識がどうであれ、目の前で少女が殺されてたまるか。
エルフの少女を一瞥すると、表情は乏しいがこちらをまじまじと見ているのが分かった。
きっと彼女もまた俺のことを不思議に思っているのだろう。
それが無性に不思議に見えた俺は、小さく笑った。
「変わった思想をお持ちなようですが、退いた方が身のためです。私を敵に回すことは、マリス教を敵に回すことになりますよ?」
次の攻撃を邪魔するようなら容赦しません、という言葉を発しながら、そいつは詠唱を始める。
先ほどよりも強い光を放つその魔法の矢がこちらに向けられる。
「――死にますか?」
空気を割くような音と共に、その矢は飛んでくる。
俺はそれを真正面からこんぼうを盾に受け止める。
「……ん」
こうぼうの盾では収まり切れなかった、光の欠片がパチパチと音を立てて身体に突き刺さる。
物理攻撃ではしばらく味わったことのない痛みが襲うが、それはクラゲに刺された程度の痛みで大したことはない。
「神に愛されなかった者だかマリス教だが何だか知らないけど……」
こんぼうを振り、その光の欠片を吹き飛ばす。
「そんなどうでもいい理由で、こいつを殺していいことにはならない」
閃光が消え、辺り一面が晴れた時、対面していたオルソンは静かに口を開いた。
「先ほどからあなたは屁理屈ばかり。また、私やマリス教まで馬鹿にするような言動。許せません許せません」
その一言一言に力を籠めるような口調の最後に、オルソンは冷めた目つきでこちらを一瞥した。
「どうやらあなたは、その少女と一緒に死にたいようです?」
ピキピキと血管が浮き上がると、先ほどまで青白かったオルソンは赤く染まる。
どうやら本気で怒らせたらしい。
先ほどとは比べ物にならない早く強い口調で、オルソンは詠唱を始める。
――下手に攻撃を食らいたくないし、先手必勝だな。
そう思い、俺は奴の懐まで走り、こんぼうを振り上げようとする。
が、その瞬間、脳裏にフラッシュのようにその疑問が走る。
あまりにも予想できうる未来の光景が、脳裏に浮かび上がる。
俺の攻撃によって、それははじけ飛ぶ。
脳が破裂し、赤い鮮血に染まった、その肉塊。
それはオルソンの頭だったもの。
「――っ!?」
――このまま攻撃したら、こいつ、死ぬのか?
その光景が脳裏に浮かんだ瞬間、俺は踵を返し間を取った。
その瞬間、オルソンの詠唱が終わり、光魔法の攻撃が飛んでくる。
「私に恐れをなしましたかぁ!?」
こんぼうでいくらか振り払うが、全ては防ぎきれない。
チクチクとした痛みを伴うそれを、身体に受けながら少女の盾になる俺。
ダメージという点では全くだが、何度も食らいたくはないというのが本音だ。
「……耐久だけはあるみたいですねぇ」
その一連の攻撃がいったん終わるのを見届けると、俺は小さく息を吐いた。
――どうする?
人殺しが嫌だからこの状況になったのに、俺がこいつを殺したらそれこそ同じ穴の狢だ。
殺したら、こいつと同じことをすることになる。
殺さないで、オルソンを倒す。
手加減してもオーバーキルな攻撃を出してしまう俺にそれができるだろうか。
「……いや」
できるかじゃない。
やるんだ。
そう決意を固めると、俺にある名案が浮かぶ。
間髪入れず、俺はそれを行動に移した。
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