SUN×SUN!

楠こずえ

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第1話:ひまわりと太陽(その3)

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その日のお昼、屋上に何気にやって来たひまわり。
今日は快晴かいせいで、さわやかな風がドアを開けた瞬間吹き込んできた。

「ん~っ!さわやかです!
お昼寝でもしたい気分ですね・・・」

ぐっと体を伸ばして、ふと左を見た瞬間ギョッとした。
女の子が屋上のさくをまたいで、
乗り越えようとしているではないか。

「ダッ、ダメ~!ダメダメ!
早まっちゃダメです!」

あわてて女の子の体をガシッとつかむひまわり。

急に後に引っ張られた女の子はびっくりして
バランスをくずしたため、
2人は床にバタンと倒れこんだ。

「ちょ、ちょっと何するのよ!
私はただハンカチを落としたからさくを越えて
取りに行こうとしてただけなのに!
誰も飛び降りなんかしないわよ」

「そ・・・そうでしたか・・・。
でも危ないですよ」

ひまわりはホッと安心したが、
女の子の顔を見てまたギョッとした。

確かこの子は朝、桐島太陽に告白してふられた子だ。

気まずくなるのがイヤで、ひまわりは思わず、
「じゃあ、私はこれで・・・」
と逃げようとした時だった。

 屋上の出入り口の方から、
「ねーねー、知ってる?
 今日の朝、太陽に告白してた子って
1年3組の安井さんでしょ?」

「ほんと、バカだよね~。
あんなたくさんの人の前で告白するなんて考えられないわ。
もう完全に学年中にウワサも広まってるし」
と3、4人の女の子達がワイワイ騒ぎながらやって来た。

『本人いるのに!』

びっくりしたひまわりが、
おそるおそる安井さんの方に振り返ると、
みるみる表情が暗くなって、今にも泣き出しそうだ。

「わ・・・私だって・・・バカだって分かってたけど・・・、
 好きっていう気持ちが止まらなかったもん・・・。
だから、この気持ちを太陽くんに伝えただけなのに・・・」

そう言うと、ポロポロと涙を流し始めた。

ひまわりは、
どうしていいか分からずオロオロしていると、
安井さんは急に攻撃的こうげきてきな口調で、
「好きだから告白してふられることが
そんなに悪いことなの?
ウワサしている女の子達に何か迷惑かけたっていうの?」
と言ってきたので、
「い、いえっ!決してそんなことはないですっ!」
と、必死に答える。

それからしばらく安井さんは「ワンワン」泣いて、
 涙が枯れた頃に、またポツリポツリとしゃべり出した。

「ヒック・・そりゃ、太陽くんはもてるから、
ヒック・・ふられると思ってたし、
ふられても平気だと思ってた・・・ヒック。
でも、違うかった・・ヒック・・・
遠くから眺めていただけだったけど、
『好き』は『好き』だったもん・・・。
やっぱりふられたら、こんなにも辛くて苦しくて・・・
どうやったら、この気持ち、忘れられるの?」

そして再び泣き始めたので、ひまわりも心が苦しくなっていく。

なぐさめの言葉をかけたかったが、
恋愛経験も人生経験もそれほど無いので、
ただ黙って隣で立っているしかない自分が
歯がゆかった。

『この雰囲気・・
失恋した人から感じる絶望感ぜつぼうかんの真っ黒な重苦しい空気・・・
比較的早く立ち直れる人もいるけど、
安井さんは長くひきずって体調を崩すような予感がする・・・』

そう思うのはナゼだかは分からない。

でも昔から、ひまわりは
目の前にいる人の顔を見ていると
その人がどんな気持ちでこれからどうなっていくのか、
なんとなく分かることが多いのだ。

そしていつも祖母がひまわりにこう話していた。

「いいかい、ひまわり。
お前には不思議な力があって占いで人を癒すことができるんだよ。
ただ、今のお前には勇気と自信が足りない。
強い気持ちで自分の心と向き合えば、
きっとお前の力は大きなものとなるだろう」

ひまわりは目の前で泣いている安井さんを見つめながら思った。

『私だって・・・安井さんを元気づけてあげたいです。
そのために占いの力を使えるのなら、使いたいです。
でも・・もし最悪な結果が出たらどうしたらいいんです?
それこそ安井さんをさらに凹ますことになるんじゃ・・・』

失敗することを考えると、
またもやひまわりの勇気はしぼんでいった。

何も自分が占いをやる必要はないわけだし、はげまし方は別にもある。

そう開き直ったひまわりは、安井さんの手をにぎり、
「ね!元気出してください!
きっと良いことがありますから―」
と元気づけようとした瞬間、
「そういえば今日の朝、3組の安井さんがふられてたでしょ?」
「見た見た。いい恥さらしよね」
と、さっきとは違う女子たちが屋上に現れ
ウワサして笑っている。

「・・・・・・」

安井さんがポツリとつぶやいた。

「私・・・もう学校に来たくない・・・」

さっきよりももっと黒くて重い負のオーラが
彼女を取り巻いたのを見たひまわりは、
「ダメダメダメ!ダメです!
安井さん!私が安井さんの未来を占ってあげます!」
と思わずポケットからタロットカードを取り出してしまった。

『やっぱりこのまま放っておけないです!
占い師としてはやっちゃいけないけど、
悪い結果が出ても元気が出るように良いことを言って
何とかはげましましょう!』

こうして、ひまわりによる
即席そくせき「タロット占い部屋」が開かれることになった。

そこは校舎の屋上で、
ちょうどその時は周りに人もおらず、さわやかな風だけが吹き抜けていく。

ひまわりは愛用のタロットを、
床に敷いたハンカチの上に並べ始めたのだが、
1名だけこの様子を
屋上よりもう少し高い位置にある給水棟から眺めている人物がいた。

その人物こそ、
安井さんが告白した学年一の人気者桐島太陽だった。

「へ~、うちの学校に占いができるヤツがいたとはねえ・・・。
ま、素人レベルだろうけど、様子見てみるか」

そうつぶやくと、太陽は再び
2人の様子に目を向けた。
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