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あの時(凛編2)/異変

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 私の体を使った人体実験。
 その結末は、私の死?
 自分がどうなるのかすら分からないまま覚悟を決め、目を閉じた私。

 何も聞こえない静かな時間が流れていく。
 それは私の心がすべての音を遮断しているからではない。
 本当に静かな世界。

 このまま時は流れ続けるの?
 いたたまれず、私は目を開いた。

 大きなガラスの向こうでは、男たちが装置の点検をしているかのように、視線を向け指さしのような動作をしている。
 何か喋っているようだけど、その声は私のところには届かない。

 まだ準備のための確認中?
 私の体が実験に使われるのはまだ少し先?
 どんな殺され方をするの?

 そんな事を思うと恐怖がこみ上げてくる。
 何もされていなくて、恐怖に満たされた時間の流れの中でなんか、生きていたくない。
 いっそのこと、一思いに今すぐ殺してくれた方がいい。
 それから、勝手に私の体を自由にすればいい。
 もう私はこの世にはいないのだから。

 微動だにできない肉体的抑圧と、恐怖と言う精神的暴力に包まれ続けている私の耳に機械的な音が聞こえ始めた。

 ウィーン、ウィーン。

 何の音?
 ガラスの向こうの男たちは、私を見つめている。

 電動のこぎりが回転音をうならせ、私の体を切り刻んでいくイメージが脳裏に浮かんでいく。
 せめて痛い目には遭いたくなかった。
 視覚から入ってくる恐怖だけでも遮断したくて、再び目を閉じた。

 ウィーンと言う機械音は続いている。
 その音は足元の方から聞こえていたはずだけど、少しずつ上がって来ている気がして、目を開いた。

 体を動かすことができない中、眼球だけを下に向けて、何がどうなっているのか知ろうとした私の視界の片隅に動くものを発見した。

 焦点をその物体に向ける。
 それは私を閉じ込めていたガラスの筒の周りを高速で回っていた。

 ガラスの筒の外側。
 決して、私を切り刻むのこぎりなんかじゃない。
 なんなの、この装置。

 一度は死を覚悟した私だった。でも、今のところ、危害らしいものは加えられていない。
 ただ単に動けないだけ。自由がないだけ。このまま耐えていたら、助かるのかな?

 何が起きているのか分からず、自由を奪われた時間だけが過ぎていく。
 ガラスの筒の周りをまわっていた装置は、私の腹部を過ぎ、胸部を過ぎ、やがて私の頭上を越えて停止した。

 私の周りの空間に静けさが戻って来た。

 終わったの?
 私は助かったの?
 これはいったいなんだったの?

 ちょっとした安堵感に包まれ始めた私の耳に新たな異音が届けられた。

 シャーッ、シャーッ。

 身動きが取れない私には、右横から聞こえるそれが何の音なのか確かめる事もできない。

 私はいつまでここにいなければならないの?
 この異音が止まれば、解放されるの?

 異音はさっきの回転音と比べ、長くは続かなかった。
 異音が停止すると、ガラスの向こうの男たちの動きが激しくなった。

 でも、私は相変わらず体を身動き一つできないくらい固定されたままだった。
 動くことができない今の私に届けられる刺激は、視界に入る窓の向こうの男たちの姿だけ。ガラスの向こうの声はこちらには聞こえてこない。
 ただ、男たちの雰囲気だけはその表情と動きから伝わって来ていた。

 最初は緊張感、そして私の横の装置が止まると歓喜に、そして緊張感を漂わせたかと思っていると、今はもめだしている。

 一人は部屋の上の方、きっとモニターか何かがあるんだろう場所を指さして、何かわめいている。
 その表情は怒っている風だ。
 他の男たちはその男をなだめているようでもあり、無視しているようでもある。

 私をこんな目に遭わせておきながら、まるで私なんかいないかのように、仲間割れ?
 やがて、わめいている風だった男がガラス近くに駆け寄って、何かを操作するような仕草をした。

「システムはマニュアル操作による緊急停止に入りました」

 そんな音声が部屋に響いた。
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