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暗殺者? 服部
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俺に向けて蜘蛛の糸の攻撃を仕掛けてきた神の使い。
そいつに向かって、あかねソードを盾のモードにして突進していく。
「うぉぉぉぉ」
ほんの少し盾を上げて、地面との間に隙間を作ると、雄たけびを上げさらに加速した。
あかねソードの光の盾は全てを無に帰す。
今、あいつがその力を悟り、反転しようとしても、俺に蜘蛛の糸を向けて攻撃していた体勢からでは、間に合いやしない。
あかね色の光と地上の隙間に、神の使いの足が見えた。
追いついた。
「ぎゃあ」
そんな悲鳴と鉄のにおい、髪の焦げるにおいが俺の聴覚と嗅覚を襲う。
そして、俺はまるで脱ぎ捨てた靴かのように、地上に残された神の使いの足首付近から下の部位を通り過ぎて、立ち止まった。
これで神の使いは全て葬った。
が、残るは最強の敵 偽物 凛。
気合を込め、精神を集中させながら、あかねソードをソード状に戻して、残るラスボス 偽物 凛に向けて構えた。
「よくもやってくれたわね」
偽物 凛が言った。
俺が今まで知っている凛が見せた事がないような怒りの形相だ。
こいつがどんな強かろうと、負ける訳にはいかない。
もう一度、気合を入れなおす。
「颯太って、私を斬る気なのかな?
ううん。斬れるの?」
そう言って、今度はにこりとした表情を俺に向けて、一歩、一歩、ゆっくりと偽物 凛が近づいて来た。
俺が見ていたいと、いつも思っていた凛の笑顔。
本当に、俺はこいつを躊躇なく斬れるのか?
そんな思いを頭を振って、意識の中から振り落とす。
凛の容姿をしていたって、やらなければならない。
「お前を倒すっ!」
自分自身を言い聞かせるため、大きめの声でそう言うと、あかねソードを握る手に力を込めた。
「お兄ちゃん」
背後であかねの声がした。俺を応援してくれている。
あかねを危険な目に遭わせないためにも、こいつは俺の手で倒さなければならない。
「待て、あかね」
「でも」
背後で俺の父親の声がした。俺の父親があかねを引き留めているらしい。背後で何がどうなっているのか、振り返って確かめている余裕はない。
目の前の偽物 凛はゆっくりとだが、俺に近づいてきていて、こいつに全神経を集中していなければ、俺は肉塊と化してしまう。
「颯太。
私のところに戻って来て。
ねっ?」
俺に迷いはない。そんな事を自分の心の奥に確かめてみるが、あかねソードの切っ先が微妙に震えているのが、俺の本心を映し出している。
「また私をぞくぞくさせて」
「凛!」
偽物 凛の筈だと言うのに、「凛」とその名を口走った。
しまった!
心の迷いに気づいた時には、一瞬にして、偽物 凛は俺の目の前に立っていた。
あかねソードの間合いではなく、完全に俺の懐の中。俺に反撃の手段は無い。
「ねぇ。颯太。
さようなら」
そう言うと偽物 凛がにこりと微笑んだ。その言葉と微笑みの意味。それは俺との永遠の別れ、俺の死だ。
元の世界では遠い存在だった”死”のなんと近い事か。この世界に来てから、生を諦めたのはこれが初めてじゃない。
「ごめん、あかね」
そう俺がつぶやいた時、目の前の偽物 凛がびくっと動いたかと思うと、白目をむいて倒れ込んできた。偽物 凛が崩れ落ち、俺の胸にその顔をぶつけた。
「おい、凛」
偽物 凛だと言うのに、そう呼び掛けて、体を支えてしまった。
俺とそう身長が変わらない偽物 凛が崩れ落ち、開けた視界に飛び込んできたのは、崩れ落ちた偽物 凛のすぐ背後に立つ服部だった。真剣な表情で、その右手に持つかんざしの尖った先には、真っ赤な血が染みついているじゃないか。
何が起きたんだ?
ここで今起きた事を把握できず、偽物 凛の死体を抱きしめたままの俺の耳に、服部のツンツン声が飛び込んできた。
「いつまで、そんな女を抱きしめているのよ!」
「そうだよ。お兄ちゃん。
凛ちゃんにだって、お兄ちゃんは渡さないって言ってるじゃない」
はるか背後から、あかねも参戦して来た。
「あ、ああ、そうだな」
そうは言ってみたが、このまま手を離すと、凛の容姿をした腕の中の死体は路面に落下し、それなりのダメージを与えてしまう。いくら偽物でも、そんな事は俺にはできず、抱きかかえたまま路肩に寄せて、寝かした。
肩までの黒のストレートヘア。
ふくよかな頬にも負けない通った鼻筋とどこにも視線が合っていない大きな瞳。
しゃがみ込み、開いたままの偽物 凛の瞳を手で閉じさせると、そのまま両手を合わせた。
さっきまで倒す気でいた相手だが、やはり凛の容姿の死体は見たくない。
本物の凛はこんな目に遭わせたくない。
「あー、もう。ひどい目に遭ったわ」
矢野の声が聞こえてきた。その声の方向に目を向けると、ビルの窓際で体とライフルにまとわりついた蜘蛛の巣を取り払っていた。
「これで終わったのか?」
ちょっとした安堵感と、偽物とは言え、凛の死体の存在に締めつけられる気持ちに包まれながら、辺りを見渡した。
死んでしまったのは神の使いたちだけではない。ビルから落とされた多くの者たちが血に染まっていた。
多くの犠牲に胸をさらに痛めている俺の視界に、腕組みをして威張った表情の服部の姿が映った。さっき右手に握られていたかんざしはいつも通り、服部の髪を飾り付けていた。
服部はただ者じゃない。その姿は昔のTVで見た暗殺者。確か俺の事も「守ってあげないんだから」とか言っていたが、どうやらマジで言っていたらしい。
「服部、お前は?」
「べ、べ、別に水野が葉山の事好いているから、憎くて殺したんじゃないんだからねっ!
水野じゃあ、そいつを殺せなくて、逆に殺されるんじゃないかと思ったから、守ってあげただけなんだからねっ!
水野も自分のことくらい、自分で守ってよね。
そいつは葉山の姿をしていたって、葉山じゃないんだから。
外見に惑わされてるんじゃないわよっ!」
やはり、服部が偽物 凛を倒したらしい。
「ありがとう」
「水野にありがとうって言われたって、別にうれしくなんかないんだから!
そんな事言われたくて、守った訳じゃないんだから!
た、た、ただ……」
なぜだか、服部はそこまで言って、次の言葉を止めてしまった。
「ただ?」
「ただ、水野が好きだから……」
俺の事が好き?
あれだけツンツンな態度を取っていながら、それはあり得ない。としたら、この言葉の意味は何なんだ?
「俺が好きって、どう言う意味なんだ?
俺の事が好きって訳じゃないよな?」
「あ、あ、当たり前じゃない。
私が水野の事好きな訳ないじゃない。
た、た、ただ、水野が好きそうな女の子へ一突きするのが、私も好きって事!
こうやって!
ぐいっと、角度も大事なのよね。そして、奥まで入れて!」
服部が再び髪から抜いたかんざしを手に、仕草を交えて言った。
なぜだか服部の顔は赤らんでいる。
その言葉と言い、妄想的な事が服部の脳裏に浮かんで、赤らんでいるのかもなんて、思った時だった。服部が一瞬の内に表情を変え、はっとした表情で偽物 凛や神の使いたちが現れた側の道路に目を向けた。
「まだ終わっていないよ、お兄ちゃん!」
「来るぞ!」
そう叫んだあかねとひなた父に視線を向けると、服部と同じ方向を見て、戦闘態勢に入っていた。慌てて、あかねソードを構えながら、その視線の先に目を向けた。
「おやまあ、困った事になりましたですね」
視線の先には教会の教祖 高山と、その横に立つ二人の少女の姿があった。その二人の少女は、いつだったか高山と会った時にも高山の横にいた子たちだ。
そして、その三人の背後で、高さは大人の腰の辺りまで、足が六本、形状はまさにてんとう虫のような得体の知れないデバイスが怪しげな金属光沢を放っていた。
そいつに向かって、あかねソードを盾のモードにして突進していく。
「うぉぉぉぉ」
ほんの少し盾を上げて、地面との間に隙間を作ると、雄たけびを上げさらに加速した。
あかねソードの光の盾は全てを無に帰す。
今、あいつがその力を悟り、反転しようとしても、俺に蜘蛛の糸を向けて攻撃していた体勢からでは、間に合いやしない。
あかね色の光と地上の隙間に、神の使いの足が見えた。
追いついた。
「ぎゃあ」
そんな悲鳴と鉄のにおい、髪の焦げるにおいが俺の聴覚と嗅覚を襲う。
そして、俺はまるで脱ぎ捨てた靴かのように、地上に残された神の使いの足首付近から下の部位を通り過ぎて、立ち止まった。
これで神の使いは全て葬った。
が、残るは最強の敵 偽物 凛。
気合を込め、精神を集中させながら、あかねソードをソード状に戻して、残るラスボス 偽物 凛に向けて構えた。
「よくもやってくれたわね」
偽物 凛が言った。
俺が今まで知っている凛が見せた事がないような怒りの形相だ。
こいつがどんな強かろうと、負ける訳にはいかない。
もう一度、気合を入れなおす。
「颯太って、私を斬る気なのかな?
ううん。斬れるの?」
そう言って、今度はにこりとした表情を俺に向けて、一歩、一歩、ゆっくりと偽物 凛が近づいて来た。
俺が見ていたいと、いつも思っていた凛の笑顔。
本当に、俺はこいつを躊躇なく斬れるのか?
そんな思いを頭を振って、意識の中から振り落とす。
凛の容姿をしていたって、やらなければならない。
「お前を倒すっ!」
自分自身を言い聞かせるため、大きめの声でそう言うと、あかねソードを握る手に力を込めた。
「お兄ちゃん」
背後であかねの声がした。俺を応援してくれている。
あかねを危険な目に遭わせないためにも、こいつは俺の手で倒さなければならない。
「待て、あかね」
「でも」
背後で俺の父親の声がした。俺の父親があかねを引き留めているらしい。背後で何がどうなっているのか、振り返って確かめている余裕はない。
目の前の偽物 凛はゆっくりとだが、俺に近づいてきていて、こいつに全神経を集中していなければ、俺は肉塊と化してしまう。
「颯太。
私のところに戻って来て。
ねっ?」
俺に迷いはない。そんな事を自分の心の奥に確かめてみるが、あかねソードの切っ先が微妙に震えているのが、俺の本心を映し出している。
「また私をぞくぞくさせて」
「凛!」
偽物 凛の筈だと言うのに、「凛」とその名を口走った。
しまった!
心の迷いに気づいた時には、一瞬にして、偽物 凛は俺の目の前に立っていた。
あかねソードの間合いではなく、完全に俺の懐の中。俺に反撃の手段は無い。
「ねぇ。颯太。
さようなら」
そう言うと偽物 凛がにこりと微笑んだ。その言葉と微笑みの意味。それは俺との永遠の別れ、俺の死だ。
元の世界では遠い存在だった”死”のなんと近い事か。この世界に来てから、生を諦めたのはこれが初めてじゃない。
「ごめん、あかね」
そう俺がつぶやいた時、目の前の偽物 凛がびくっと動いたかと思うと、白目をむいて倒れ込んできた。偽物 凛が崩れ落ち、俺の胸にその顔をぶつけた。
「おい、凛」
偽物 凛だと言うのに、そう呼び掛けて、体を支えてしまった。
俺とそう身長が変わらない偽物 凛が崩れ落ち、開けた視界に飛び込んできたのは、崩れ落ちた偽物 凛のすぐ背後に立つ服部だった。真剣な表情で、その右手に持つかんざしの尖った先には、真っ赤な血が染みついているじゃないか。
何が起きたんだ?
ここで今起きた事を把握できず、偽物 凛の死体を抱きしめたままの俺の耳に、服部のツンツン声が飛び込んできた。
「いつまで、そんな女を抱きしめているのよ!」
「そうだよ。お兄ちゃん。
凛ちゃんにだって、お兄ちゃんは渡さないって言ってるじゃない」
はるか背後から、あかねも参戦して来た。
「あ、ああ、そうだな」
そうは言ってみたが、このまま手を離すと、凛の容姿をした腕の中の死体は路面に落下し、それなりのダメージを与えてしまう。いくら偽物でも、そんな事は俺にはできず、抱きかかえたまま路肩に寄せて、寝かした。
肩までの黒のストレートヘア。
ふくよかな頬にも負けない通った鼻筋とどこにも視線が合っていない大きな瞳。
しゃがみ込み、開いたままの偽物 凛の瞳を手で閉じさせると、そのまま両手を合わせた。
さっきまで倒す気でいた相手だが、やはり凛の容姿の死体は見たくない。
本物の凛はこんな目に遭わせたくない。
「あー、もう。ひどい目に遭ったわ」
矢野の声が聞こえてきた。その声の方向に目を向けると、ビルの窓際で体とライフルにまとわりついた蜘蛛の巣を取り払っていた。
「これで終わったのか?」
ちょっとした安堵感と、偽物とは言え、凛の死体の存在に締めつけられる気持ちに包まれながら、辺りを見渡した。
死んでしまったのは神の使いたちだけではない。ビルから落とされた多くの者たちが血に染まっていた。
多くの犠牲に胸をさらに痛めている俺の視界に、腕組みをして威張った表情の服部の姿が映った。さっき右手に握られていたかんざしはいつも通り、服部の髪を飾り付けていた。
服部はただ者じゃない。その姿は昔のTVで見た暗殺者。確か俺の事も「守ってあげないんだから」とか言っていたが、どうやらマジで言っていたらしい。
「服部、お前は?」
「べ、べ、別に水野が葉山の事好いているから、憎くて殺したんじゃないんだからねっ!
水野じゃあ、そいつを殺せなくて、逆に殺されるんじゃないかと思ったから、守ってあげただけなんだからねっ!
水野も自分のことくらい、自分で守ってよね。
そいつは葉山の姿をしていたって、葉山じゃないんだから。
外見に惑わされてるんじゃないわよっ!」
やはり、服部が偽物 凛を倒したらしい。
「ありがとう」
「水野にありがとうって言われたって、別にうれしくなんかないんだから!
そんな事言われたくて、守った訳じゃないんだから!
た、た、ただ……」
なぜだか、服部はそこまで言って、次の言葉を止めてしまった。
「ただ?」
「ただ、水野が好きだから……」
俺の事が好き?
あれだけツンツンな態度を取っていながら、それはあり得ない。としたら、この言葉の意味は何なんだ?
「俺が好きって、どう言う意味なんだ?
俺の事が好きって訳じゃないよな?」
「あ、あ、当たり前じゃない。
私が水野の事好きな訳ないじゃない。
た、た、ただ、水野が好きそうな女の子へ一突きするのが、私も好きって事!
こうやって!
ぐいっと、角度も大事なのよね。そして、奥まで入れて!」
服部が再び髪から抜いたかんざしを手に、仕草を交えて言った。
なぜだか服部の顔は赤らんでいる。
その言葉と言い、妄想的な事が服部の脳裏に浮かんで、赤らんでいるのかもなんて、思った時だった。服部が一瞬の内に表情を変え、はっとした表情で偽物 凛や神の使いたちが現れた側の道路に目を向けた。
「まだ終わっていないよ、お兄ちゃん!」
「来るぞ!」
そう叫んだあかねとひなた父に視線を向けると、服部と同じ方向を見て、戦闘態勢に入っていた。慌てて、あかねソードを構えながら、その視線の先に目を向けた。
「おやまあ、困った事になりましたですね」
視線の先には教会の教祖 高山と、その横に立つ二人の少女の姿があった。その二人の少女は、いつだったか高山と会った時にも高山の横にいた子たちだ。
そして、その三人の背後で、高さは大人の腰の辺りまで、足が六本、形状はまさにてんとう虫のような得体の知れないデバイスが怪しげな金属光沢を放っていた。
応援ありがとうございます!
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