6 / 18
【6話】ブルーブラッド家での初仕事
しおりを挟むルシルの部屋を出たアリシアは、近くにいたメイドに声をかける。
「メイド長に話したいことがあるのだけど、どちらにいるのかしら?」
「今でしたら一階の通路にいらっしゃるかと。ちょうど私も一階へ行くところでしたので、ご案内いたしますよ」
「ありがとう。とても助かるわ」
三階から一階へと降りた二人。
メイドの後ろについて、アリシアは通路を歩いていく。
通路の掃除をしている気さくな雰囲気をしたメイド。
その人物の前で、案内してくれたメイドの足が止まった。
「メイド長。奥様からお話があるようです」
「分かったわ。ご苦労様」
「それでは、失礼いたします」
ここまで案内してくれたメイドは、アリシアとメイド長に頭を下げ、この場を去っていった。
「初めまして、奥様。メイド長をしているエイラです」
「私はアリシアよ。よろしくね、エイラ。それで話のことなんだけど、あなたに頼みたいことがあるの」
家事仕事をしたい旨を伝える。
エイラは驚いていたが、すぐに笑顔になった。
「家事をしたがる令嬢に、初めて会いました。このエイラ、とても感激しております」
「ふふふ、そんなに立派なものじゃないわ」
気持ちの良いエイラの笑顔につられて、アリシアも笑顔になる。
「奥様には私のお手伝いをしていただこうと思いますが、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
「それではまず、掃き掃除からお願いいたします」
「任せて」
エイラから箒を受け取ったアリシアは、慣れた手つきで掃除をしていく。
掃き掃除は、フィスローグ家で何回もやってきたことだ。
迅速丁寧に掃除をするコツは、体に染み込んでいる。
「おお……!」
アリシアの掃除ぶりを見たエイラが感嘆の声を上げた。
そしてそれは、彼女だけではない。
近くにいた他のメイドたちも、アリシアの掃除ぶりに感動しているかのような素振りを見せていた。
「なんという素晴らしい仕事振り! 旦那様はものすごい方を妻に迎えられたようですね」
「ありがとうエイラ。お世辞でも、そう言ってくれると嬉しいわ」
「いえいえ、決してお世辞などではありません。みんなもそう思うわよね?」
エイラの声に、他のメイドたちは大きく頷いた。
「エイラさんの言う通りだわ」
「とっても可愛らしい上に掃除もできるなんて、なんてすごい奥様なのかしら!」
数々の称賛の声を受けたアリシア。
少し恥ずかしいながらも、顔には大きな笑顔が浮かんでいた。
こうして仕事振りを評価してもらえるというのが、素直に嬉しかった。
それからもテキパキと家事を行っていく。
時間はどんどん過ぎていき、気づけば外が暗くなり始めていた。
「今日の仕事はここまでです。お疲れ様でした奥様」
「エイラもお疲れ様。色々とありがとうね」
「いえいえ、感謝するのは私の方です。奥様の家事テクニックのおかけで、かなり捗りましたから」
エイラがニコリと笑った。
「そろそろ夕食の時間になります。食堂に参りましょう」
「分かったわ」
エイラと一緒になって、アリシアは食堂へ向かった。
食堂の食卓テーブル。
ルシルの対面に座ったアリシアは、夕食を食べ始めた。
「家事仕事はどうだった?」
「とても楽しく仕事ができました!」
「旦那様、奥様はとっても優秀な人材ですよ! メイドに欲しいくらい!」
「残念だがそれはできない。アリシアの本業は公爵夫人だからな」
壁際に立つエイラのべた褒めの声に、ルシルは楽しそうに答えた。
「ルシル様。私、ここでの家事仕事が気に入りました。ですから、明日以降も今日と同じくエイラの補助をしてもよろしいでしょうか?」
「君がやりたいなら、俺は止めるつもりはない。エイラもそれでいいよな?」
「もちろん! 大歓迎でございます!」
エイラの弾んだ声が食堂に響いた。
大いに喜んでくれているようで嬉しい。
アリシアの明日からの予定が決まったところで、ルシルが「そうだ」と呟いた。
「君に伝えておかなければならないことがある」
「はい」
「実は今、書類仕事がかなり立て込んでいるんだ。その影響で、しばらく一緒に食事できなくなるかもしれん。君は気にせず、一人で食事を摂っていてくれ」
「……承知しました」
ルシルとの食事の時間は、アリシアにとって楽しいものだった。
だから、少し寂しい、なんて感じてしまう。
314
あなたにおすすめの小説
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
エリザは恋について考えていた
通木遼平
恋愛
「シューディルくんのこと好きじゃないなら、彼に付きまとうのはやめてほしいの」――名前も知らない可愛らしい女子生徒にそう告げられ、エリザは困惑した。シューディルはエリザの幼馴染で、そういう意味ではちゃんと彼のことが好きだ。しかしそうではないと言われてしまう。目の前の可愛らしい人が先日シューディルに告白したのは知っていたが、その「好き」の違いは何なのだろう? エリザはずっと考えていた。
※他のサイトにも掲載しています
出ていけ、と言ったのは貴方の方です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが――
※コメディ要素あり
短編です。あっさり目に終わります
他サイトでも投稿中
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
『』カクヨムにも、投稿しています。
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?
buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。
【完結】1王妃は、幸せになれる?
華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。
側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。
ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。
そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。
王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?
特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する
下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。
ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる