憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

真木悔人

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第二章 樹海の森編

第31話 紅桜? いいえ、○○です。

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「さて、と……」

 俺はゆっくりと紅桜に向かって近付いた。

 魔神ジンがいなくなると、護衛達が我に返った様に目の前に立ち塞がった。まだ怯えてはいるものの、ジンの時よりはマシみたいだ。

 やっぱりジンの知名度は凄いな……まあ、こいつ等からすれば伝説の魔神だからな。恐怖の象徴みたいな物なのかも知れない。俺の事はまだ、あまり知られてないし仕様がないか……

 俺はゆっくりと腰の刀を抜いて、刃先を地面に向けて構えた。いつもの自然体の構えだ。ただ、ダラリと刀を持っているだけの様にしか見えないらしいけど。

「どけ──」

 俺は一歩前に出て護衛達に告げた。

「【死神の刃デス・ブレード】」

 護衛達に向けて空を斬りつける。放たれた真空死神の刃が、一瞬にしてその場の護衛達を真っ二つにした。俺は持ち上げていた刀を振り下ろす様にして、ゆっくりと元の構えに戻した。光と血を反射させた切っ先の残像が弧を描いて、あたかも一振りの巨大な鎌の様に見える。

「し……死神……」

 鼠人族も含め、殆どの護衛を一瞬にして失った紅桜は、ペタリと力無くその場にへたり込んだ。

「ようやく理解したみたいだな。俺はこいつ等の仲間では無いけど、お前達の味方でも無い。突っ掛かって来なければ何もしなかったんだけどな」

「あ……あ……」

「ただ……正直、少し迷ってるんだよな。何か、このままお前を殺したら、こいつ等を助けたみたいで」

 俺はチラリとボアル達の方を一瞥した。紅桜は死を悟ったのか、ただ呆然と口を開き震えている。そして俺の言葉に反応すると、望みを託す様に問い掛けて来た。

「み、見逃してくれるのか……?」

「うーん……俺としてはお前みたいなアバズレ、どうでもいいんだけどな。ただ、ジン達は相当ブチ切れてたからなあ──」

『『当然です』』

 雪とウォルフの念話が食い気味にハモった。
 ちなみにラルとはまだ念話を繋いでない。

「どうせお前の一族も鼠人族も、外の奴等は皆殺しだろうから、俺の実験に付き合ってくれたら見逃してやるよ──生きてたら」

 俺はニヤリと笑い、そう告げながらへたり込む紅桜の顔を蹴り飛ばした。

「ぎゃっ! なっ何をっ……」

 紅桜の目線に合わせてしゃがみ込み、諭すように話しを続けながら横面をはたく。

「手加減の実験。だいぶ上手くなったんだけどな……力の加減を間違えると、一発で死んでしまうんだ」

「ひぎゃあっ!」

「おお……お見事です」

『さすがです、真人さん』

 雪とウォルフが称賛している。ウォルフはパチパチと手を叩いて拍手までしていた。
 紅桜は頬を押さえながら涙目で唖然としている。言われている意味が理解出来ないらしい。

 バチン、バチン……

 静まり返った会議室に、紅桜がビンタを食らう音だけが鳴り響いた。
 ボアルとラビリア達は言葉を無くし、ただ見ている事しか出来ない様だ。そして、若干引いている。
 すると、外から地鳴りの様な轟音が聞こえてきた。おそらくジンだ。

「多分ジンだな。今頃、お前達の仲間は全滅だ。ジンの魔法はえげつないからな」

 俺は紅桜と、残った少ない護衛達に向けて話しかけた。これで彼女達にとって、僅かな希望すら断ち切られた訳だ。皆、表情かおが絶望と恐怖の色に染まっている。

「な……なんと……容赦の無い……」

 紅桜は消え入りそうな声で、絞り出す様に呟いた。若干、息も荒い。息も……ん?

 ハァハァ……ハァハァ……

 バチン!

「あふんっ!」

「…………」

 ──こいつまさか。

 よく見たら表情は怒りで赤いと言うよりは、屈辱に高揚して昂ぶっている様に見える。潤んだ目は物欲しそうで、何だか焦らされるのを悦んでいる様に見えなくも……

 バチン!

「あひぃっ!」

 ──あ、間違いない。

 こいつ……変態だ。
 それも、ドMだ。マ○ヒ○トだ。
 こいつ、ここまで追い込まれたのは初めてだったのか? もしかしたら、変な扉を開いてしまったのかも知れない。

 俺の理性が警鐘を鳴らしている。
 こいつはやばい……早々に殺そう。この手の奴は追い込んでも喜ぶだけだし、正直、俺の手に負えない。なまじ美人なだけに余計に質が悪い。

 俺は紅桜を殺す事に決めた。
 その時、護衛の一人がボソッと呟いたのを俺は聞き逃さ無かった。

「うぅ……コン様……」

「──コンっ!?」

 思わず声に出して反応してしまった。
 紅桜が先程迄と違い、本当に怒りで顔を赤くしてキッと声の主を睨みつけた。護衛はすぐに気付き、ハッと口を手で抑えた。
 だか……もう遅い。

「その名で呼ぶでないっ!」

 紅桜は火を吹きそうな程、顔を真っ赤に染めている。
 コン……まさか……もしかして……

「………………ぶっ!」

 ──コンっ!! 

 それがこいつの本名か!?

「ぶゎあははははははははははははははははっ!」

「っ!」

 紅桜が振り返り、睨みつけて来た。

 しかし……ぷぷぷ……コ、コンって……えらく可愛い名前だなっ! 狐だからコンって……しかも、ぷぷっ……しかも……

「──紅桜って!!」

「っ!!」

「ぐわはははははははははははははははははっ!」

 ひぃっ! しっ、しぬっ! べっ、紅桜っ!! ほっ、本名はコンなのにっ……べ、紅桜っ! ぷくくくっ……おまっ……ぷくくっ……おまえ、それって……

「中二病じゃねーかっ!!」

「っ!!!」

「ぎゃはははははははははははははははははっ!」

「きっ貴様っ……」

 もう駄目だ……腹が痛くて死にそうだ。
 紅桜──改めコンは顔をこれでもかと真っ赤にして、涙目になりながら俺を睨んでいる。

 ぷくくっ……そんな目で見ないでくれ……にっ、睨まれれば睨まれる程、余計に笑いが込み上げて来るっ……

 とんでもない美人の癖に、まさかドMの変態で中二病とはっ! 属性盛り過ぎだろっ! しかもコンと言う本名に紅桜と言う、何ともこうばしいネーミングセンスっ! 何て残念な設定だっ! もう、完全に殺す気が吹き飛んだ……

「ぶふっ! みっ、見逃してやるっ! ぶはっ!」

「ぐぬぬ……」

 俺はもう完全に毒気を抜かれていた。
 何が起こっているのかわからない周りの獣人達は、呆気に取られつつも別の意味で俺に畏怖の目を向けている。

 すると丁度、外に出ていたジンが戻って来た。
 殺気も無く、完全に緩みきった俺を見て首を傾げている。

「これは……どう言う状況でしょうか?」

 ウォルフもラルも返答に困っている。

「はぁはぁ……ああ、ジンか。俺はこいつを見逃す事にした。そっちの方はどうなった?」

 ジンは予想外の展開に多少驚きつつも、特に異論を唱えずに答えた。

「はい。ご命令通り皆殺しにして参りました」

 側で聞いていたコンはもう、反応する力も無く燃え尽きていた。わかる……中二病のネタバレは半端じゃない精神的ダメージを食らうからな。いくらドMでも耐えられる物じゃない。

 ボアル達は依然として動く事が出来ず、黙って俺達の動向を見守っている。
 俺はボアル達に向けて話しかけた。

「とりあえずそう言う事だから。お前達の為にやった訳じゃ無いけど、殆ど壊滅寸前の狐人族と鼠人族はもう驚異でも何でもないだろ。こいつ九尾の狐は既にこんなだし……後は鬼人族と戦争するなり逃げるなり、お前等の好きにやってくれ。俺達はもう用は無いから帰る」

 聞き終えたラビリアがハッと我に返り、慌てて俺を引き止めて来た。

「お、お待ち下さいっ。狐人族の驚異が無くなったのは有り難いのですが、その……やっぱり鬼人族の侵略に対しては、どうしてもお力を貸して頂けないのでしょうか……」

 委員長タイプのラビリアは尚も食い下がって来た。こう言うタイプは自分達が正しいと思って疑わない。強い者は弱い者が困っていたら、手を差し伸べるのが当り前だと信じているのかも知れない。

「しつこいな、お前。だから何で俺がお前達を助けるのが当り前みたいに考えてるんだ。俺はお前等が死のうが生きようが興味はない。だいたい助けて下さいとか下手に出てる様に見えるけど、やろうとしてる事は俺を使って、鬼人族と戦わせようとしてるだけだからな? 何で俺がお前の言う事に従わなくちゃならないんだ」

 俺はこう言うタイプが嫌いだ。こっちが従わないと自分達の都合で、思いやりが無いとか何とか平気で言いだす。案の定、ラビリアの顔にも怒りが見え始めた。

「罪も無い獣人達が鬼人族に滅ぼされてもいいと言うのですか!」

 ほらな。

「だから何度もと言ってるだろ。その罪も無い獣人達って自分達の事を言ってるんだろ? 勝手に滅べよ」

「ぐぐ……」

「戦おうとしたそこのボアルや、自分で動いた変態狐の方が手を貸すんならまだマシだ。綺麗事言いながら何もしない……お前みたいな奴が一番質が悪い」

「あ……ああ……何と寛大な……ご主人様」

 コンが何か言ってるが無視だ。

「わ、私達だって戦いますよっ! ただ、私達だけでは勝てないからこうしてお願いしてるんじゃありませんかっ!」

「その、お願いしたら可愛そうな私達を助けるのが当り前っていう態度が気に入らないんだ。現に今、俺が自分の思い通りにならなくて苛ついてるのが、お前がそれを当り前だと思っている証拠だ」

「ぐっ……」

 俺の性格は前世から相当捻くれてるんだ。屁理屈の言い合いで俺に簡単に勝てる訳が無い。すると横からボアルが割り込んで来た。

「なっ、ならばっ! 真人殿、我等を配下に加えては頂けませぬかっ!」

 なるほど、そう来たか。確かに俺の配下になら、勝手に手を出して来る奴等は許さないだろう。但しそれは、俺が配下にしてもいいと思った奴だけだ。ボアルはともかく、ラビリアみたいな面倒臭い奴は要らん。

「俺は配下を選ぶ。俺はで、そいつが本当に俺に忠誠を誓っているのか分かるからな。俺を利用して助かりたいだけの奴は、逆に俺に殺される事になる。それでもいいなら考えてやるよ」

 俺がそう告げるとボアルは頷き、ラビリアは少し動揺した。俺はいよいよ面倒くさくなって来たので、適当に丸投げする事にした。

「そう言う事だから、これ以上何を言われても俺は考えを変えないし、そもそも話し合うつもりも全くない。後は獣人同士おまえらで好きにしてくれ。俺はお前等がどんな結論を出そうが興味はない」

 俺はボアル達にそう言い残し会議室を出た。
 皆、呆然と立ち尽くしたまま俺達を見送っている。


「さ、帰ろう──」

 こうして俺達は虎人族の里を後にした。
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