16 / 34
16.
しおりを挟む
「赤毛の看板娘…ああ!エマって娘のいるパン屋かい!?」
「そうです、そこですわ!エマです!!」
エマの名前が出た途端叫んでいた。
(いるんだ!やっぱりエマはこの世界にいるんだわ…!!間違いなく本当に「うる薔薇」の物語の通りってことよね!?)
隣のオリバー様が訝しげに見てくるが、気が付かない振りをした。
オリバー様は色々と聞きたいことがあるだろうに、何も言わずに付き添ってくれている。
(ごめんなさい…!でもいま問い詰められても、理由なんて話せないもの。とにかくエマを見つけないと…)
「あの、そのお店はどちらにありますの!…いえ、ええと、…どこですか!」
「お、おう。そこの角を左に曲がって2つ目の十字路を…」
花屋の店主はわたくしの勢いに気圧されながらも、親切に教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「エリー、見つかって良かったね」
「ええ!」
(エマがいたら…。やっぱり婚約破棄は間違って無かったって思えるわ!
自分の命のために仕方なかったんだって…。
そうしたら、そうしたらわたくし、これ以上公爵家に迷惑を掛けないような、そんな新しい婚約者を探して、そして…)
そう考えて、あれほど意気込んでいた婚約者探しに、なぜだか少し胸が痛んだ。
(これが最後かもしれないわね。新しい婚約者が決まれば、オリバー様とこうして手を繋ぐことも…)
ずっと繋がれたままの左手に目をやると、心に風が吹き込んでくるような気持ちがしたけれど、それを振り払うように、首を横にふった。
「いまから行ってみますね。わたくしご店主のご親切はきっと忘れませんわ。」
「うーん、だがよ。あんまり貴族のお嬢ちゃんにオススメ出来ねぇって言うか…
何で探してるか知らねぇが、近づかねぇほうがいいと思うぜ」
そう言って、気まずそうに顎ひげをポリポリと掻いて、人の良さそうな顔を歪めた。
「……?この辺りで評判のパン屋、ですわよね?」
「とんでもねぇ、あそこは赤毛の娘に乗っ取られちまって。気のいい女店主がうまいパンを焼いてくれてたんだがなぁ…」
「えっ、なんて?」
(乗っ取り?誰が…)
「ずいぶん不穏だね」
「そ、そんなわけは…。あの、気立ての良い綺麗な娘さんがいて、繁盛してるのでは…?」
「とんでもねぇ!パンはすっかり不味くなっちまうし、目付きの悪い奴らが出入りするようになってな」
「…そうなんですのね」
「悪いことは言わねぇ、俺が最高の花束作っとくから、行くならさっさと用事済ませてくるんだぜ」
花屋の店主が店内に戻っていくのを見送ると、隣のオリバー様を窺った。
「あの、これからパン屋に…」
「エリーにどんな用があるのかは知らないけど…。今日はやめておこうか?後で手の者に調べさせてからの方が良さそうだよ」
「わたくし、どうしても行きたいんです!せめて様子を見るだけでも…お願いします」
「さすがに不安要素のある場所には連れて行ってあげられないよ」
「そんな、せっかくここまできたのに…」
「うーん、エリーがプロポーズを受けてくれるならお願いを聞いてあげても…」
オリバー様はその漆黒の闇色の髪をかきあげながら、おどけたように瞳を艶めかせた。
「結婚はできませんわ」
「はっきり言うなぁ。諦める気は無いけど、やっぱり傷付くよね」
「…………だって本当に無理だもの」
「どうして無理だと思うの?まあ、そうやってエリーの素が見られるのは嬉しいけどね。」
(わたくしの素?…確かに王太子殿下とは、こんな風にやり取りをした事なんて無かったわ……)
何て返していいのか分からず俯いていると、オリバー様が手を強く握り直した。
「そんな顔されると弱いな…。本当に様子を見るだけだよ?」
「……!ありがとうございます!!」
「そうです、そこですわ!エマです!!」
エマの名前が出た途端叫んでいた。
(いるんだ!やっぱりエマはこの世界にいるんだわ…!!間違いなく本当に「うる薔薇」の物語の通りってことよね!?)
隣のオリバー様が訝しげに見てくるが、気が付かない振りをした。
オリバー様は色々と聞きたいことがあるだろうに、何も言わずに付き添ってくれている。
(ごめんなさい…!でもいま問い詰められても、理由なんて話せないもの。とにかくエマを見つけないと…)
「あの、そのお店はどちらにありますの!…いえ、ええと、…どこですか!」
「お、おう。そこの角を左に曲がって2つ目の十字路を…」
花屋の店主はわたくしの勢いに気圧されながらも、親切に教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「エリー、見つかって良かったね」
「ええ!」
(エマがいたら…。やっぱり婚約破棄は間違って無かったって思えるわ!
自分の命のために仕方なかったんだって…。
そうしたら、そうしたらわたくし、これ以上公爵家に迷惑を掛けないような、そんな新しい婚約者を探して、そして…)
そう考えて、あれほど意気込んでいた婚約者探しに、なぜだか少し胸が痛んだ。
(これが最後かもしれないわね。新しい婚約者が決まれば、オリバー様とこうして手を繋ぐことも…)
ずっと繋がれたままの左手に目をやると、心に風が吹き込んでくるような気持ちがしたけれど、それを振り払うように、首を横にふった。
「いまから行ってみますね。わたくしご店主のご親切はきっと忘れませんわ。」
「うーん、だがよ。あんまり貴族のお嬢ちゃんにオススメ出来ねぇって言うか…
何で探してるか知らねぇが、近づかねぇほうがいいと思うぜ」
そう言って、気まずそうに顎ひげをポリポリと掻いて、人の良さそうな顔を歪めた。
「……?この辺りで評判のパン屋、ですわよね?」
「とんでもねぇ、あそこは赤毛の娘に乗っ取られちまって。気のいい女店主がうまいパンを焼いてくれてたんだがなぁ…」
「えっ、なんて?」
(乗っ取り?誰が…)
「ずいぶん不穏だね」
「そ、そんなわけは…。あの、気立ての良い綺麗な娘さんがいて、繁盛してるのでは…?」
「とんでもねぇ!パンはすっかり不味くなっちまうし、目付きの悪い奴らが出入りするようになってな」
「…そうなんですのね」
「悪いことは言わねぇ、俺が最高の花束作っとくから、行くならさっさと用事済ませてくるんだぜ」
花屋の店主が店内に戻っていくのを見送ると、隣のオリバー様を窺った。
「あの、これからパン屋に…」
「エリーにどんな用があるのかは知らないけど…。今日はやめておこうか?後で手の者に調べさせてからの方が良さそうだよ」
「わたくし、どうしても行きたいんです!せめて様子を見るだけでも…お願いします」
「さすがに不安要素のある場所には連れて行ってあげられないよ」
「そんな、せっかくここまできたのに…」
「うーん、エリーがプロポーズを受けてくれるならお願いを聞いてあげても…」
オリバー様はその漆黒の闇色の髪をかきあげながら、おどけたように瞳を艶めかせた。
「結婚はできませんわ」
「はっきり言うなぁ。諦める気は無いけど、やっぱり傷付くよね」
「…………だって本当に無理だもの」
「どうして無理だと思うの?まあ、そうやってエリーの素が見られるのは嬉しいけどね。」
(わたくしの素?…確かに王太子殿下とは、こんな風にやり取りをした事なんて無かったわ……)
何て返していいのか分からず俯いていると、オリバー様が手を強く握り直した。
「そんな顔されると弱いな…。本当に様子を見るだけだよ?」
「……!ありがとうございます!!」
80
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
【完結】悪役令嬢はおせっかい「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」
みねバイヤーン
恋愛
「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」まーたオリガ公爵令嬢のおせっかいが始まったぞ。学園内での婚約破棄に、オリガ公爵令嬢が待ったをかけた。オリガの趣味は人助け、好きな言葉はノブレス・オブリージュ。無自覚な悪役令嬢オリガは、ヒロインの攻略イベントをことごとくつぶしていく。哀れなヒロインはオリガのおせっかいから逃げられない。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる