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オリバー様は先程よりも裏道に入ったので、周囲を少し警戒しているようで、少し離れたところにいる騎士たちに目で合図を送っているようだった。
(でもわたくしが思っていたように、下町はそんなに治安が悪そうに見えないわ…)
「うる薔薇」では王族や貴族の腐敗で下町は荒廃していたって書いてあったけれど…。
町は活気にあふれているし、そもそもこの聖セプタード王国は代々賢王に恵まれ、貧民街が無いのが誇りだった。
街ですれ違う人達も、目立っていたわたくし達を遠巻きに窺うものの、その視線は温かい気がする。
(温かい…と言うか、生温かい感じ?なぜ!?)
「エリー、あそこが例のパン屋みたいだね」
「あれが…」
(えっ!うる薔薇の情景描写と全然違うわよね…?)
パン屋の店先は何だか薄汚れていて、鉢植えは枯れており荒んだ印象を受けた。
「そんなはずは…。店先は色とりどりの薔薇が咲いた鉢植えであふれて、掃除好きのエマがパンが美味しく見えるようにって、きれいに店の窓を拭いてるはずよね。近所の人達にお花のような笑顔で挨拶してて…?えっ?」
「何だかずいぶん情報が多いね」
「ええと、噂で…あっ!」
オリバー様に鋭く指摘され、どう誤魔化そうかと考えていると、店内に赤い髪が見えた。
(やっぱり!さっきの馬車から見えた少女だわ、後ろ姿で顔が見えないけれど。新緑の瞳よね…?)
「どうやら赤髪の娘はたしかにいるようだね。
色々とエリーに聞かないといけない事も多いし、とりあえず一度馬車に戻ろう」
「あ、あのもう少しだけ」
「様子を見るだけの約束だよ?…あいつも鬼の形相をしているし、婚約を邪魔されても嫌だからね。そろそろ…」
(あいつ…?何をおっしゃってるの?)
オリバー様が何かぶつぶつ言っているが、考えるよりも早く体が動いてしまい、繋いでいた手を離して駆け出していた。
(新緑の瞳だけ、それだけでも確認してから戻りたい…!)
「エリー!?ちょっ…、待ちなさい!」
店のドアに手を掛け少し開けた途端、オリバー様に肩を掴まれた。
「オリバー様はここで少しお待ちになって下さい、わたくし…」
「何言って…、とにかく戻りなさい!」
二人が揉めていると、ドアがバンッと大きな音を立てて内側に開いた。
「あんた達!うちの店先でなに騒いでんのよ!」
その姿が視界に映った瞬間、思わず大きく目を瞬いた。
一つに束ねた真紅の薔薇色の髪に、少し垂れ目がちの清々しい新緑の瞳、均整の取れたスタイル。
まるで大輪の赤薔薇のように美しい少女がそこにいた。
(間違いない!ヒロインは本当にいたんだわ!)
「あ、わたく…私パンを買いに…」
「はぁ?今日はパンなんて焼いてないよ、帰った帰った!」
「えっエマ?」
あまりの剣幕に思わず、目の前の少女の名前を呼んでしまった。
「……!あんた何であたしの名前…」
一気に不審そうにこちらを見たエマは、その手をのばして、わたくしの腕を掴もうとした。
「ま、待って、きゃっ?」
「クソ、こっち来な!」
「何をする!」
そう言って、オリバー様がその大きな背にわたくしを庇おうとした時、外から入って来た三人組の男達が腕を振り上げるのが見えた。
「なんだお前達!何を…?ぐっ…」
「オーリ!!」
後ろから頭部を一撃されたオリバー様が足元に崩れ落ちると、助け起こす間もなく、わたくしもエマに後ろ手で拘束されてしまった。
「は、離してちょうだい!その方に乱暴はやめて…!」
(なに?なにが起きているの…?どうしようオリバー様が!!)
「おい、その女の口を塞げ!」
「ばかやろうエマ!店先で何を騒いでやがる!」
男達に口を塞がれ、為す術もなく奥の厨房に連れて行かれると、そこにはいくつもの荷物が積み上げられていた。
(オリバー様…良かった息はしてらっしゃるようだわ)
オリバー様の呼吸を確認するとホッとして視界がにじむ。
「目立たずに待つよう言っただろ!こいつらどう見ても貴族だ、一体何があった!」
「おじさん達に言われた通り、食料買い出しに行った後は静かにしてたよ!戻ってきて待ってたら、こいつらが店先で騒いでたんだ」
「男爵、この男の方は黒髪だぞ。アプロウズの関係者なんじゃないか?」
「くそっ!グリサリオが動いてるって情報だったのに…」
(男爵…男爵って、もしかしてコクトー男爵?)
「ここはもうヤバそうだ、夜を待たずに引き払おう!」
「そうだな、裏口に用意してある荷馬車にこいつらも運べ」
「置いていかないのか?」
男爵と呼ばれた白いシャツにトラウザーズを履いた男は、わたくしに視線を合わせ、口の端を歪めた。
「こいつらは人質にする」
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