ボクは転生者!塩だけの世界で料理&領地開拓!

あんり

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第1章 カイト、五歳までの軌跡

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(貴族牢)

「そんなこと、今更だわっ」

本当に、今更よっ。
食いしばる歯で唇が切れ、血の味が口の中に広がる。

「………、そうか、そうだな、今更だったな」


そう言ってジルバート様は黙ったまま。
聞こえるのは小窓の外に降り続く雨の音。
雨の雫のリズムは、私の悲しみを助長しているみたい。雨がなにかに当たり跳ね返ってる音は私からジルバート様への反抗心みたい。

小窓から差し込むわずかな光は灰色で、雨脚はさらに強くなった。
石壁に跳ね返る水音は、私の胸の奥を責め立てるようだった。

「なぜ、なぜなんだ?なぜ、ダウニーにあのような真似を?……ダウニーに懸想していたのか?」

「違うわっ」
声が裏返った。張り詰めていたものが切れたように。

「むしろ逆よ。大嫌いだった……。全部持っていたから」

「夫婦愛、子どもっ。辺境へ行ってせいせいしていたのよ。なのに、私には出来なかった子供が生まれたわ。しかも、2人も。一番私が欲しかったもの、何よりもあなたからの関心もね。あはははっ。………だから、ダウニー様を壊したかった。それなのに、ダウニー様とアマナ様だけが幸せになっていったわ。私はどんどん不幸に、惨めに、愛されないというのにね」

「壊したかったのよ。……そうすれば、私の心の穴も塞がると思ったの」

妻の悲痛な叫びは、雨音と同じように激しくなった。時折遠くから聞こえる雷が妻の怒りそのもののようだ。

「ダウニーのっ、マーシュ領で起こったカイチェアの不良品の事件。それはシルビアの仕業か?」

「そうよ。アーシャを使ったのよ。あの子、ずっとダウニー様に未練があったから。
“不良品を広めれば領地に打撃を与えられる。犯人を自分で捕らえれば恩を売れる”
そう言ったらすぐに頷いたわ。

ルドン公爵も同じ。あの人は他人の成功が憎くて仕方がないの。
アーシャの不貞で自分が批判されたのに、それを棚に上げてまだ恨んでいた。
そんな馬鹿な親子、利用しない手はなかったわ」

「だけど、品質保証とか、なんとかで乗り切ってしまった。だから、次はマーシュ領から出た味噌とかいう臭う物が売り出されると聞いたわ。

だから、料理人や味噌を取り扱う仲介人にお金を渡して味噌を手に入れた、ルドン公爵は、マーシュ領が発展していく事、次々に新しいものや料理が出てくることが、羨ましくて、悔しかったみたいね。あの人、誰かが儲かることや、成功することをことごとく潰してきたもの。

アーシャはダウニー様に謙遜してたけど、アーシャが起こした不貞行為であの時ルドン公爵は痛手を負ったのよ。
それは自分の娘に非があるのに、そんな事は気にもせずに、ダウニー様がアーシャを婚約者候補から外したからだって恨んでいたわ。私はそこを利用しただけ。馬鹿な親子は使いやすかったわね。」

要約すれば同じ内容を繰り返すシルビアは感情と意識が混濁しているのかもしれない。
激しい感情を爆発させながら喋るシルビアの目は激昂に染まり切っていた。
シルビアの激しい息遣いが、私の胸をしめつける。

フッ!さっきの怒りから、シルビアの口角が上がる。

「そうそう!ハーレンがルドン公爵の息子よね、あの公爵一家を上手い具合に私の駒として動いていたわ。」

「なんてことだ」
私は頭を抱えた。
妻がしてきたこと。
仮にもこの国の公爵一家を、陥れる事をしていたとは。
たしかにルドン公爵の悪い噂は耳にしたことがある。
だからといって、国の王太子妃が、人を陥れる事をしては、良いわけない。

それが、その標的が、私の弟だったとは。
そして、妻を蔑ろにした私への復讐だったのかもしれない。

「ねぇ、ジルバート様、最後に教えてあげる。私はあなたに遅延性の毒を少しづつ与えてきたわ。早く解毒しないとあなた死ぬわ。でも、なんの毒か教えてあげない。慌てなさい。もがきなさい。私が長年苦しんだように、あなたは毒で苦しむのよ」

私はピリビリ全身に怒りをまとう。
血の気が一気に引いた。

「他に、何をした?」

「あなたが息子と思っていたジョージ、あの子はハーレンの子よ」

これまでのことでわかってしまっていた。
それを、“妻の不貞”と“ジョージが私の子でない”事を、シルビア本人の口から聞かされたのだ。そして私の最愛の弟に対する“仕打ち”。全て私は――許せない。

「4番」
私は影を呼ぶ。これまでの話は影から父上らに報告が上がる事になる。

静かに現れた影。
私は彼の腰から剣を静かに抜く。
そして振り向きざまにシルビアの胸に突き刺した。

「ウッ」

1度躊躇ったせいで、シルビアの血肉に剣先が止まる。この剣先はシルビアの心臓。
私は更に剣先をシルビアの胸に沈めた。
剣先からはドクドクとした振動が伝わって来たが、その後その鼓動は触れなくなった。
生ぬるい血が私の手を伝う。
生ぬるい涙が私の頬を伝う。

静かに、静かに倒れていくシルビア。
しかし私はその身体を受け止めなかった。
まるでスローモーションのようにゆっくりと倒れていく。
僅かに見えるシルビアは笑っているようだ。

ドサッ。

私は、シルビアを見ずに、剣の血を払い、影に剣を返す。

そして、静かに牢を後にした。
コツコツコツと私の足音が雨音と重なる。

そして、王太子妃シルビアは貴族牢の中、愛する夫、ジルバートの手により静かに葬られた。

悲しい雨がさらに激しくなっていった。

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いつもご愛読ありがとうございます。
悲しくて、切なくて、やるせなくて、そんな回になりました。

このジルバートとシルビアとの切なくも苦しい、すれ違いの愛情、一気に書き上げたので話が長くなりました。

あんり
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