バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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放課後デートは突然に

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「で、デートっ!?」

 思わず声が裏返った。
 自分の声がやけに響いて、胸の鼓動まで一段と速くなる。
 そんな僕の狼狽なんてお構いなしに、白瀬さんは静かに一歩、また一歩と近づいてくる。
 髪がふわりと揺れ、甘く柔らかい香りが鼻先をくすぐった。
 ――近い。
 あと半歩で、呼吸が触れ合ってしまいそうな距離。
 思わず視線を逸らしながら、なんとか言葉を絞り出す。

「し、白瀬さん……そういえば須藤さん達は?」

「帰ったよ?」

 まるで天気の話でもするかのような軽い調子。

「だって、私の趣味なんてあの人たち知らないし、興味ないと思うからさ」

 口の端をわずかに上げる。
 その笑みは、からかうようでいて、どこか挑発的だった。

「どうする? 行く? 行かない?」

 耳元で囁かれたような錯覚に、喉がひとりでに鳴る。ゴクリ。
 ――なんだ、この人。バイト先で見てきた彼女は、こんな危険な魅力を放つ人だったか?
 まるで見たことのない一面に、僕の理性がざわつく。
 でも――嫌じゃない。むしろ、もっと知りたいと思ってしまう。

「い、行きます! 『ヒーリング』オタクとして、僕も一緒に行きます!」

「お! ノリいいじゃん」

 白瀬さんの笑顔が、ふっとやわらかくなる。
 その笑みに、胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。

 ※

「ねぇ、有馬っち! 見てこれ! ケンヤのアクスタとか缶バッジあるよ!」

 普段はクールな彼女が、今は瞳を輝かせて駆け寄ってくる。
 まるで小さな子供のように、頬をほんのり赤くしてはしゃいでいた。
 どうやら『ヒーリング』と書店のコラボキャンペーンの真っ最中らしい。
 棚一面に並ぶ限定グッズに、彼女の視線はあちこち飛び回る。
 ……こんな表情、初めて見た。
 学校で見せる余裕たっぷりの笑顔とも、バイト先の明るい先輩の顔とも違う。
 これが、白瀬さんの本当の姿なんだろうか。
 胸の奥がじんわり温かくなる。

「有馬っちの推し、誰なん?」

「ぼ、僕ですか? 僕は……やっぱりアスカですかね! 漫画で出会ったばかりの主人公には最初は厳しかったのに、主人公の成長と共に――」

 気づけば早口になっていた。
 でも、白瀬さんは嫌な顔をするどころか、同じ熱で笑ってくれる。

「わかるわー。アスカとジュンジの関係、私も好きだよ!」

「ですよね! あの二人の距離感が徐々に変わっていく感じとか――」

「めっちゃいいよね! 特に5巻のあのシーンとか――」

 二人で盛り上がっていると、白瀬さんがふと手に取ったのはハート型のキーホルダー。
 ケンヤとスズミのカップリング仕様、“カップル専用”の文字が光っている。
 ……なぜか、その文字が胸に小さく引っかかった。
 白瀬さんは少し恥ずかしそうに笑って、それを棚に戻す。

 ※

 不意に、背後から声が飛んできた。

「お、白瀬さんじゃーん」

 体がぴくりと硬直する。
 振り返ると、うちの学校の制服を着た女子二人が立っていた。

「お、ミセッちにアリッちじゃん」

 白瀬さんは全く動じず、いつもの調子で会話を始める。

「なにしてんの? こんな所で」

「好きな漫画の新刊が出たから買いに来たんだ」

「へぇー、それで、その隣の人、だれなん?」

 ――やばい。完全ステルス機能、故障中か!?
 焦る僕をよそに、白瀬さんがニヤリと笑った。

「私のパシリ」

 僕の腕を軽く掴み、からかうように指差す。
 二人は安堵したように笑い、すぐに口を開いた。

「だよね! 私らてっきりこんなのが彼氏かなにかかと思ったわー」

「白瀬さんが、こんなしょうもなさそうな奴と付き合うなんて、ないよねー」

 胸の奥がズシンと重くなる。
 ……悔しい。言われたこと以上に、その言葉を否定できない自分が悔しい。
 そんな僕を横目に、白瀬さんがふっと微笑んだ――けれど、その笑みは妙に鋭い。

「しょうもなくないよ。有馬っちは、めちゃくちゃ面白いパシリなんだ。……二人には勿体ないくらいね」

 声のトーンは穏やかなのに、どこか有無を言わせない迫力があった。
 空気がわずかに張り詰め、二人は怯んだように「じゃ、じゃあウチらはこれで」とそそくさと立ち去った。
 二人の背中が見えなくなると、白瀬さんの表情が少しだけ柔らかくなる。

「……ごめんね、変なこと言って」

「え?」

「パシリとか。でも、あいつら結構うるさいから」

 その横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。
 ――白瀬さんも、色々と大変なのかもしれない。

 ※

 グッズや新刊を手に入れた帰り道。
 夕方の光に照らされた横顔が、どこか満足そうに見える。

「今日、めっちゃ楽しかった」

「え?」

「有馬っちと一緒で良かった。一人だと、こんなにはしゃげないから」

 白瀬さんが照れくさそうに笑う。
 その笑顔に、胸が温かくなった。
 そんな彼女が、不意に僕の腕をくいっと引いた。

「ねぇ、漫画、一緒に見ない?」

「え? 別にいいですけど……でも、どこで読むんですか?」

「んなもん決まってんじゃん」

「?」

 白瀬さんが、いたずらっぽく笑う。

「私の家だよ」

「――ッ!?」

 心臓が、一瞬で跳ね上がった。

「え、ちょ、待って、家って――」

「ダメ?」

 上目遣いで見つめられて、言葉が出なくなる。

「べ、別にダメじゃ……ないです」

「やった! じゃ、決まりね」

 白瀬さんが嬉しそうに笑って、僕の手首を掴む。
 夕暮れの街を、二人で歩く。
 手首に残る温もりが、やけに意識されて――僕の顔が熱くなった。



あとがき
ホントは週2回投稿でしたが、今日めちゃくちゃ早く更新したくなったのでしました!
今後もしかしたら突然の投稿があるかもしれません!
その時はよろしくお願いします!
有馬そこ変われよ!!!私が代わり行く!
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