バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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幸せそうな顔

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 白瀬さんたちとの勉強会も、しばらく続いた。
 みんなが、ペンをスラスラと書き進める。
 シャッ、シャッ、という音。
 ページを捲る音。
 静かな集中の時間。
 僕も、数学の問題を解き続ける。
 白瀬さんに教えた問題を、彼女が解けるようになった時の笑顔を思い出しながら。
 そんな時――

「おーい、お前ら。そろそろ帰らないか?」

 勉強を進めている僕たちの前に現れたのは、1階で勉強していた司くんたちだった。
 彼の言葉に、その場にいた白瀬さんたちは背伸びをする。
 僕もそれに流されるように、背伸びをした。
 肩が、少し凝っている。
 でも、充実した疲れだ。

「今、何時?」

 有村さんが、スマホを確認しながら聞く。

「今は18時だな」

 司くんが、答える。
 もう、そんな時間か。
 あっという間だった。
 すると、有村さんの隣にいた光くんが、手を上げた。

「帰りに、パフェ食べたい!」

「光……お前、食いすぎだろ」

 司くんが呆れるように、光くんの机を見る。
 僕たちも視線を光くんの方に向けると――
 彼の机の周りは、勉強道具よりパフェを食べた後の残骸が散乱していた。
 空になったグラス。
 使い終わったスプーン。
 それが、3つも。

「光って、ホント食べるの好きだね~」

 白瀬さんが、微笑みながら言う。
 すると、光くんはいつものお淑やかな雰囲気で――

「それで、皆はどうするの?」

 話を逸らした。

「食べるか」

「そうだな」

 海斗くんの言葉に、司くんが反応する。
 須藤さんも、「私もー!」と言った。

「じゃあ、決まりだね」

 有村さんが、荷物をまとめ始める。
 僕も、ノートを閉じた。
 パフェか。
 みんなで食べるパフェ。
 それって――
 なんだか、楽しそうだ。

 ※

 みんなが荷物をまとめて、1階へ移動する。
 1階へ下りて、司くんたちが先に注文し、僕は彼らの最後になるように並んだ。
 列の最後。
 いつもの位置だ。
 でも、今日は――
 寂しくない。
 みんなが、前にいる。
 それだけで、嬉しい。

「有馬っちは、何頼むの?」

 白瀬さんが、振り向いて聞いてくる。
 僕は、メニュー表を見る。
 たくさんのパフェが並んでいる。
 どれも美味しそうだ。
 そして――
 桃を使ったパフェを見つける。
 ピンク色の、可愛らしいパフェ。

「これかな?」

 僕は、指差す。
 白瀬さんが、メニューを覗き込む。
 距離が、近い。
 甘い香りが、する。

「へぇ、有馬っちにしては可愛いもの頼むね~」

「そ、そうですかね……」

 少し恥ずかしい。
 でも、悪い気はしない。
 白瀬さんが、笑っている。
 それだけで、嬉しい。

 ※

 それから僕らは、カフェのテラス席にて、パフェを食べた。
 夕方の風が、心地いい。
 オレンジ色の空。
 少し涼しい風。
 そして――
 みんなの笑い声。
 司くんや須藤さんは、2人で話しながら食べている。
 有村さんも白瀬さんと、海斗くんは光くんと一緒に話して食べている。
 みんな、楽しそうだ。
 僕も、パフェをスプーンで掬う。
 桃の甘さが、口の中に広がる。
 美味しい。
 そして――
 幸せだ。
 昔の僕が見たら、きっと驚くだろうな。
 一人で過ごしていた放課後。
 誰とも話さなかった休み時間。
 それが、今は――
 こんなにも、賑やかだ。
 これも全部、白瀬さんや司くんたちのおかげだ。
 ふと、白瀬さんと出会った日からの僕の日常を振り返る。
 バイト先にいたクレーマーから助けられて。
 オタクデートに誘われて。
 カラオケ騒動。
 そして――
 告白。
 思い返していく度に、今年の思い出が濃密にあることを知った。
 まだ、数ヶ月しか経っていないのに。
 こんなにも、思い出がある。
 こんなにも、変われた。

「なぁに、黄昏れてるの?」

 一人、パフェを食べていた僕の元に、白瀬さんが現れる。
 白瀬さんは、僕の顔を見て――

「なんか、幸せそうな顔してるね」

 と言ってくれた。

「そうですかね」

「うん、見えるよ」

 白瀬さんが、微笑む。
 テラス席から見える夕空を見ながら、白瀬さんは笑った。
 オレンジ色の光が、白瀬さんを照らしている。
 その横顔が、とても綺麗だ。
 僕も、そんな彼女の横顔を見て、頬を緩める。

「今日は、ありがとね。勉強、教えてくれて」

「いえ、こちらこそ」

 僕は、少し照れながら答える。
 白瀬さんが、僕の方を向く。
 そして――

「有馬っちはさ、私以外に気になる人とかいないの?」

 白瀬さんが、からかうように言う。
 僕の体は、硬直した。
 心臓が、うるさい。

「き、気になる人……多分」

「多分?」

 白瀬さんが、首を傾げる。

「いないです。僕からすれば、白瀬さんとの出会いが実質的な初恋ですし」

 言ってしまった。
 顔が、熱い。
 でも――
 本当のことだ。
 初めて、白瀬さんと出会ったことを思い返し、僕は自然と笑っていた。

「白瀬さんのおかげで、今の自分がいる気がして……本当に、感謝してもしきれないぐらいです!」

 僕は、白瀬さんを見つめる。
 白瀬さんも、僕を見つめている。
 数秒の沈黙。
 そして――

「……そっか。私も――有馬っちと会えて良かった!」

 白瀬さんも、そんな僕を見て、優しく微笑んだ。
 その笑顔が、とても温かい。
 胸が、温かくなる。
 そして――
 白瀬さんが、ふと真剣な顔になる。

「てか、もし私の答えがNOだったら、どうするの? やっぱり、他の子に行く?」

 その質問に、僕は――
 迷わず答えた。

「――だったら、白瀬さんを振り向かせるだけです!」

 白瀬さんの目が、大きく見開かれる。
 そして――
 ふっと、笑った。

「そっか。ありがと!」

「はい!」

 僕も、笑顔で答える。
 夕空が、オレンジ色から紫色に変わり始めている。
 そろそろ、帰る時間だ。
 でも――
 この時間が、ずっと続けばいいのに。
 そう思った。

 ※

 勉強会も終わり、自宅に帰宅すると――
 玄関には、薄着姿の姉さんがいた。
 肌の露出が多い姉さんを見て、僕はため息をついた。

「姉さん、少しくらいは恥じらいってのを覚えた方が……」

「なぁに? 蓮。もしかして、お姉ちゃんの薄着姿見て興奮でもした?」

 僕を見て、ニヤける姉さん。
 僕は、またため息が出る。

「てか、遅かったね。何してたの?」

「友達と、勉強会」

「白瀬ちゃんと?」

「ま、まぁ、そんなところです……」

 少し照れながら、答える。
 姉さんが、ニヤニヤしている。

「へぇー? どうだった?」

「うるさい……」

「ねぇ、どうだったのー?」

 姉さんが、しつこく聞いてくる。

「うるさい!」

 姉さんのしつこい問いかけに、僕はそう叫んだ。
 でも――
 顔は、笑っていた。
 楽しかった。
 本当に、楽しかった。
 白瀬さんと過ごした時間。
 みんなと過ごした時間。
 全部、全部――
 幸せだった。
 姉さんが、僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「良かったね、蓮」

「……うん」

 僕は、素直に頷いた。
 姉さんも、優しく笑っている。
 そして――
 僕は、自分の部屋に向かった。
 ベッドに倒れ込む。
 天井を見上げる。
 今日の出来事を、思い返す。
 白瀬さんの笑顔。
 みんなの笑い声。
 そして――
 「幸せそうな顔してるね」
 白瀬さんの言葉。
 そうだ。
 僕は今――
 幸せだ。
 スマホを取り出す。
 LINEを開く。
 白瀬さんとのトーク画面。

『今日は、ありがとうございました。楽しかったです』

 メッセージを送る。
 すぐに、既読がつく。
 そして――

 白瀬『こちらこそ! また一緒に勉強しようね!』

 返信が来た。
 僕は、笑顔でスマホを見つめる。
 また、一緒に。
 それだけで、嬉しい。
 明日も、また頑張ろう。
 白瀬さんのために。
 自分のために。
 そう思いながら、僕は眠りについた。
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