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32.二人の家 ①
しおりを挟む久しぶりに帰宅した二人の家は、きれいに掃除がされていて、食材も揃っていた。
外にはノックスも元気にしていた。
それは、ジークフリードがきちんと手配していたからだった。
「ジーク、もしかして影を使ったの?」
「ん?まあ、そんなとこだ。くくっ。」
公爵家の影の使い方が違うと思いながらも、レナリアはウィルヘルムの『周りを操る術を心得ている』という言葉を思い出していた。
「レナリア、ドレスを脱がしていい?取り敢えず、着替えよう。」
「うん…お願い。」
ジークフリードはレナリアの後ろに回り、ドレスのボタンや、コルセットの紐を解いていく。
「あとは脱げるだろう?着替えて、飯の支度をしよう。」
「え…あ、はい。」
レナリアは、ジークフリードがすぐに触れてくると思っていたので、拍子抜けした気がした。
まさか自分の馬車での発言が、ジークフリードに待ったを掛けているとは気付かずに。
ジークフリードも着替え、手際良く夕食の準備に取り掛かる。
ジークフリードは、一周回ってパーティにしてしまおうと考えていた。
レナリアは急ぎでパンを焼く。
すぐに食べるので、初めてこの家に来た時にジークフリードが作ってくれたあの薄焼きパンだ。
レナリアはレナリアで、こういうのもいいなと思い始めていた。
そして、パンが焼き上がり、干し肉の鹿のローストやチキンの丸焼き、サラダに野菜たっぷりのシチューが出来上がった。
「何気に豪華ね!お腹空いた!!」
「さあ、食べよう。俺も腹減った!」
とても公子と公爵令嬢とは思えないようや新婚初夜の夕食は、何処のレストランよりも美味しくて、満足した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食が済むと、ジークフリードは湯浴みの準備を始め、レナリアを誘う。
「一緒に入ろう。」
「はーい!」
部屋着をそれぞれ脱いで、ジークフリードは当たり前のように浴室に入る。
レナリアは今更少し恥ずかしい気持ちが芽生えるが、もう夫婦だからと思い直し、ジークフリードについて行く。
髪や体を洗い、湯船に浸かると、朝からの疲れが癒やされる。
「疲れが取れるな。気持ちがいい。」
「そうね、我が家が一番だわ!」
「すっかり此処もレナリアの家だな。建てた時は想像もしてなかったけど。」
「ジークが居れば、何処でもいいけど、やっぱりこの家が好きよ。」
レナリアは、後ろを振り返り、ジークフリードに口付ける。
蕩けそうな笑顔のジークフリードに、レナリアも同じ笑みを返す。
「幸せだね。」
「ああ、幸せだ。夢みたいだ。」
「夢じゃないわ。これから始まるの。」
二人が浸ったのは湯船だけでなく、穏やかであたたかい幸せだった。
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