「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

文字の大きさ
7 / 149
忍び寄る悪意・クラウディオ視点

しおりを挟む
 その時だった。

「あら、こんなに早朝から訓練なんて。流石は殿下、勤勉でいらっしゃる」

 場にそぐわぬ、のんきな声が朝靄を割って響いた。

 見れば、石畳の縁に立っていたのは、シルクのローブを羽織った長身の女――レオノールその人だった。

 会話に気を取られていたとはいえ、3人共に、レオノールの接近に気付かなかった。

 足音さえ悟らせない、意外な人物の登場に、皆一様に呆気に取られた。

 だが、すぐにその要因に気づき、驚愕する。

「何だ、お前。その格好は……!?」

 ローブを纏っているのは一見して分かったが、それが昨夜見た姿だと理解するまでに僅かながら時を要した。

 レオノールは確かに昨夜の姿そのままだった。

 編み込みを、右肩へ流した赤い髪。

 純白のローブはしっかり腰紐で留められていて乱れたところはないが、クラウディオが纏っていたものと同一だと思われた。

 全身を目で足元まで追うと、赤い爪紅まで露になっている。

 つまり、靴を履いておらず、裸足のままだ。

「だって、待てど暮らせど、誰も迎えに来てくれないんですもん。暇だし、せっかく殿下を見つけたから誰かに服を持って来てもらおうとも思ったんですけどね」

 誰もいない? そんなはずはない。

 警備の者と侍女が控えていたはずだ。

「いいえ? 殿下がお帰りになった時には警備の方がいましたけど、今朝は人っこ一人いませんでしたよ。酷いですよね、寝巻きしかない女を塔に一人、置き去りなんて」

 狼狽が完全に面に出ていたらしい。

 レオノールは対話するように応答する。

 レオノールの言葉は完全なる当て擦りで、通常ならばムッとして然るべきだが、この時はそんな余裕はなかった。

「愚かにもほどがある。来い!」

 言うや否や、クラウディオはレオノールの腕を掴んでずかずかと訓練場を出る。

「すぐに戻る。稽古をつけてやれ」

「えっ、ちょっと……あー、セレスまたね。ガライ卿も」

 名残惜しそうな声を出すレオノールを、半ば引き摺るようにして退場した。

 円形の囲みを抜け、そのまま脇目を振らずに東の塔を目指す。

 まだ朝靄が残っていてくれて本当に良かった。

 それにしても、なんたる振る舞いだ。

 レオノールは途中から反論を止めて大人しく付き従っていた。

 少しは反省しているのだろうか。

「何をしたか、分かっているのか!? それとも分かった上で、俺に恥をかかせようとしているのか」

 塔の最上階まで逆戻りして寝室に押し込むと、ようやくクラウディオはレオノールを解放した。

「そんなつもりはありません。殿下の腹心であるガライ卿とセレスなら、まぁギリ許容範囲かと思って。現に、他は誰とも会わなかったでしょう?」

 反省して従っているなら、まだ可愛気がある。

 そう思っていたのに、再び目を戻したレオノールは、どうしてかまた薄ら笑いを浮かべていた。

「何がおかしい」

「いや、そんなに怒られると思ってなくて……嬉しいものですね、男性に心配してもらえるのって」

「………………!!」

 怒髪天を突く。とは良く言ったものだ。

 セレスたちとのやり取りで、せっかく鎮まりかけていた怒りが一気にぶり返す。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

『身代わりに差し出された令嬢ですが、呪われた公爵に溺愛されて本当の幸せを掴みました』

鷹 綾
恋愛
孤児院で「九番」と呼ばれ、価値のない存在として育った少女ノイン。 伯爵家に引き取られても待っていたのは救いではなく、実の娘エミリアの身代わりとして、“呪われた化け物公爵”フェルディナンドの婚約者に差し出される運命だった。 恐怖と嘲笑の中で送り出された先で出会ったのは―― 噂とは裏腹に、誰よりも誠実で、誰よりも孤独な公爵。 角と鱗に覆われたその姿は、血筋ではなく、長年にわたる呪いと心の傷によるものだった。 そしてノインは気づく。 幼い頃から自分が持っていた、人の痛みを和らげる不思議な力が、彼の呪いに届いていることに。 「身代わり」だったはずの婚約は、やがて 呪いと過去に向き合う“ふたりだけの戦い”へと変わっていく。 孤独を知る公爵と、居場所を求めてきた少女。 互いを想い、手を取り合ったとき―― 止まっていた運命が、静かに動き出す。 そして迎える、公の場での真実の発表。 かつてノインを蔑み、捨てた者たちに訪れるのは、痛快で静かな“ざまぁ”。 これは、 身代わりの少女が本当の愛と居場所を手に入れるまでの物語。 呪いが解けた先に待っていたのは、溺愛と、何気ない幸せな日常だった。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

役立たずの女に用はないと言われて追放されましたが、その後王国は大変なことになっているようです

睡蓮
恋愛
王子であるローレントは、聖女の血を引く存在であるアリエスに聖女の能力を期待し、婚約関係を強引に結んだ。しかしローレントはその力を引き出すことができなかったため、アリエスの事を偽りの聖女だと罵ったのちに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしその後、アリエスはあるきっかけから聖女の力を開花させることとなり、その代償としてローレントは大きく後悔させられることとなるのだった。

処理中です...