「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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忍び寄る悪意・クラウディオ視点

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「誰がお前の心配などするものか! お前の郷里ではどうか知らんが、女が寝巻き姿で他人前に出るなど狂気の沙汰だ。狂人として幽閉されたくなければ二度とするな」

 王太子たる者、いつでも泰然自若として、冷静でいなければならない。

 クラウディオはそう教えられ、いつでも実践してきた。

 だが、このレオノールの前だけは別だ。どうにも怒りを堪えられない。

「ならまずは誰かに服を持ってきてもらわないと。それくらいは、探しに行っても?」

「く……! 俺が呼んでくる! 部屋から一歩も出るなよ」

 何故この俺が従僕のような雑用を。

 更なる不満が噴出しかかったが、すんでのところで飲み込んだ。

 口惜しいがレオノールの主張は正しい。

 納得はしていなくとも、レオノールはクラウディオの正妃だ。

 クラディオが避けるのは自由だが、妃としての扱いが必要だ。

「ありがとうございます。クラウディオ様」

 満足そうな謝辞を背中に受けながら、クラウディオは塔を降りた。

 不可思議ながら、今現在この塔にはクラウディオたちしかいなかった。

 階下は主塔と回廊で繋がっているとはいえ、警備兵が一人もいないのは考えられない。

(俺が塔を降りたせいか……? しかし勝手に持ち場を離れるなど、あり得ない)

 塔を降り、主塔へ続く回廊へ足を踏み入れた瞬間、クラウディオはさらに眉根を寄せた。

 気配が薄い。守備の気配りがまるでない。人気のない倉庫のようだ。

(静かすぎる。あり得んな)

 普段は使用されずとも、昨晩は特別な日だ。

 二人以上の警備兵が常駐し、侍女も控えるよう定められていたはずだった。

「おい、誰かいないか」

 声を張ったが応じる者はいない。

 回廊の先の扉を開くと、ようやく囁く程度の人の声が耳に入った。

 階段を足早に駆け上がり、2階の廊下でようやく給仕用の扉の前で侍女の一人を見つけた。

 こちらに気づいた侍女が慌てて膝を折る。

「東の塔の担当は何処へ行った。もぬけの殻だぞ」

「申し訳ありません、殿下……恐らく、別の階の点検に――」

「余計な言い訳は要らん。今すぐ、妃の衣を持って塔へ上がれ」

 凍てつくような声に、侍女は青ざめて立ち去った。

 レオノールにやり込められた分が重なり、過分な怒気を孕んでいる。

 クラウディオは額に手を当てる。

(警備が空になるなど前代未聞だ。誰かが指示を誤ったか、それとも……)

 内側の誰かが、意図して動いたのでは。

 そんな考えが脳裏を掠める。

 クラウディオがレオノールを疎んじれば、多かれ少なかれ影響があるだろうと予想はついた。

 だが、家人が、王太子妃を疎かに扱うなど論外だ。

(近衛の指揮は……ベラスコ公の管轄だったか。場内の警備体制は今後、俺が直に掌握する。二度と、こんな失態は許さん)

 冷たい怒りを胸に、クラウディオは静かに踵を返した。
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