「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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可愛い悪戯

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 その日のうちに、レオノールの身体しんたいは西の棟に移された。

 西の棟は東の塔と違い、完全に主塔から独立している。

 王太子に与えられた居住空間で、レオノールはクラウディオと生活を共にする。

 この、静かな二階建ての館には、生活に必要な物はなんでも揃っていた。

 新婚夫婦に与えられた離れのようなものだろうか。

 ただ、王城の中心は主塔であるため、常駐しているのは必要最低限の使用人だけだった。

 衛兵も控えてはいるものの、主塔に比べて人の気配は薄い。

 クラウディオの意向か、華美な雰囲気は何処にもない。どちらかと言えば簡素で落ち着いた趣だ。

 王族としての格式を保ちながらも、どこか隔離された空気が漂っていた。

 夜――レオノールは、隣室である王太子の居室に耳を澄ませた。

 聞こえるのは、ひとり分の足音だけ。

 夜具が軋む音、ページをめくる気配、時折カーテンが揺れる音もある。

 誰かを招いた様子はまるでないし、他所へ向かう気配も感じられなかった。

 それでも、二人の部屋を繋ぐはずの部屋の内扉には、きっちりと鍵が掛けられている。

 翌朝は、大人しく言いつけを守って、侍女が来るまで部屋で待った。

「レオノール様のお世話を申しつかりました、シャヘルと申します。お召替え後に朝食のご案内を致します」

 シャヘルと名乗った侍女は若年に見えた。
 明らかにレオノールより若い。

「まあ、なんて硬いおぐしでしょう。今まで手入れはなさらなかったのですか」

 ツンと澄ました表情と、顎を突き出し、こちらをどうにか見下そうとする願望が透けている。

 こ憎らしい、から一周回って可愛らしい。

 小柄な身体に黒髪をきちっと纏めているから余計に小さく見える。

 どこぞの高位貴族の子女だろう。

 得体の知れない元平民に仕えるなんて屈辱だとでも言いたげだ。

「したこと、ないね。結婚が決まってから髪伸ばし始めたくらいで。そんなに硬いかな?」

 髪の毛の手入れなど、結婚が決まるまで、したことがない。

 旅の途中は近所の水場で洗ったら、洗いっぱなし。

 洗わない日が続くこともザラだった。

「用意されているドレスのサイズが合いませんので、別の服でもよろしいですか」

 身長もさることながら、骨格にも恵まれたレオノールの体型は一般女性と比較にならない。

 シャヘルの言は一理あるものの、しかし結婚式に用意されたドレスはピッタリだった。

 嫁入りにかかる支度の一切は、王家の側で整えてくれた。

 レオノールの出自は庶民中の庶民で、養父母は穀物や薬草やらを育てる傍らで飲食店を営んでいた。

 “家業”と呼べるような職はなく、できる事は何でもして日々の糧を得ていた。

 家格が釣り合わないどころの問題でなく、輿入れのためのまともな知識すら持ち合わせない家庭だ。

 だから、普通なら「王子と結婚したい」なんて願望は抱きもしないはずなのだ。

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