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火蓋
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水浴びだけはしていたが、きちんとした湯につかるのは久しぶりだった。
邸内は極力の人払いがされているのか、使用人とは最低限の接触で済んだ。
湯浴みを終えると、ドレスルームのような脱衣所には着替えを始め、女性の身支度に必要なものが一通り揃えられていた。
脱衣所を出たところには、いかにもベテランの女中頭といった女性が待ち構えており、応接間まで案内してくれる。
扉を開いた先には大理石のテーブルと応接セットが。
その一部のソファーでは、既に湯浴みを済ませてピカピカに磨き上がった姿のアルダが優雅にくつろいでいた。
山小屋の世界と天と地ほど落差のある姿に、アシュレイは目を剥いてしまう。
アルダの目の前にはティーセットと、小ぶりな焼き菓子が用意されていて、カップからは芳香と湯気が立ち昇っていた。
正面の席にはマクシムが。
2人揃って腰を上げ、アシュレイを出迎えてくれた。
なんだこの、いかにも高貴な一枚絵は。
たじろぐアシュレイにも着座を勧めて、先ほどの会話へと続く。
「それで、どこから聞きたい? マクシムにはざっくりと伝えてある」
長い脚を組み替えて、アルダは紅茶を口に含む。
「……どこから、じゃないわよ! 私はこんなに待ったのに、どうして先に説明しちゃうの!」
疑問を募らせながらも、後でと言うから健気に黙って待っていたのに。
マクシムを優先されて、ついに不満が噴出した。
「お前の支度を待つ間、手持無沙汰だったものでな」
「なぁに、それ! それなら馬車に乗っている時間こそ暇だったじゃない。マクシムさんが外だから駄目って、私には教えてくれなかったくせに」
「そうやって、お前はすぐに憤慨するからな。話が長くなるから、こうしてもらったんだ。湯に浸かって喉も渇いてるだろうし、先ずは紅茶でも飲んで落ち着け」
アシュレイが悪い、みたいな言い回しに、益々、納得いかない。
開いた口を戦慄かせていると、慌てたマクシムが仲裁に入った。
「アシュレイ様も、冷めぬうちにどうぞお召し上がりください」
自ら新しいカップに紅茶を注ぎ、アシュレイにも勧めてくれる。
「申し遅れましたが、私はマクシミリアン=ベリングバリ。アルダシール様の侍従をしております。マクシムとお呼びください」
「……アシュレイ・シャプール・セレンティアです。私こそ、非礼をお詫びします。心尽くしのおもてなしに感謝しております」
マクシムの折り目正しい態度に、アシュレイも背筋を正す。
話を早く聞きたかったのは事実だし、アルダの指示によるものかもしれない。
だが、湯浴みの支度をし、綺麗な服を用意してくれたのはマクシムの好意だ。
マクシムは赤銅色の髪に、明るいオレンジの瞳をしていた。
顔貌はアルダにも引けを取らない美丈夫で、礼儀正しく片膝をつくと、胸に手を当てて真っ直ぐにアシュレイを見上げる。
マクシムが作法に則った礼を取ったので、アシュレイは覚悟を決めてフルネームを告げた。
貴方を信用しますとの、アシュレイなりの意思表示だ。
邸内は極力の人払いがされているのか、使用人とは最低限の接触で済んだ。
湯浴みを終えると、ドレスルームのような脱衣所には着替えを始め、女性の身支度に必要なものが一通り揃えられていた。
脱衣所を出たところには、いかにもベテランの女中頭といった女性が待ち構えており、応接間まで案内してくれる。
扉を開いた先には大理石のテーブルと応接セットが。
その一部のソファーでは、既に湯浴みを済ませてピカピカに磨き上がった姿のアルダが優雅にくつろいでいた。
山小屋の世界と天と地ほど落差のある姿に、アシュレイは目を剥いてしまう。
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正面の席にはマクシムが。
2人揃って腰を上げ、アシュレイを出迎えてくれた。
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たじろぐアシュレイにも着座を勧めて、先ほどの会話へと続く。
「それで、どこから聞きたい? マクシムにはざっくりと伝えてある」
長い脚を組み替えて、アルダは紅茶を口に含む。
「……どこから、じゃないわよ! 私はこんなに待ったのに、どうして先に説明しちゃうの!」
疑問を募らせながらも、後でと言うから健気に黙って待っていたのに。
マクシムを優先されて、ついに不満が噴出した。
「お前の支度を待つ間、手持無沙汰だったものでな」
「なぁに、それ! それなら馬車に乗っている時間こそ暇だったじゃない。マクシムさんが外だから駄目って、私には教えてくれなかったくせに」
「そうやって、お前はすぐに憤慨するからな。話が長くなるから、こうしてもらったんだ。湯に浸かって喉も渇いてるだろうし、先ずは紅茶でも飲んで落ち着け」
アシュレイが悪い、みたいな言い回しに、益々、納得いかない。
開いた口を戦慄かせていると、慌てたマクシムが仲裁に入った。
「アシュレイ様も、冷めぬうちにどうぞお召し上がりください」
自ら新しいカップに紅茶を注ぎ、アシュレイにも勧めてくれる。
「申し遅れましたが、私はマクシミリアン=ベリングバリ。アルダシール様の侍従をしております。マクシムとお呼びください」
「……アシュレイ・シャプール・セレンティアです。私こそ、非礼をお詫びします。心尽くしのおもてなしに感謝しております」
マクシムの折り目正しい態度に、アシュレイも背筋を正す。
話を早く聞きたかったのは事実だし、アルダの指示によるものかもしれない。
だが、湯浴みの支度をし、綺麗な服を用意してくれたのはマクシムの好意だ。
マクシムは赤銅色の髪に、明るいオレンジの瞳をしていた。
顔貌はアルダにも引けを取らない美丈夫で、礼儀正しく片膝をつくと、胸に手を当てて真っ直ぐにアシュレイを見上げる。
マクシムが作法に則った礼を取ったので、アシュレイは覚悟を決めてフルネームを告げた。
貴方を信用しますとの、アシュレイなりの意思表示だ。
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