虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「本来なら再び弟の命を狙うところだが、君はあいつが欲しいのだろう。国王もあいつが大事で、殺したくはない。生かして活かしたい。何度かの失敗は国王の邪魔のせいだ。俺は結果として玉座を取れればいい。故にーーその過程も副産物もどうだっていい。別に弟を絶対に殺したい、ということでもないからな。だから今回は別のアプローチ、ということだ」

彼は続ける。
とんとんとテーブルを叩きながら。

「本人たちを除けば、この計画は君と俺、そして国王の三方に美味みがある。だからこそうまくいく。余計な邪魔が入りにくい。隠蔽もしやすい。どころか手を貸してくれる可能性すらある。我ながら実に賢い手段だ」

私は聞く。
あの時のように黙って。
あの時とは違い、考えながら。

「細かいことは今後詰めていく……が、概要はそこに書いてある通りだ。大きな変更はない。ーーさて、君の回答をきちんと聞く前に話してしまったが、どうする?」

わざとらしく、言う。

「まあ、もう引き返せないとは思うが?」

顔を歪ませ、笑う。


私は一呼吸だけ置く、
そして計画に再度目を通す。
引き返すつもりはない。
退路は最初から絶たれている。
帰る場所も、そのつもりもない。
そもそもここに来た時点でーーいや、あの手紙を書いた時点で私の心は決まっている。
人殺しの片棒を担ごうと、
それは大事な人を裏切る罪悪感に比べれば、
ーーいや、比べようのないものなのだから。
だから、私が言うべき言葉は、
私がするべき行動は決まっている。
舐めてもらっては困る。
恋する乙女を、公爵家令嬢を、この私を。

「分かりました」

私は言う。
そして書く。
悪魔と契りを交わす。

「よし、これで契約成立だ。張り切って殺そう」

アンドレアル様は言う。

「我が妹、イデアを」

笑いながら言った。

従者がつかつかと私に近づき、署名を確認する。
無機質な表情。
問題なきことを確認し、それを彼の元へと渡す。
アンドレアル様は満足そうにその書面を眺め、胸元に仕舞う。
何故か、大事そうに。
軽薄を地で行く男としては、珍しい。

「さて、これで正式に契約が交わされた故、こちらも出し惜しみはなしにしよう。実はこの計画は我が父ーー国王公認の計画だ。あくまで、裏で、という限定つきだがな。先程はぼかしてすまなかった」

利益の享受者、と言うわけではなく、公認とは。
それは邪魔するどころの騒ぎではなく、寧ろ支援する側。
味方とまではいかないにしろ、敵ではないのが分かっているのはありがたい。
無駄な、余分な心配をしなくて済む。
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