虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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私が私を見ている。
眺めている、と言うのが正しいのかもしれない。
暴れた私は私ではなくて、別の何か。
けれど感覚は共有している。
椅子の重さも、
人を殴る感触も、
目の前に起きている状況も。

だから、私は動いたのだろう。
動いて、しまったのだろう。
アンドレアル様の行動は早かった。
迷いもなく、決断したらすぐ行動に移していた。

だけど、
だけれど。
私も同じくらい早かった。
いや、ほんの少し、早かったかもしれない。

「おいおい、邪魔をしてくれるなよ」

短刀はあの人の喉元には届いていない。
代わりにーー

「あまり女を傷つけるのは好きじゃない。精神的ならまだしも、物理的外傷はつけたくない。可愛い子なら、尚更ね」

私の手のひらを貫いた。
ずぶり、と。
鋭い痛み、
遅れてくる鈍い痛み。
焼けるような感覚。
赤い血が、どくどくと流れる。
その行き先には、あの人がいた。
あの人の顔があった。
あの人の顔を汚していく。
赤く、赤く、染めていく。

「何だよ、イデアとのいちゃつきを見て、愛想が尽きたと思ったがーーやはり色恋というのは難しいな」

アンドレアル様は、言いつつ短刀を私から引き抜いた。
確かに、どうして動いたのだろう。
もうどうでもいいと思ったはずなのに。
何もかも、諦めたはずなのに


「だが生憎、俺は甘くない。勢い任せ、行き当たりばったりとは言っても、多少の準備はしてある」

ぱちん。
アンドレアル様が指を鳴らした。
それが合図となって、数人の従者が現れる。

「現実主義なんでね。まあ、あれだ」

一歩、従者たちが近づく。

「二人仲良く、あの世で幸せになってくれ」

二歩、従者たちが取り囲む、

「イデアもすぐそっちに来るかもしれないから、よろしくな」

三歩。
腰に提げた剣を引き抜き、私たちに向ける。
詰み、かな。
私は目を瞑った。
最後の最後で、いい思い出ができた。
自分勝手で、無茶苦茶で。
どうしようもない終わり方だったけど。

こうして、短い時間だったけど、好きな人のために動けた自分。
褒めてあげたい気持ち。

道中の目的や裏切りは全て棚に上げて。
悪いことは全て忘れて。
全て私が原因であることも消し去って。
最後の最後、その一瞬の偶然の善性だけ切り取って。
私は満足感のままに、目を閉じた。
私の物語を綴る本を、ぱたんと閉じた。
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