記憶喪失ですが、夫に溺愛されています。

もちえなが

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3.ご飯

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記憶を失ってから1ヶ月経った頃、少しずつリハビリをして、オルフェの支えなしで、背もたれなしで座っていられるようになった。

まだ1人で立つことはできないけれど、小さな重りを持ち上げる回数が増えていっていると思う。

「59、60、よし、もういいですよ」
「ふぅ~」
「お疲れ様です、今日もリハビリよく頑張りましたね」

重りを回収されると、よしよしと頭を撫でられる。
 
早く元気になって、オルフェと庭を散歩したい。
それが今の目標だった。

――ぐぅ~~~。
 
「あ…」
「ふふ、リーヴェ、お腹空きましたか?」

盛大にお腹の音が鳴ってしまった。
顔を真っ赤にしていると、元気な証ですね、と撫でてくれる。
 
「…うん」
「そうですね、そろそろ夕ご飯にしましょう」

ご飯も固形物を増やしていき、少しずつ量を食べられるようになっている。
それにオルフェの料理はとても美味しいから、毎回食事が楽しみだった。

「リーヴェ、ほら掴まって?」
「え?うん」

てっきり部屋で食べるのかと思ったが、横抱きにされて運ばれる。

「お部屋で食べないの?」
「元気になったらダイニングで食べようと約束したでしょう?リーヴェは頑張り屋さんなので、思ったよりも早く叶いましたね」
「うん!」

ダイニングに着くと、テーブルの前にあるソファにそっと下ろされる。

「記念に今日はいつもより豪華にしましょうね」
「わぁ、楽しみ」

オルフェがこちらに背を向けてキッチンで料理を始める。
ずっと眺めていると、こちらに気を配っているのか、包丁を扱っているのに、しょっちゅう視線が合う。

「ふふ、オルフェ、私のことを見ていると危ないよ」
「慣れているので大丈夫ですよ。それに本当はずっと貴方のことを見ていたいんです」
「ぅ…」

オルフェはすぐ歯の浮くような台詞を吐く。
その度に毎回顔を赤くしてしまうのだから忙しい。

「あぁ俺の奥さんが本当に可愛い。クソ、どうして凝ったものを作ろうとしたんだ、目を離したくない」
「も、もう、お料理に集中して!」

結局いくら言っても砂糖攻撃は止むことがなく、料理が完成した。

「お待たせしました、うさぎ肉のシチューです」
「わっ、お肉だ」

お肉を食べるのは初めてだった。
オルフェの膝の上に乗せられて、いつものように料理を口に運ばれる。
 
「オルフェ、じ、自分で食べられるよ」
「リーヴェに給餌するのがこの上ない喜びなのに…。どうか俺からご褒美を取り上げないでください」
「もうっ」

手を焼かせてしまって申し訳ないと思っていたけど、どうやらオルフェは世話を焼くのがとても好きらしい。
リハビリをして、もうできるとわかっているのに、水を飲むだけでも一度も1人でやらせてもらえない。

結局口に押し付けてくるものの誘惑に負けて口を開いた。

「んっ、柔らかくておいしい!」
「良かった、パンに乗せても美味しいですよ?ほら」
「んー!」

お肉はほろほろで、シチューもパンもとても美味しい。

「オルフェは食べないの?」
「んー、そうだ、リーヴェ、俺に食べさせて?」
「えっ」

オルフェが、あーんと口を開けて待っている。
スプーン一つ持たせてくれないくせに、こんな時だけずるい…!

「このままではお腹が空いて死んでしまいそうです…。どうかお願いしますリーヴェ」
「もうっ……あ、あーーん」

シチューをスプーンで掬って、オルフェの大きい口に持っていく。

私の手を掴むと、眼鏡越しに群青色の目を細めながら、スプーンをゆっくりと咥えた。
なぜだかそれに、かっと赤くなってしまう。

「ん、美味しい…、人生で食べたシチューで一番美味しいです。ありがとうリーヴェ」

ちゅっとこめかみにキスを落とされて、恥ずかしさに目が潤む。
 
「つ、作ったのはオルフェだよ」
「では、リーヴェが魔法をかけてくれたのですね。料理を美味しくしてしまうなんて、リーヴェは天才だ」

ああ言えばこう言う。
このひと月でオルフェには口で勝てないと知った。

それでも嫌じゃない。
いつもとてもドキドキさせられてしまうけど、この胸の高鳴りがとても心地よかった。
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