記憶喪失ですが、夫に溺愛されています。

もちえなが

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2.お世話

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「リーヴェ、痛くないですか?」
「ううん、気持ちいい」
 
「ふふ、そうですか。良かった」

オルフェの名前を覚えてから7日。
 
最初に目覚めたときは、無理がたたったのかまたすぐに寝込んでしまい、時々目覚めたらオルフェに少しの食事と薬を飲ませてもらい、身体を布で清められた後、全身マッサージを受ける。

そしてその後はそのまま眠気に誘われて寝てしまう。

毎日その繰り返しだったが、少しずつ起きられる時間が伸びていき、まだ少し熱っぽいが、今では朝と夕飯を食べられるようにまでなった。

そして今は、足のマッサージを受けていた。
大きな手でほぐされると、痺れて力の入らない足に血が巡っていき、、足の存在を感じることができる。

「ずいぶん起きていられるようになりましたね」
「うん、オルフェのおかげ、ありがとう」

オルフェの目が開かれると、、そのまま嬉しそうに破顔して足の甲にキスを落とされる。
 
「いいえ、貴方に奉仕するのが俺の一番の幸せなんですよ」

いつもおでこや頬にキスをされるが、毎回慣れなくてすぐに頬が熱くなってしまう。

「あぅ」
「ふ、リーヴェは照れ屋さんですね」

低い声で囁かれると、とてもドキドキしてしまう。
私は、赤くなった顔をごまかすように口を開いた。

「お、オルフェ」
「なんですか?リーヴェ」
 
せっかく今日は長く起きていられるのだから、色々私たちの話を聞きたい。

「ねえ、私たちは、結婚してどれくらいなの?」
「……2年です。でも出会いを含めると20年になります」

「20年?」
「えぇ、貴方が生まれた時から。俺は当時7歳でした。」

ということは、私は20歳で、オルフェは27歳ということか。
 
そっか、私は大人なんだ…。
生まれた時からの記憶がないからわからなかったけど、オルフェよりも小さく細い手がしっかりと骨ばっていることに気づいた。

「…どのように出会ったの?」
「……」

オルフェはすっと目を閉じると、しばらくそのまま黙っていた。
 
「リーヴェ、少し散歩しましょう。俺に掴まって?」
「ひゃっ」

オルフェは私を横抱きにして持ち上げる。
急に高くなった視界に怖くなって目の前の首に腕を巻き付ける。

「大丈夫、絶対離しませんから」

安定感のある腕に抱かれて、初めて部屋を出る。

ベッド以外のスペースがそんなにない木目調の壁の部屋を出ると、同じく木目調だが、もう少し広くキッチンや大きなテーブルのある部屋に来た。

「ここは、ダイニング兼リビング。もう少し元気になったらここでご飯を食べましょうね」
「うん」

それから薬を調剤するための小さい部屋を軽く案内された。

「俺は一応、医者兼薬師です。リーヴェの薬もここで作ってるんですよ」
「それじゃあ、患者さんがここへ来るの?」
「いいえ」

オルフェは玄関のドアを開けると、そのまま外へ出た。

「わぁ…」
 
見渡す限り自然の森が広がっていた。
地面を見ると小花が生い茂っていて、色鮮やかだ。

「ここはグランツ公国の辺境。元々街にいたのですが、貴方は身体が弱く、都会の空気は合わない。だから療養のために辺鄙だけど、空気の良いこの場所を選びました。」

確かにとても空気が良い。
そして、この場所は少し丘になっているのか、遠くまでよく見通すことができて、綺麗な夕日がゆっくりと地平線へ沈むのが見えた。

「ふふ、気に入りましたか?」
「…うん」

夕日を食い入るように見ていると、微笑まれる。
 
「ここに住んでいる人はいません。
幸い貯金は潤沢にあるし、この森は食べ物や薬草も豊富だから何も心配いりません。」
 
「記憶などどうでも良い。
貴方が健やかに生きてくれれば俺はそれだけで良い」

はっとなってオルフェを見る。
オルフェは、まっすぐ夕日を見つめていた。

「貴方が生まれてから、いや生まれる前から私は貴方のためにあった。そしてそれは今も変わりません。」
「え…?」

「それってどういう――」
「だから、早く元気になってくださいね、リーヴェ」

オルフェは私を見下ろすと、静かに唇を塞いだ。

祈るようなキス。
 
ごまかされた。
そう気づいたのに、これ以上追究できなかった。
 
だって、心臓のドキドキを抑えるのでいっぱいいっぱいだったから。
 


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