みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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真・最終部 みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

エピローグ みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

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 森実高校からほぼノンストップで走り続けてきたせいか、両足が千切れんばかりに痛い。

 身体中の細胞という細胞が「もうムリ! 特別労働手当を寄越せ!」と悲鳴をあげ、宿主である俺に激痛という名の抗議を送っていくるが、知るか! と言わんばかりに意志の力で握りつぶす。

 酸欠のせいで「キキッ……キキッ」と耳鳴りが酷くなる。

 身体を潰れんばかりに酷使しているからか、視界が滲み、突如目の前にバズーカーのようなカメラやら何やらを装備した男女が現れる。



『と、止まれ少年っ! 撮影中だ!』
『ちょっ、カメラ止めろカメラ!』
『手が空いてるヤツは、あの少年を止めろ! 力ずくで構わん!』



 何やらワケの分からん事を喚(わめ)きながら、俺の方へと突進してくる男たち。

 どうやら肉体に溜まった疲労が限界を超え、幻覚が見え始めているらしい。

 ガッシリと俺の腰に、肩に、足にしがみついてくる男達。

 ええぃ、邪魔だ!

 俺は一刻も早く、芽衣の所へ行かなきゃならねぇんだ!

 妙にリアルなその幻覚を振り払うように、さらに両足に力を籠める。



『な、なんだ、この少年は!? 大の大人が数人で身体にしがみついているのに、全然止まらないぞ!? どういう馬力をしているんだ!?』
『うぐぐぐぐっ!? だ、ダメですっ! 暴走、止まりません!』
『ど、どんなエンジンを積んでいるんだ、この少年は!? バケモンか!?』
『ヤダ、逞しい肉体……ウホッ♪ すっごいタイプぅ♪』



 何故か背筋に悪寒が走る。

 が、それよりも速く大地を蹴る。蹴る。とにかく蹴る!

 誰よりもはやく、芽衣の所へ――



「っ……士狼ォォォォォォォォォォォォッ!!!」

「ッ!」



 瞬間、脳が理解するよりもはやく、俺の眼球が意志を持ったように勝手に動いた。

 森実大橋のすぐ下、河川敷沿いに立つ2人の女性の影。

 1人は我が愛しの愛弟子、古羊洋子。

 そうしてもう1人は――



「見つけたぞ、めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」



 途端に心臓が1オクターブほど跳ねる。

 それとほぼ同時に、俺の身体が大地を蹴り上げ、森実大橋の手すりを踏み台に、男たちの拘束を振り切って、大空へと羽ばたいた。



『ちょっ、少年!? ソッチは川だぞ!?』
『か、カメラ回せ、カメラ! こりゃスゲェ画が撮れるぞ!』
『バカッ、言ってる場合か!? この川の勢いと深さを考えろ! あの少年、死ぬぞ!?』



 背後で俺の作り出した幻影が何かを叫んでいたが、関係ない。

 俺は過去も願いもしがらみも、全てを取っ払うように、背中に生えた『想い』という名の翼を全力全開で広げ――空を飛んだ!



「アイ・キャン・フラぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁイ!!」



 数秒の浮遊感。

 そして始まる自由落下という名の不自由な加速。

 そのまま翼の折れたエンジェルよろしく、森実川に真っ逆さまにスーパーダイブ。

 途端に橋の上から『キャァァァァァァァァ――ッ!?!?』と悲鳴があがった。



『お、男の子が!? 男の子が橋から落ちて!?』
『し、死んだか!? 死んじまったか!?』
『いや……あ、アレを見てください!』
『ッ!? な、なんだ、あの少年!? 人魚みたいにスイスイ泳いでいるぞ!?』
『あ、ありえねぇっ!? 15メートルから飛び込んだんだぞ!? どういう身体の作りをしてんだ、あのガキッ!? ほんとに同じ人間か!?』



 男達の声が小さくなっていくのを尻目に、俺は必死に下手くそな泳ぎで川を渡って行く。

 森実の川が俺を底へと引きずりこむように、足を引っ張ろうとする。

 濡れたスカジャンが重く、身体に張り付き、今にも溺れてしまいそうだ。

 が、そんなこと関係ねぇ!



「芽衣っ! 芽衣っ! めぇぇぇぇぇっぇぇいっ!」



 視界の端で、こちらに向かって駆けてくる女神さまの姿を捉える。

 あそこだ。

 あそこまで死んでも辿り着くんだ!

 神経を研ぎ澄まし、ポンコツの身体に鞭を打つ。



「プハッ!? ――めぇぇぇっぇぇぇぇいっ!」



 彼女の名前を呼ぶたびに、身体中から無限のパワーが溢れてくる。

 心臓が狂ったように高鳴り続ける。

 身体中の水分が沸騰したように熱くなる。

 そして――ついに辿り着く。

 目指していた場所へ。

 彼女の隣へ。

 俺の大好きな人の隣へ。

 古羊芽衣の……隣へ!



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!? ……やっと追いついたぞ、この野郎!」
「相変わらずムチャクチャな男ね、アンタは……。1歩間違えてたら、死んでたわよ?」
「そんな男に惚れたおまえも、大概たいがいだけどな! って、そんなコトはどうでもいいんだよ!」



 汗やら川の水やらでドロドロになった俺。

 そんな俺を河川敷から苦笑を浮かべつつ、どこか嬉しそうな顔をして引っ張り上げようと手を伸ばす芽衣。

 俺はそんな彼女の手を両手でガッチリ掴みながら、世界中に聞こえるように高らかに宣言してやった。



「いいか芽衣、よく聞け!? 『アタシじゃ士狼を幸せにすることが出来ない』だの何だのと、そんなちいせぇ事は気にすんな! 俺は俺で勝手に幸せになる! その俺の幸せのためには、芽衣、おまえが必要だ! だからおまえは余計なコトは考えず、俺に幸せにされろ!」



 そう俺が叫んだ瞬間、芽衣はおろか、その後ろに控えていたマイ☆エンジェル、果ては橋の上に居た男達ですら「ポカン……」とした表情で固まってしまう。

 そんな芽衣たちの態度など知るか! と、俺は逆に開き直って、彼女の顔をまっすぐ射抜いた。

 あぁ、笑いたければ笑うがいい。

 無様だろうが何だろうが、俺は可愛い後輩が信じた『俺』を信じる。

 真顔でバカをする『俺』を信じるっ!

 俺は『これが俺だ! 大神士狼だ!』と世界に宣言するように、ハッキリと再び芽衣に向かって告白した。



「腹黒だろうが、ニセチチだろうが、虚乳きょにゅうだろうが関係ねぇ! 俺は芽衣が好きなんだ、世界で1番好きなんだ! 例えおまえがAカップだろうと、この気持ちは――変わらない!」



 ――言った。

 言ってやった。

 ありったけの想いを、全部言葉に乗せて言ってやったぞ、この野郎!

 静寂が支配する中で、俺の荒い呼吸だけがやけに大きく聞こえる。

 誰もが動けない、動くことが出来ない空間。

 そんな空間の中、芽衣だけは、古羊芽衣だけは、誰よりも先に動いた。



「士狼……」



 芽衣は俺に掴まれていた手をゆっくりとほどくなり、愛おしそうに俺の顔へと、その白魚のような指先を移動させ――



「んっ? えっ? ちょっと待って? 今、Aカップのくだり必要あった? 無かったわよね? ねぇ?」

ちゅ、す、ちゅみまちぇんすみません・・・・・・ちゅいついふぇんちょんがテンションがあぎゃってあがって



 そのまま流れるような動作で俺の頬をガッ! と掴みあげた。

 強制的にタコ唇にされるナイスガイ、俺。

 あ、あれれ~?

 おかしいなぁ?

 確かに俺、今、告白したよね?

 なのに何で告白した相手から、ドスの利いた声で脅されているんだぁ?



「あとAカップじゃないから! B寄りのAだから! よ、寄せてあげれば余裕でBくらいある……ハズなんだから!」

「……ハンッ、御冗談でしょ? 古羊さ――うげぼろしゃぁっ!?」

「おっ? 今、笑ったか? 日本人平均サイズであるアタシの胸を笑ったかキサマぁ? あぁん?」
「に、日本人平均サイズって……ソレは絶対にウソぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」



 ゴキャッ!? と素敵なメロディを奏でながら、今しがた告白したハズの女の子から、どこぞの喧嘩師よろしく、頬を握り潰されかけるナイスガイ・シロウオオカミ。

 到底人間が発するとは思えない悲鳴が、俺の口からまろび出た。

 へぇ、俺ってこんな声出せるんだぁ♪

 なんて自分の新たなる一面を再確認するヒマすらも与えられず、芽衣は俺の頬を掴んでいた手を一旦外すなり、すぐさま頭を鷲掴わしづかみにしてくる。

 途端にメキメキッ!? と、頭蓋骨が奇跡のハーモニーを奏で出す。

 いやぁ、心臓に悪いですわコレ!



「友人のよしみで聞いてあげるわ……最後の言葉はソレでいいのね?」



 今にも俺をぶっ殺しかねないほど、芽衣の怒気が膨れ上がっていく。

 まさか告白した相手に殺されかけるだなんて……ほんと、どうしてこうなった?

 でもまぁ、これが俺達らしいのかもしれない。

 だってさ、想像してみてくれよ?

 スマートにカッコよく告白を決める大神士狼――って、みんな想像できるかい? 

 うん、俺には出来ない!

 きっと俺たちの間には『運命の赤い糸』なんて存在しないんだろうな。

 小指から伸びる赤い糸は、きっと芽衣とは繋がっていなくて、そこに奇跡なんてモノは存在しない。

 でも――それがどうした?

 それでも俺は、芽衣のことが好きなのだ!

 奇跡や運命なんて、チャチなもので恋をしたんじゃない!

 俺は自分の意志で、古羊芽衣に恋をしたのだ!

 彼女の得意げな顔や、小憎たらしい嘘、キツイ冗談や、華が咲いたような笑顔。

 本当は影で努力している癖に、ソレを人に見せない、ひたむきな姿勢。

 どんなときでも一生懸命に頑張る芽衣の姿が、俺は好きなのだ。

 だからっ!



「いや、よくない! ――いいか芽衣、よく覚えとけ!? 俺を振りたきゃ、振りゃあいい! でもな? 俺は100回フラれようが、200回フラれようが、300回でも400回でも、おまえに告白してやるからな!」

「うっ……!?」



 瞬間、ボッ! と火がいたように顔を赤くする芽衣。

 口をパクパクさせながら、「あっ、うっ……うぅ」と特に意味のない吐息をこぼす。

 そんな女神さまに追い打ちをかけるように、俺は胸の奥から無限に湧き上る感情を言語化し、彼女にぶつけた。



「好きだ芽衣! 大好きだ! ボコられようが、何を言われようが、どれだけ突き放されたって、俺は芽衣が好きなんだ! 例え世界中の人間がおまえを嫌っていたって、好きになる自信がある! みんなが好きだから、おまえを好いたんじゃない! 俺は自分の意志で、自分自身の心で、おまえに恋をしたんだ!」

「う、うぐぅ……っ!?」



 途端に耳朶じだまで真っ赤にして俯いてしまう女神さま。

 そんな女神さまが愛おしくて、可愛いと思ってしまう俺は、きっと末期なのだろう。

 だから。



「だから、もう1度だけ言わせて貰うぞ!」



 高鳴る胸の鼓動と共に、



「芽衣――俺と付き合ってくれ!」



 俺はもう1度、彼女に恋をするのだ。




 気がつくと、橋の上に居たハズの男たちが、俺たちの居る河川敷まで降りていた。

 そのまま拍手喝采はくしゅかっさいと共に『よく言った少年!』と、壊れたオモチャのように両手を叩く。

 その中には我が愛しの愛弟子まなでし、よこたんの姿もあった。

 男の1人がデッカイ黒光りしたバズーカー、もといカメラを構えて、俺たちを映している。

 全員、芽衣の返事を固唾を飲んで待っていた。

 そして俺たちの女神さまは、見惚れるような笑顔を浮かべて……満を持してこう言った。



「士狼、アタシは……アタシも――」
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