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真・最終部 みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
エンドロール みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊され――た!
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「――それで、それで!? 母ちゃんはそのとき、父ちゃんになんて言ったの!?」
「う~ん、なんて言ったかしらねぇ?」
「えぇ~っ!? そこで引くのかよぉ! そりゃねぇよ、母ちゃ~んっ!?」
新築のリビングのソファで、今年10歳になる愛しの愛息子である大神金次狼の頭を撫でながら、誤魔化すように微笑む芽衣。
そんな彼女に撫でられながら、金次狼は気持ち良さそうに目を細めた。
どこか父親の面影があるバカ面を浮かべる金次狼に、芽衣は思わずニンマリ♪ と笑みを深めてしまう。
バカな子ほど可愛いとは、よく言ったモノだ。
芽衣は内心そう呟きながら、何度も何度も息子の頭を優しく撫でた。
「むぅ~っ!? 誤魔化すなよ、母ちゃん! 結局、母ちゃんは父ちゃんになんて言ったんだよぉ?」
「誤魔化してないわよ。ただ、もう13年も前の話だからねぇ……。ママとパパの歴史で言えば、ジュラ紀にあたる部分だから、記憶が曖昧なのよねぇ」
「母ちゃん、母ちゃん! 『じゅらき』ってなぁに?」
「とっっっっっても昔ってことよ」
「ほぉん。『テニスのお●じさま』が、まだテニスをしていたくらい昔ってこと?」
「……またパパに余計な入れ知恵を吹きこまれたわね?」
途端に金次狼はギクリッ!? と、その小さな身体を震わせて、下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとする。
嘘が下手な事といい、ほんと年々パパに似てくるわね、この子。
もう既に大神の血が若干目覚めかけている事に戦々恐々しつつも、可愛い我が子の身体をぎゅぅぅぅぅぅっ! と抱きしめる。
「うわっぷ!? な、なになに母ちゃん? 痛いよ、やめてよ!」
「照れるな、照れるな♪」
「いや、ほんと痛いんだって! 母ちゃんのまな板のような貧乳おっぱいが、ゴリゴリとオレのほっぺたを削ってウガァァァァァァァァッ!?」
「うふふふふっ♪ 余計なコトを言う口は、コレかなぁ? んん~っ?」
「ゴメン母ちゃん、ゆるじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
いつの間にかハグがヘッドロックにジョグレス進化し、金次狼のコメカミを襲う。
ちなみに芽衣の胸には、かつての富士山は存在せず、今はただ航空母艦のごとく、どこまでも続く滑走路が広がっていた。
結婚してからというもの、芽衣はアレだけ親の仇のように大切にしていた超パッドを、アッサリと脱ぎ捨てたのだ。
なんせ今では、パッドよりも大切なモノが出来たから。
まぁ、その大切な息子は今現在、痛みのあまり、もがき苦しんでいるが。
芽衣は痛がる愛息子を見下ろしながら、「そろそろ許してやるか」と、ようやくいつも通りの柔和な笑みを浮かべて、息子へのハグを解いた。
「まったく、この子ったら。ほんとダメな所ばっかりパパに似てくるんだから。そんなんじゃ、女の子にモテないわよ?」
「イタタタ……。へへっ、それはダイジョウブだよ、母ちゃん。『あの』父ちゃんですら、母ちゃんとケッコン出来たんだから。オレもケッコン出来るハズだもん!」
ナチュラルに父親を罵倒する息子。
そんな息子に芽衣は苦笑を浮かべる。
が、すぐさま2人の意識はリビングに備え付けたテレビへと引っ張られた。
「あっ! そろそろ父ちゃんの試合が始まるよ、母ちゃん!」
「あらっ、本当ね」
そう言って芽衣は、息子と共にテレビの向こう側へと目線を寄越す。
テレビの向こう側には、四方に囲まれたリングの中で、特徴的な赤色のリーゼントをした青年が、赤色のグラブを拳に嵌め、上半身裸にハーフパンツのまま、鋭い眼光で対角線上に居る対戦相手を睨みつけていた。
それとほぼ同時に、今夜の解説者であるベテラン女性アナウンサーの大和田信菜アナの声が、リビングに木霊した。
『さぁ、長らくお待たせしました! キックボクシング界に新たな伝説を打ち立てる事が出来るのか!? 注目の1戦が今、始まろうとしてします! 我らがキックボクシング界の帝王、大神士狼が今……リング・イン! 世界チャンピオンになってから早8年、幾度となく数多の挑戦者を返り討ちにしてきた、絶対王者である大神士狼選手ですが……恐ろしく静かです。不気味なまでに静かに、その時を待っております! 対して挑戦者、気合い充分と言った様子で軽くスパーリングなどを見せる。どうやらコンディションは万全のようです!』
「うぉぉぉぉっ!? や、ヤベェよ母ちゃん!? 父ちゃん相手、すげぇ強そうだよ!? 父ちゃんダイジョウブか!?」
「大丈夫、大丈夫。パパは世界で1番強いんだから」
心配そうにそう口にする金次狼を宥めていると、ピンポーンッ! と呼び鈴が2人の身体を優しく撫でた。
芽衣は「はいはーい」と返事をしつつ、パタパタッ! とスリッパを鳴らして玄関へと移動する。
ドアを開けると、そこには自分の半身とも呼べる女性が立っていた。
「ただいまぁ、メイちゃん。ちょっと遅くなちゃったよぉ」
「遅いわよ洋子。どこまで買い物に行ってたのよ? もう試合が始まっちゃうわよ?」
えへへ、ごめんごめん。
と、朗らかに笑う古羊洋子。
学生時代と比べれば、大分大人びたその仕草に、実の姉である芽衣も、たまにドキリッ!? としてしまう。
ほんと色香の濃い女性に性長、違う、成長したものだ。
今日は仕事が完全にないオフの日なので、洋子は1日大神家に入り浸っていた。
もちろん士狼の応援のためというのもあるのだが、もう1つ、彼女が大神家に入り浸る理由があった。
それは――
「ほんとはね、もっと早く帰るつもりだったんだけど……。タマちゃんが疲れて、途中で眠っちゃって」
「あらもう、玉藻ったら……。ゴメンね、洋子? 重かったでしょ?」
「ううん、そんなことないよ。タマちゃん軽し、いい運動になったよ」
そう言って洋子は、自分の背中でスヤスヤ眠る女の子に微笑みを向けた。
そこには今年4歳になる芽衣の愛娘、大神玉藻の姿があった。
よほど安心して眠っているのか、一向に起きる気配のない自分の娘。
そんな娘に苦笑しつつ、洋子の背中から玉藻を抱き上げる。
「ほら玉藻、洋子お姉ちゃんに『ありがとう』は?」
「んん~っ……?」
「いいよいいよ、メイちゃん。寝かせてあげてて?」
芽衣は「しょうがないわねぇ」と玉藻を抱き直しつつ、洋子と共にリビングへと移動しようとして、
「あっ、待ってメイちゃん。実はお客さんが来てるんだけど? ……呼んでもいいかな?」
「うん? お客? こんな時間に?」
今日は確か、洋子以外に来客の予定はなかったハズ。
はて? と、首を捻る芽衣を尻目に、ゆっくりと大神家の玄関が開かれる。
そして外から現れたのはスーツ姿の男性と、白衣を身にまとった女性であった。
「久しぶりやな、古羊はん。1週間ぶりくらいか?」
「お邪魔するぞい、お姉さま」
「さ、猿野くん、宇佐美さん! えっ? どうして我が家に!?」
「ちゃうちゃう、古羊はん。今は『猿野』やない、『司馬』やで?」
「それを言うなら、わたしももう『古羊』じゃありませんよ? って、そうじゃなくて! なんで2人が我が家に?」
「それはヨッシーに誘われたからじゃよ」
「洋子に誘われた?」
「えへへっ……実はね? さっきそこで、偶然バッタリ2人に会ってね? よかったら、ししょーの世界戦を一緒に応援しない? って、ボクが誘ったんだぁ」
元気と心の代わりに、洋子がそう答える。
あぁ、なるほど。そういう……。
芽衣が納得して頷くのとほぼ同時に、元気の足下から、ひょっこり! と赤茶色の髪をした女の子が姿を現した。
「こんばんは、小母さま。お久しぶりです」
「あらあら、青子ちゃんも一緒に来てたのね? はい、コンバンハ。……ふふっ、相変わらず行儀正しいわねぇ。ほんとウチの息子に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらいだわ」
そう言って芽衣はペコリと頭を下げる女の子――司馬青子に笑みを向けた。
金次狼と同い年とは思えない、しっかりした態度のこの女の子は、元気と葵の愛の結晶だったりする。
ちなみに元気は高校を卒業すると同時に司馬家へ婿入りし、彼女の父親が経営する会社へ強制的に入社させられた素敵エピソードが存在するが、今は関係ないので割愛。
さらにそんな元気の尻の後を追いかけるように、宇佐美も入社したサブストーリーも存在するが、こちらも割愛。
「まぁこんな所で立ち話もアレですし、どうぞみなさん中へ入ってください」
「あっ、お姉さま! すまんが先にトイレを貸してくれんか? 今日はちょっと寒くてのぅ」
「もう3月ですからね。トイレはこのまま真っ直ぐ行った突き当りのすぐ横ですよ」
ありがとなのじゃ! と、白衣を靡かせズンズンと家の中を突き進むパツキン巨乳。
そんな彼女に続くように、青子、元気、洋子も中へと入る。
とくに青子は何度も大神家にやって来ているせいか、その踏み出す足に迷いはなく、勝手知ったる我が家とばかりにリビングへと移動していく。
そして青子がリビングの扉を開けると――愛しの息子である金次狼が半裸でテレビに向かってサイリウムを振り回していた。
「Fooooooッ♪ ようこ姉ちゃんFooooooo♪」
「世も末過ぎる……」
狂ったように笑いながら、サイリウムを振り回す幼馴染の男の子を、ドン引きした様子で見据える青子。
そんな息子の勇姿を、頭を抱えながら「このおバカ……」と溜め息をこぼす芽衣。
「いやはや、さすがは相棒の息子なだけあるで! その齢にして厄介オタクの才能を開花させるやなんて……将来は相棒をも超える逸材になるに違いないで!」
「ほんとキンちゃんって、ししょーと行動原理が瓜2つだよね……」
「ん? あっ! げんきのオッチャンとようこ姉ちゃん! それに、あおこちゃんもっ! こんばんは! どうしたの?」
「いや、そっちがどうした金の字? なんで裸なの、あんた?」
幼馴染の女の子からのツッコミに、金次狼は「だって……」と視線をテレビに向けた。
そこには黒の洋服に身を包んだ洋子が、マイク片手にその歌唱力を披露している動画が映っていた。
「ようこ姉ちゃんがテレビの中で急に歌いだすから……。『脱がなきゃ!』って思って、つい……」
「一体どういう思考回路をすれば、そういう結論に辿りつくワケ……?」
呆れる幼馴染の声は、テレビから聞こえてきた洋子の歌声にアッサリと掻き消された。
「いやぁしかし、改めてこうして見ると、感慨深いモノがあるのぅ。まさかあの妹はんが、歌手デビューするとはなぁ」
「うぅ……。自分の歌をこうしてみんなに聞かれると、やっぱり恥ずかしいね?」
身体を小さく縮ませながら、困ったように笑みをこぼす洋子。
そう、洋子は芽衣と同じ大学に進学した後、卒業を待たずに歌手デビューしてしまったのだ。
というのも、芽衣がテレビでよくしているカラオケ番組に、洋子を勝手にエントリーした結果、彼女の類まれなる才能がお茶の間を騒がせ、気がつくとアレよアレよと言う間に日本の歌姫へと押し上げられてしまったのだ。
そして、そんな叔母の歌が、金次狼は大好きだった。
「ほんと、あの洋子が今じゃ国民的大スターだなんて……子どもの頃じゃ考えられなかったわよね」
「も、もうメイちゃん! ボクの話はいいでしょ! それよりも、みんなでししょーを応援しようよ!」
「えぇ~っ? 父ちゃんより、ようこ姉ちゃんの応援がしたぁ~い!」
と、駄々を捏ようとしていた金次狼。
そんな金次狼の言葉を遮るかのように、トイレに行っていたマッド・サイエンティストが戻ってくる。
「あれ? うさみんもウチに来てたの?」
「誰が『うさみん』じゃ、下僕2号め。『こころ様』と呼べと、何度も言っておろうが。……それよりも2号、トイレの落書きはキサマの仕業か?」
「ううん、違うよ。アレは玉藻がやったんだよ?」
「……ソレを聞いて100倍ドン引きしたのじゃ」
ロリ巨乳の脳裏が『29』と書かれた大神家の便器の姿を思い出す。
まさか齢4歳にも満たない幼子がアレを書いたとは……つくづく末恐ろしい兄妹である。
ロリ巨乳が金次狼と玉藻のこれからの将来に不安を感じている間に、洋子の歌が終わる。
「あっ! そろそろ父ちゃんの試合がはじまる!」
「ふふっ、口ではあんなコトを言っても、やっぱりパパが心配なのよねぇ~。ねぇ、金次狼?」
「ち、違うもん! し、心配なんてしてないもん! ただ、息子の義務として生温かく見守っているだけだもん!」
「あぁもう、キンちゃん可愛いなぁ♪」
ぷぎゃっ!? と悲鳴をあげながら洋子に抱きしめられる金次狼。
そのふわふわ♪ のマシュマロパイパイを前に、思わず金次狼の頬が緩む。
その満更でもない表情に、芽衣はちょっとだけイラッ☆ とした。
チッ、結局男はおっぱいか……。
と、心の中で悪態を吐いている間に、テレビ向こうでは信菜が視聴者に対して士狼について説明し始めていた。
『チャンピオンである大神士狼選手、デビューしてからここまで負けなし! まさに無敗神話を築かんばかりにノリに乗っております! 今回防衛をすることが出来れば、前人未到の12回防衛達成ということで、世界キックボクシング協会から殿堂入り選手として伝説を刻むことになる予定です! しかしソレも納得です! なんせ大神士狼選手の右足は【悪魔の右足】と呼ばれ、今までの対戦相手からは【右足が消えた!】【同じ人間とは思えない】と言わしめるほどの威力を誇っていますからね! 伝説に足りうる実力は確かにあります! 対して今日の対戦相手は――』
『うぉぉぉぉぉぉっ!? 喧嘩狼ぃぃぃぃぃぃっ! ワシじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
『タカさん、落ち着いてください。全国放送ですから、コレ』
信菜の背後で、妙に聞き覚えのあるハードゲイとお供の声が聞こえた気がしたが、芽衣はあえて無視した。
信菜がひと通り説明し終えるなり、士狼と挑戦者はリング中央へと移動。
そしてお互いが構え、身体中から殺気を漲らせると、ほぼ同時に試合開始のゴングがリングに鳴り響く。
――瞬間、士狼の右足が挑戦者の顔を捉え、挑戦者が音も無くマッドに沈んだ。
刹那、会場から割れんばかりの歓声がテレビを震わせた。
『け、決着ぅぅぅぅぅっ!? 決着です! チャンピオンの居合のような鋭い一撃を前に、挑戦者立ち上がれなぁぁぁぁぁぁい! つ、強い! 強すぎるぞ、この男ぉぉぉぉぉっ!』
「わわっ!? も、もう勝っちゃったよ、ししょーっ!?」
「凄げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 父ちゃん凄げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「フフフッ、だからママ言ったでしょ? パパは世界で1番強いんだって」
ふふんっ! と、自慢気に鼻を鳴らず芽衣。
しかし、もはや金次狼には母の言葉は耳に届いておらず、リングの上で悠然と立ち尽くす父親の姿しか捉えていない。
そのあまりにも気高く美しい姿を前に、金次狼はかじりつくようにテレビに魅入っていた。
そんな息子の視線など、もちろん知らない士狼は、ヒーローインタビューをするべくリングの上にあがってきた愛しの後輩に視線を寄越していた。
『12度目となる世界王者防衛成功、おめでとうございます大神選手!』
『ありがとうございます。……ふぅ~、疲れたぁ』
『今日はリングに上がる前から、妙に気を張っていたように見えたんですが?』
『えぇっ、今日だけは絶対に負けられない理由があったんですよ』
そう言って別人のように人懐っこい笑みを浮かべる士狼。
そこには金次狼の知らない父親が居た。
負けられない理由? と信菜が尋ねるが、ソレ以上は言う気が無いらしく、曖昧な笑みでお茶を濁す士狼。
長い付き合いなのでソレを肌で感じ取った信菜は、さっさと別の質問に切り替えることにした。
『それでは大神選手、今の気持ちを誰に伝えたいですか?』
『もちろん、愛する妻にですね』
「『愛する妻に』だって、メイちゃん?」
「う、うるさいわねぇ」
洋子のからかうような口調に、バツが悪そうな顔をする芽衣。
その顔はほんのり赤みがかっていた。
士狼の言葉を聞いて、マイクを向けていた信菜の顔にも、意地の悪い笑みが浮かび上がる。
『なるほど……では! その愛する妻に対して、一言ナニかお願いします!』
『……わかりました』
士狼はゆっくりと信菜からマイクを奪うなり、すぅ、と息を吸い込んで。
『――芽衣ちゃん、違うんだ! あのキャバクラでの一件は誤解なんだぁぁぁぁぁぁっ!』
泣きそうな顔になりながら、情けない声を全国ネットに乗せて発信した。
『確かにキャバクラに行ったけどさ! アレは会長に無理やり連れ行かされただけで、何もしてないから! ほんとだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
「あっ、いつもの父ちゃんだ」
「あのおバカ……」
ごめんよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? と泣き叫ぶ父親。
そんな父親に哀れみの視線を向ける息子。
そして呆れてモノが言えなくなる芽衣。
まったく関係ない所で熟睡する娘。
大神家は今日も今日とて平常運転だった。
『エロいコトは一切してない! ただすっっっごく素朴でイイコだったらか、話を聞いてあげただけなんだぁぁぁぁぁぁっ! だからお願ぁぁぁぁい、家に入れてぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
『いやいやシロパイ、素朴でイイコはキャバやんねぇし?』
『ちょっ、やめて大和田ちゃん!? そんな清純派AV女優並みの矛盾を突くのやめて!? 今けっこうデリケートな話しているから! 大神家の今後の行く末の話をしてるから!』
「母ちゃん、母ちゃん! 【キャバクラ】ってなぁに?」
「ダメな男が行く所よぉ♪」
「いやいや古羊はん、ここは相棒を褒めるところやで? 風俗やなくキャバクラで我慢した相棒の忍耐力を――モゴモゴ」
「さ、サルノくん!? キンちゃんやアオコちゃんが居るんだから、そんな言葉を使っちゃダメだよぉ!?」
「……のぅ青子? 今来たばかりじゃが、ワガハイ、もう帰ってもええかのぅ?」
「……世も末過ぎる」
この世に数多くの家庭があれど、この日、間違いなく1番カオスな家庭は大神家だったに違いない。
許して芽衣ちゃぁぁぁぁぁぁん!? と、リングの上で泣き叫ぶ士狼。
そんな士狼の周りを、セコンドたちが取り押さえようとする。
が、すぐさま異変に気付いた士狼がジタバタと暴れ出す。
『むっ!? な、何をする、おまえら!? 離せ、離せぇぇぇぇぇっ!』
『ちょっ、シロパイ落ち着けし!? だ、誰かチャンピオンを止めてぇ!』
『ワシに任せるぜよ! ゲヘへ……♪ どこまでもクレバーに抱きしめてやるぜよ、喧嘩狼ぃ~っ❤』
『うぉっ!? た、鷹野テメェいつの間に!? や、やめろ! 偶然を装って尻にテメェのシャウエッセンを押し付けるんじゃねぇ! ちょっ、タマキン兄さん、助けてぇ!? 犯されるぅぅぅぅぅっ!?』
『誰がタマキンですか……あぁもうタカさん落ち着いてください。ほら行きますよ?』
『んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ❤❤❤』
『あぁ、そっちのイクじゃありません』
『あぁもう!? 結局いつもこうなるワケ!? ちょっとスタッフ! モザイク、モザイクかけてぇぇぇぇっ!』
リングの上では懐かしのメンツがギャーギャーッ!? と、その醜態を全国に垂れ流しにしていた。
それを見て、またもや青子は「世も末過ぎる……」と冷たく言い放つ。
この場で一番の常識人が、まさかの10歳児だった。
なんだかソレが妙におかしくて、芽衣は呆れるを通り越して、思わず吹き出してしまった。
本当は怒らなきゃいけない場面なのだろうが……。
「これが惚れた弱味ってヤツなのかしらねぇ……」
「えっ? なにが、母ちゃん?」
な~んでぇ~もないっ! と、ニシシシ笑いながら息子の頭をワシワシ撫でまわす。
うわっぷ!? と声をあげる金次狼を尻目に、芽衣は再びテレビの向こう側で笑う旦那を見やる。
本当にこの男は、出会った時からナニも変わらない。
勝手に人の心の中をズカズカと土足で上がり込んで来ては、これまた勝手に人の傷を勝手に癒していく。
そのまま何食わぬ態度でドッカリ! と心のど真ん中に居座っては、いつの間にか幸せでいっぱいにしていく。
「本当に変わらない男なんだから……ふふっ」
出会って13年。
高校を卒業して11年。
結婚して息子と娘が生まれて10年。
思えばあっという間の13年だった。
楽しいこと、辛いこと、悲しいこと、色んなことがたくさんあった。
初めて士狼と2人で旅行に行ったこと。
新しく士狼が立ち上げた部活が、彼のハーレムになりかけていたから、ぶっ殺しに行ったこと。
浮気未遂されたこと。
新入生に士狼が寝取られかけたこと。
お酒の勢いでついニャンニャン♪ してしまい、大学在学中に息子が爆誕してしまったこと。
ほんとロクでもない思い出がたくさんあった。
それでも、芽衣の思い出の中は士狼の笑顔でいっぱいだ。
いつもいつも、気がつけば人の輪の中心に立って、その陽だまりのような笑顔を振りまいて、周りを笑顔にしてしまう――そんな士狼の笑顔でいっぱいだ。
そして今日もまた、
『芽衣ぃぃぃぃぃぃっ! 世界で1番愛してるぞぉぉぉぉっ!!』
世界の中心で士狼は笑い続ける。
彼女の大好きな笑顔で笑い続ける。
だから芽衣も『あの日』、河川敷で士狼に言った『秘密の呪文』を胸の内で何度も何度も、何度でも彼に向かって唱えるのだ。
――アタシも世界で1番愛してる、と。
【お・し・ま・い♪】
完結記念イラスト
古羊芽衣(Ver.ウェデングドレス)
おまけイラスト
古羊洋子(Ver.ウェデングドレス)
「う~ん、なんて言ったかしらねぇ?」
「えぇ~っ!? そこで引くのかよぉ! そりゃねぇよ、母ちゃ~んっ!?」
新築のリビングのソファで、今年10歳になる愛しの愛息子である大神金次狼の頭を撫でながら、誤魔化すように微笑む芽衣。
そんな彼女に撫でられながら、金次狼は気持ち良さそうに目を細めた。
どこか父親の面影があるバカ面を浮かべる金次狼に、芽衣は思わずニンマリ♪ と笑みを深めてしまう。
バカな子ほど可愛いとは、よく言ったモノだ。
芽衣は内心そう呟きながら、何度も何度も息子の頭を優しく撫でた。
「むぅ~っ!? 誤魔化すなよ、母ちゃん! 結局、母ちゃんは父ちゃんになんて言ったんだよぉ?」
「誤魔化してないわよ。ただ、もう13年も前の話だからねぇ……。ママとパパの歴史で言えば、ジュラ紀にあたる部分だから、記憶が曖昧なのよねぇ」
「母ちゃん、母ちゃん! 『じゅらき』ってなぁに?」
「とっっっっっても昔ってことよ」
「ほぉん。『テニスのお●じさま』が、まだテニスをしていたくらい昔ってこと?」
「……またパパに余計な入れ知恵を吹きこまれたわね?」
途端に金次狼はギクリッ!? と、その小さな身体を震わせて、下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとする。
嘘が下手な事といい、ほんと年々パパに似てくるわね、この子。
もう既に大神の血が若干目覚めかけている事に戦々恐々しつつも、可愛い我が子の身体をぎゅぅぅぅぅぅっ! と抱きしめる。
「うわっぷ!? な、なになに母ちゃん? 痛いよ、やめてよ!」
「照れるな、照れるな♪」
「いや、ほんと痛いんだって! 母ちゃんのまな板のような貧乳おっぱいが、ゴリゴリとオレのほっぺたを削ってウガァァァァァァァァッ!?」
「うふふふふっ♪ 余計なコトを言う口は、コレかなぁ? んん~っ?」
「ゴメン母ちゃん、ゆるじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
いつの間にかハグがヘッドロックにジョグレス進化し、金次狼のコメカミを襲う。
ちなみに芽衣の胸には、かつての富士山は存在せず、今はただ航空母艦のごとく、どこまでも続く滑走路が広がっていた。
結婚してからというもの、芽衣はアレだけ親の仇のように大切にしていた超パッドを、アッサリと脱ぎ捨てたのだ。
なんせ今では、パッドよりも大切なモノが出来たから。
まぁ、その大切な息子は今現在、痛みのあまり、もがき苦しんでいるが。
芽衣は痛がる愛息子を見下ろしながら、「そろそろ許してやるか」と、ようやくいつも通りの柔和な笑みを浮かべて、息子へのハグを解いた。
「まったく、この子ったら。ほんとダメな所ばっかりパパに似てくるんだから。そんなんじゃ、女の子にモテないわよ?」
「イタタタ……。へへっ、それはダイジョウブだよ、母ちゃん。『あの』父ちゃんですら、母ちゃんとケッコン出来たんだから。オレもケッコン出来るハズだもん!」
ナチュラルに父親を罵倒する息子。
そんな息子に芽衣は苦笑を浮かべる。
が、すぐさま2人の意識はリビングに備え付けたテレビへと引っ張られた。
「あっ! そろそろ父ちゃんの試合が始まるよ、母ちゃん!」
「あらっ、本当ね」
そう言って芽衣は、息子と共にテレビの向こう側へと目線を寄越す。
テレビの向こう側には、四方に囲まれたリングの中で、特徴的な赤色のリーゼントをした青年が、赤色のグラブを拳に嵌め、上半身裸にハーフパンツのまま、鋭い眼光で対角線上に居る対戦相手を睨みつけていた。
それとほぼ同時に、今夜の解説者であるベテラン女性アナウンサーの大和田信菜アナの声が、リビングに木霊した。
『さぁ、長らくお待たせしました! キックボクシング界に新たな伝説を打ち立てる事が出来るのか!? 注目の1戦が今、始まろうとしてします! 我らがキックボクシング界の帝王、大神士狼が今……リング・イン! 世界チャンピオンになってから早8年、幾度となく数多の挑戦者を返り討ちにしてきた、絶対王者である大神士狼選手ですが……恐ろしく静かです。不気味なまでに静かに、その時を待っております! 対して挑戦者、気合い充分と言った様子で軽くスパーリングなどを見せる。どうやらコンディションは万全のようです!』
「うぉぉぉぉっ!? や、ヤベェよ母ちゃん!? 父ちゃん相手、すげぇ強そうだよ!? 父ちゃんダイジョウブか!?」
「大丈夫、大丈夫。パパは世界で1番強いんだから」
心配そうにそう口にする金次狼を宥めていると、ピンポーンッ! と呼び鈴が2人の身体を優しく撫でた。
芽衣は「はいはーい」と返事をしつつ、パタパタッ! とスリッパを鳴らして玄関へと移動する。
ドアを開けると、そこには自分の半身とも呼べる女性が立っていた。
「ただいまぁ、メイちゃん。ちょっと遅くなちゃったよぉ」
「遅いわよ洋子。どこまで買い物に行ってたのよ? もう試合が始まっちゃうわよ?」
えへへ、ごめんごめん。
と、朗らかに笑う古羊洋子。
学生時代と比べれば、大分大人びたその仕草に、実の姉である芽衣も、たまにドキリッ!? としてしまう。
ほんと色香の濃い女性に性長、違う、成長したものだ。
今日は仕事が完全にないオフの日なので、洋子は1日大神家に入り浸っていた。
もちろん士狼の応援のためというのもあるのだが、もう1つ、彼女が大神家に入り浸る理由があった。
それは――
「ほんとはね、もっと早く帰るつもりだったんだけど……。タマちゃんが疲れて、途中で眠っちゃって」
「あらもう、玉藻ったら……。ゴメンね、洋子? 重かったでしょ?」
「ううん、そんなことないよ。タマちゃん軽し、いい運動になったよ」
そう言って洋子は、自分の背中でスヤスヤ眠る女の子に微笑みを向けた。
そこには今年4歳になる芽衣の愛娘、大神玉藻の姿があった。
よほど安心して眠っているのか、一向に起きる気配のない自分の娘。
そんな娘に苦笑しつつ、洋子の背中から玉藻を抱き上げる。
「ほら玉藻、洋子お姉ちゃんに『ありがとう』は?」
「んん~っ……?」
「いいよいいよ、メイちゃん。寝かせてあげてて?」
芽衣は「しょうがないわねぇ」と玉藻を抱き直しつつ、洋子と共にリビングへと移動しようとして、
「あっ、待ってメイちゃん。実はお客さんが来てるんだけど? ……呼んでもいいかな?」
「うん? お客? こんな時間に?」
今日は確か、洋子以外に来客の予定はなかったハズ。
はて? と、首を捻る芽衣を尻目に、ゆっくりと大神家の玄関が開かれる。
そして外から現れたのはスーツ姿の男性と、白衣を身にまとった女性であった。
「久しぶりやな、古羊はん。1週間ぶりくらいか?」
「お邪魔するぞい、お姉さま」
「さ、猿野くん、宇佐美さん! えっ? どうして我が家に!?」
「ちゃうちゃう、古羊はん。今は『猿野』やない、『司馬』やで?」
「それを言うなら、わたしももう『古羊』じゃありませんよ? って、そうじゃなくて! なんで2人が我が家に?」
「それはヨッシーに誘われたからじゃよ」
「洋子に誘われた?」
「えへへっ……実はね? さっきそこで、偶然バッタリ2人に会ってね? よかったら、ししょーの世界戦を一緒に応援しない? って、ボクが誘ったんだぁ」
元気と心の代わりに、洋子がそう答える。
あぁ、なるほど。そういう……。
芽衣が納得して頷くのとほぼ同時に、元気の足下から、ひょっこり! と赤茶色の髪をした女の子が姿を現した。
「こんばんは、小母さま。お久しぶりです」
「あらあら、青子ちゃんも一緒に来てたのね? はい、コンバンハ。……ふふっ、相変わらず行儀正しいわねぇ。ほんとウチの息子に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらいだわ」
そう言って芽衣はペコリと頭を下げる女の子――司馬青子に笑みを向けた。
金次狼と同い年とは思えない、しっかりした態度のこの女の子は、元気と葵の愛の結晶だったりする。
ちなみに元気は高校を卒業すると同時に司馬家へ婿入りし、彼女の父親が経営する会社へ強制的に入社させられた素敵エピソードが存在するが、今は関係ないので割愛。
さらにそんな元気の尻の後を追いかけるように、宇佐美も入社したサブストーリーも存在するが、こちらも割愛。
「まぁこんな所で立ち話もアレですし、どうぞみなさん中へ入ってください」
「あっ、お姉さま! すまんが先にトイレを貸してくれんか? 今日はちょっと寒くてのぅ」
「もう3月ですからね。トイレはこのまま真っ直ぐ行った突き当りのすぐ横ですよ」
ありがとなのじゃ! と、白衣を靡かせズンズンと家の中を突き進むパツキン巨乳。
そんな彼女に続くように、青子、元気、洋子も中へと入る。
とくに青子は何度も大神家にやって来ているせいか、その踏み出す足に迷いはなく、勝手知ったる我が家とばかりにリビングへと移動していく。
そして青子がリビングの扉を開けると――愛しの息子である金次狼が半裸でテレビに向かってサイリウムを振り回していた。
「Fooooooッ♪ ようこ姉ちゃんFooooooo♪」
「世も末過ぎる……」
狂ったように笑いながら、サイリウムを振り回す幼馴染の男の子を、ドン引きした様子で見据える青子。
そんな息子の勇姿を、頭を抱えながら「このおバカ……」と溜め息をこぼす芽衣。
「いやはや、さすがは相棒の息子なだけあるで! その齢にして厄介オタクの才能を開花させるやなんて……将来は相棒をも超える逸材になるに違いないで!」
「ほんとキンちゃんって、ししょーと行動原理が瓜2つだよね……」
「ん? あっ! げんきのオッチャンとようこ姉ちゃん! それに、あおこちゃんもっ! こんばんは! どうしたの?」
「いや、そっちがどうした金の字? なんで裸なの、あんた?」
幼馴染の女の子からのツッコミに、金次狼は「だって……」と視線をテレビに向けた。
そこには黒の洋服に身を包んだ洋子が、マイク片手にその歌唱力を披露している動画が映っていた。
「ようこ姉ちゃんがテレビの中で急に歌いだすから……。『脱がなきゃ!』って思って、つい……」
「一体どういう思考回路をすれば、そういう結論に辿りつくワケ……?」
呆れる幼馴染の声は、テレビから聞こえてきた洋子の歌声にアッサリと掻き消された。
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そして、そんな叔母の歌が、金次狼は大好きだった。
「ほんと、あの洋子が今じゃ国民的大スターだなんて……子どもの頃じゃ考えられなかったわよね」
「も、もうメイちゃん! ボクの話はいいでしょ! それよりも、みんなでししょーを応援しようよ!」
「えぇ~っ? 父ちゃんより、ようこ姉ちゃんの応援がしたぁ~い!」
と、駄々を捏ようとしていた金次狼。
そんな金次狼の言葉を遮るかのように、トイレに行っていたマッド・サイエンティストが戻ってくる。
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「誰が『うさみん』じゃ、下僕2号め。『こころ様』と呼べと、何度も言っておろうが。……それよりも2号、トイレの落書きはキサマの仕業か?」
「ううん、違うよ。アレは玉藻がやったんだよ?」
「……ソレを聞いて100倍ドン引きしたのじゃ」
ロリ巨乳の脳裏が『29』と書かれた大神家の便器の姿を思い出す。
まさか齢4歳にも満たない幼子がアレを書いたとは……つくづく末恐ろしい兄妹である。
ロリ巨乳が金次狼と玉藻のこれからの将来に不安を感じている間に、洋子の歌が終わる。
「あっ! そろそろ父ちゃんの試合がはじまる!」
「ふふっ、口ではあんなコトを言っても、やっぱりパパが心配なのよねぇ~。ねぇ、金次狼?」
「ち、違うもん! し、心配なんてしてないもん! ただ、息子の義務として生温かく見守っているだけだもん!」
「あぁもう、キンちゃん可愛いなぁ♪」
ぷぎゃっ!? と悲鳴をあげながら洋子に抱きしめられる金次狼。
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と、心の中で悪態を吐いている間に、テレビ向こうでは信菜が視聴者に対して士狼について説明し始めていた。
『チャンピオンである大神士狼選手、デビューしてからここまで負けなし! まさに無敗神話を築かんばかりにノリに乗っております! 今回防衛をすることが出来れば、前人未到の12回防衛達成ということで、世界キックボクシング協会から殿堂入り選手として伝説を刻むことになる予定です! しかしソレも納得です! なんせ大神士狼選手の右足は【悪魔の右足】と呼ばれ、今までの対戦相手からは【右足が消えた!】【同じ人間とは思えない】と言わしめるほどの威力を誇っていますからね! 伝説に足りうる実力は確かにあります! 対して今日の対戦相手は――』
『うぉぉぉぉぉぉっ!? 喧嘩狼ぃぃぃぃぃぃっ! ワシじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
『タカさん、落ち着いてください。全国放送ですから、コレ』
信菜の背後で、妙に聞き覚えのあるハードゲイとお供の声が聞こえた気がしたが、芽衣はあえて無視した。
信菜がひと通り説明し終えるなり、士狼と挑戦者はリング中央へと移動。
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――瞬間、士狼の右足が挑戦者の顔を捉え、挑戦者が音も無くマッドに沈んだ。
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『それでは大神選手、今の気持ちを誰に伝えたいですか?』
『もちろん、愛する妻にですね』
「『愛する妻に』だって、メイちゃん?」
「う、うるさいわねぇ」
洋子のからかうような口調に、バツが悪そうな顔をする芽衣。
その顔はほんのり赤みがかっていた。
士狼の言葉を聞いて、マイクを向けていた信菜の顔にも、意地の悪い笑みが浮かび上がる。
『なるほど……では! その愛する妻に対して、一言ナニかお願いします!』
『……わかりました』
士狼はゆっくりと信菜からマイクを奪うなり、すぅ、と息を吸い込んで。
『――芽衣ちゃん、違うんだ! あのキャバクラでの一件は誤解なんだぁぁぁぁぁぁっ!』
泣きそうな顔になりながら、情けない声を全国ネットに乗せて発信した。
『確かにキャバクラに行ったけどさ! アレは会長に無理やり連れ行かされただけで、何もしてないから! ほんとだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
「あっ、いつもの父ちゃんだ」
「あのおバカ……」
ごめんよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? と泣き叫ぶ父親。
そんな父親に哀れみの視線を向ける息子。
そして呆れてモノが言えなくなる芽衣。
まったく関係ない所で熟睡する娘。
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『エロいコトは一切してない! ただすっっっごく素朴でイイコだったらか、話を聞いてあげただけなんだぁぁぁぁぁぁっ! だからお願ぁぁぁぁい、家に入れてぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
『いやいやシロパイ、素朴でイイコはキャバやんねぇし?』
『ちょっ、やめて大和田ちゃん!? そんな清純派AV女優並みの矛盾を突くのやめて!? 今けっこうデリケートな話しているから! 大神家の今後の行く末の話をしてるから!』
「母ちゃん、母ちゃん! 【キャバクラ】ってなぁに?」
「ダメな男が行く所よぉ♪」
「いやいや古羊はん、ここは相棒を褒めるところやで? 風俗やなくキャバクラで我慢した相棒の忍耐力を――モゴモゴ」
「さ、サルノくん!? キンちゃんやアオコちゃんが居るんだから、そんな言葉を使っちゃダメだよぉ!?」
「……のぅ青子? 今来たばかりじゃが、ワガハイ、もう帰ってもええかのぅ?」
「……世も末過ぎる」
この世に数多くの家庭があれど、この日、間違いなく1番カオスな家庭は大神家だったに違いない。
許して芽衣ちゃぁぁぁぁぁぁん!? と、リングの上で泣き叫ぶ士狼。
そんな士狼の周りを、セコンドたちが取り押さえようとする。
が、すぐさま異変に気付いた士狼がジタバタと暴れ出す。
『むっ!? な、何をする、おまえら!? 離せ、離せぇぇぇぇぇっ!』
『ちょっ、シロパイ落ち着けし!? だ、誰かチャンピオンを止めてぇ!』
『ワシに任せるぜよ! ゲヘへ……♪ どこまでもクレバーに抱きしめてやるぜよ、喧嘩狼ぃ~っ❤』
『うぉっ!? た、鷹野テメェいつの間に!? や、やめろ! 偶然を装って尻にテメェのシャウエッセンを押し付けるんじゃねぇ! ちょっ、タマキン兄さん、助けてぇ!? 犯されるぅぅぅぅぅっ!?』
『誰がタマキンですか……あぁもうタカさん落ち着いてください。ほら行きますよ?』
『んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ❤❤❤』
『あぁ、そっちのイクじゃありません』
『あぁもう!? 結局いつもこうなるワケ!? ちょっとスタッフ! モザイク、モザイクかけてぇぇぇぇっ!』
リングの上では懐かしのメンツがギャーギャーッ!? と、その醜態を全国に垂れ流しにしていた。
それを見て、またもや青子は「世も末過ぎる……」と冷たく言い放つ。
この場で一番の常識人が、まさかの10歳児だった。
なんだかソレが妙におかしくて、芽衣は呆れるを通り越して、思わず吹き出してしまった。
本当は怒らなきゃいけない場面なのだろうが……。
「これが惚れた弱味ってヤツなのかしらねぇ……」
「えっ? なにが、母ちゃん?」
な~んでぇ~もないっ! と、ニシシシ笑いながら息子の頭をワシワシ撫でまわす。
うわっぷ!? と声をあげる金次狼を尻目に、芽衣は再びテレビの向こう側で笑う旦那を見やる。
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高校を卒業して11年。
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浮気未遂されたこと。
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そして今日もまた、
『芽衣ぃぃぃぃぃぃっ! 世界で1番愛してるぞぉぉぉぉっ!!』
世界の中心で士狼は笑い続ける。
彼女の大好きな笑顔で笑い続ける。
だから芽衣も『あの日』、河川敷で士狼に言った『秘密の呪文』を胸の内で何度も何度も、何度でも彼に向かって唱えるのだ。
――アタシも世界で1番愛してる、と。
【お・し・ま・い♪】
完結記念イラスト
古羊芽衣(Ver.ウェデングドレス)
おまけイラスト
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