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EXTRAにゃんっ! みんなの天使サマは最強ヤンキーに甘く壊される
前編:ファーストキスですが、なにか?
しおりを挟む――キス。
それはここ、侍の国ジャパンにおいて様々な意味を持つ言葉である。
信愛の証。
永遠の愛を誓う行為。
エロマンガ界の人妻における『キスはダメなの……』という申し訳程度の貞操観念。
様々な意味を持つキスという行為だが、ようはお互いの愛を確かめ合うための行為……儀式と言い換えていいだろう。
そして愛を確かめ合うのは、やはり恋人同士のお約束であり、その……なんだ?
あぁ~、もうダメだ!
知的でクールに遠回しに表現しようとしたが、もうムリだ!
もう率直に言うね?
わたくし大神士狼は――キスがしたいです!
我が未来のマイワイフ、古羊芽衣とすこぶるキスがしたいです!
芽衣に2度目の告白を敢行し、無事に主従関係から恋人へとジョブチェンジしたナイスガイな俺だが……実は現在かなり悩んでいた。
というのも、芽衣と付き合いだして、かれこれ1週間。
俺たちは若い肉体の本能に従うように肉欲に溺れる――ことなく、お手々を繋ぐ程度の肉体的接触という、初心で淡い……大神士狼という人間を知っている人から見たら『誰だおまえは!?』とツッコミを入れたくなるレベルの健全の極みのような付き合い方をしていた。
いや、そりゃもちろんラインや電話は頻繁にするし、なるべく2人っきりになろうと努力はしているよ?
ぶっちゃけ朝起きたら芽衣に1番に会いたいっていうのが正直な気持ちなんっすよ!
でもさ? 『付き合いました→キス』ってさ、ちょっと短絡的というか……下心が真夏のJKのブラジャーのごとく透けて見えて……何か嫌じゃない?
そりゃ以前の俺だったら『告白→キス→ホテル』の黄金コンボこそ理想! とか考えていたけどさ、何ていうか……うん。
芽衣を大切にしたいからこそ、そういう下心のみで動くことはしたくなかった。
しかし、そう思う反面、身体は正直なのだ。
男子高校生の肉体といえば、『性』という偉大なる航路を出航したばかりの海賊のようなモノ。
身体は女を求めて仕方がないのだ!
……まぁ正直な話、芽衣の方からも、それとなく『先に行きたい!』というメッセージは受け取っていた。
芽衣もまた俺と同じ気持ちであることは、言葉の節々から感じ取ることが出来たし、ぶっちゃけ俺たちを阻むモノなど何も無いワケなのだが……。
どういうワケかお互い、その先へは足を伸ばせなかった。
まるでそこに見えない扉があるかのように。
2人してその扉を押したいのだけれど……はしたなさが透けて見えてしまいそうで、怖かった。
だから、なるべく自然な形でキスがしたいワケなのだが……
◇◇
「――どうすればいいと思う、みんな? 何か妙案とか思いつかねぇ?」
「『死ね』という言葉以外、何も思いつかねぇ……」
アマゾンのその言葉に、2年A組の男共が同調するように首を縦に振った。
場所は森実高校2年A組教室の中央。
時刻は午後の4時過ぎ。
恥を忍んで『芽衣とキスしたいんだけど、どうすればい~い?』と相談した級友に対しての答えが、コレである。
まったく、友を思いやれない心の狭きカス共め……。
だからモテないんだぞ、おまえら?
「おいおい? 冗談はその顔だけにしてくれよ、アマゾン。コッチはマジで悩んでんだから」
「大神こそ冗談はその顔だけにしておけよ? ……というか、なんでオマエごときカス野郎が、我らが女神さまと付き合うことが出来るんだよ、殺すぞ?」
瞳孔が完全に開いたガンギマリの瞳で、まっすぐ俺を見据えるアマゾン。
もう同級生に向けていい瞳じゃない……。
もしかしたら俺は、相談する相手を間違えたのかもしれない。
そんな事を思い始めた矢先、アマゾンが「ふっ……」と表情を緩めてこう言った。
「――と、普段のオレならばこう言っていた所だろうが……まぁいいだろう。協力してやるよ。なぁ、みんな!」
「あぁっ。本当なら今すぐ大神を抹殺する所だが……お前と付き合い始めて会長、また一段と綺麗になったしな。ただでさえ可愛かったのに、余計に可愛くなって……もう控えめに言って彼女にしたい。彼女がムリならペットになりたい」
「正直、見ているだけで目の保養になるよな。なんだ、あの会長の可愛さは? 生物兵器か?」
「確かに。ここ最近の会長はヤバい。マジヤバい。マジ可愛い!」
「ほんと、ほんと! 女に磨きがかかったっていうか、もう見ただけでチ●コが勃つレベルで可愛くなったよな!」
「んだんだ! やっぱ恋は女の子を変えるんだなぁ!」
「結婚したい」
「み、みんなぁ!」
本来であれば、俺の彼女を変な目で見るこのカス野郎共の瞳に、問答無用でレーザーポインターを照射してやる所なのだが……何やかんやで俺と芽衣のために協力してくれるっぽいので、今回は見逃してやろう。
まったく、彼女が可愛くて、彼氏として鼻が高いわ! ガハハハハッ!
……それはそれとして、そろそろ芽衣に求婚している奴を炙り出した方がいいのかもしれない。
「それに大神は卒業式に処刑されることが確定しているし、今くらい夢を見せてやってもいいだろう」
「大神の処刑って『いつ』だっけ?」
「えっと、処刑台予約一覧表だとバスケ部のキャプテンの鶴見とクソ野郎猿野の間だから……6番目だな」
「えっ? 俺、処刑されるの?」
級友たちの口から何か物騒なコトが垂れ流された気がしたが……気のせいだよね、うん!
かくして紆余曲折がありつつも、大神士狼主催による『どうすれば自然と芽衣とキス出来るか?』会議が幕を開けた。
「しかし、さすがは大神と言ったところか。オレたちに相談を持ちかけてくるとは、いいセンスしてるぜ」
「あぁ、キスなんてギャルゲで幾度となく経験しているからな。慣れたモンよ」
「ふふっ、おれ達にキス出来ないヒロインは居ないぜ! ゲーム限定だが」
「みんな……ありがとう。心強いぜ!」
さすがは『机上の空論』という言葉に置いて、右に出る者が居ない猛者達なだけある。
伊達に毎日『授業中テロリストがやって来て、そいつらをボコボコにして無双しつつ、クラスメイトの女の子たちからキャーキャー♪ 言われる』妄想をしているだけの事はある。
言葉の節々から、絶対にモテないオーラが滲み出ていやがるぜ!
改めて2A男子共の凄まじさを肌で感じていると、アマゾンがイカロスでも撃ち落とさんばかりの力強い瞳で俺を見据え、
「やはり自然な流れでキスしたいのであれば、会長をデートに誘うのが1番だろうな。こう、デート終盤でいい雰囲気になった所を……チュッ❤ と」
「デートッ!? そうかっ! それは盲点だったぜ!」
キスしたい♪ という気持ちが先行するあまり、そこに至る過程を蔑ろにしていたわ!
そうだよな。
もう芽衣は俺の彼女なんだから、デートに誘っても何ら問題ないワケで……ッ!
すごい、さすがはアマゾンだ!
伊達に彼女が出来たときの為のデートプランを、日夜妄想しているだけの事はある!
よしっ、決まりだ!
さっそく芽衣をデートに誘って――いや待て!?
落ち着け、大神士狼よ!?
ノリと勢いで芽衣をデートに誘おうとしたが、おまえ……コレ初デートだぞ?
ただデートに誘うだけなんて味気がないし、やっぱり記念になる所に行くべきなんじゃないのか?
でも、記念になるデートスポットで何処だ?
「……なぁ、みんな? 彼女と初デートに挑む場合、どこに行けばいいと思う? どこに行けば、思い出に残ると思う?」
「ん? そうだなぁ……やっぱり彼女との初めてのデートだし、奇をてらい過ぎるのもどうかと思うし、故にここは王道の遊園地に行くべきじゃないか? 行ったことないけど」
「いや待てアマゾン? 王道なら水族館という手もあるぞ。行ったことないけど」
「逆に意表を突いて動物園へ行くというのも悪くない。行ったことないけど」
「この時期の動物園は寒くないか? 行ったことないけど」
「それは遊園地も同じだろ? 行ったことないけど」
「防寒対策さえしっかりしておけば大丈夫だろ。行ったことないけど」
「それに寒いからこそ、くっついてイチャイチャ♪ ラブラブ❤ 出来るんだろ? 行ったことないけど」
「確かに。それこそ冬デートの醍醐味だしな。行ったことないけど」
「何なら流れで最終目的であるキスだって出来るんじゃないか? 行ったことないけど」
どうした読者?
ここは笑う所だぞ?
涙を拭けよ?
「落ち着け童貞共? お前らの言い分は分かる、……が、残念ながら選択は遊園地一択だ。これは確定事項だ」
「な、何でだよアマゾン? 別に芽衣は動物も好きだし、動物園でもよさそうなモンだけど?」
「いいか大神、よく考えろ?」
アマゾンはどこまでも濁った瞳のまま、凛とした声音で俺たちにこう言った。
「――遊園地には……観覧車があるんだ」
「「「「「ッ!?!?」」」」」
瞬間、俺たちは雷に打たれたように身体を震わせた。
か、観覧車!?
そうか! その手があったか!
アマゾンは大人のオモチャよろしく小刻みに震える俺たちを、ニヒルな笑みを浮かべて一瞥した。
「どうやら気づいたようだな。そうっ! 初めてのデート。彼女と個室で2人っきり。夕日に照らされる横顔。ゆっくりと登って行く観覧車。そして、気がつくと2人の影がそっと重なり……」
「「「「「キャーッ!!」」」」」
乙女のような悲鳴を上げながら、近くに居た野郎と抱擁しあうカス達。
さ、さすがはアマゾンだ!
モテない男たちの妄想の盲点を突いてきやがる!
確かに日が沈む頃に観覧車に向かえば、俺と芽衣の物理的距離は実質0距離っていうか……もう数十センチほどマイナスになって――ッ!?
と、そこまでシミュレートした矢先、俺は気がついてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、みんな!」
「? どうした大神? この完璧なプランに何か言いたいことでも?」
「いや、アマゾンの考えたプランに問題なんかない。むしろ最高だと言えるだろう」
「なら何が問題なんだよ?」
どうした? どうした? と2年A組男子一同の視線が俺に突き刺さる。
俺はそんな頼もしい仲間たちに、新たな議題の種を投げかけた。
「ぶっちゃけキスしたい気持ちが先行していて考えていなかったんだが……初めてのキッスはどこまでOKなんだ? お子様キッスか? それともベロンチョまでイッていいのか?」
「「「「「ッ!?」」」」」
再び2年A組男子一同の身体が、お股にローターを仕込んでいる女子校生のように震えた。
「そりゃもちろん……ベロンチョの方だろ?」
「いや待て、彼女との初デートだぞ? ベロンチョはまだ早いだろ? お子様キッスが妥当じゃないか?」
「バカ野郎! 初めてのデートだからこそ、思い出に残る素敵なベロンチョをするべきなんだろうが! この童貞野郎!」
「なんだと童貞!?」
「やるのか童貞!?」
気がつけば、お互いの胸ぐらを掴み合い、激しく「童貞!」と罵りあう万年童貞たちの姿があった。
くそぅっ!?
ギャルゲーや『なろう』小説は、俺たちに初デートのチューの仕方を教えてくれなかった!
なんて役に立たない教科書なんだ!
俺が頭を抱えながら、この先の日本、ないしは世界情勢に頭を悩ませていると「落ち着け、カス共!」と、またもや凛としたアマゾンの声音が俺たちの鼓膜を震わせた。
「まったく、お子様キッスだのベロンチョだのと、イイ男達がはしたない……恥を知れ!」
「アマゾン……」
恥の塊であるような男にこう言われては、みな黙るしかなく、自然と視線がアマゾンの方へと集中した。
アマゾンは珍しくキリッ! とした表情のまま、静かに俺たちにこう言った。
「――初デートは……頬にチュッ❤ に決まっているだろうが!」
「「「「「ッ!?」」」」」
か、カオス理論ッ!?
かくしてアマゾンが新たに提唱した『頬にチュッ♪』派により、場はさらなる混沌へと加速していった。
こうして時間も周りの目も忘れて、議論を深めていく俺と2A男子たち。
だからだろうか。
教室の窓から、こっそりとコチラの様子を窺う『とある女神さま』の存在に気づくことが出来なかったのは。
そんな事など露とも知らない俺たちは、初デートキスについての議論を白熱させていくのであった。
……ちなみに余談だが、最終的に議論は初キッスから2年A組男子一同の性癖暴露大会へと発展していった。
後に女神さまがコッソリ録音した『第1回 チキチキ☆ぼくの性癖大暴露大会!』と呼ばれるようになるこの伝説的なディベートの音声記録を破棄するために、A組男子一同が森実を股にかけた壮絶な戦いを繰り広げることになるのだが……それはまた別のお話。
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