410 / 414
真・最終部 みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
エピローグ みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
しおりを挟む
森実高校からほぼノンストップで走り続けてきたせいか、両足が千切れんばかりに痛い。
身体中の細胞という細胞が「もうムリ! 特別労働手当を寄越せ!」と悲鳴をあげ、宿主である俺に激痛という名の抗議を送っていくるが、知るか! と言わんばかりに意志の力で握りつぶす。
酸欠のせいで「キキッ……キキッ」と耳鳴りが酷くなる。
身体を潰れんばかりに酷使しているからか、視界が滲み、突如目の前にバズーカーのようなカメラやら何やらを装備した男女が現れる。
『と、止まれ少年っ! 撮影中だ!』
『ちょっ、カメラ止めろカメラ!』
『手が空いてるヤツは、あの少年を止めろ! 力ずくで構わん!』
何やらワケの分からん事を喚(わめ)きながら、俺の方へと突進してくる男たち。
どうやら肉体に溜まった疲労が限界を超え、幻覚が見え始めているらしい。
ガッシリと俺の腰に、肩に、足にしがみついてくる男達。
ええぃ、邪魔だ!
俺は一刻も早く、芽衣の所へ行かなきゃならねぇんだ!
妙にリアルなその幻覚を振り払うように、さらに両足に力を籠める。
『な、なんだ、この少年は!? 大の大人が数人で身体にしがみついているのに、全然止まらないぞ!? どういう馬力をしているんだ!?』
『うぐぐぐぐっ!? だ、ダメですっ! 暴走、止まりません!』
『ど、どんなエンジンを積んでいるんだ、この少年は!? バケモンか!?』
『ヤダ、逞しい肉体……ウホッ♪ すっごいタイプぅ♪』
何故か背筋に悪寒が走る。
が、それよりも速く大地を蹴る。蹴る。とにかく蹴る!
誰よりもはやく、芽衣の所へ――
「っ……士狼ォォォォォォォォォォォォッ!!!」
「ッ!」
瞬間、脳が理解するよりもはやく、俺の眼球が意志を持ったように勝手に動いた。
森実大橋のすぐ下、河川敷沿いに立つ2人の女性の影。
1人は我が愛しの愛弟子、古羊洋子。
そうしてもう1人は――
「見つけたぞ、めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
途端に心臓が1オクターブほど跳ねる。
それとほぼ同時に、俺の身体が大地を蹴り上げ、森実大橋の手すりを踏み台に、男たちの拘束を振り切って、大空へと羽ばたいた。
『ちょっ、少年!? ソッチは川だぞ!?』
『か、カメラ回せ、カメラ! こりゃスゲェ画が撮れるぞ!』
『バカッ、言ってる場合か!? この川の勢いと深さを考えろ! あの少年、死ぬぞ!?』
背後で俺の作り出した幻影が何かを叫んでいたが、関係ない。
俺は過去も願いもしがらみも、全てを取っ払うように、背中に生えた『想い』という名の翼を全力全開で広げ――空を飛んだ!
「アイ・キャン・フラぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁイ!!」
数秒の浮遊感。
そして始まる自由落下という名の不自由な加速。
そのまま翼の折れたエンジェルよろしく、森実川に真っ逆さまにスーパーダイブ。
途端に橋の上から『キャァァァァァァァァ――ッ!?!?』と悲鳴があがった。
『お、男の子が!? 男の子が橋から落ちて!?』
『し、死んだか!? 死んじまったか!?』
『いや……あ、アレを見てください!』
『ッ!? な、なんだ、あの少年!? 人魚みたいにスイスイ泳いでいるぞ!?』
『あ、ありえねぇっ!? 15メートルから飛び込んだんだぞ!? どういう身体の作りをしてんだ、あのガキッ!? ほんとに同じ人間か!?』
男達の声が小さくなっていくのを尻目に、俺は必死に下手くそな泳ぎで川を渡って行く。
森実の川が俺を底へと引きずりこむように、足を引っ張ろうとする。
濡れたスカジャンが重く、身体に張り付き、今にも溺れてしまいそうだ。
が、そんなこと関係ねぇ!
「芽衣っ! 芽衣っ! めぇぇぇぇぇっぇぇいっ!」
視界の端で、こちらに向かって駆けてくる女神さまの姿を捉える。
あそこだ。
あそこまで死んでも辿り着くんだ!
神経を研ぎ澄まし、ポンコツの身体に鞭を打つ。
「プハッ!? ――めぇぇぇっぇぇぇぇいっ!」
彼女の名前を呼ぶたびに、身体中から無限のパワーが溢れてくる。
心臓が狂ったように高鳴り続ける。
身体中の水分が沸騰したように熱くなる。
そして――ついに辿り着く。
目指していた場所へ。
彼女の隣へ。
俺の大好きな人の隣へ。
古羊芽衣の……隣へ!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!? ……やっと追いついたぞ、この野郎!」
「相変わらずムチャクチャな男ね、アンタは……。1歩間違えてたら、死んでたわよ?」
「そんな男に惚れたおまえも、大概だけどな! って、そんなコトはどうでもいいんだよ!」
汗やら川の水やらでドロドロになった俺。
そんな俺を河川敷から苦笑を浮かべつつ、どこか嬉しそうな顔をして引っ張り上げようと手を伸ばす芽衣。
俺はそんな彼女の手を両手でガッチリ掴みながら、世界中に聞こえるように高らかに宣言してやった。
「いいか芽衣、よく聞け!? 『アタシじゃ士狼を幸せにすることが出来ない』だの何だのと、そんな小せぇ事は気にすんな! 俺は俺で勝手に幸せになる! その俺の幸せのためには、芽衣、おまえが必要だ! だからおまえは余計なコトは考えず、俺に幸せにされろ!」
そう俺が叫んだ瞬間、芽衣はおろか、その後ろに控えていたマイ☆エンジェル、果ては橋の上に居た男達ですら「ポカン……」とした表情で固まってしまう。
そんな芽衣たちの態度など知るか! と、俺は逆に開き直って、彼女の顔をまっすぐ射抜いた。
あぁ、笑いたければ笑うがいい。
無様だろうが何だろうが、俺は可愛い後輩が信じた『俺』を信じる。
真顔でバカをする『俺』を信じるっ!
俺は『これが俺だ! 大神士狼だ!』と世界に宣言するように、ハッキリと再び芽衣に向かって告白した。
「腹黒だろうが、ニセチチだろうが、虚乳だろうが関係ねぇ! 俺は芽衣が好きなんだ、世界で1番好きなんだ! 例えおまえがAカップだろうと、この気持ちは――変わらない!」
――言った。
言ってやった。
ありったけの想いを、全部言葉に乗せて言ってやったぞ、この野郎!
静寂が支配する中で、俺の荒い呼吸だけがやけに大きく聞こえる。
誰もが動けない、動くことが出来ない空間。
そんな空間の中、芽衣だけは、古羊芽衣だけは、誰よりも先に動いた。
「士狼……」
芽衣は俺に掴まれていた手をゆっくりと解くなり、愛おしそうに俺の顔へと、その白魚のような指先を移動させ――
「んっ? えっ? ちょっと待って? 今、Aカップのくだり必要あった? 無かったわよね? ねぇ?」
「ちゅ、ちゅみまちぇん……ちゅいふぇんちょんがあぎゃって」
そのまま流れるような動作で俺の頬をガッ! と掴みあげた。
強制的にタコ唇にされるナイスガイ、俺。
あ、あれれ~?
おかしいなぁ?
確かに俺、今、告白したよね?
なのに何で告白した相手から、ドスの利いた声で脅されているんだぁ?
「あとAカップじゃないから! B寄りのAだから! よ、寄せてあげれば余裕でBくらいある……ハズなんだから!」
「……ハンッ、御冗談でしょ? 古羊さ――うげぼろしゃぁっ!?」
「おっ? 今、笑ったか? 日本人平均サイズであるアタシの胸を笑ったかキサマぁ? あぁん?」
「に、日本人平均サイズって……ソレは絶対にウソぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
ゴキャッ!? と素敵なメロディを奏でながら、今しがた告白したハズの女の子から、どこぞの喧嘩師よろしく、頬を握り潰されかけるナイスガイ・シロウオオカミ。
到底人間が発するとは思えない悲鳴が、俺の口からまろび出た。
へぇ、俺ってこんな声出せるんだぁ♪
なんて自分の新たなる一面を再確認するヒマすらも与えられず、芽衣は俺の頬を掴んでいた手を一旦外すなり、すぐさま頭を鷲掴みにしてくる。
途端にメキメキッ!? と、頭蓋骨が奇跡のハーモニーを奏で出す。
いやぁ、心臓に悪いですわコレ!
「友人のよしみで聞いてあげるわ……最後の言葉はソレでいいのね?」
今にも俺をぶっ殺しかねないほど、芽衣の怒気が膨れ上がっていく。
まさか告白した相手に殺されかけるだなんて……ほんと、どうしてこうなった?
でもまぁ、これが俺達らしいのかもしれない。
だってさ、想像してみてくれよ?
スマートにカッコよく告白を決める大神士狼――って、みんな想像できるかい?
うん、俺には出来ない!
きっと俺たちの間には『運命の赤い糸』なんて存在しないんだろうな。
小指から伸びる赤い糸は、きっと芽衣とは繋がっていなくて、そこに奇跡なんてモノは存在しない。
でも――それがどうした?
それでも俺は、芽衣のことが好きなのだ!
奇跡や運命なんて、チャチなもので恋をしたんじゃない!
俺は自分の意志で、古羊芽衣に恋をしたのだ!
彼女の得意げな顔や、小憎たらしい嘘、キツイ冗談や、華が咲いたような笑顔。
本当は影で努力している癖に、ソレを人に見せない、ひたむきな姿勢。
どんなときでも一生懸命に頑張る芽衣の姿が、俺は好きなのだ。
だからっ!
「いや、よくない! ――いいか芽衣、よく覚えとけ!? 俺を振りたきゃ、振りゃあいい! でもな? 俺は100回フラれようが、200回フラれようが、300回でも400回でも、おまえに告白してやるからな!」
「うっ……!?」
瞬間、ボッ! と火が点いたように顔を赤くする芽衣。
口をパクパクさせながら、「あっ、うっ……うぅ」と特に意味のない吐息をこぼす。
そんな女神さまに追い打ちをかけるように、俺は胸の奥から無限に湧き上る感情を言語化し、彼女にぶつけた。
「好きだ芽衣! 大好きだ! ボコられようが、何を言われようが、どれだけ突き放されたって、俺は芽衣が好きなんだ! 例え世界中の人間がおまえを嫌っていたって、好きになる自信がある! みんなが好きだから、おまえを好いたんじゃない! 俺は自分の意志で、自分自身の心で、おまえに恋をしたんだ!」
「う、うぐぅ……っ!?」
途端に耳朶まで真っ赤にして俯いてしまう女神さま。
そんな女神さまが愛おしくて、可愛いと思ってしまう俺は、きっと末期なのだろう。
だから。
「だから、もう1度だけ言わせて貰うぞ!」
高鳴る胸の鼓動と共に、
「芽衣――俺と付き合ってくれ!」
俺はもう1度、彼女に恋をするのだ。
気がつくと、橋の上に居たハズの男たちが、俺たちの居る河川敷まで降りていた。
そのまま拍手喝采と共に『よく言った少年!』と、壊れたオモチャのように両手を叩く。
その中には我が愛しの愛弟子、よこたんの姿もあった。
男の1人がデッカイ黒光りしたバズーカー、もといカメラを構えて、俺たちを映している。
全員、芽衣の返事を固唾を飲んで待っていた。
そして俺たちの女神さまは、見惚れるような笑顔を浮かべて……満を持してこう言った。
「士狼、アタシは……アタシも――」
身体中の細胞という細胞が「もうムリ! 特別労働手当を寄越せ!」と悲鳴をあげ、宿主である俺に激痛という名の抗議を送っていくるが、知るか! と言わんばかりに意志の力で握りつぶす。
酸欠のせいで「キキッ……キキッ」と耳鳴りが酷くなる。
身体を潰れんばかりに酷使しているからか、視界が滲み、突如目の前にバズーカーのようなカメラやら何やらを装備した男女が現れる。
『と、止まれ少年っ! 撮影中だ!』
『ちょっ、カメラ止めろカメラ!』
『手が空いてるヤツは、あの少年を止めろ! 力ずくで構わん!』
何やらワケの分からん事を喚(わめ)きながら、俺の方へと突進してくる男たち。
どうやら肉体に溜まった疲労が限界を超え、幻覚が見え始めているらしい。
ガッシリと俺の腰に、肩に、足にしがみついてくる男達。
ええぃ、邪魔だ!
俺は一刻も早く、芽衣の所へ行かなきゃならねぇんだ!
妙にリアルなその幻覚を振り払うように、さらに両足に力を籠める。
『な、なんだ、この少年は!? 大の大人が数人で身体にしがみついているのに、全然止まらないぞ!? どういう馬力をしているんだ!?』
『うぐぐぐぐっ!? だ、ダメですっ! 暴走、止まりません!』
『ど、どんなエンジンを積んでいるんだ、この少年は!? バケモンか!?』
『ヤダ、逞しい肉体……ウホッ♪ すっごいタイプぅ♪』
何故か背筋に悪寒が走る。
が、それよりも速く大地を蹴る。蹴る。とにかく蹴る!
誰よりもはやく、芽衣の所へ――
「っ……士狼ォォォォォォォォォォォォッ!!!」
「ッ!」
瞬間、脳が理解するよりもはやく、俺の眼球が意志を持ったように勝手に動いた。
森実大橋のすぐ下、河川敷沿いに立つ2人の女性の影。
1人は我が愛しの愛弟子、古羊洋子。
そうしてもう1人は――
「見つけたぞ、めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
途端に心臓が1オクターブほど跳ねる。
それとほぼ同時に、俺の身体が大地を蹴り上げ、森実大橋の手すりを踏み台に、男たちの拘束を振り切って、大空へと羽ばたいた。
『ちょっ、少年!? ソッチは川だぞ!?』
『か、カメラ回せ、カメラ! こりゃスゲェ画が撮れるぞ!』
『バカッ、言ってる場合か!? この川の勢いと深さを考えろ! あの少年、死ぬぞ!?』
背後で俺の作り出した幻影が何かを叫んでいたが、関係ない。
俺は過去も願いもしがらみも、全てを取っ払うように、背中に生えた『想い』という名の翼を全力全開で広げ――空を飛んだ!
「アイ・キャン・フラぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁイ!!」
数秒の浮遊感。
そして始まる自由落下という名の不自由な加速。
そのまま翼の折れたエンジェルよろしく、森実川に真っ逆さまにスーパーダイブ。
途端に橋の上から『キャァァァァァァァァ――ッ!?!?』と悲鳴があがった。
『お、男の子が!? 男の子が橋から落ちて!?』
『し、死んだか!? 死んじまったか!?』
『いや……あ、アレを見てください!』
『ッ!? な、なんだ、あの少年!? 人魚みたいにスイスイ泳いでいるぞ!?』
『あ、ありえねぇっ!? 15メートルから飛び込んだんだぞ!? どういう身体の作りをしてんだ、あのガキッ!? ほんとに同じ人間か!?』
男達の声が小さくなっていくのを尻目に、俺は必死に下手くそな泳ぎで川を渡って行く。
森実の川が俺を底へと引きずりこむように、足を引っ張ろうとする。
濡れたスカジャンが重く、身体に張り付き、今にも溺れてしまいそうだ。
が、そんなこと関係ねぇ!
「芽衣っ! 芽衣っ! めぇぇぇぇぇっぇぇいっ!」
視界の端で、こちらに向かって駆けてくる女神さまの姿を捉える。
あそこだ。
あそこまで死んでも辿り着くんだ!
神経を研ぎ澄まし、ポンコツの身体に鞭を打つ。
「プハッ!? ――めぇぇぇっぇぇぇぇいっ!」
彼女の名前を呼ぶたびに、身体中から無限のパワーが溢れてくる。
心臓が狂ったように高鳴り続ける。
身体中の水分が沸騰したように熱くなる。
そして――ついに辿り着く。
目指していた場所へ。
彼女の隣へ。
俺の大好きな人の隣へ。
古羊芽衣の……隣へ!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!? ……やっと追いついたぞ、この野郎!」
「相変わらずムチャクチャな男ね、アンタは……。1歩間違えてたら、死んでたわよ?」
「そんな男に惚れたおまえも、大概だけどな! って、そんなコトはどうでもいいんだよ!」
汗やら川の水やらでドロドロになった俺。
そんな俺を河川敷から苦笑を浮かべつつ、どこか嬉しそうな顔をして引っ張り上げようと手を伸ばす芽衣。
俺はそんな彼女の手を両手でガッチリ掴みながら、世界中に聞こえるように高らかに宣言してやった。
「いいか芽衣、よく聞け!? 『アタシじゃ士狼を幸せにすることが出来ない』だの何だのと、そんな小せぇ事は気にすんな! 俺は俺で勝手に幸せになる! その俺の幸せのためには、芽衣、おまえが必要だ! だからおまえは余計なコトは考えず、俺に幸せにされろ!」
そう俺が叫んだ瞬間、芽衣はおろか、その後ろに控えていたマイ☆エンジェル、果ては橋の上に居た男達ですら「ポカン……」とした表情で固まってしまう。
そんな芽衣たちの態度など知るか! と、俺は逆に開き直って、彼女の顔をまっすぐ射抜いた。
あぁ、笑いたければ笑うがいい。
無様だろうが何だろうが、俺は可愛い後輩が信じた『俺』を信じる。
真顔でバカをする『俺』を信じるっ!
俺は『これが俺だ! 大神士狼だ!』と世界に宣言するように、ハッキリと再び芽衣に向かって告白した。
「腹黒だろうが、ニセチチだろうが、虚乳だろうが関係ねぇ! 俺は芽衣が好きなんだ、世界で1番好きなんだ! 例えおまえがAカップだろうと、この気持ちは――変わらない!」
――言った。
言ってやった。
ありったけの想いを、全部言葉に乗せて言ってやったぞ、この野郎!
静寂が支配する中で、俺の荒い呼吸だけがやけに大きく聞こえる。
誰もが動けない、動くことが出来ない空間。
そんな空間の中、芽衣だけは、古羊芽衣だけは、誰よりも先に動いた。
「士狼……」
芽衣は俺に掴まれていた手をゆっくりと解くなり、愛おしそうに俺の顔へと、その白魚のような指先を移動させ――
「んっ? えっ? ちょっと待って? 今、Aカップのくだり必要あった? 無かったわよね? ねぇ?」
「ちゅ、ちゅみまちぇん……ちゅいふぇんちょんがあぎゃって」
そのまま流れるような動作で俺の頬をガッ! と掴みあげた。
強制的にタコ唇にされるナイスガイ、俺。
あ、あれれ~?
おかしいなぁ?
確かに俺、今、告白したよね?
なのに何で告白した相手から、ドスの利いた声で脅されているんだぁ?
「あとAカップじゃないから! B寄りのAだから! よ、寄せてあげれば余裕でBくらいある……ハズなんだから!」
「……ハンッ、御冗談でしょ? 古羊さ――うげぼろしゃぁっ!?」
「おっ? 今、笑ったか? 日本人平均サイズであるアタシの胸を笑ったかキサマぁ? あぁん?」
「に、日本人平均サイズって……ソレは絶対にウソぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
ゴキャッ!? と素敵なメロディを奏でながら、今しがた告白したハズの女の子から、どこぞの喧嘩師よろしく、頬を握り潰されかけるナイスガイ・シロウオオカミ。
到底人間が発するとは思えない悲鳴が、俺の口からまろび出た。
へぇ、俺ってこんな声出せるんだぁ♪
なんて自分の新たなる一面を再確認するヒマすらも与えられず、芽衣は俺の頬を掴んでいた手を一旦外すなり、すぐさま頭を鷲掴みにしてくる。
途端にメキメキッ!? と、頭蓋骨が奇跡のハーモニーを奏で出す。
いやぁ、心臓に悪いですわコレ!
「友人のよしみで聞いてあげるわ……最後の言葉はソレでいいのね?」
今にも俺をぶっ殺しかねないほど、芽衣の怒気が膨れ上がっていく。
まさか告白した相手に殺されかけるだなんて……ほんと、どうしてこうなった?
でもまぁ、これが俺達らしいのかもしれない。
だってさ、想像してみてくれよ?
スマートにカッコよく告白を決める大神士狼――って、みんな想像できるかい?
うん、俺には出来ない!
きっと俺たちの間には『運命の赤い糸』なんて存在しないんだろうな。
小指から伸びる赤い糸は、きっと芽衣とは繋がっていなくて、そこに奇跡なんてモノは存在しない。
でも――それがどうした?
それでも俺は、芽衣のことが好きなのだ!
奇跡や運命なんて、チャチなもので恋をしたんじゃない!
俺は自分の意志で、古羊芽衣に恋をしたのだ!
彼女の得意げな顔や、小憎たらしい嘘、キツイ冗談や、華が咲いたような笑顔。
本当は影で努力している癖に、ソレを人に見せない、ひたむきな姿勢。
どんなときでも一生懸命に頑張る芽衣の姿が、俺は好きなのだ。
だからっ!
「いや、よくない! ――いいか芽衣、よく覚えとけ!? 俺を振りたきゃ、振りゃあいい! でもな? 俺は100回フラれようが、200回フラれようが、300回でも400回でも、おまえに告白してやるからな!」
「うっ……!?」
瞬間、ボッ! と火が点いたように顔を赤くする芽衣。
口をパクパクさせながら、「あっ、うっ……うぅ」と特に意味のない吐息をこぼす。
そんな女神さまに追い打ちをかけるように、俺は胸の奥から無限に湧き上る感情を言語化し、彼女にぶつけた。
「好きだ芽衣! 大好きだ! ボコられようが、何を言われようが、どれだけ突き放されたって、俺は芽衣が好きなんだ! 例え世界中の人間がおまえを嫌っていたって、好きになる自信がある! みんなが好きだから、おまえを好いたんじゃない! 俺は自分の意志で、自分自身の心で、おまえに恋をしたんだ!」
「う、うぐぅ……っ!?」
途端に耳朶まで真っ赤にして俯いてしまう女神さま。
そんな女神さまが愛おしくて、可愛いと思ってしまう俺は、きっと末期なのだろう。
だから。
「だから、もう1度だけ言わせて貰うぞ!」
高鳴る胸の鼓動と共に、
「芽衣――俺と付き合ってくれ!」
俺はもう1度、彼女に恋をするのだ。
気がつくと、橋の上に居たハズの男たちが、俺たちの居る河川敷まで降りていた。
そのまま拍手喝采と共に『よく言った少年!』と、壊れたオモチャのように両手を叩く。
その中には我が愛しの愛弟子、よこたんの姿もあった。
男の1人がデッカイ黒光りしたバズーカー、もといカメラを構えて、俺たちを映している。
全員、芽衣の返事を固唾を飲んで待っていた。
そして俺たちの女神さまは、見惚れるような笑顔を浮かべて……満を持してこう言った。
「士狼、アタシは……アタシも――」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる